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【105】Voy in Seed 制作者REDCOW 11/12/19(月) 23:17
【106】Voy in Seed 1 制作者REDCOW 11/12/19(月) 23:17
【107】Voy in Seed 2 制作者REDCOW 11/12/19(月) 23:18
【108】Voy in Seed 3 制作者REDCOW 11/12/19(月) 23:19
【109】Voy in Seed 4 制作者REDCOW 11/12/23(金) 23:05
【110】Voy in Seed 5 制作者REDCOW 11/12/23(金) 23:06
【111】Voy in Seed 6 制作者REDCOW 11/12/23(金) 23:07
【112】Voy in Seed 7 制作者REDCOW 11/12/23(金) 23:18
【113】Voy in Seed 8 制作者REDCOW 11/12/26(月) 22:01
【114】Voy in Seed 9 制作者REDCOW 11/12/28(水) 18:22
【116】Voy in Seed 10 制作者REDCOW 12/1/2(月) 23:53
【117】Voy in Seed 11 制作者REDCOW 12/1/6(金) 20:14
【118】Voy in Seed 12 制作者REDCOW 12/1/8(日) 21:31
【119】Voy in Seed 13 制作者REDCOW 12/1/11(水) 23:41
【120】Voy in Seed 14 制作者REDCOW 12/1/15(日) 20:46
【121】Voy in Seed 15 制作者REDCOW 12/2/13(月) 17:15
【122】Voy in Seed 16 制作者REDCOW 12/2/25(土) 0:08
【123】Voy in Seed 17 制作者REDCOW 12/2/26(日) 23:59
【124】Voy in Seed 18 制作者REDCOW 12/3/3(土) 1:18
【126】Voy in Seed 19 制作者REDCOW 12/3/19(月) 20:08
【127】Voy in Seed 20 制作者REDCOW 12/3/22(木) 23:26
【125】VOY 資料 制作者REDCOW 12/3/11(日) 17:32 [添付]

【105】Voy in Seed
 制作者REDCOW  - 11/12/19(月) 23:17 -

引用なし
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   スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED

第0話「産声」

 激しい衝撃が走る船内。しかし、それはすぐに収まった。
 この船の艦長であるキャスリーン・ジェインウェイ大佐は、前方の窓に映る無機質な空間を凝視していた。

「ミスター・パリス。…現在位置は。」
「…予定通りの位置です。」

 艦長の問いにパイロットであるパリスは慎重に答えた。
 その彼の言葉を補足する様に、セブンも彼女の後方から報告する。
 
「トランスワープ・ネットワークが消滅した。」
「…喜ぶのは後よ。ミスター・トゥヴォック。」

 艦長の指示に常に冷静に対応するのは、
 保安主任であり、この艦の兵器システムを操作するトゥヴォック少佐。
 彼の操作でトランスフェイズ魚雷が発射された。
 再び衝撃波が艦を襲う。
 
 連邦の一般的な宇宙艦の常識を遥かに超える規格外の大きさは、一つのコロニーやステーションと表現しても良いくらいのものだ。小型のものでも連邦最大級のギャラクシー級やソヴェリン級宇宙艦を越えるのだ。そんな規格外のサイズをした球形のトランスワープ艦「ボーグ・スフィア」が、遂にトランスワープチューブから出現した。
 しかし、それは出現して間もなく内部から爆発を起こして崩壊した。そして、その爆炎の中から一隻の艦が飛び出す。
 
「…やった。」

 艦長は静かにそう言った。
 その言葉をクルー達は静かに受け取った。
 
 かつては連邦は勿論、銀河最大級のネットワークを持つ巨大な侵略組織として君臨したボーグ。
 しかし、それもジェインウェイ提督と艦長の協力により、彼らの要のネットワークである「トランスワープ・ハブ」を破壊する事に成功し、しかも、彼らの女王とも言えるボーグ・クィーンを元に感染させた神経溶解ウィルスにより、同化ネットワークすらも破壊する事に成功した。
 そして、彼らは生還する。
 
 イントレピット級恒星間宇宙艦U.S.SヴォイジャーNCC74656は、実に7年あまりに及ぶ漂流の旅の末、ついに宇宙連邦本部のあるアルファ宇宙域に到達した。
 それは全人類未踏の地よりの生還であると同時に、宇宙歴の歴史に新たなる一歩を踏み出した軌跡ともなるであろう。
 だがその時、左サイドでコンソールを操作していたハリー・キム少尉が艦長に報告する。
 
「艦長、」
「はい、ハリー。」
「その、…おかしいです。座標は確かにアルファ宇宙域を示しているのですが、
 …長距離スキャンをかけても何らの亜空間通信もキャッチできません。」
「…何かの間違いじゃなくて?…セブン、あなたの方ではわかる?」
「わかった、私がやってみよう。」
  
 セブンはキムの元へ普段通りの見事な姿勢で歩いてゆく。
 彼は彼女が来るとその場を譲った。
 彼女はコンソールに触れ、ボーグプロトコルで船内システムにアクセスし調査を開始する。
 
「…確かにマルチフェイズでディープスキャンを実行したが駄目だった。
 ん、…まて、これは電子信号だ。パリス中尉の作成したホロマトリクスの中に酷似したものを見た事が有る。推測するに21〜2世紀程度の短距離伝送技術のようだ。…だが妙だな。所々奇妙な劣化をしている。」
「奇妙な劣化?…あなたにしては曖昧な回答ね。どういうことなの。」
「電子を撹乱する何らかのフィールドの干渉を受けているようだ。
 いや、まて、…艦長、艦内外で微量のクロノトンを検知。
 クロノトンの崩壊率からみて、100〜300年の時間のズレが生じている可能性がある。
 だとすれば、この電子信号の劣化はその当時の物と判断できるのではないか。」
「クロノトン!?近くに船は。」

 彼女の話に艦長は驚きを隠さなかった。
 そもそも彼女の話す「クロノトン」とは時間流に直接干渉する放射線を放出する物質で、クロノトンフィールド内は時間的位相のずれが生じ、時間流を退行させる。
 その詳しい構造や原理はまだ連邦では解明されていないが、異種族の間では既に実用している種族も存在する特殊物質。
 有害な放射線は人体が被爆すると時間的退行を起こし、存在を消滅させる可能性もある。
 この物質を使う種族がいるとすれば、それは確実に連邦より高度な技術を持つ可能性があり、艦長が安堵出来る様な話ではなかった。

「無い。それ以前にこのクロノトンは壊れたスフィアも干渉を受けていた様だ。
 ボーグのデータベースには、アルファ宇宙域にクロノトンを制御出来る生命体はいないはずだ。いや、我々を除いてだがな。」
「…セブン、詳しい調査が必要ね。天体測定ラボで引き続き調査を。」
「了解。」

 セブンはブリッジを出て行った。
 ハリーが持ち場に戻りスキャンを開始すると、再び何かを発見した。
 
「艦長、この時代にも存在するはずのクリンゴンやバルカンの恒星間通信も見つかりません。
 それと、地球周辺宙域より発せられたと思われる、先程セブンが指摘した電子撹乱フィールドの干渉を受けた電子信号を幾つか感知。
 劣化していますが、修復を試みてみます。…出来ました。再生します。」
 
 
『…僕はこの母なる星と、未知の闇が広がる広大な宇宙との架け橋。
 そして、人の今と未来の間に立つ者。調整者。コーディネイター。』
 
 
 その通信は随分前に送信された物の様だが、ブリッジを騒然とさせるには十分なものだった。
 内容は発信者ジョージ・グレンによる自らの遺伝子操作の告白と、その輝かしい経歴という結果。そして、その方法である遺伝子操作の仕方についての詳しい技術的な資料だった。
 彼はこの情報を送る事で宇宙時代の幕開けをさせたいと願っている様だが、やり方には少々無理が有る様に感じられた。
 その時、不意に産声が上がった。
 
「医療室からブリッジ。ドクターからパリス中尉。
  君に会いたがっている人物がいるぞ。」
「…行った方が良いわ、トム。」
「はい、艦長。」

 溜息混じりのブリッジに、新しい命の産声は救いだった。
 トムが去った後、艦長は副長へ操舵席への移動を求めた。
 副長はそれに応じて席に着いた。
 
「…コースセット、故郷へ…と言いたい所だけど、
 まだ何が有るか分からないから、身を隠せるアステロイドベルトへ。」
「はい、艦長。コースセット、アステロイドベルトへ。」
 
 ヴォイジャーはゆっくりと太陽系への帰還を始めた。
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【106】Voy in Seed 1
 制作者REDCOW  - 11/12/19(月) 23:17 -

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    第一話「平行世界」

 ヴォイジャーのクルー達は宿敵であったボーグのトランスワープ・ハブを通り、
念願のアルファ宇宙域への帰還を果たした様に思っていた。
 しかし、実際はクロノトンの影響によるものか定かではないが過去のアルファ宇宙域であり、
奇妙な事にこの時代に既に活動しているはずのバルカンやクリンゴンの恒星間通信反応も存在しなかった。
 そして、あの謎の通信である。
 
 ヴォイジャーは太陽系内のアステロイドベルトに艦を進めてプローブを発射した。
 それによるとこの時代はコズミック・イラ71年で、西暦に直すと21世紀末頃の時代に当たる様だ。
 歴史的経緯は20世紀頃までの進化は我々の宇宙とほぼ同一の歴史を共有していると言えるが、
それ以降の歴史は…よく言えば穏便な進化をしたとも言えるが、
悪く言えば旧時代の問題を引きずったまま進んでいるのかもしれない。
 テクノロジーレベルは核融合炉にまだ手の届かない段階だが、
核分裂反応を制御するニュートロン・ジャマーと呼ばれる抑制技術を有していることや、
モビルスーツと呼ばれるロボット兵器が登場している等、ロボット工学等は我々の歴史には無い進化を見せている。
 また、前述のジャマーの影響によりバッテリーが急速な進化を見せており、電力の利用効率は上昇中の様だ。
 現在の政治状況は地球連合と呼ばれる政府と、ZAFTと呼ばれるコロニーコミュニティが対立しており、
ここでもジャマーが深刻な影響を見せており、地球内部の国家群はエネルギー不足による大量の餓死者を出す等、
大きく劣勢に回っている様だ。

 ジェインウェイは一人でホロデッキに来ていた。

「コンピューター、ジェインウェイ私的データベースα22のγ1を起動。」
『α22のγ1を起動します。』

 天井のスピーカーから聴こえたコンピューターの声が消えると、
中世ヨーロッパの図書館の様な本棚で埋め尽くされた部屋が周囲に現れた。
 彼女はその場に立ったまま再び呼びかける。
 
「コンピューター、地球の歴史、
21世紀までのシミュレーションデータを用意。」

 すると、彼女の呼びかけに合わせる様に空間に地球の3次元モデルが現れる。
 そのモデルはゆっくりと回転し、周囲に幾つもの歴史的情報を表示したウィンドウを浮かべた。
 
『用意しました。』
「では、第三次世界大戦までの歴史のCEとの相違点を提示して。」
『コズミック・イラとの違いを分析しました。
 分岐の始まりは1992年より始まる優生戦争に始まります。
 宇宙連邦の歴史はその後2026年から始まる第三次世界大戦により、
2053年の集結までに6億人の死者と20億人を越える居住可能領域を核物質による汚染で失い、
事実上の無政府に至るまで続きました。
 コズミック・イラとの共通性は20世紀末まで保たれ、
 21世紀以降の歴史は独自の歩みを進めています。』
「その、我々とCEを分岐させた理由はわかるかしら。」
『その命令を完了出来ません。
 具体的な事例を元に比較することは出来ます。』
「では、我々の第三次世界大戦と彼らの戦争では、何が違うのかしら。」
『何がとは、具体的にどのような情報を指しますか。』
「そうねぇ、彼らの目的やその結果…とかならどうかしら?
 たとえば、企図した勢力や、勝者は誰か…とか。」
『CEでは民族、宗教、資源、金融の4種の複合的影響を行使する政治勢力によりブロック体制が構築され、
表向きのイデオロギーの裏で経済的な利益を模索した勢力が最終的な勝利者として君臨しました。
 この鉄の結束は16世紀に遡るナポレオン戦争の当時から続く一連の世界統一行動と一致し、
CE年代の統一政府樹立に至るまで継続されています。
 宇宙連邦の歴史ではそうした勢力が戦時中に崩壊し、
全ての権力者が消滅し、最終勝利者が存在しません。』
「コンピューター、両年代の主だった人物を挙げて。
 そうねぇ、象徴的人物で良いわ。」
『CEの歴史ではブルーノ・アズラエル。
 宇宙連邦の歴史ではゼフラム・コクレーンです。』
「ブルーノ・アズラエル?」
『世界経済を動かすロゴスの最高指導者です。』

 コンピューターが表示した映像には、
見事な口ひげを蓄えた老紳士の詳細な情報が映し出されていた。

 艦長日誌
 …これまでのプローブ等の調査をまとめると、ここは地球であって地球ではない。
 我々の歴史とはかなりズレた方向に進んだものであるということ。
 そして、クロノトンの影響で約200年程の時間を遡っていること。
 更に残念な知らせは、周囲には我々の宇宙歴に登場したはずの恒星文明の存在も見られない事が確認された。
 いわば、我々はこの宇宙に真に独ぼっちとなってしまった様だ。
 
「はぁ、パラレルワールドと言うには、随分と違う世界ね。」

 溜息をつくジェインウェイ。
 彼女は自室に入りソファに座ると、持っていたパッドをテーブルに置いてコーヒーカップを手にした。
 その隣にはセブンと副長が彼女に促されて座った。
 
「その通りだ。違い過ぎる。
 クロノトンの干渉が平行世界を生み出すなど、ボーグのデータベースには無い。
 だが、平行世界そのものが存在しないわけではない。
 時空連続帯は幾つもの可能性を束にした様な物だ。
 我々が知る宇宙もその一つの可能性であると言える。」

 セブンは普段通り淡々と話している。いや、彼女に淡々といった自覚はない。
 彼女の言葉に再び溜息が出るジェインウェイ。
 
「…ふぅ、泣く子も黙る時間規則。
 一つ破ればこの結果…ということかしら。」
「でも艦長、だとすれば、おかしいですよ。
 もう来てもおかしくないはずの彼らが来ない。」
「彼ら?」
「タイムパトロールです。」

 副長の指摘はもっともだ。彼らは既に幾度か「彼ら」に会っている。
 それはヴォイジャーが連邦の歴史上で重要な位置を占めているからなのだろうか。
 だが、だとすると、ジェインウェイ提督のタイムスリップは「認められた歴史」という事になる。
 時間規則は知り得た情報を利用してはならない、干渉してはならないといった様々な制約が有るはずだが、
この判定の差は何であろうか。
 そして、もし許されたというのであれば、このトリップも許されたのであろうか。
 
「…それではまるで、私達がここに来る事は予め決められていた事だと言いたいの?」

 彼女の問いに、副長自身も自分の発言に苦笑を禁じ得なかった。
 
「…それは、わかりません。ただ、彼らが動いてもおかしくないことは事実です。」
「…そうね、チャコティ。でも、クルー達にはどう説明するの?
 私達は帰ってきました。全く違う地球へ…と。
 もう7年も時間を掛けたのに、今度は全く見通しが立っていない。
 提督はまさか、こんな場所での滞在も入れて時間が掛かると思ったから、
旅程を短縮する行動をとったとでも言うの?」
 
 実際問題、こんな荒唐無稽な話を大真面目に話すこと自体が馬鹿げた話だ。
 勿論、これまでが常識で説明の付けられる事ばかりであったかと問われれば、そうではなかった。
 だが、少なくともゴールは見えていたはずだ。
 困惑する彼女をよそに、セブンは何ら表情を変える事無く淡々と語る。
 
