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その頃マーカスはワルツワンドと共にステルスモードで敵の母艦を索敵していた。ステルスモードになると光学迷彩により機体を光学的に周辺環境と同化し、エンジン出力なども極力セーブして航行し、航跡を消す撹乱フィールドを展開することができる。
「(NTシンクビーコン射出。スキャンビット射出。母艦クラスのプラズマ及びイオン航跡を追跡開始。ワルツワンド、解析を頼む。)」
「(了解。解析開始。ビーコンエリア内エネミーセンサーは3機のMS機影を確認。フェアレディよりレッドマーキングをトレース。母艦らしき機影は無いわ。スキャンをイオン航跡スキャンに切り替えます。…スキャンエリア内には………ラインに撹乱痕跡を確認。母艦がステルス航行している可能性があるわ。」
「わかった。俺はこれからNTモードに移行し、ディープスキャンに入る。)」
「(了解。)」
「(ガイア、システムモードチェンジ、NT。)」
「(<コンピュータ>「ニュータイプモード」に移行します。)」
「(ディープスキャン開始。)」
システムモードがニュータイプモードに移行すると、突如として機体の全ての情報がマーカスの頭の中に流れてくる。それはまるで手足のような感覚を持ち、機体とリンクし始める。
「(…微かに感じる。)」
スキャンビットを強く反応を感じる宙域に向けて先行させると、領域から帰ってくる反応がより強くなるのを感じた。その力はとても強く、まるで自分を串刺す様なとげとげとした印象を受けた。
一方その頃、グレイ達の前には二機のザクサスが立ちはだかった。
火星のアレキサンドリア・テクノロジー(以下略AT)社製の汎用工作用MSを兵器転用したモデルであるこの機体は、彼らの上官が乗るオクト・ドーガとほぼ同じ頃に生産が開始された機体で、新撰組が駆る機体としては情報より遥かに新しい機体だ。
以前の彼らなら、ジェガンやギラ・ドーガといった旧式のMSを中心とした布陣であり、その中にあって彼らのパイロット適性の高さが光っていたのだが、目前の彼らはほぼ最新の現用機体を駆っており、その技術力の高さに性能が追いついたといえる程動きが良かった。
それに対峙するは、実戦はまだ不慣れな新兵である少年学徒兵。経験の差は歴然としていた。
「(このままじゃやられる。グレイ、オレが奴らの気を引き付けるから、その間に隊長を援護してくれ。)」
「(何を言っているんだ!そんなの無理だ。第一あいつらの機体はザクサスだぞ!長距離支援のガンハンターの性能で二機は無理だ。その役目、オレがやる!)」
「(おい、グレイ!?)」
グレイはOSのコントロールをファイティングモードからNTモードに変更した。NTモードに合わせた瞬間、彼の視界は宇宙空間に切り替わった。機体全身のコントロールが彼の肉体感覚とリンクしたのだ。
視界前方に映る2機のザクサスのパイロットは、戦闘経験の豊富さから接近戦は不利な様に感じられる。だが、機体性能はこちらの方が上。問題は相手方から感応波への干渉波が放たれており、NTリンクに対して機体制御が乱される危険性があることだ。
「(くそ、奴らの方がNTレベルは上か…機体スペック…ザクサスはワイヤレスビットコントロール…あぁ、ぐだぐだ考えるのはやめだ。面倒くせぇ!)うらぁ!!!」
両腕を構えるとバーニアをフルパワーで吹かす。インパルス2のスピードは強烈なGを発してグレイの身体を威圧するが、この程度の衝撃は彼にとって問題ではない。問題は目前の敵に間違いなく当てる事だ。狙いは右の機体。
当の右の機体に乗るサイトウは余裕の表情で目前の連邦兵の攻撃に対峙していた。彼らのシステムは前方のガンダムタイプの機体からNT反応が吹き出すのを関知していた。スキャン結果に現れた数値はNTレベル2。彼らにとって雑魚に等しい能力レベルだった。
「…勿体ねぇ。ガンダムで突進かよ。そんなもん牛でもできるぜ。」
サイトウが攻撃をひらりと交わそうとした瞬間、突如機体がアラートを鳴らす。センサーエリア後方から攻撃ビット反応を検知したのだ。
グレイの機体はかわされる寸前にファンネルを起動し、4機のファンネルを背中から射出すると、一斉に攻撃を開始した。あの僅かな瞬間にファンネルを高速起動出来る機体性能に苦るが、彼もまたそれに対応してビームシールドを展開すると、各個ファンネルの破砕を試みる。しかし、機体機動性能が段違いに高く容易ではない。
「なんだこりゃ!?」
ファンネルが背後を狙う。しかし、ファンネルは火を吹く間も無く破砕された。
左に居たクドウ機が加勢したのだ。彼の機体は素早くサイトウを狙うファンネルを打ち落とす。
「(油断するな。)」
「(サンキュー、クドーちゃん。)」
「(ちゃんはやめろ。ちゃんは…!?)」
ドォオオオン!
「おい、クドー!?」
クドー機の足が打ち落とされた。
打ち落としたのはガンハンターに乗るシドーによるものだ。シドーはグレイを援護すべく距離を置いてビームガンの照準を定める。その勢いに乗るようにグレイはサイトウ機を攻撃。
「(捉えた!)…え!?」
「…残念だな。」
ニヤリと笑みを浮かべたサイトウのザクサスは、回避パージするとパージされたパーツがファンネルビットの様に散開してグレイの背後へ飛んだ。咄嗟にビームシールドを後方に展開する。しかし、攻撃は無かった。いや、攻撃目標は彼では無かったのだ。
「うわぁあああ!!!」
「シドー!?!」
シドー機の頭と左肩と右足が打ち落とされた。
そこにクドウ機がシドー機に迫る!
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