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「グレイ、あなたは入って!」
「ミュー、君も一緒に!早く!!!」
「…駄目よ。あなたは中に居て。私は大丈夫だから。またね。」
少女はそう言って微笑んだ。彼女の顔に悲壮感は無い。だが、彼女の選択は彼女の命を失う事を意味していた。
「おい!離せ!まだ人が居るんだ!ミューが、ミューが!!!」
彼がシェルターの戸を開こうとするのを、中に居る先に避難した大人達が止めた。彼が見ている目前でドアはシャッターで閉ざされ、更に分厚い防護壁が上部から折りて固く閉ざした。
その後、大きな爆発音と衝撃波がシェルターを揺らす。
「…ゥウォオオオオオオ!!!」
スピットファイアのNTリンクゲージが急速に上昇する。機体周囲のNTリンクフィールドが急速に拡大し、ファンネルの行動フィールドが拡大する。出力ゲージがインパルス3をマークし、通常スピードの倍速で動き始めた。
「お、おい、なんだぁ!?」
「(油断するな、サイトウ!)」
「(あー、分かってる…!?)グアァアアアァ…………」
サイトウの絶命の叫びが聴こえる。
圧倒的スピードの前に、サイトウは抵抗する間も無く横一文字に両断された。グレイの機体はそのままクドウ機に迫る。
「(大層なスピードだ。だが、)やらせるか!!!)
クドウ機もまたザクサスをNTモードに切り替えると、機体をパージし散開させる。彼のNTレベルならば、たったのレベル2のグレイを上回るのは容易い筈だった。だが、相手の実力は予想以上に上昇していた。目前に展開されている相手方のフィールドは、ほぼ自分と互角と言えるものだった。
これほどに瞬間的な変化を起こせる能力者はそうそういるものではない。彼は連邦軍が一体どの様な研究をしていたのだろうかと苦った。
「ふん、ほぼ互角だけじゃ、勝てないな。」
クドウが本気を出した。
NTリンクフィールドが更に拡大してグレイのファンネル射程限界を超えた。
その瞬間、一斉にグレイのファンネルを打ち落とし始める。その勢いはグレイの力を遥かに凌駕していた。
「(グッ!)」
瞬時に全ファンネルが打ち落とされ、一気に形成が不利になった。
グレイがアームビームソードを構えて突進する。その無防備な攻撃に無慈悲なるファンネルの斉射が行われた。しかし、彼はその選択を後悔する事となった。
「フォースシールド!?」
クドウは無防備だと思っていたグレイの機体から、まさか全方位防御の重力波フィールドが現れるとは思いも寄らなかった。あらゆる攻撃を跳ね除けるフォースシールドは、ファンネルに因る攻撃を全て弾き飛ばした。彼はそのままの勢いでザクサスに迫る。形勢は逆転していた。四肢をバージしたザクサス本体は丸腰同然だった。
「(ぐ、こ、このままでは!?)ガァアアアアアアアアアア!!!!」
ドドォォォォォォォォン!!!
スピットファイアは鮮やかなラインを描き、ザクサスを切り抜けた。
緋色に閃光を発して機体が爆発する。二人の新兵は二機の敵機を撃墜する事に成功したのだ。
グレイはシナプス越しに呼びかけた。
「(シドー、大丈夫か!!)」
「(グレイ、なんとか、大丈夫………っぽい?…いや、だめぽ。)」
「(シドーーーー!!!)」
「(………、グレイ、本気にすんなって。)」
「(……おい。)」
スピットファイアのアームがガンハンターを狙う。
「(わぁあぁああ!?おい、マジやめろよ!!!)」
「(許さねぇ!!!)」
シドーが身動きのとれないガンハンターを必死で動かそうとコントロールを試みる。だが、機体は既にシステムフリーズ状態。サブシステムで辛うじてNTリンクに応答しているに過ぎない。まさか味方にやられるとは…と思ったその時。
ガシン
乾いたような軽い金属音を鳴り響かせて、スピットファイアのアームより飛び出したワイヤーロープがシドーの機体を掴んだ。グレイの出した物はビームではなく牽引ロープだった。
「(…まじ、殺す。)」
「(ロープ切るか?)」
「(あぁ、ごめん!グレイ様お助けをー!!)」
「(よし、つか、それどころじゃねぇ、隊長は!?)」
その時後方から複数のビームが飛ぶのが見えた。
センサーが連邦月軍が加勢した事を告げた。
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