「筋が通らない話でも無い。
 提督がボーグを倒すことを考えていたのであれば、
それは遅かれ早かれ行われたことだろう。
 優先順位を考えれば、あの先のボーグとの戦闘による損害と比較すれば、
ここの障害は問題にするものはない。」
「…セブン。確かにここは地球ですものね。
 でも…私達が生きて行く上では補給が必要になる。
 幾つかの資源は艦を動かして調達しに行くとして、食料の調達も必要ね。
 だけど、プローブの情報から見て…彼らの戦争状況は深刻なものよ。
 このモビルスーツというロボット兵器を利用した戦争は、
私達の歴史には登場しなかった考え方ね。」

 ジェインウェイはパッドに映る映像をしげしげと見ては、コーヒーを口にしていた。
 彼女はいつも考え事や作業に集中するときは、決まって濃いめのブラックコーヒーを飲む。
 カフェインの効果が覚醒を促すという医学的な効能は勿論だが、
彼女の必勝スタイルとでもいうべきだろうか、願掛け的意味合いもある。
 セブンは自分のパッドを艦長の座るテーブルの上に置くと話し始めた。
 そこにはシリンダー型のコロニーの映像が出ていた。
 
「艦長、その点については興味深い情報がある。
 コーディネイターはMSの運用を始めて暫く経過するが、連合にはまだそうした兵器は無く、
どうやら連合は我々の技術的進化に近い様だ。
 その連合がヘリオポリスと呼ばれるコロニーでMSを作り始めた。
 しかし、制御システム周りはあまり良い出来ではない。
 そこで、我々は彼らと接触する事で協力し、補給を受けてはどうだ?」
「…セブン、それでは私達の存在を知られてしまう。私達はイレギュラーな存在よ。
 極力この世界の歴史への干渉は避けるべきだわ。それに、彼らはまだワープ以前の文明よ。
 ファーストコンタクトをするには艦隊の誓いに反するわ。」
 
 ジェインウェイが反対したのに対し、セブンは副長の方を見て目配せする。
 彼は悪戯っぽく微笑しながら彼女に告げた。
  
「艦長、それではバレなければ良いわけですね。」
「チャコティ?」
「私達は一つの革新的技術を持った会社だとします。
 我々が商品を売る事で対価を得て、それで何を買うかは自由です。
 見た所、技術革新スピードはZAFTの方が上の様ですが、
我々が彼らが言うナチュラルとして連合に与すれば、
コーディネイターを上回る切っ掛けになり得ます。
 …この先どの程度の時間をこの時間枠に滞在するか分かりません。
 彼らに恩を売る事で居場所を作る事自体は視野に入れておくべきでしょう。」
「…ふぅ、まったく。それだけ考えているのなら、もう準備を進めているのでしょう?
 分かったわ。許可します。その代わり条件があります。」
「艦長?」
「…私も参加させる事。」
「はい、艦長。…いえ、社長。」

 副長はにっこり微笑んで了承した。
 彼女もまた悪戯っぽい笑みを浮かべると、再びコーヒーを飲んだ。
 
 物事は道が決まれば動き出すのは早い。
 副長からは予め構想されたプランを叩き台に進めさせる事を許可し、
その為に地球との移動に必要なシャトルの製造はベラナを中心に動く指示を出した。
 彼女は出産後すぐではあるが、我々の時代の医療技術は産後すぐの行動も可能だ。
 何よりクリンゴンのハーフの彼女は元々体力もあれば回復力も強い。
 動かない方がどうかなりそうという彼女の意志を尊重する事にした。
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【107】Voy in Seed 2
 制作者REDCOW  - 11/12/19(月) 23:18 -

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   第2話 企業
 
 艦長日誌
 私達はこの世界の新興のコンピューターメーカーを買い取り、それを元に複数の機械メーカーを吸収し、VST社と名付けた。その社を作るまでの過程で興味深い情報と出くわした。
 買収予定の複数の社の情報を探っている時に、私達はこの世界に幾つかの関連を持っていることを感じさせるものと出くわした。
 その一つが私達が買収した会社の経営者「シャノン・オドンネル」の存在だ。…彼女は、私のご先祖様の名前と同じなのだ。いや、名前だけではない。容姿は私と瓜二つだった。
 彼女の経歴はとても興味深い。
 なぜなら、彼女は米国空軍に在籍した経歴を持ち、その当時の階級は大佐。そして、彼女の働いた偉業は火星への初のコロニー建設計画を主導した功績を持つ。…そう、私が以前勘違いしていた「理想のご先祖様」とほぼ同一の偉業を成し遂げていることだ。
 彼女は若くしてその偉業を達成すると退役し、その後はコンピュータープログラムや機械技術等の開発の為の会社を長く経営していた。
 私は彼女の会社を買収した。勿論、それはこの世界への足掛かりとなる事は言うまでもない。
 社名を命名したのは副長だ。Voyager Starship Technologyの頭文字を取ったものだが、この会社がヴォイジャーの技術によって商売をするという意味では、これ以上にぴったりな名前が見当たらなかった。この件についてはパリスやキムも必死に提案していたが、彼らの提案した名前は…正直検討に値しなかった。
 この会社が我々の帰還への第一歩となるのかは分からない。だが、我々は止まる事は出来ない。なぜなら、ここは私達の故郷ではないからだ。私は必ずクルーを故郷へ返すことを提督と誓った。それは紛れも無く「我が誓い」である。
 
「OSを売るより、エネルギーを売った方が儲かるんじゃないんですか?」

 作戦室で話し合う私達の前で、パリスがそう提案した。
 そこにトゥヴォックが反論する。
 
「君の言うことはその通りだが、我々は商売をしに来たのではない。飽くまで帰還までの繋としての仮の姿だ。無闇に技術を売ってはならない。何より我々が売った技術が、我々へ牙を向ける可能性も考慮する必要がある。」
「しかし、連合は現実にエネルギー不足で多数の死者を出しているんだろ?だったら、核融合炉くらい売っぱらっても罰は当たらないだろ?」

 パリスの言う意見は一理あった。
 私も彼ほど若かったなら、確かにそうした行動を独断でもとるだろう。しかし、トゥヴォックの指摘もまた正しい。
 技術は平和的利用をされるとは限らない。
 子どもに新しい玩具を与えたとして、常に大切に扱うとは限らない。
 好奇心は時に残酷な行動となり、我々が意図した遊び方をするとは限らない。
 子どもに正しく教えるには順序が必要だ。
 
「トム、私はあなたの気持ちも分かるけど、ここはトゥヴォックの言う通りにすべきよ。でも、そうね、人道的見地で見過ごせない部分があることは確かだわ。なら、彼らの身の丈に合ったものを売れば良いわね。
 確かセブンの見つけた謎の電子撹乱技術…ニュートロン・ジャマーを頃合いを見て無効化することが近道になるんじゃないかしら。どう、セブン?」
「それは可能だ。核分裂反応を抑制するこの技術は正直興味深い。この技術があって何故融合炉へ進まないのかわからないが、彼らに作れないということであれば、我々が提供する商品となるだろう。」
「では、トムはその方向で動いてくれる?」
「分かりました。やってみます。」
「あの、艦長。」
「どうぞ、ベラナ。」
「新しいシャトルについてですが、1から建造するより現行のコクレーン型へ連合規格に合わせた偽装を施してはどうでしょうか?デザインは地球人のデザイナーに依頼して予め作らせてみました。これを。」

 そういってトレスは手に持っていたパッドをジェインウェイの元へ渡した。
 彼女はしばし見ると答える。
 
「良いわ。出来るだけ『地球人仕様』で宜しく。フフ、…なんだか私達が宇宙人みたいね。でも予定通りに完成しそうね。さて、人選だけど、私とセブンとトゥヴォックで行くことに決めたわ。艦と社の事は副長に任せます。以上、解散。」

 会議が終わると、ジェインウェイはそのまま食堂へ向かった。
 食堂ではニーリックスがいなくなってからは、クルーが交代で持ち回って運営している。今日はイチェブが担当の日だ。
 彼は元ボーグドローンであったこともあり、とても優秀に様々な物事を理解する事が出来、料理もめきめきと上達して行った。そのおかげで彼の料理は評判が良い。

「ハイ、イチェブ。調子はどう?」
「はい、艦長。今日も見ての通り盛況です。みんな僕の作る料理を褒めてくれます。」
「そうね。私もあなたの料理大好きよ。ニーリックスがいなくなってから、ここも暫く寂れていたけど、今はこうしてあなたみたいな新しいスターが生まれて良かったわ。今日の料理もおいしそうねぇ。」
「はい、艦長のために特別に濃いブラックコーヒーも用意してあります。」
「あらあら、気が利くわね。」

 彼から受け取り一口飲むと、その味はあまりの濃さに目が覚める思いだった。
 でも、この濃さが堪らない。黒いのが良いの。まるでコールタールみたいにドロドロとどす黒いのが。何故かしら?
 
「艦長、あの、一つ良いですか?」
「なぁに?」
「ぼくも、…その、上陸任務に一緒に連れて行ってもらえませんか?」
「あなたを?」
「はい。連合の開発しているというモビルスーツに興味が有ります。一度この目で見てみたいんです。」
「…うーん、そうね。分かったわ。今回はセブンもいるから、学ぶ良い機会かもしれないわね。許可します。」
「有り難うございます。艦長。」

 艦長日誌補足
 数日後、我々は連合軍との契約により、スペースコロニー「ヘリオポリス」への上陸任務に向かった。このコロニーはオーブという中立国のもので、我々は連合の計らいでロンド・ギナ・サハクという首長の許可を得た。
 我々の出自は、大西洋連邦のアメリカはカリフォルニア州出身ということになっている。これらの偽装工作は副長の指示のもと、セブンが完璧にこなしてくれた。
 
「よくいらっしゃいました。私は連合軍第八艦隊所属、マリュー・ラミアス大尉です。」
「初めまして、私はVST社のCEOをしています、キャスリーン・ジェインウェイです。早速ですが、現状の状況を確認させて頂けませんか。
 私達はハルバートン閣下の直々の要請を受けて参りました。システム関係でお困りとお聞きしていますが、詳細は伺っておりません。我々がお役に立てる内容なのでしょうか。」

 この話は本当だ。私達はVST社の製品開発を進め、幾つかの汎用的OSを組み立ててオンラインに配布した。それらのOSは市場に出回っているデバイスに容易にインストール出来、しかもあらゆる操作性を向上させる高性能振りを発揮した。
 特に低消費電力であらゆる機械を制御出来るシステム開発力は注目され、様々なメーカーから正式に採用したいと申し出があった。そして、その中に連合軍准将デュエイン・ハルバートンの名もあった。
 彼らは我々に対し新しい軍用システム開発で協力して欲しいという申し出をしてきた。具体的な開発計画等は全て伏せられていたが、我々は既に彼らの意図は知っていた。よって、なるべく手短に済ませたいというのが本音だ。
 
 彼らは我々を連合が使用するコロニー内の施設へ案内した。そこは外見上は小高い丘になっている場所だが、中身はなかなか大きな基地施設となっていた。
 中立を謳う国家のコロニーというが、これだけの設備を許可する辺りは彼らの中立へも相当の圧力が有るのだろうか。
 施設内部のドックらしき場所へ案内された私達は、ついに問題となっているロボットの前へ来た。
 
「…これが、モビルスーツ。」
「はい、GAT-Xシリーズです。ボディは既に出来ていますが、問題はOSで…仏作って魂入れず状態なんです。」

 私は暫く見入っていた。このような大きなロボットを実際に目にする日が来るとは思っても見なかった。しかも、それが私の知っているはずの地球の文明が生み出したというのだ。
 純粋に科学者としての私は、この歴史が作り出した産物について、例えそれが兵器だとしても感嘆の声を漏らさずにはいられない。だが、一方でトムが作るホロノベルの世界と同レベルの文明であると考えると、情けなくも感じた。
 
 私達は早速作業に取りかかった。
 予め用意していたシステムデータの入ったロムスティックを、試しにX102-デュエルへインストールした。
 トレスとセブンがホロデッキで幾度も試行錯誤して開発したこのシステムは、我々の連邦のデータベースでも四肢の駆動を前提にした兵器システムは無いため、工場作業用アンドロイド等の駆動システム周りを参考に手探りの作業だった。
 セブンは操縦に神経リンクインターフェースを採用した設計も考えていた様だが、それではあまりにオーバーテクノロジー過ぎた。そのため、この開発は如何にローテクで不自然に高性能ではないということが前提であった。
 その結果として生まれたこのOSは、幾つかのモードパッケージというモジュールに分ける事で軽量化し、必要なシステムをシンプルにまとめ、状況に応じて変更して行く学習能力を持たせたものとなった。操縦周りについても幾つかの作業は自動化し、簡易ボイスコントロールを導入する事でコマンドラインの変更もキーボード入力以外でも行える様にした。
 これにより完成した102デュエルには、試しにイチェブを乗せて動かしてみる事にした。
 彼はこの日の為に試作したシステムをホロデッキでテストしてくれていた。事前のテストでは問題無く動作している。実機のテストでも問題無く進む事を祈るばかりだ。
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【108】Voy in Seed 3
 制作者REDCOW  - 11/12/19(月) 23:19 -

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   第3話 侵入者

 その時、工場外部で爆発音がした。私はセブンにシャトルのトゥヴォックへ繋ぐ様に促した。
 セブンはサイバネティック・インプラントにより外部との通信を会話無しで行う事が出来る。
 彼女を通して話す方がこの場は都合が良い。
 
「セブンよりシャトル・アーチャー。何が起きている?」
「アーチャーよりトゥヴォック。2機のMSが侵入した。その他に工場区画に何者かが侵入した模様。連合のサインは無いため、ザフトの攻撃と思われる。
 基地周囲生命反応内に特異な遺伝子配列を持つ者が十数名いるが、外部区画より侵入している者はそのうちの数名だろう。そちらへ向かっている。転送タイミングを言ってくれ。」
「待て、今はまずい。艦長に報告する。別命有るまで待機してくれ。」
「了解。」
「艦長、侵入者は数名のザフト。こちらが目的だろう。転送タイミングを任せると言っている。」
「トゥボックには待機してもらって。私達がここで動くのはまずいわ。今は流れに任せましょう。」
「分かった。既に待機する様に伝えている。」

 セブンの言葉に私は思わず目を丸くした。だが、こういう成長こそ私は嬉しい。
 私達はとりあえずこの場を避難する算段をつける必要がある。しかし、この場を動くのはなかなか難しい。まだテストすら終わっていない機体をそのまま渡しては、連合の分が悪いのは間違いないだろう。ならば、先に全てのMSにシステムをインストールしてしまう事にした。
 私はラミアス大尉にロムスティックを渡すと、全ての機体に基地システムから同時にインストールさせた。これで何とか機体の制御は我々の方で行える。
 彼らが如何に自然に存在するより高度な行動が出来るとしても、それらは同じ条件が与えられた場合での話であり、全く違う条件に適応するのはそう簡単には行かないだろう。ならば、我々が出来る事はそうした条件を与えることだ。
 
「セブン、イチェブにはそのままMS内で待機し、場合によってはそれを動かして交戦する可能性がある事を知らせて。私達も白兵戦の用意をするわ。」
 
 私はラミアス大尉に掛け合って武器を持った。
 侵入者は少数だがなかなか捕まる気配は見えない。
 かなりの手練が侵入しているのだろう。
 マシンガンが手に馴染むのを感じる。
 こういうシチュエーションが嫌いじゃない自分がいる。
 来た。
 大きな爆発で建物が揺れ、爆風が吹き荒れた。
 幾人かの悲鳴が聞こえるが、ラミアス大尉が檄を飛ばしている声もする。
 私は研ぎすまして侵入者を探る。その時、上の方で声がした。

「…やっぱり…地球軍の新型機動兵器…うっ…お父様の裏切り者ー!」

 上を見上げると若い女の声。となりには少年の姿も見える。何故こんなところへ。

「…子供!?」

 案の定、ラミアス大尉も驚いている様だ。
 無理も無い。軍の施設内にいる子供は不自然だろう。
 そのラミアス大尉は兵士達に機体を動かす様促している。
 
「ハマダ!ブライアン!早く起動させるんだ!」

 二人の兵士が走って向かった。
 銃撃戦の音が聴こえる。私も握っていたマシンガンで彼らの走りを援護した。
 その時、
 
「あ!?危ない後ろ!」
「さっきの子?まだ!……!」
「うぉ!?」
 
 ラミアス大尉は華麗に避けると、ザフト兵を撃ち殺した。
 その身のこなしはなかなかのものだった。
 そして、彼女は上方の少年達に言った。
 
「来い!」
「左ブロックのシェルターに行きます!お構いなく!」
「あそこはもうドアしかない!」
「え!?うわぁ。」

 爆発で壁面が破壊され、構造物が落下した。
 少年はそれを軽やかに避ける。
 
「こっちへ!」
「あっ。」

 少年の声で振り向くラミアス大尉。
 そこには緑色の服を来た侵入者がラミアス大尉へ攻撃を仕掛けてきた。しかし、彼女は冷静にその攻撃を避けると返り討ちにした。
 そこにもう一人の赤い服を来た侵入者が走りながら銃を射ってきた。
 
「ラスティーーーー!うぉぉぉおおおおおお!!!」
「がぁあああ!!!」

 彼の銃撃はMSに乗り込もうとしていたハマダを撃ち抜いていた。
 
「ハマダ!?!ぅわああ!!」

 不意の攻撃に対応が間に合わず彼女も腕を負傷。
 そこに先程促されて降りてきた少年が駆けつけた。だが、彼は何故か敵を前に呆然と立ち尽くした。いや、彼だけではない。侵入者もまたそこに立ち止まっていた。
 
「…アスラン。」
「…キラ。」
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【109】Voy in Seed 4
 制作者REDCOW  - 11/12/23(金) 23:05 -

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   第4話 不完全
 
「…不用心だぞ。」
「ぐあぁあ!!」
  
 セブンが手刀で侵入者の腹を一撃した。
 侵入者は彼女の一撃でドックの壁面へ強かに打ち付けられた。だが、彼女の一撃をくらいながらもよろめきつつ立ち上がった侵入者は、素早くイージスの方へ駆けた。私は彼をマシンガンで牽制するも、コックピットに入られてしまった。
 その時、ラミアス大尉がストライクのコックピットへ少年と共に入っていく姿が見えた。彼女が動かすというのか?…ともかく、私はセブンと共にその場を後退。イチェブのいるデュエルのもとへ向かった。
 イチェブはデュエルを操縦し侵入者の攻撃を防いでいた。侵入者はデュエルへ向けて攻撃をするが、フェイズシフト装甲が機能している彼の機体には傷一つ付ける事は不可能だ。だが、その隙にバスターのコックピットに侵入された。PS装甲が起動する。
 
「何故俺がお前にお姫様だっこされねばいかんのだ!!」
「…イザーク、狭いんだから大人しくしろよ。しかし、…なんだこのOS、事前の情報とまるで違うぞ。でも、ロックはされていないから動かせる。っつーか、何だよこれ。俺達のOSより使いやすいぞ。」
「なんだと?ナチュラルが俺達を超えただと?笑わせんな。」
「いや…だけどよ、俺が何のカスタマイズもしないどころか、OSが俺に合わせて自動でセットアップしてるんだぜ?ん、ボイスコントロール?えーと、武器はあるか?」

 コンピューターは彼の言葉に反応して幾つかの選択肢を出した。
 
 「220mm径6連装ミサイルポッド」
 両肩に装備されるミサイルポッド。本機の白兵戦能力の低さをカバーするために搭載された武装で、攻撃兵器としては充分な火力を持つものの、基本的に弾幕形成による敵の幻惑・撹乱や、ミサイル迎撃等近接防御に使用される事が多い。煙幕や放電ガス弾など搭載ミサイルによって多彩な用途がある。
 
 「350mmガンランチャー」
 右腰アームに接続される電磁レールガン。散弾による複数目標への攻撃など、「面」の破壊に特化された武装。通常の質量弾頭の他にも、AP弾(徹甲弾)やHESH弾(粘着榴弾)などの各種特殊弾頭も射出可能。
 
 「94mm高エネルギー収束火線ライフル」
 左腰アームに接続される大型ビームライフル。他の前期GAT-Xシリーズに比べ大口径、高出力を誇り、当時の戦艦の主砲をも上回る火力を持つ。

 「対装甲散弾砲(連結時)」
 ガンランチャーを前に、収束火線ライフルを後に連結した広域制圧モード。
 
 「超高インパルス長射程狙撃ライフル(連結時)」
 収束火線ライフルを前に、ガンランチャーを後に連結した高威力・精密狙撃モード。
 
「…おいおい、全部飛び道具ばかりかよ。とりあえず逃げるぞ。」

 バスターは立ち上がると急いで逃げ始めた。
 イチェブはそれを見て牽制しようと動くが、セブンがそれを止めた。これは私の指示だ。
 彼はそれに従うと彼らを見送った。私達がするべき道は他にある。今は生きているラミアス大尉を生かすべきだろう。
 イージスもまた起動し立ち上がったその時、外部からの砲撃で壁が大きく破壊された。そして、その攻撃を知っていたかの様にイージスはそこから脱出して行く。だが、ラミアス大尉の乗ったストライクは起動する様子を見せない。何故だ。
 
「…OSのインストールが上手く行っていない。この子だけケーブルが断線していたんだわ。でも、私にも動かすくらいは。」
 
 ラミアス大尉は必死に動かそうと元のOSを弄っていた。何とか立ち上がると、ゆっくりと前進して破壊された壁穴から外へ出た。そこには緑色に塗装されたジンと呼ばれるZAFTのMSが待っていた。
 
「ヘリオポリス全土にレベル8の避難命令が発令されました。住民は速やかに最寄りの退避シェルターに避難して下さい。」

 外ではコロニー全域で緊急避難放送が流れていた。至る所で住民達の避難が進んでいる。そこに前方のジンが発砲した。
 ストライクに乗るラミアス大尉は寸での所でPS装甲の起動に成功した。装甲が弾丸から機体を保護する。しかし、その一方でコックピット内のカメラは、それた弾丸から逃げる一般市民の姿が映されていた。そこには少年の友人達の姿もあった。
 
「あー!!サイ!トール!カズイ!」

 ジンのパイロットは、連合のMSがジンの攻撃を弾いて無傷で立っていることに驚いていた。
 
「こいつ、どうなってる…こいつの装甲は!?」
「…こいつらはフェシズシフトの装甲を持つんだ。展開されたらジンのサーベルなど通用しない。」
「アスラン、まだいたのか!お前は早く離脱しろ!いつまでもウロウロするな!邪魔だ!」
「な、邪魔!?…ラスティは失敗した。油断はするな。」
「…余計なお世話だ。お前の将来は絶対ズラだ。なんなら俺がズラの似合う男にしてやろうか。」
「…離脱する。(なんで俺はズラ扱いばかりされるんだ。髪が長いからって必ずズラになるとは限らないだろう。くそ。)」
「ふん、いくら装甲が良かろうがっ!」

 ジンがサーベルを構えて突進してきた。
 ラミアス大尉は必死に動かそうとしているが、少年の目にはとてもまともに動きそうなシステムに見えない。
 
「(あっ、…これってまだ!?)うわぁあああ!!」
「あ、きゃぁああ!!」

 ジンのサーベルは実際に通用しなかったが、その打撃の衝撃でストライクはそのまま後方に倒れてしまった。
 ストライクのコックピット内では、ラミアス大尉の上から身を乗り出して少年が操縦を試みた。
 
「君!?」
「ここにはまだ人が居るんです!こんなものに乗ってるんだったら何とかして下さいよ!」
「そんな動きで、生意気なんだよ!ナチュラルがモビルスーツなど!」

 ジンが振りかぶってサーベルを下ろしてきた。
 少年はストライクの操縦桿を握りなんとか姿勢を変えて避ける。
 
「無茶苦茶だ!こんなOSでこれだけの機体を動かそうなんて!」
「まだ全て終わってないのよ、仕方ないでしょ!」
「…どいて下さい。」
「え?」
「早く!!」

 ラミアスは少年に席を譲った。少年はシートに座るとキーボードを出してシステムを弄り始めた。
 そこになおもジンの攻撃が続く。しかし、少年は巧みに操縦桿を握るとその攻撃をかわし、その合間に設定を急ぐ。
 
「あ、あ。(この子…!?)」
「キャリブレーション取りつつ、ゼロ・モーメント・ポイント及びCPGを再設定…、チッ!なら疑似皮質の分子イオンポンプに制御モジュール直結!ニュートラルリンケージ・ネットワーク、再構築!メタ運動野パラメータ更新!フィードフォワード制御再起動、伝達関数!コリオリ偏差修正!運動ルーチン接続!システム、オンライン!ブートストラップ起動!」

 にわかにストライクの挙動がスマートになり始めた。
 
「なんなんだあいつ、急に動きが…ッチ、ヤバくなる前に斬る!」

 執拗なサーベルによる斬撃から両の手をクロスして耐えるストライク。少年は受けながらそのまま腕をクロスした姿勢で強く押し返した。ジンは突然の押しに対応できずよろめいて後退した。
 
「うっ、武器…!…後はアーマーシュナイダー…?これだけかっ!」
「くっそー!チョロチョロと!」
「こんなところでっ!やめろっー!!!」
 
 少年はアーマーシュナイダーを構え突進する。
 アーマーシュナイダーはジンの主要な駆動部を破壊。ジンのシステムはフリーズした。
 
「ハイドロ応答無し。多元駆動システム停止。ええぇい!」
「あっ!まずいわ!ジンから離れて!」
「え?」

 ジンの自爆命令が起動し、ストライクはそのままもろにその爆発の衝撃を受けて後方へ吹き飛ばされた。
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【110】Voy in Seed 5
 制作者REDCOW  - 11/12/23(金) 23:06 -

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   第5話

 艦長日誌補足
 ドックを攻撃された連合軍は我々の目前で三機の試作機を奪われた。
 我々はイチェブの乗っていたデュエルと、ラミアス大尉達のストライクを確保した上で、近くの公園へ移動した。
 トゥヴォックとの交信を試みたが攻撃の影響か上手くリンクがとれず、仕方なく我々はキラ少年の操縦するストライクのシステムのアップグレードを試みた。しかし、彼が独自にくみ上げたシステムは独特の構造を持ち、我々が用意してきたシステムにこの場で改修するには長い時間が必要だ。しかも、システムへのアクセスは彼と密接に結びついているため、現状では彼にセブンと共に作業させ、オプションの武器システムへのアクセスを確立させるのが精一杯だった。
 彼の驚異的な能力には驚かされたが、我々の前には問題が山積していることに変わりない。
 
「こんな感じで良いですか?」
「そうだ。それで良い。お前は優秀だな。」
「…有り難うございます。でも、ハンセンさんも凄いです。」
「私は…こうした作業には慣れているからな。お前の様に初めて触れる物をすぐに理解出来ることは優秀だと言って良い。お陰でOSはこの機体と一体的に動作していて、我々が作ったシステムへの改修を拒んでいるがな。」
「す、すみません。」
「気にする事は無い。私はお前の考えたこの構造に興味が有る。システムは論理的に正しい構造をしているほど効率的だと思っていた。だが、お前の考えた構造は、論理的であるより有機的…とでもいうべきか。まるで生命体の様にこの機体と結びつくことで性能を向上させている。」
「そう、なんですか?」
「わからないのか?…まぁ、もっとも、私もMSというものの運用を理解していない。肉体を駆使する以上の効率をロボットが達成することが可能なのか、それは今後のお前次第だがな。」
「…。」
「どうした?…怖いのか?」
「…はい。」
「そうか。…ふぅ、お前は無理をすることはない。我々にはイチェブもいる。お前が一人で頑張ることはない。」
「イチェブさんも民間人ですよね?なぜ、MSを操作出来るんですか?」
「イチェブは事前に我々のシステムをテストした。それに、お前よりは感情をコントロールできる。」
「感情をコントロール?」
「そうだ。感情をコントロールすることで、必要以上の感情が表に出る事による不安定さを低減している。…のはずだが、人間とは時に脆い様だ。常にそうあることが正しいはずだが、私の人間性が感情を操作できなくすることもある。悩ましいな。」
「…そうですね。」
「私の作業はこれまでだ。後はお前が使いやすい様に調整するといい。」

 セブンはそう告げてストライクのコックピットを降りた。
 キラ少年とセブンがストライクのシステム修正にあたっていた頃、私は彼の友人達に手伝ってもらっていた。

「これでいいですか〜?」
「えぇ、皆さん有り難う。」

 キラ少年の友人達はこの土地の工科大学生で、彼らはシステム制御についての知識が有った。彼らの協力を得て気絶した大尉を機体から下ろした我々は、彼らに周囲にある武器の入ったコンテナ車を集めさせ、それぞれのシステムをアップグレードする作業をしていた。
 そんな中、ラミアス大尉が目を覚ました。
 
「うぅ、」
「気が付きました?キラー!!」

 ミリアリアという名の赤い髪の少女が彼女の目覚めに気付き、キラ少年を呼ぶ。
 彼はその呼びかけに答え、ストライクのコックピットから降り始める。
 
「うぐっ!」

 起き上がろうとする彼女の体に激痛が走り、思わず呻く。
 そんな彼女の体をミリアリアはそっと支えると優しく話しかける。
 
「あー、まだ動かない方がいいですよ。」
「はぁぁ。」

 彼女は呼吸を整えてゆっくりと起き上がった。
 ミリアリアは自力で体を支えられるのを見て取ると、近くの荷物から水筒を取り出した。
 そこにキラ少年がやってきた。
 
「…すみませんでした。なんか僕、無茶苦茶やちゃって。」
「お水、要ります?」

 キラ少年は恐縮した表情で彼女の前に立った。そこに、ミリアリアが彼女へ水を差し出す。
 ラミアス大尉はそれを受け取り一口飲み、
 
「…ありがとう。」

 と、彼女に謝意を告げた。
 その時、後方で楽しそうな話し声が聞こえる。
 
「すっげーなぁ、ガンダムっての!」
「動く?動かないのかぁ?」
「お前ら!あんまり弄るなって!」
「なんでまた灰色になったんだ?」
「メインバッテリーが切れたんだとさ。」
「へぇ〜。」
 
 少年達が嬉しそうにはしゃぎながらMSを見つめていると、
 
「その機体から離れなさい!」
「んー?…うわぁ!」

 彼女は突然立ち上がり様、胸の中にしまっていた銃を出して構えていた。
 銃口はMSに触れる少年達に向けられている。その表情は硬い。
 
「何をするんです!止めて下さい!彼らなんですよ、気絶してる貴方を降ろしてくれたのは!…うっ。」

 話している途中で銃口を向けられ口ごもるキラ少年。
 ラミアス大尉は周囲に睨みをきかせながら言った。
 
「…助けてもらったことは感謝します。でもあれは軍の重要機密よ。民間人が無闇に触れていいものではないわ。」
「…なんだよ。さっき操縦してたのはキラじゃんか。」
 
 トール少年が仏頂面で呟いた。
 私は彼らに間の手をだすことにした。
 
「…そうね。ラミアス大尉。あなたをここへ運んできたのも、そして介抱したのも彼らよ。」
「ジェインウェイさん!?それにハンセンさんも。」
「我々は彼らの協力のもと、奪われた機体に対してトラップを発動させた。どの程度の役に立つかは分からないが、少なくとも彼らが我々のシステムを利用する事は不可能になる。」
「我が社の技術には絶対の自信があります。そして、彼らは工科大生。こんな状況だけど、私達はまんざら運が悪いとも言えないわ。なぜなら生きている。だったら、一人で頑張るよりみんなで頑張って生き残ることを考えてはどうかしら?」
「…ジェインウェイさん、あなた方は何をしたのですか?」
「…そうねぇ、あなたが言う通りこれらは軍の重要機密。こんな事もあろうかと、念には念を入れて予め作っておきましたの。泥棒にはお仕置きが必要でしょう?」
「え?」

 ラミアス大尉は複雑な表情で私達を見ていた。
 その頃、宇宙空間では2機の機体が交戦していた。

「……んっ、くそー!ラウ・ル・クルーゼかっ!」
「お前はいつでも邪魔だな、ムウ・ラ・フラガ。尤もお前にも私が御同様かな?」
「えぇい、ヘリオポリスの中にっ!」
 
 メビウス・ゼロがコロニー内へ侵入する。
 それを追ってシグーも内部へと入って行く。
 
「…こちらX-105ストライク。地球軍、応答願います。地球軍、応答願います!」
 
 キラ少年には歩きながら通信を任せ、私達はトレーラーの中で話していた。
 トレーラーの通信設備はX105との交信が可能になっていることもあるが、これから我々が拾い集めた装備を宇宙艦に届けることになった。何か攻撃が有ったとしても、こちらにはフル装備のデュエルがある。我々の防衛はイチェブに任せた。
 
「ジェインウェイさん達が装備を粗方集めていて下さったのは助かりました。しかも、アップグレード作業まで。」
「これが私達の仕事です。失礼ですが…X105の調整時にこちらでデータベースをチェックさせてもらいました。勿論、守秘義務は守らせて頂きます。まぁ、どの道同じですから、一を知ろうと百を知ろうと一緒です。」
「場合によっては、貴方方は軍の厳しい監視下に置かれる可能性もあるんですよ?」
「既にハルバートン閣下に要請された時点で、我々には相当の監視が入っているものと理解しています。我々が敵に与しないように…と。でしたら、こちらから積極的に誠意をお見せした方が良いかと判断しました。ご不満かしら?」
「いえ、そう仰って頂けると、正直私も有り難いです。」
「フフ、もっとも、私達もボランティアではありません。それ相応の対価は社の方へ入れて頂く所存ですわ。」
「まぁ、商売がお上手ですこと。」

 その時、上空を二機の機体が飛んで行くのが見えた。
 
「メビウス!それにシグー!?」

 ラミアス大尉が表情を曇らせた。
 私も状況が変わった事を理解し、セブンにイチェブへ動く様伝えさせる。
 
「セブンよりイチェブ、敵襲はわかるな。我々に抵抗する者には無意味だと悟らせろ。」
「デュエルよりイチェブ、了解。」

 デュエルがビームライフルを構える。
 シグーに乗るクルーゼは二機のMSの姿を見て色めき立った。
 
「ほぉ、あれか。」
「残りの機体か!?」

 フラガの目にもそれらが認められた。しかし、こちらは手負いで追われる状況。対応出来る余力がなかった。
 シグーは武装の無いストライク目がけて発砲する。しかし、その攻撃はストライクの間に飛び入ったデュエルのシールドにより弾かれた。しかも、その跳躍しざまにライフルをシグーへ向けて射撃。その射撃はシグーの右手を正確に破壊。続けざまに左足の付け根に向けてグレネードを発射し破壊した。
 
「な!?この私がこんな物に、ぇえい!私はここで死ぬわけにはいかんのだよ。ッチィ!」
「…抵抗は、無意味だ。」

 イチェブは強い思念を込めて敵機へ言葉を送信した。
 それを見たクルーゼは何故かその言葉が脳深くから発せられ、奇妙な恐怖感が彼の中に湧き起こるのを感じた。
 
「…こ、この私が怯えている…だと!?」

 その時、彼の視界に一筋の光が走った。
 小高い丘の地面を破壊して、巨大な船が目前を横切る様に飛翔した。
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【111】Voy in Seed 6
 制作者REDCOW  - 11/12/23(金) 23:07 -

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   第6話 乗りかけた船
 
 ZAFT軍クルーゼ隊母艦「ヴェサリウス」
 
「ぐはぁあああ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、……ぉのれぇえええええ!!!!この私が負けた…だと!?あんなガラクタに一太刀も合わせずに!」

 クルーゼは怒りながら頬を伝う雫の流れを感じていた。彼の脳裏に響き渡った恫喝の声は、聴こえなくなった今も近くから囁く様に彼を締め上げる。
 彼はこれまでこれほどの恐怖を感じた事は無かった。この手で誰かを手にかけることがあろうと、何らの感情も起こさずにやってのけてきた。時には愉快さも感じながら。
 しかし、この時の彼はこれまで何でもこなしてきた自分が、初めて大きな敗北を喫したことにショックを受けていた。それは、自分自身の出自の次に認めがたい出来事だった。
 彼は壊れた機体から出ると、駆けつけた医療班を手で振り払い遠ざけ、ふらつく体で通路を歩いた。その姿はこれまで彼が見せていた余裕は微塵も無く、周囲の者達もその鬼気迫る雰囲気を感じ取り遠巻きに立ち尽くす他無かった。
 
 僚艦のガモフには連合からMSを奪取した「赤服」を着た者達が帰還していた。
 
「第5プログラム班は待機。インターフェイス、オンライン。データパスアップ、ウィルス障壁、抗体注入試験開始。データベース、コンタクトまで300ミリ秒。第2班、パワーパックの極性((?))に注意しろ。第4班は……」

「うわ!」
「あ!すまない!ついそっちまで弄ってしまった。」
「ああ、大丈夫です。外装チェックと充電は終わりました。そちらはどうです?」
「こちらも終了だ。…しかしよく出来たOSだ。これを連合が?」
「…確かに。このプログラムはまだ解析不能です。とても強固なプロテクトが掛かっていまして、先程から様々な侵入プログラムを入れていますが、最初の2層は容易く突破出来たのですが、その後は尽く負けて、最後に出てくるメッセージが…」
「…抵抗は、無意味だ…か。馬鹿にしてくれる。」
「…お前はまだ良い。」
 
 整備員と共に奪取した機体のチェックを進めているアスランへ声を掛けたのは、イザーク・ジュールだった。

「…イザーク、気にする事は無い。俺達は初陣だ。帰還するのも大事な任務だ。君が無事で良かった。」
「フン、しかし、連合の奴らめ。こんな高性能な物を奴らが作れるはずはない。裏切り者が俺達に当てつけてくれる。」
「背景がどうなっているのか、俺には分からない。ただ、事前の情報と大きく違ったのも間違いない。だが、隊長が…被弾して帰還されたそうだ。」
「にゃにぃ、隊長が!?本当か!」
「あぁ、君らが帰還する前に機体の右手と左足を損傷して帰還されたそうだ。…とても話せる雰囲気ではなかったと聞いている。それ以前に、それをやったのがデュエルという機体だったそうだ。…俺達が奪ったものと同シリーズだ。この意味はわかるな?」
「…フン、今更お前に言われるまでもない。必ず破壊する。」
「そうだ。そうしなければ、明日には俺達が射たれる。次は大きな戦いになるかもしれないな。…ところで、何故お前は…その、ディアッカに抱えられているんだ?」

 彼は何故かディアッカ・エルスマンにお姫様だっこされていた。
 
「にゃ!?そ、それは!!!」
「はは、変な誤解はしないでくれよ。こいつ、慣れない姿勢を続けたせいでぎっくり腰になったんだぜ。ったく、世話焼けるぜ。」
「にゃにぃぉおおおお!?」
「…は、ははは。」

 アスランはやり切れない思いを感じつつ、自室へ戻った。
 
 艦長日誌補足
 シグーは撤退して行った。私はイチェブに対し深追いを禁じ、敵を追い払う事に留めた。我々の目前に現れた艦艇はアークエンジェルという連合の新造艦だ。
 優美な造形はおよそ軍の艦艇とは思えないデザインだが、この艦が連合の中でも特別な存在である事は理解出来る。ラミアス大尉はこの母艦へ我々が集めた武器を運ぶ気だったようだ。
 艦に着いた我々は、出迎えたバジルール少尉達から艦の深刻な人員不足についての状況説明を聞いた。
 
「しかし、さっきのアレ、凄いな。君はもしかしてコーディネイターか?」
「いえ、僕はあなた方の言うコーディネイターではありません。」
「じゃぁ、ナチュラルか。いや、疑っているつもりはないんだが、俺はこの新型に乗るはずだったひよっこ共の動きを見ていたから、まさか同じ物であんなに凄い動きが出来るとは思えなかったんだ。」
「元々のOSの性能であれば、あなたの言う通り何も出来なかったでしょう。でも、我々の社のOSを入れた今は問題有りません。」
「我々の社?」

 イチェブの言葉に首を傾げるフラガ大尉に、私は改めて説明することにした。
 
「彼は我々のテストパイロットとして乗ってもらいました。もっとも、機械操作が得意という甥の好奇心を汲み取って手伝わせていたのですが、良い働きをしてくれたと思います。」
「良い甥っ子さんをお持ちですね。うちに欲しいくらいだ。しかし、ジェインウェイさん、あなた方は今日始めてこいつと対面したはずじゃなかったんですか?」
「元々私達はモビルスーツのシステム開発に興味を持っておりました。そのため、自社でシミュレートして幾つかサンプルを作っておりましたので、この短期で交渉を進められたという背景があります。
 たぶん、我々以外にも幾つかの社が候補にあがっていたと思いますが、それらの社はいずれもそうした意欲を持っていたのではないかと。」
「はぁぁ、ビジネスって奴は貪欲ですねぇ〜。」
「それくらいの貪欲さがなくては、他社を圧倒する事はできませんわ。さて、一つ提案がありますの。」
「提案?」
「はい。この艦が人員不足であることは理解しました。でしたら、文字通り乗りかけた船です。我々も一時的に軍へ予備的にご協力しましょう。
 私達にはどの道この艦に乗って脱出する以外に生存の道はなさそうですし、困ったときはお互い様ということで、いかがです?その代わり、一宿一飯の恩は忘れないつもりですわ。」
「…どうする?」

 ジェインウェイの提案に連合の士官である3人は相談した。
 バジルール少尉は状況を考慮して申し出を受ける方向で検討して良いと言い、ラミアス大尉は軍の仕事に民間人を巻き込むのはどうかと不安な表情も見せる。しかし、フラガ大尉が現状ではこうした申し出は有り難い。不安が有ろうと選択肢は多くない現実を考えれば、ここは申し出を受け入れるべきだと言ったことで多数決上も受け入れで決まった。
 そして、ジェインウェイの提案が受け入れられたのを見て、少年達も同調し艦を手伝うことになった。
 余談だが、彼らの艦の殆どの上級士官は攻撃により死亡しており、この艦の指揮は先任大尉はフラガだが、艦に関する知識はラミアス大尉の方が専門ということもあり、彼女が指揮することになった。その副官としてバジルール少尉が就いた。
 フラガ大尉が粗方決まった所で私に尋ねてきた。
 
「ところで、ジェインウェイさんは軍での経験はおありですか?」
「はい。私は以前の職は米国空軍で働いておりました。当時の階級は大佐です。」
「た、大佐!?…しかし、U.S.Airforceにジェインウェイという名の女性士官は聞いた事が…」
「オドンネル…といえば分かるかしら。シャノン・オドンネル。」
「あ、聞いた事ある!確か火星コロニー計画の空母イントレピットの指揮官にそんな名が。」
「あらご存知?大昔のことなのに。フフフ、その職の退職金で今の事業を初めたのですよ。」
 
 ここに来て彼女の経歴が役に立つ時が来た。
 当の本人には別の魅力的ビジネスを提示し、今はカイパーベルトの向こうを旅行気分で楽しんでいる事だろう。この任務にはキム少尉を当てている。しかし、繰り返す様だが、この世界は私と何らかの因果があるのだろうか。
 こうした偶然はそう重なる物ではない。

「そういうことなら、ここはオドンネルさんが我々の艦を操艦された方が良いのでは。」

 ラミアス大尉が恐縮しつつ話した。
 他の二人も先程とは打って変わって姿勢が良くなった。
 無理も無い。
 米国は大西洋連邦の盟主であり、そこの大佐となれば彼らの上官である。
 何事も保険は用意しておく物だ。

「お三方、私はもう大昔に退役した部外者ですわ。そう恐縮為さらないで。それに私の名はキャスリーン・ジェインウェイでよろしく。
 …正直、へこへこされるのも困るのよ。指揮はフラガ大尉の仰る様に、私も全くの門外漢。ですから、ラミアス大尉が為さって。
 ただ、希望を話すなら、そうねぇ、最新鋭の宇宙艦の運用を見学したいと思っておりましたの。だから、ブリッジに何時でも入れる許可を頂けましたら幸いですわ。その許可を頂ければ、掃除婦でも何でも仕事を見つけてやらせて頂こうと思います。」
「そういう事でしたら、分かりました。私達もあなたのご意見を伺いたく思う場面が有ると思います。その時はお知恵を拝借出来れば幸いです。」

 ラミアス大尉は深々と私に頭を下げた。私は微笑んでそれをなおし、固く握手をした。
 その後は荷物の積み込みや出発準備で大忙しとなった。そして、粗方やれることを仕上げ、出航準備も整った頃…
 
「キラくん。」
「あ、ラミアス大尉。」
「ちょっと良い?」
「はい。」

 ラミアス大尉は人気の無い場所へ移動すると、彼に切り出した。
 
「あなた、コーディネイターよね?」
「…はい。」
 
 キラ少年は観念した様に固く目を閉じて歯を食いしばった。
 しかし、彼の想像する様なものは何も起きなかった。それどころか、
 
「やっぱり。でも、私はブルーコスモスみたいな偏見は無いわ。ただ、この艦の中にはそうした偏見を持つ人もいると思う。だけど、あなたが悪いわけではないのだから、堂々としていて。正直私があなたを巻き込んでしまったみたいなものだから、何か有ったら私に言って頂戴。」
「…有り難うございます。あ、の、ラミアス大尉。」
「マリューで良いわ。キラくん。」
「はい。マリューさん。」
 
 彼女は彼の立場を心配して気遣ってくれたのだ。
 連合軍の中にも普通に接してくれる人がいる。それはたぶん、もの凄く小さな可能性の一つなのかもしれないが、その可能性がここで起きてくれた事を正直に感謝したい気持ちになった。
 だが、そんな気持ちで居続けられる程、現実とは甘くない。
 
「あ、でも、一つ言っておくわ。私はあなたが嫌ならいつでもMSを降りて貰う。これはサービス心で言っているんじゃなくて、私達はアレに命を預けているの。…確かに強引なこと言っていると思う。だけど、あれは中途半端な気持ちで乗っていい物じゃない。あなたは、それでもあれに乗る?」
「…わかりません。」
「そうよね。唐突に言われて、はい、やります!…とは行かないわよね。でも、だからとノリだけで乗られても困るし。やる気が無いなら乗らない方が一番だと思うわ。」
「…ぼくは…」
 
 キラ少年が何かを言いかけたとき、ラミアス大尉は彼の口もとにそっと手を当てて止めた。
 彼女の表情は穏やかで、口元に触れる彼女の手の温もりが心地よい。
 
「…正直な所、今この艦には大尉のメビウスとイチェブ君のデュエルと、あなたのストライクだけしかない。ここであなたがやめて戦力が一つ減るのは痛いわ。
 でも、あなたは本当は軍人じゃない。便宜的にはあなた達は志願した事になっているけど、やめても良いの。あなたの代わりを務める必要があるのは私達の方なのだから。」
 
 ラミアス大尉の言葉はキラ少年にとってはとても有り難い話だった。しかし、だからと事態が好転するわけではない。彼女の言っていることは本当だ。自分がやめて機体が一機使えなくなるということは、危険に晒される可能性が増える事を意味する。
 この戦いを回避すれば、いずれはVST社の人々によってOSの問題は改修されるだろう。だが、この時点での改修はジェインウェイ社長は無理だと断じていた。
 
「僕は…戦います。」
「キラ君?」
「僕がここで逃げても、いずれ誰かが代わってくれるかもしれない。でも、戦わなかったら…そのいずれはやって来ないかもしれない。だったら、僕は戦う。みんなを守りたいし、死にたくない。死なせたくない!」
 
 その時、警報が鳴った。CICに就いたミリアリアの声が艦内に響く。
 
「総員、第一戦闘配備。パイロットはモビルスーツで待機してください。繰り返します…」
「…僕、行きます!」
「わかったわ、みんなで生き残りましょう!」
「はい!」

 二人は決意を胸に、それぞれの持ち場へ駆けて行った。
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【112】Voy in Seed 7
 制作者REDCOW  - 11/12/23(金) 23:18 -

引用なし
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   第7話 

 ヴェサリウスの艦橋からスクリーン越しにクルーゼはブリーフィングをしていた。
 
「…我々はあの新造艦を今後足付きと呼ぶ。足付きには我々が取り損ねた2機のMSがある。アスラン、ディアッカ、ニコル、君らが持ち帰ってくれたお陰で、私の失態も首が繋がろう。
 そして、ミゲル。君の持ち帰った戦闘データも興味深い。諸君らも知っての通り、あれのOSの出来は次元を超えている。連合があれほどのシステムを整備して立ち向かってくる時…それは、我々の破滅の時と言っても良い代物だ。」

 クルーゼの言葉は、スクリーンに映る面々は勿論、艦橋のクルー全員が同意する話だった。彼らは鹵獲した機体のOSをハックしようと何度も試みた。しかし、それは全て失敗に終わり、全ては…
 
「…抵抗は、無意味だ。…ですか。馬鹿にしている。」

 アスランの発言もまた、この場の皆が感じている屈辱的ワードだった。しかし、それが嘘ではないから始末に悪い。
 
「でも、確かに我々の力では及ばない高度なプロテクトがされていました。あのプログラムは本国の最先端の演算システムを用いても…天文学的計算を要して解けるか…といったレベルでしょう。」
「ニコル、お前は悲観的過ぎる。イザークぐらいカラッと熱いくらいが丁度いいんだぜ?」
「にゃ、にゃにぃにゅぐぐg」

 イザークは反発する途中でディアッカに口を押さえられた。
 そのディアッカがクルーゼに問う。
 
「隊長、鹵獲機体、使うんですか?…機体の解析は済んでいます。それに、あのOSは親切な程使いやすい。でも、中身は全くのブラックボックスだ。」
「…罠かもしれんな。だが、あれらを野放しでジョシュアに持ち帰らせてみたまえ…戦況は一層厳しい物となるだろう。ならば、使える物を使う他あるまい。我々は元々圧倒的に量を不足している。奴らに時を与えるだけで…我らは時をも敵に回すだろうよ。」
「では、使うんですね。」
「その通りだ。だが、念には念を入れる。私もただしてやられてばかりでは癪だからな。向こうがその気なら、こちらも対応するまでだ。作戦は予定通り執り行う。出せる機体は全て使う。ジンには本国と掛け合ってD装備の許可を取得済みだ。これより…我々は修羅になる。」
「…隊長。了解しました。」

 ディアッカはクルーゼの決意を悟った。
 それを聞いていたクルー達もまた、クルーゼの非情なる決断を受け止めていた。
 
 ラミアス大尉がブリッジに入ると、艦はバジルール少尉のもと発進準備が進められていた。
 フラガ大尉が怒鳴る。
 
「遅いぞ!」
「すみません!状況は?」
「ヘリオポリス外壁に攻撃、そこから数機のMSが侵入したのをヘリオポリスのモニターシステムから探知した。その中には鹵獲された機体も含まれている。」
「ハンセンさん!?それにジェインウェイさんも。その情報はどうやって?」
「我々はコンピューターシステムとサイバネティクスのスペシャリストです。我が社ではこのくらいの仕事は出来て当然です。まぁ、もっとも彼女は我が社のエースですが。この出航、私もしばし見学させて貰いますよ。あと、アニカ(セブン)には整備チームに参加させて貰っても良いかしら。彼女の技術力は必ず役に立ちます。」
「…わ、わかりました。そのようにお願いします。大尉のモビルアーマーは?」
「ダメだ。出られん。」
「では、フラガ大尉には、CICをお願いします。ミリアリアさん、艦内通信を開いて。」
「はい。」
「アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスより全クルーへ告ぐ。本艦はまた戦闘に入る。シェルターはレベル9で警報を維持しており、我々の目標はヘリオポリスからの脱出を最優先とする。戦闘ではコロニーを傷つけないよう留意せよ!…あの攻撃にも生き残った皆の運を信じている。以上。」

 アークエンジェルが発進した。
 セブンにはまずは機関室へ向かわせた。彼女にはこの間にエンジンの出力効率の改善を指示している。連合軍が開発したフェイズシフト装甲はとてもエネルギー消費効率が悪い。
 セブンはこの効率をシステムの改良で3割の改善を見込んでいる。完全な整備にはシャトルを呼ぶ必要があるが、差し当たって3割の消費効率改善は十分だろう。
 言い換えればそれだけ杜撰なシステムで無駄に浪費しているとも言えるが。
 MSハンガーでは整備員達が忙しく駆け回っていた。
 
「3番コンテナ開け!ソードストライカー装備だ!」
「ソードストライカー?剣か。ビームだと穴を空けちゃうか。」

 キラ少年は緊張しつつシステムを調整していた。
 そこにデュエルに乗るイチェブが話しかけてきた。
 
「キラ」
「イチェブさん」
「イチェブで良い。怖ければ無理をするな。」
「うん、でも、倒さなくちゃ。」
「…そうだな。だけど、ジェインウェイ社長ならこういう。生きて帰れと。」
「うん。」
「大丈夫だ。俺がお前を射たせはしない。全ての障害は排除する。」
「うん。」

 ブリッジではトノムラが敵の機体を探知した。
 
「接近する熱源1。熱紋パターン、ジンです!」
「なんてこったい!拠点攻撃用の、重爆撃装備だぞ!あんなもんをここで使う気かっ!?」

 フラガは機体情報を見て驚愕した。彼らの武装はとてもコロニー内での戦闘を考慮した物ではなかったからだ。
 トノムラが続けて探知した情報を読み上げる。
 
「タンネンバウム地区から更に別部隊侵入!うち、一機はX-303、イージスです!」
「ストライク、デュエル、発進させろ。」

 バジルール少尉の命令下、二機が出撃する。
 続けて少尉は誘導弾兵器コリントスを装填し、レーザー誘導で敵全面での誘爆を仕掛けMS隊の発進を支援する。
 彼女の判断は実弾兵器のPS装甲への効果は薄い事を考慮して、目くらましとして使用した様だが、この判断が結果的に良かったのは彼女に運も味方しているからだろうか。
 
「オロールとマシューは戦艦を!そして、ズラ!無理矢理付いてきた根性、見せてもらうぞ!」
「…あぁ、だが、俺の名前はズラじゃない。ア・ス・ラ・ン・ザ・ラ・だ!」
「アズラン?なんか言ったか?知ってるぞ?お前のお父上も隠れたハゲだってこと。いくら優秀にコーディネイトしても…ハゲは超えられない壁だったようだな。」
「…俺の事は良いが、父上のことは言うな。…本人も相当気にしている。」
「…そうか。すまない。……ってなわけで、落ちろ!!!」

 彼らは散開して攻撃を回避しつつ各自アークエンジェルへの攻撃を開始した。
 しかし、その攻撃を尽くビームの正確な射撃が撃ち落として行く。
 
「でたな、化け物兵器め!」
「…抵抗は、無意味だ。」

 イチェブのデュエルはアークエンジェル付近から相当の距離が有るにもかかわらず、正確にミサイル誘導を利用してビームに当てていた。キラは彼の攻撃方法を見てとても勉強になった。
 敵を倒すのは何も自分の武装だけに頼る必要は無い。こんな簡単なことではあるが、張りつめた状況では冷静に思考を回すのは難しい。それだけに、イチェブという仲間が居る事がとても頼もしく思えた。
 イチェブも攻撃しながらキラの様子を伺っていた。彼の精神はとても弱いが、OSを書き換える等の知識や行動力は非凡な物を持っている。彼程の理解力があるなら、自分の行動からヒントを掴むだろうと考えていた。
 
「厄介なのはデカ物よりお前か!なら、これならどうだ!!!プランD(デストロイ)」

 ミゲルの命令でジンから次々に砲撃が走る。
 それは一見するとアークエンジェルへの攻撃に思えたが、微妙に照準をそらしていた。

「!?」
「あぁ!?」

 キラの周囲を弾丸が過ぎ去り大地に着弾し大爆発が生じた。同時に大地に急速に亀裂が走り始めた。
 避難民達の逃げたシェルターでは悲鳴が起こり、不安が渦巻いた。そして、
 
「警報レベルが10に移行しました。このシェルターは救命艇としてパージされる可能性があります。全員…」

 大地の崩壊に合わせてシェルターがパージされ始めた。
 
「アズラン!!お前、何処へ行く!」

 ミゲルが叫ぶ。
 アスランは戦艦からの攻撃を巧みに避けてキラに迫る。
 
「おれはズラじゃない!って、(ミゲルとの通信をカットし)キラなのか!!」
「アスラン!?」
「ズラ!手柄は貰ったぁーーーー!!!」

 アスランの後方からミゲルがサーベルを構えてキラを捉えた。
 キラが咄嗟にソードで受け止める。その瞬間、ジンは頭部から垂直にビームで打ち抜かれ、爆散した。
 イチェブのビームは正確にミゲルの機体を貫通させたのだ。
 
「ミゲルゥウーーーーーーーーーー!!!」
「ウワアアアアアアーーーーーーーー」

 ミゲル機の爆発により両機が爆風で弾かれる。そのままキラとアスランの両機は開いた穴から宇宙空間へ放り出された。
 アークエンジェルの艦橋では彼らが弾き出されても何らのしようもなく絶句した。
 イチェブが敵機を攻撃するが、敵のジンはコロニーコアを砲撃して破壊し離脱。
 
 ついに、コロニーは完全崩壊を始めた。
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【113】Voy in Seed 8
 制作者REDCOW  - 11/12/26(月) 22:01 -

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    第8話
 
「X-105ストライク、応答せよ!X-105ストライク、聞こえているか?応答せよ!X-105ストライク、応答せよ!」
「…………ヘリオポリスが…壊れた…どうして…」

 バジルール少尉の声が通信装置の向こうから聴こえてくる。だが、彼にはそんな声は耳に入らなかった。目前に広がる光景を見れば、誰もが声を失うだろう。つい数時間前までは平和に暮らしていた大地が、無惨にも崩壊を続ける状況を見つめているのだ。その時、何かが気になった。
 
「…あれは、ヘリオポリスの救命ポッド?…それに、あれは?」

 キラは機体をそっとそちらへ向かわせた。
 
 艦長日誌補足
 我々はアークエンジェルの乗員として志願し、形式的に連合軍に所属する形をとった。満足な物資の積み込みも出来ずに敵襲に追われ出航することになったこの戦艦を、我々は無事にハルバートン氏が率いる第八艦隊へ届けなくてはならない。
 しかし、ZAFTによる攻撃は常軌を逸する行為であった。彼らは拠点攻撃用武装を施したMSを投入し、あろうことかコロニーコアを破壊。ヘリオポリスは崩壊を始めた。多数の民間人の犠牲は避けられないだろう。
 
「こうまで簡単に…脆いとは……」

 フラガ大尉が思わず口に出したその感想は、端的に目前の状況を言い表していると言える。数時間前の堂々とした姿は見る影も無く、コロニーは外郭部が細かく崩壊し、デブリの海と言えた。
 彼の呟きに構わず、バジルール少尉は宇宙に消えたX-105ストライクへの呼びかけを続ける。

「X-105ストライク!X-105ストライク!キラ・ヤマト!聞こえていたら…無事なら応答しろ!」
「…あ!…こちらX-105ストライク、…キラです。」
「はぁ……無事か?」
「はい。」
「こちらの位置は分かるか?」
「…はい。」
「ならば帰投しろ。…戻れるな?」
「…はい。(……父さん、母さん、無事だよな?…)」
 
 キラ少年の無事が確認された。ブリッジでは安堵の溜息が漏れた。
 彼の帰還は時間の問題だが、問題はこれからどうするかだ。
 
「で、これからどうするんだ?」

 フラガ大尉が腕組みをしながらラミアス大尉を見た。
 
「本艦はまだ、戦闘中です。ザフト艦の動き掴める?」
「無理です。残骸の中には熱を持つものも多く、これでレーダーも熱探知も…」

 彼女の問いも虚しく、敵の動きも掴めそうになかった。
 しかし、フラガ大尉は冷静に彼女に問いを投げかける。

「向こうも同じと思うがね。追撃があると?」
「あると想定して動くべきです。…尤も今攻撃を受けたら、こちらに勝ち目はありません。」
「…だな。こっちには、あの虎の子のストライクとデュエル、俺のボロボロのゼロのみだ。艦もこの陣容じゃあ、戦闘はなぁ。最大戦速で振り切るかい?かなりの高速艦なんだろ?こいつは。」
「向こうにも高速艦のナスカ級が居ます。振り切れるかどうかの保証はありません。」
「…なら素直に投降するか…?」
「…え…?」
「へっ…それも一つの手ではあるぜ?」

 私は二人のやり取りを静かに聞いていたが、事の成り行きに不透明感が増したのを見て彼らの話に割って入った。
 
「…お二人とも、ちょっと良いかしら?」
「ジェインウェイさん。」
「若者が二人揃って随分悲観的な話ね。あなた達、今がチャンスなのよ。進路は月へ行くのなら、一心不乱に月を目指すべきよ。」
「しかし、本艦は物資の積み込みも満足には…」
「だったら、望み通りに物資を積み込めば良いのよ。」
「それは、何処で?」
「…ゴミ拾いなんてどうかしら。」
「ゴ、ゴミ拾い!?…それって、まさか!?」
「そう、有るじゃない。ユニウス7という巨大な廃棄物が。」
「…しかし、墓荒らしの様な事をしては…」
「あら、生きるためには仕方の無い事よ。それに、敵はこう思うでしょうね。溺れる物はわらをも掴む…新兵レベルの安易な判断で最短の補給場所を目指すに違いないと。そう、丁度今しがたあなた達が話していたのはそういう事よ?」
「新兵レベ!?…確かに、仰る通りです。」
「だったら、彼らの裏をかくなら今よ。少尉を回収後すぐに急発進しユニウス7経由で月を目指すの。ユニウス7はデブリ帯なのだから、身を隠すにも丁度良いわ。手順としてはデコイは3方向へ飛ばす。一つは月、もう一つはアルテミス。最後はアメノミハシラへ。そして、私達もデコイにならなくてはだめよ。」
「私達がデコイになる?」
「そう、敵は私達が素人集団と侮って、デコイを使って実際はアルテミスへのサイレントランを決め込むと見るでしょう。だから、私達は盛大に盛り上げたデコイである必要があるわ。」
「…成る程。さすが大佐!」
「元よ。元。煽てても何も出ないわ。ふふ、でも、彼らは今それどころじゃないかもしれないけれど。」

 私の提案に感心するラミアス大尉。
 そこにフラガ大尉が腕組みしたまま慎重な表情で問う。
 
「…しかし、予想が外れた場合は?」
「…敵の戦力は鹵獲したXシリーズが3機にジン数機と壊れたシグーかしら。他にも何が有るか分からない。対して我々の戦力は2機。数の上では圧倒的に不利ね。でも、戦闘は数じゃないわ、頭よ。
 Xシリーズは私達の方がずっとよく知っている。シグーは壊れている。残りは世代遅れのジンのみ。…十分に戦えるわ。でも、無用なリスクを払うのは得策じゃない。私達は識別信号も持たない漂流者なんでしょう?なら、一刻も早く仲間と合流するべきね。」

 私達がそんな話をしている時、バジルール少尉が突拍子も無い剣幕で大声を上げた。
 
「なんだと!!!ちょっと待て!誰がそんなことを許可した!!!」

 あまりの剣幕に驚きつつ、ラミアス大尉が彼女に尋ねる。
 
「バ、バジルール少尉、何か?」
「…ストライク帰投しました。ですが、救命ポッドとシャトルを保持してきています。」

 フラガ大尉とラミアス大尉が少尉に負けないくらい大きく驚きの声をあげた。
 バジルール少尉とキラ少年のやり取りは続く。
 
「…認められない!?認められないってどういうことです!ポッドは推進部が壊れて漂流してたんですよ?シャトルもシステムエラーで動かないそうです。それをまた、このまま放り出せとでも言うんですか!?避難した人達が乗ってるんですよ!?」
「すぐに救援艦が来る!アークエンジェルは今戦闘中だぞ!避難民の受け入れなど出来るわけが…」

 受話器越しに熱く会話するバジルール少尉の肩に手を置き、ラミアス大尉が言った。
 
「いいわ、許可します。」
「…艦長?」
「今こんなことで揉めて、時間を取りたくないの。…収容急いで!」
「分かりました、艦長。」
「少尉、言いたい事はわかるけど、私達も軍人である前に人よ。それに、私達は彼らの世話になってこの艦を建造した。彼らには借りがある。…とハルバートン准将なら仰られるんじゃないかしら。」
「…。」

 私は彼女の決断に通じるものを感じた。荒削りだけど、正しく教えれば彼女は軍の中に蔓延する人種差別の波を押し返す力となるかもしれない。しかし、私がその手助けをすべきかどうかは正直わからない。
 我々はキラ少年が回収してきたポッドとシャトルの前に来ていた。そこにあったのは、我々のシャトル「アーチャー」だった。セブンによると、トゥヴォックはシャトルのエンジンがシステムエラーにより故障した様に偽装したようだ。
 私はシャトルが自社の物である事をラミアス大尉に告げ、予め謝意を告げていた。彼女はシャトルが我々の物であると知って安堵していた。
 中から出てきたトゥヴォックとも問題無く交流を済ませ、残るは民間人のポッドに移りハッチが開けられた。
 その時、キラ少年の肩に乗っていた緑色の羽を伸ばした小鳥型のロボットがポッドの入り口へ向けて飛び立った。
 思わず少年がそれを追う。

「…あっ!…あ、ああ…」
「トリィー、トリィー」

 小鳥は1人のロングヘアの少女のもとに止まった。

「…あ!」
「…。」
「あー、貴方、サイの友達の。」
「フ、フレイっ!…だっ。ほんとに、フレイ・アルスター。このポッドに乗ってたなんて。」
「ねえ、どうしたのヘリオポリス!どうしちゃったの、一体何があったの。」
「…。」
「あたし、あたし…フローレンスのお店でジェシカとミーシャにはぐれて、一人でシェルターに逃げ、そしたら…」
「…うっ」
「これザフトの船なんでしょ?あたし達どうなるの?なんであなたこんなところに居るの?」
「こ、これは地球軍の船だよ。」
「うそっ!?だってモビルスーツが。」
「あ、いやぁ、だからあれも地球軍ので…」
「…え。」
「で、でも良かった。ここには、サイもミリアリアも居るんだ。もう大丈夫だから。」

 一方その頃、ZAFT軍クルーゼ隊母艦「ヴェサリウス」の艦橋では…?
 
「このような事態になろうとは…。いかがされます?中立国のコロニーを破壊したとなれば、評議会も…」
「アデス、君は何を勘違いしている。地球軍の新型兵器を製造していたコロニーの、どこが中立だ。」
「…しかし、我々のした事は…」
「…フッ、住民の殆どは脱出している。我々は彼らを攻撃したのではない。連合との戦闘で『運悪く』壊れたにすぎん。さして問題はないさ。血のバレンタインの悲劇に比べればな。それに、君も同意しただろう?」
「…う。」

 クルーゼの言葉は嘘であることは間違いないが、それが全て間違っているわけでもなかった。
 アデス自身、本国がD装備の許可を出している時点で、最高評議会がこの事態を了承していたと考えられることは理解出来ていた。しかし、自分達がされた事を他国の無辜の民にしてしまった事は、些か心咎めるものを感じていた。とはいえ、血のバレンタインの言葉はその先を言わせないだけの力が有った。
 
「敵の新造戦艦の位置は掴めるかね?」

 クルーゼの質問に、オペレーターは崩壊熱等による探知不能を告げた。
 そこにアデスが問う。
 
「まだ追うつもりですか?しかし、こちらには既にモビルスーツは…」
「あるじゃないか。地球軍から奪ったのが3機も。」
「あれを投入されると?」

 クルーゼは頷く。しかし、アデスは彼の自信が不安で仕方なかった。
 最初の侵入し、MS奪取まではまぁ良かった。だが、動かしてみればOSはブラックボックスで、相手側の機体には翻弄されていた。そして、極めつけが隊長ですら敗退して戻ってきていることだ。得体の知れない力の差を感じているとも言えた。
 
「しかし…」
「OSがブラックボックスだから怖い…とでも言うのかね?それこそお笑いぐさだ。我々は相応の準備は済ませたのだ。何も怖がる必要はない。考えても見たまえ、彼らはナチュラルだ。確かに彼らが我々より鹵獲機体に詳しいことは間違いない。それは先の戦闘データが示している。
 だが、彼らはまんまと我々の攻撃にやられ、ブリッジクルーは木っ端みじんだ。足付きが素人のクルーでどこまで出来るか…フフフ、宙域図を出してくれ。ガモフには索敵範囲を広げるよう伝えろ。」

 ガモフの廊下で一人の赤服を来た少年が立っていた。
 
「…キラ。」

 アークエンジェルの食堂では加藤ゼミの面々が再開を祝っていた。
 フレイ・アルスターは婚約者であるサイ・アーガイル少年と抱き合い、熱々っぷりを見せつけていた。
 そんな姿をキラ少年が黙って見つめていた頃、ブリッジではユニウス7へのサイレントランの準備が進んでいた。
 
「では、デコイ発射と同時に、ユニウス7への航路修正の為、補助エンジンの噴射を行う。3番デコイとして本艦がメインエンジン噴射。その後は艦が発見されるのを防ぐため、慣性航行に移行。第二戦闘配備。艦の制御は最短時間内に留めて交代監視…でいいですね。」
「ユニウス7までのサイレントランニング、奴らが上手く騙されてくれればその後は通常航行に戻れるが、それまで最低でも5時間ってとこか。…後は運だな。」

 ヴェサリウスの艦橋でも追尾の準備が進められていた。
 アデスは一抹の不安を拭い切れず、再度クルーゼに進言した。
 
「奴等はヘリオポリスの崩壊に紛れて、既にこの宙域を脱出しているのではないですか。」
「いや、それはないな。どこかでじっと息を殺しているのだろう。網を張るかな。」
「網…でありますか?」

 アークエンジェル艦橋でバジルール少尉が威勢良く命令する。
 
「1、2、3番、デコイ宙域待機。」
「デコイ、1番、2番、3番、待機完了。」

 ラミアス大尉がクルー達を見回してからすっくと立ち上がり話した。
 
「本艦はこれより1番デコイ発射と同時にユニウス7への進路へ航路修正、2番デコイの30秒後にメインエンジン噴射、その30秒後に3番デコイ発射でいきます。」
「1番デコイ発射!」
 
 デコイの発射に合わせて補助エンジンで艦の針路修正を完了した。
 ヴェサリウス艦橋では作戦会議が行われていた。
 
「…ヴェサリウスは先行し、ここで敵艦を待つ。ガモフには、軌道面交差のコースを、索敵を密にしながら追尾させる。」
「アルテミスへでありますか?しかしそれでは、月方向へ離脱された場合…」

 クルーゼの作戦にアデスが疑問を呈した時、オペレーターが彼らに報告する。
 
「大型の熱量感知!初現、解析予想コース、地球スイングバイにて月面、地球軍大西洋連邦本部!」
「…ん!?」

 アデスは実際にクルーゼの言う通りにデコイの発射を見て驚いていた。
 アークエンジェル艦橋では…
 
「メインエンジン噴射!ユニウス7への慣性航行開始!……ふぅ、みなさん、ご苦労様です。あとは5時間をリミットに交代で監視に当たってください。では、私は少し休ませて貰います。」
「あ!?」

 CICに座る少年達が駆け寄る。
 ラミアス大尉はクルーへ労いの言葉を掛けて席を立ち、ブリッジを出ようとしたところで気を失い倒れた。
 
 ヴェサリウスでは尚も作戦会議が行われていた。
 アデスは初現の方向が月であったこと、3射目もユニウスセブン経由で月方向であったことに危機感を感じていた。
 
「隊長!一つ目と三つ目は月方向だったんですよ?本当に良いんですか?」
「…そいつは囮だな。」
「しかし、念のためガモフに確認を。」
「いや、やつらはアルテミスに向かうよ。考えても見たまえ、テスト問題の選択肢の不正解肢の常套は同じ方向の答えだ。本当の正解肢はそれ以外にあるものだよ。ならば答えは2つに一つ。そして、アメノミハシラは彼らを受け入れまい…となれば、残るは一つではないか。フフ、ヴェサリウス発進だ!ゼルマンを呼び出せ!」

 その頃、ガモフの廊下ではまだ赤服の少年が宙空を眺めていた。
 
「(ラスティ……ミゲル……)」
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【114】Voy in Seed 9
 制作者REDCOW  - 11/12/28(水) 18:22 -

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   第9話

「避難者の皆さんの中にお医者様はいらっしゃいませんか?…あ!、お医者様ですか?」
「はい、そうです。」
「お手数ですが、負傷者が居るんです。後で診て頂けませんか?」
「良いですよ。今すぐ伺いましょう。」

 アークエンジェルクルーの呼びかけに、一人の医師が立ち上がった。

 艦長日誌補足
 避難民の避難所としてあてがわれたのはブリーフィングルームだ。多人数を収容するには十分とは言えないが、この艦でこれ以上の広さを持った部屋となるとそう多くない。彼らには悪いが自由に動かれても問題がある。しかし、この艦が深刻な人員不足である事もまた間違いない。そこで私はバジルール少尉に予備的に協力してもらえる人員が居ないか募集する様提案した。

 最初は彼らも難色を示したが、この艦が喪失している医者やエンジニアといった必要不可欠な人員を中心に集め、その他女性等には厨房を交代で任せることにした。
 これにより不足人員を満たすと同時に移動導線を確定し、避難所の人員を無闇に分散し野方図に動かれる心配が無くなった。
 こうした采配は既に一度経験していることもあり、問題無く進める事ができた。

 サイレントランから5時間が経過したが、アークエンジェルは非常消灯を継続し慣性航行を続けていた。予想通りZAFTは我々のもとへは来なかったが、ラミアス大尉は倒れ、艦の状態も万全とは言えない。私達はその間にこの艦で未完成な部分の補完や調整をする事にした。
 セブンは丁度機関が停止状態にあることから機関部を再調整し、上手く行けば以前の出力効率より70%以上向上するだろう。彼女の話によると、この艦には巨大なレーザー核融合パルス推進装置があるそうだ。原始的ではあるが核融合炉の原型が既にここにあるということは興味深い。
 彼らはニュートロンジャマーから立ち直るために、何故核融合炉へ進もうとしないのかはわからないが、これは燃料の重水の問題だろうか。月は現状で連合の支配下にあるが、全世界を賄う程の量には達しないだろう。
 そうなると火星や木星への航路が開けなくてはならないが、宇宙の制空権はZAFTにあると言っても良い現状を鑑みるに、彼らは強行に対抗せざるを得ないのだろう。しかし、そこはZAFTも譲れない一線か。
 
 食堂では加藤ゼミの学生達が休憩時間を楽しんでいた。
 私とトゥヴォックも離れた外側の席に座りゆっくりとしていた。
 カズイ少年が好奇心をもって発言する。
 
「どこに行くのかな、この船。」
「一度、進路変えたよね。まだザフト、居るのかな。」

 サイ少年の発言は5時間経過後に行われた針路修正の事を言っている。サイレントランが終了してからも安全を取って最大24時間の慣性航行を行っている。通常航行で走る選択肢もあるが、周辺宙域にZAFT艦が居る可能性を考え慎重に行動している。
 
「この艦と、あのモビルスーツ追ってんだろ。じゃあ、まだ追われてんのかも。」
「えー、じゃあ何?これに乗ってる方が危ないってことじゃないの。やだぁ、ちょっとぉ。」

 トール少年が言っている割には楽しそうに話すのに対し、アルスター嬢は露骨に嫌がっている。
 それを聴いてキラ少年の顔が曇る。そんな彼を気遣う様にミリアリアはアルスター嬢を嗜めた。

「壊された救命ポッドの方がマシだった?」
「そ、そうじゃないけど…」

 彼女はばつが悪そうに答える。
 発言を修正した所で、彼女の身勝手な発言に場の雰囲気は落ち込み沈黙した。
 
「…親父達も無事だよな?」
「避難命令、全土に出てたし、大丈夫だよ。」

 カズイ少年の言葉はその場の全ての者が共通に感じている疑問だろう。
 サイ少年の言う通り、確かに避難は速やかに行われていた。だが、あの崩壊で全員が無事とは行かないだろう。運が悪ければ…フレイ・アルスターの乗っていたポッドの様に取り残されたり、瓦礫と衝突して破壊される危険性はある。それ以前に、攻撃による爆発の衝撃で破壊されたものも少なくないだろう。
 その時、廊下から一人の男がカリカリとして入ってきた。その表情は随分とストレスが堪っている様に伺える。
 
「キラ・ヤマト!」
「は、はい。」
「マードック軍曹が、怒ってるぞぉ。人手が足りないんだ。自分の機体ぐらい自分で整備しろと。」
「僕の機体…?え、ちょっと僕の機体って…」
「今はそういうことになってるってことだよ。実際、あれには君しか乗れないんだから、しょうがないだろ。」
「それは…しょうがないと思って2度目も乗りましたよ。でも、僕は軍人でもなんでもないんですから!」
「いずれまた戦闘が始まった時、今度は乗らずに、そう言いながら死んでくか?」
「…。」
「今、この艦を守れるのは、俺とイチェブ、そしてお前だけなんだぜ?」
「…でも…僕は…」
「君は、出来るだけの力を持っているだろ?なら、出来ることをやれよ。そう時間はないぞ。悩んでる時間もな。」

 キラ少年の顔は困惑の表情を隠せなかった。無理も無い。年端の行かない少年に、それも数時間前までは普通の学生だった少年に戦地へ行けと言っているのだ。どちらがおかしいと言われれば命じる側だろう。
 だが、フラガ大尉の言う事もまた正しい。何もしなければ射たれる可能性があるなら、何かしてそのリスクを取り除く方がずっと正しい選択だろう。とはいえ、果たして、この少年は耐えられるのか。
 そこに、サイ少年がフラガ大尉に尋ねた。
 
「あの!…俺も戦うことは出来ませんか?」
「へ?君が?」
「はい、キラ1人に背負わせるのは忍びないです。出来る事なら代わってやれる体制は作れないんですか?キラが出来ないなら、俺が…」
「ん、あーーー、気持ちは嬉しいがなぁ、ストライクは彼にしか動かせないんだ。」

 大尉の発言にアルスター嬢が反応する。
 
「え!?なに?今のどういうこと?あのキラって子、あの…」
「君の乗った救命ポッド、モビルスーツに運ばれてきたって言ってたろ。あれを操縦してたの、キラなんだ。」
「えー!あの子…?」
「ああ。」
「でもあの…あの子…なんでモビルスーツなんて…」

 サイの言葉にアルスター嬢は困惑していた。
 まさか自分を助けた人物がキラ少年だったと聴いて、尚更先程の発言に恐縮する思いだった。でも、疑問も湧く。
 フラガ大尉は彼にしかMSは操縦出来ないと言った。MSはZAFTのコーディネイターが作ったもの。大尉はMAに乗っているという話であるから、余計に彼女の腑に落ちない。
 そこにカズイ少年が呟く。
 
「キラは…コーディネイターだからね。」
「カズイ!!!」
 
 カズイ少年の言葉にその場の全員が驚き、思わずトール少年が彼の名を呼び制す。しかし、もはや修正はきかない。
 目を伏せるキラ少年を見て、サイ少年はその痛々しい程に沈んだ彼を何とかしたかった。でも、気のきいた言葉は浮かばない。それでも、何かを彼の代わりに言ってやらなくては、何が友達だろうかと感じていた。
 
「…うん…キラはコーディネイターだ。でも、ザフトじゃない!俺達と同じオーブの普通の学生だ!なのに命がけで戦場に立ってくれたんだ。」

 彼の言葉にアルスター嬢は何も言えなかった。
 だが、そこにあえて発言する者が居た。
 
「…そうか。坊主はコーディネイターだったのか。じゃなけりゃ、出来損ないOSを書き換えるなんて無理だよな。あ、俺は言っとくが偏見とかは無いからな。そりゃ、驚いたけどさ。
 まぁ、この艦にはブルーコスモスかぶれも居るかもしれないが、少なくとも俺はそんな奴は許さない。でもな、与えられた運命から逃げようって奴は、俺は軽蔑するぜ?…みんな逃げたくても逃げられないんだ。なら、立ち向かうしかないっしょ?」
「…僕、整備を手伝いに行きます。」
「おう!行ってこい!」

 キラ少年が立ち上がり足早に出て行く。
 フラガ大尉の言葉は彼らに良い刺激となった様だ。
 
「…うん、あたし達の仲間。キラは大事な友達よ。私達も頑張って支えなきゃ!さぁ、仕事に戻りましょう!」

 ミリアリア・ハウもまた、そう話すとキラ少年の分の食器を持って返却口へ返しに立った。
 それを合図とする様にその場にいる皆が立ち上がってそれぞれの持ち場へ出て行く。
 残されたのはアルスター嬢1人だった。
 彼女は全員がその場から消えたあとも、暫くその場に座っていた。
 
「…ちょっと良いかしら?」
「あ、はい。」
「すまないけど、あなた達のやりとりを向こうで見ていたわ。落ち込んでいる様ね。」
「え、あ、…大丈夫です。」
「そう?…あなた、コーディネイターは嫌い?」
「え!?………わかりません。でも、戦争を始めたのはZAFTだってパパが…」
「…そう。でも、それは連合が核でプラントを焼いたからでしょう?」
「…。で、でも…」
「えぇ、ZAFTはそれ以上の報復をしたわ。エイプリルフールクライシス…世界中でエネルギー不足で亡くなった人は数億人を数える…人類への大罪ね。」
「…はい。」
「でもね、それは組織が悪いのであって、人ではないの。勿論、組織が人を作ることも言えるけど、人1人では何も出来ないわ。それはナチュラルもコーディネイターも同じじゃなくて?」
「…。」
「傷つけられた人の思いは大きな憎悪になる。でも、憎悪は新たな憎悪を生み出す起爆装置でもあるわ。…憎んで戦えば、新しい憎しみを作ってしまうの。冷静さを欠いた人類は、これまで幾度となく戦争をして、傷付き、そして懲りたはずだけど、時が過ぎると忘れてしまうのよ。」
「…でも、戦わないと殺されちゃいますよ。」
「…そうね。だから戦う。それは自然なことよ。人類は戦う知恵を付ける事で進化してきたの。最初は環境に打ち勝つ為に、次は同族同士の縄張り争いに勝つ為に。そして、今は、…何と戦っているのかしら?」
「…人種の壁?」
「違うわ。エゴよ。所有欲であったり、商売としてであったり。…始まりはプラントの独立を承認しなかったから。それは何故?…プラントは連合国家の所有物だったから。コーディネイターが優秀だというなら、そしてナチュラルが彼らに打ち勝つというなら、どうすれば良かったのかしら?」
「………私達が譲るんですか?」
「いいえ。権利を主張するには義務を負わないといけないわよね?…コーディネイターは独立が欲しいなら対価を払う必要があったでしょうし、ナチュラルは彼らが干上がらない常識的な範囲で権利を認めてあげる必要があった。
 そうすれば、連合は傷付かず負債を背負わずに済むし、プラントは自分達の自由と権利を主張出来る。…この戦いの始まりはその縺れ。差別は後付けよ。」
「…パパは何も詳しい事は話してくれなかった。でも、薄々は感じていたわ。だけど、私にはパパしかいないのに、いつも仕事で、その理由はコーディネイター絡み。本当はコーディネイターなんてどうでも良いの。私は…一人になりたくなかったから。」
「…そう。寂しいわね。」

 私はアルスター嬢をそっと抱きしめた。彼女も私の胸にすがるように顔を埋めた。
 戦争は多感な少年少女の心にも歪みを作る。どんな時代にあっても難儀なものだと感じる。

 その頃、アークエンジェルを追撃していたはずのヴェサリウスでは。
 
「アスラン・ザラ、出頭致しました!」
「…あー、入りたまえ。」

 クルーゼの執務室に入ったアスランは、彼が荷物の整理をしているのがみえた。
 
「…た、隊長?」
「ふぅ、ヘリオポリスの崩壊で、バタバタしてしまってね。君と話すのが遅れてしまった。」
「はっ!先の戦闘では、申し訳ありませんでした。」
「懲罰を科すつもりはないが…まぁ、尤も私にはその権限は無いが、話は聞いておきたい。あまりにも君らしからぬ行動だからな。アスラン。」
「…。」
「あの機体が起動した時も君は傍に居たな?」
「申し訳ありません。思いもかけぬことに、動揺し、報告ができませんでした。あの最後の機体、あれに乗っているのは、キラ・ヤマト。月の幼年学校で友人だった、コーディネイターです。」
「ほぉ。」
「まさか、あのような場で再会するとは思わず、どうしても確かめたくて…」
「…そうか。戦争とは皮肉なものだ。君の動揺も仕方あるまい。仲の良い友人だったのだろう?」
「…はい。」
「分かった。そういうことなら仕方ない。だがな、戦場での動揺は命取りになると忠告はさせてもらう。君だけじゃない、共に戦う仲間にも危険が及ぶ。
 さて、君を呼んだのはこの話の為じゃない。今日からこの部屋は君の部屋だ。…私はガモフで本国に帰る事になった。笑ってくれたまえ。先の戦闘の失態の結果だ。」
「えっ!」
「入れ替わりで本国からナスカ級が一隻加わる。君らにはこの後も足付き追撃の任務についてもらう事になった。アスラン、いや、ザラ隊長、後任を頼むぞ。アデスと共に頑張ってくれたまえ。」
「は、はい!…って、それはいつから?」
「本日付けだ。君にフェイスの称号が与えられた。本日より正式に君はこの部隊をザラ隊として指揮する。明後日にはナスカ級が到着する。艦長はグラディス女史だ。彼女はやり手と聞く。頼りにする事だ。」
「…自分が、フェイス…ですか。」
「本国の決定だ。私は従うまでだ。さて、すまんが私の荷物を運ぶのを手伝ってくれるか?」
「はい、お持ちします!」

 アスランはクルーゼの荷物をガモフに運んだ。
 ガモフに搭載されていた機体はブリッツ以外は全てヴェサリウスに移送し、その後見送りすることもなく静かにクルーゼを乗せて帰って行った。
 
ーーアークエンジェル医療室
 
「…この怪我もありますが、相当疲労を溜め込んでいる様ですね。怪我の処置は問題無く済みました。体力の回復のために生食を一本射っておきますので、半日程度は安静にさせた方が良いでしょう。」

 ラミアス大尉はあのまま倒れたまま意識が戻らず眠っている。
 無理も無い。彼女はこの艦の艦長として慣れない仕事を精一杯やっていた。
 クルーの安全を守り任務を遂行することは、口で言う程優しい事ではない。
 この場にはフラガ大尉とバジルール少尉、そして私が立ち会っていた。
 
「半日の安静か。その間の指揮は、バジルール少尉、あんたの出番だぜ?」
「分かっています。本艦は現状の慣性航行を維持し、ユニウス7を経由して月を目指すのに変わり有りません。慣性航行の終了が大尉の復帰の時期と丁度重なるでしょう。私はその間まで大尉の分まで頑張る所存です。」
「っぷ、くく。」
「…何がおかしいんですか?大尉。」
「いや、ほんとに真面目だなぁ〜って。」
「…お言葉ですが、大尉が規格外過ぎるのです。私は至って普通です。」
「…そうねぇ。少尉が本来の軍属の有るべき姿よね。」
「ジェインウェイさん。」

 少尉は私の間の手に目を輝かせていた。
 彼女はからすれば、上官が認めてくれるということは何よりの勲章なのだろう。

「でも、大尉の言う様にあまり肩肘張らずに頑張って。あなたまで気を張りすぎて倒れたら、今度はそこの規格外の彼が指揮することになるんですから。」
「ちょ、ジェインウェイさん!」
「ぷ、ふふふ、はい。気をつけます。」

 非常照明でくらい艦内だが、ここでは不謹慎な笑いが咲いていた。
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【116】Voy in Seed 10
 制作者REDCOW  - 12/1/2(月) 23:53 -

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   第10話 歌姫
 
「ランデブーポイントに到達しました。」
「アーサー、スクリーンへ。」
「はい。」

 彼女の命令で前方スクリーンの映像が宇宙の映像から切り替わる。
 そこには一人の少年の姿が見える。
 
「ナスカ級キグナス艦長、タリア・グラディスです。本日よりザラ隊へ合流します。」
「ザラ隊隊長、アスラン・ザラです。貴艦の本隊への合流を歓迎します。」
「本艦には本国よりの緊急補給物資を満載しています。まずはそれらの編成をしましょう。」
「わかりました。では、私がそちらへ向かいましょう。後ほど。」

 簡単な挨拶の後、スクリーンがオフされた。
 
「あれがアスラン・ザラですかぁ…若いですねぇ。」
「そうね。でも彼、フェイスよ。」
「え、フェイス!?」
「…あの隊は特別よ。本国の最高幹部の子息で編成されたトップエリート集団。これがどういう事かわかるわね?」
「…コーディネイターの中のコーディネイター…ですか?」
「…えぇ。そして、最高の厄介…もとい、いつか国を動かすことになる存在よ。じゃ、アーサー、後は頼むわね。」
「はい、艦長。」

 グラディスは艦橋を出てった。

 艦長日誌
 私達はついに中継点であるユニウス7のデブリ帯へ到達した。ここには最も不足した水を始めとした様々な「物資」が散乱している。ラミアス大尉はまだ本調子ではないことから、この補給の采配はバジルール少尉に引き続き任せた。
 私はその際に避難民にも積極的に手伝ってもらう様提案し、我々のシャトルも使用して大型のゴミもリサイクル利用のために収集した。
 
「…ハンセンさん、これって、ジンだろ?しかも、これ3体分はありますぜ?」
「そうだ。かなりの損傷はしているが、使えるだろう。」
「え、これを直すんですか?」
「そうだ。…いや、直すというのは違うな。新しく作るといった方が良いか。」
「3体もですか?」
「いや、作るのは1体分だ。残りは分解して予備のパーツとする。」
「はぁ〜。」
「不満か?」
「いや、不満とかは無いが、出来るのかい?」
「問題は無い。設計はある。これだ。」

 セブンは手に持っていたパッドをマードックへ見せた。
 彼はその設計図を暫く黙々と見ていた。その視線はまるでパッドに釘付けになったかの様に微動だにしない。
 そんな彼の姿に他の整備士チームの一同も興味を持って彼の横からパッドを覗く。そして、彼同様に彼らも釘付けになった。
 
「………ハンセンさん。」
「何だ?」
「これ、……真面目に作れるんですかい?」
「ん、問題無い。お前達の高度な技術力と私の知識が有れば可能だ。違うか?」
「そ…うかい?いや、そうだな!お嬢さんがそんなに仰るんなら、お、俺達も頑張らなくちゃ、なぁ〜?お前ら?」
「お、おす!!!」

 メカニック一同、スタイル抜群のセブンに「高度な技術力」と褒められて満更でもない様だった。
 しかし、一つ疑問が残った。
 
「あのぉ、一つ聞きてぇんだが、こいつを作って、誰が乗るんだい?」
「ん、それには私が乗ろう。」
「えぇええええええええええええええええ!!?!」
「私が乗るのだ。お前達には期待しているぞ。」
「え、いや、ちょっと、そんな、勝手にいいんですかい!?」
「許可はジェインウェイ社長が取ってくれる。仮に私が乗らずとも、これを作ることによる戦力の増強は望ましい。違うか?」
「は、はぁ。」
「整備の合間で良い。私も協力する。一緒に作ろうではないか。」
「ま、まぁ、良いですぜ。」
 
 表面的には上の判断がどうなるか怖々ではあったが、内心は彼らの中にもこの新型を作ってみたいという闘志が湧いていた。
 というのも、セブンの見せた設計図は、それだけ「難解」な構造を採用した設計だったのだ。技術者としては、これを作るのは十分に良い冒険と言えた。
 
 ZAFT軍ナスカ級キグナスの格納庫では、2機のブルーとダークグリーンに塗られた機体の姿があった。
 
「これは…新型のシグー…ですか?」
「いいえ、ZGMF-600NX-V1 GuAIZ Assaultよ。」
「ゲイツアサルト?」
「これはその先行試作機よ。送られてきたGAT-Xシリーズのデータを参考に、急遽高機動戦闘能力を高めた高出力エンジンを装備し、ビーム武装を本軍では初めて装備する機体。予備パーツが少量しか無いのを留意して。この機体はイザーク・ジュールに配備されるわ。そして、こちらはZGMF-600NX-V2 GuAIZ Stealth。」
「ゲイツステルス?」
「えぇ、連合のミラージュコロイドのデータを参考に散布システムを搭載したステルス機よ。こちらはニコル・アマルフィのブリッツの代替機として配備されます。基本性能はこちらが今後量産される正式型番ZGMF-600 GuAIZの素体として採用されるけど、ミラージュコロイドはこの機体のみのオプションだそうよ。」
「…プロトタイプを更に改造して配備…ということは、本国も相当焦っているんですね。」
「…そう考えて良いわね。クルーゼの送ったデータは驚愕に値したと思うわ。あの彼が敗退し、しかも切れ者と評判の彼が判断ミスを犯して逃がした…首脳部がこれで焦らなかったら変なくらいよ。そうそう、彼、降格は免れたそうよ。暫く謹慎だけど。」
「そうですか。良かった。」
「そんなに良い隊長だった?」
「えぇ、的確に物事を判断される方だと思います。」
「…そうね。あと補充機だけど、シグーのアサルトシュナウド追加タイプがあるわ。」
「…オロールにはシグーのカスタム機ですか。…本気度が違いますね。グラディス艦長はGAT-XのOSについてはどう思われます?」
「先程資料を見せてもらったけど、あれは何?…およそ私達の知っている方法で思いついたものじゃないわ。あまりに突飛過ぎてどこから手を付けていいのかサッパリ分からない。でも、もの凄い高性能振りね。使いこなせれば相当のシステムよ。」
「はい、私もそう思います。」
「敵を褒めても仕方ないけど、いくら高度な技能を持つコーディネイターと言っても、ただの人よ。人1人の限界は超えたとしても、多数の知恵には抗えない。私達の敵は私達自身の奢りかも知れないわね。…とりあえず補充目録はこの他、我々の隊にあるジン・ハイマニューバが3機。いずれも高機動戦闘を得意とする機体よ。」
「次の戦いで奴らに勝たなくてはいけませんね。」
「…そうね。進路は月の第八艦隊でしょう。先に先行するためにナスカ級の足が選ばれたと思うわ。急ぎましょう。」

 二人はその後も部隊の調整を話し合い、今後の行動計画を練った。

 私はシャトルアーチャーに乗ってユニウス7周辺の貴重な物質の収集に当たっていた。破壊されたコロニーの残骸であるこのデブリには希少金属類が多数含まれており、その中には彼らには「まだ」扱えない物質も少なからず含まれている。
 水の確保は民間人達に任せ、私はトゥヴォックと共に遠くのデブリの収集を彼らに申し出た。彼らは心配してくれたが、私達の出動を快く受け入れてくれた。

「艦長、ポイント231、マーク4に微量ですがダイリチウム反応があります。」
「まだ彼らには扱えないけど、いずれこれを扱う日が来るのよね。」
「…はい。しかし、我々がこれを収集したところで、大きな変化は無いでしょう。」
「そうね。…ところでトゥヴォック、この世界をどう思う?…私達の居た世界とは似ている様でかなり違う。あなたのバルカンも存在しないし、クリンゴンも居ない。一見すれば地球が小競り合いを永遠にしていても平和と言える程の安定した宇宙よ。」
「…地球人は好戦的な種族です。しかし、理性もまたある。我々バルカンはあなた方の理性と旺盛な好奇心に興味を持った。それが我々とあなた方との関係の始まりと言えるでしょう。ですが、我々が居ないあなた方に今が無いとすれば…この世界の彼らにあなた方と同じ進化を見る事が出来るとは思いません。」
「そう。この世界は可能性というにはあまりに異質だわ。でも、私達になる可能性がゼロではない。その一つがシャノン・オドンネルの様な類似ね。だとすれば、バルカンやクリンゴンが居ないと考えるのも…もしかしたら間違っている可能性もあるわ。」
「…その可能性はあります。…我々はゼフラム・コクレーンのワープサインを見て地球文明へのファーストコンタクトを取りました。であるとすれば、我々と同一…または、我々と同レベルの恒星文明がヴォイジャーのワープサインを目当てに来る可能性があります。」
「…私もそれを考えていたの。差し当たって問題となるワープサインは太陽系外までしか出していないわ。だから系内で発生させたわけじゃないから、地球文明のものと考えるとは限らない。でも、我々と同レベルの恒星文明が無いと考える方が難しいことを考えれば、そろそろ何らかの動きが有ってもおかしくはない。少なくとも警戒はしておくべきよね。」
「…はい。…さすが艦長、私も失念していました。事前のスラスターでの航行は、この様な可能性もお考えになっていたのですね。」
「…それは偶然よ。私はただ、系内をワープ反応で不安定化させたくなかっただけ。でも、そう考えると正解ではあったのよね。」
 
 その時、アークエンジェルから通信が入った。
 バジルール少尉が焦った声で話しかけてくる。
 
「シャトルアーチャー、聴こえますか!」
「はい、こちらシャトルアーチャー。ジェインウェイよ。何か有りました?」
「ジェインウェイさん、ご無事ですか。今、ザフトのMSを発見してヤマト少尉が撃墜しました。周囲にザフトが居るかもしれません。至急戻ってください。」
「わかったわ。すぐ戻ります。通信終了。」

 私達は通信を切ると、アークエンジェルへ方向を転換した。
 
 しばらくして私達が戻ると、ハンガーでは救命ポッドの様なコンテナが置かれていた。バジルール少尉の話では、キラ少年がザフト機を撃墜した際に周囲で発見したものだそうだ。
 彼女は再度の拾い物に随分と気分を害しているようだったが、少年も悪気が有ってしたわけではない。彼女には警戒態勢を取らせながら開封すれば良いとなだめた。
 ポッドの入り口が開かれる。そこから現れたのはピンク色の丸い玩具だ。
 
「ハロ、ハロー、ハロ、ラクス、ハロ。」
「ありがとう。御苦労様です。」

 そして、ゆっくりと出てきたのは一人の少女だった。
 長い桃色の髪をもった美しい容姿をした少女。およそ我々の世界でも見た事の無い様な不思議な雰囲気を持った「人間」の姿に、私も半ば呆気にとられながら見ていた。
 宙空をふわふわと漂いながら出てきた彼女を、周りを囲むアークエンジェルのクルー達もまた、ただ呆然と見守っていた。
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 制作者REDCOW  - 12/1/6(金) 20:14 -

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   第11話 尊厳

「追悼慰霊団が行方不明!?…でありますか。」
「…そうだ。お前にはしっかりと婚約者としての任を果たしてもらう必要がある。」
「私がですか。しかし、では足付きの追撃は。」
「…無論やってもらう。その為にナスカ級の足があるだろう。」
「お言葉ですが、戦力の分散は得策とは思えません。相手はクルーゼ隊長すらも欺いた指揮官です。今後第八艦隊と合流でもされては現有の戦力でも十分と言えるか…。」
「お前達に送ったZGMF-600シリーズの試作では足りないと言うのか。…情けない。」
「!?………不確定要素は極力取り除きたいのです。援軍の要請が通らないのでしたら、私はピエロを降りる覚悟は有ります。」
「………分かった。援軍は送る。その代わり、ピエロも全うしろ。以上だ。」

 通信は一方的に途切れた。
 アスランは溜息を吐くと、椅子に深く身を沈めた。

 副長日誌
 アステロイドベルトを航行中の我々は、コロニーヘリオポリスが崩壊して数日が経過するが、艦長達の消息は掴めない。そこで地球連合軍に対して問い合わせたが、彼らも捜索中で詳細を把握していないらしい。
 そんな中、全く違う筋からの連絡があった。その為に地球へ偽装したデルタフライヤーで赴き、転送で降り立った。
 
 VST社ロサンゼルス本社応接室

「ようこそおいで下さいました。私は副社長のチャコティ・デロリアです。」
「おぉ、ネイティブアメリカンですか!すばらしい!あ、申し遅れました、僕はムルタ・アズラエルです。突然のアポを快くお引き受け下さり、有り難うございます。」

 彼こそは地球連合を裏で牛耳ると言われる「ブルーコスモス」の大ボスである。
 
 ブルーコスモス…彼らは我々の世界にも存在した軍産複合体企業群の総称だ。世界は彼らの意図する利益の為に啀み合い、時に戦い、そして殺し合った。その最大の事件が我々の時代の第三次世界大戦だった。しかし、彼らは自分達を過信するあまり力に溺れ、落とし所を見誤った。
 世界を核で焼き払い合った戦争は全てを破壊し尽くし、彼らの富の源泉であったはずの産業すら破壊してしまう。それどころか「絶対の安全」すら確信していた彼ら自身のセーフポイントすらも汚染によって住めなくなったのだ。我々の世界では彼らに対する風当たりは相当のうねりとなり、世界の治安の崩壊と共に彼らの居場所も無くなった。だが、この世界での「彼ら」は健在で、第三次世界大戦を経験してもなお君臨し続けているという。
 それもこれも、我々の世界には現れた「ゼフラム・コクレーン」という革新者の登場がなかったためだ。それだけじゃない、彼らの存在がこの世界の技術的発展を阻害してさえいるのかもしれない。
 
 見た目の印象は気さくな優男だが、その目は笑っていない。彼はボディーガードを連れていたが、彼らは部屋の外で待機するよう指示され、室内には私と彼以外には誰もいない。
 私は彼に椅子へ座る様勧め飲み物の希望を尋ねたが、彼は水だけで良いと答えた。
 警戒しているのか、それとも単に仕事熱心なのか。彼の元へ水差しとグラスを持ちテーブルへ置き、希望通りに水を注いで勧める。
 彼は笑顔で受け取り飲んでいた。私も座って水を一口飲んだ。
 
「さて、本日こちらへ来させて頂いたのは他でもない、御社の社長さんの安否についての話をさせて頂こうと思いましてね。」
「さすがアズラエル理事。情報が早いですね。」
「えぇ、連合の全てではないですが、ある程度の顔が利きますので、情報もそうしたラインから入ってくるのですよ。この度は本当にお困りでしょう。心中、お察しします。」
「有り難うございます。しかし、あなたが自らいらっしゃるという事は、ただいらしたわけではないですね。」
「…あなたは良い頭をお持ちだ。私の部下に欲しいくらいです。仰る通り、私はあなた方の社長の安否も心配ですが、それ以上にあなた方が作られたOSに興味を持っています。」
「左様ですか。しかし、あなたの期待に添える様な物はここにはありません。我々の試作システムは社長が全て持って行きました。それもこれも機密扱いを厳にされている連合に配慮しての対応でしたが、まかさこの様な事態になるとは思わず、我々としても苦慮している所です。」

 私の答えに彼は一瞬顔を曇らせたが、努めて平静を装う様に暫く時間を置いてから口を開く。
 
「………つまり、ここには無い…ということですか。」
「えぇ、家捜しされても構わないですよ。それくらいの徹底をしないと軍との信頼は築けないと社長は仰っていました。彼女も元は軍属ですから。」
「…シャノン・オドンネル元大佐。記録でもかなりの『真面目』な方だと伺っていましたが、それほどに大真面目な方でしたか………。いや、あなたは正直に話してくれた。これも連合への忠実な心得からと理解しますよ。…となると、守らなくてはなりませんね。」
「…守る?」
「…とある筋から、ヘリオポリスのGAT-Xがもの凄い進化を遂げた…という情報を貰いました。そのシステムは御社製で、開発していたアークエンジェル…我が方の新造艦ですが…は上手く逃げ伸びているそうですよ。もしかしたら、御社の皆さんもアークエンジェルに乗っている可能性があります。とすると、あの艦を落とすわけには行きませんね。」
「どうされるおつもりで?」
「予定ではアラスカのジョシュアへ来ることになっていますが、タイミングが最悪です。」
「最悪?」
「今から彼らへ援軍の準備をしても、たぶん無理でしょう。…彼らが自力で勝ち抜く事を祈る他無い。しかし…」
「しかし?」
「我々の協力次第では、奇跡を起こせるかもしれませんよ?」

 アズラエルはこの場に似つかわしくない笑みを浮かべると、グラスの水をゆっくり飲み干した。
 
 艦長日誌補足
 アークエンジェルでは救出した少女の扱いに苦慮していた。彼女はプラントのアイドルであり、現最高評議会議長であるシーゲル・クラインの令嬢だという。彼女の扱いを誤ればZAFTは勿論、連合内部での関係も最悪な状況に陥る可能性がある。彼女の安全を考え、可哀想だが身柄は小部屋に拘束する形となった。

 加藤ゼミの面々は食堂のテーブルで話していた。その話題は勿論「彼女」のことだ。
 
「(……!あのジン、もしかして!)」

 キラは彼女のポッドを発見した時にいたザフト機を思い出していた。もしかしたら、彼らは彼女を救出に来ていたのではないのか。そして、自分は全く不必要な行動をしでかしてしまったのではないのか…と。しかし、であるなら何故彼女は「救難ポッド」に入っていたのだろうか。
 そんな事を考えていると、何やら争う様な話し声が聞こえてきた。声の主はフレイ・アルスターだ。
 
「嫌よ!」
「フレイー!」
「嫌ったら嫌!」
「なんでよ〜。」

 フレイはしきりに嫌がっている。
 そんな彼女にミリアリアは執拗に手に持っているトレイを渡そうとしている。
 
「どうしたの?」

 キラは同席するカズイに尋ねた。
 
「…ん。あの女の子の食事だよ。ミリィがフレイに持ってって、って言ったら、フレイが嫌だって。それで揉めてるだけさ。」
 
 どうやら昼食のトレイを持って行くので揉めているらしい。
 何故揉める必要が有るのだろうか。フレイが嫌ならミリアリアが行けば良いのに…と考えていた時、
 
「私はヤーよ!コーディネイターの子のところに行くなんて。怖くって…」
「フレイ!」

 その言葉は二重の意味でショックだった。片思いをしている相手からの拒絶でもあり、自分自身の存在の否定でもある。
 フレイはキラの存在に気付き、自身の失言に慌てて弁解を始める。
 
「…あ!…も、もちろん、キラは別よ…それは分かってるわ。でもあの子はザフトの子でしょ?コーディネイターって、頭いいだけじゃなくて、運動神経とかも凄くいいのよ?何かあったらどうするのよ!…ねぇ?」
「…えー、…あぁ。え…」
「フレイ!」

 キラは彼女に唐突に問われ、しかも自分も含めた同類がまるで犯罪者の様な扱いにどう答えて良いか分からなかった。
 ミリアリアは再度失言を責めるが、彼女は矛を収める気は無い様だ。

「でも、あの子はいきなり君に飛びかかったりはしないと思うけど…」

 あまりの発言にさすがにおかしいと感じたカズイが呟く。しかし、その言葉にも彼女はヒートアップするばかりだ。
 
「…そんなの分からないじゃない!コーディネイターの能力なんて、見かけじゃ全然分からないんだもの。凄く強かったらどうするの?ねぇ?」
「まぁ〜!誰が凄く強いんですの?」

 その場の全員が声の主に一瞬言葉を失った。
 そして、示し合わせた様に声のした方を振り向くと口を開いた。

「ああ”っ!?!」

 戸口に現れた声の主は、全員から驚かれ戸惑いつつも、にっこり微笑んで佇んでいた。
 その頃、アークエンジェル艦橋では。
 
「…しっかしまぁ、補給の問題が解決したと思ったら、今度はピンクの髪のお姫様か。悩みの種が尽きませんなぁ。艦長殿!」

 フラガ大尉の言葉は目下の難問である。このような重要人物を抱えて動く余裕等この艦には無いどころか、自分達が無事に第八艦隊へ辿り着けるのかすら心もとないのだ。
 ラミアス大尉は暫くの沈黙をおいて口を開く。彼女にしてみれば、静養から明けてすぐの難題である。その表情は晴れない。
 
「……あの子もこのまま、月本部へ連れて行くしかないでしょうね。」
「もう、寄港予定はないだろ。」
「でも、軍本部へ連れて行けば彼女は、いくら民間人と言っても…。」
「そりゃー、大歓迎されるだろう。なんたって、クラインの娘だ。色々と利用価値はある。」
「…できれば、そんな目には遭わせたくないんです。民間人の、まだあんな少女を…。」
「そうおっしゃるなら。彼らは?…こうして操艦に協力し、戦場で戦ってきた彼らだって、まだ子供の、しかも民間人ですよ。」

 ラミアス大尉の言葉は確かに一理あるが、そうであったとしても納得出来ないものもある。
 バジルール少尉は健気に手伝うこの艦の少年達や多くの民間人を思うと、彼女の言葉を承服できなかった。
 少尉の発言はラミアス大尉も痛い反論だった。
 
「少尉…それは…。」
「…今、二人の少年がGに乗っています。彼らを、やむを得ぬとはいえ戦争に参加させておいて、あの少女だけは巻き込みたくない…とでも仰るのですか。…しかもキラ・ヤマトはコーディネイターだったんですよ。なのに我々に協力している。」
「…。」
「彼女はクラインの娘です。と言うことは、その時点で既にただの民間人ではない…と言うことですよ。…私はあまりこういう言い方は好きではないですが、人には与えられた運命があり、それを選んで生まれてくるわけではない。彼女がその運命から回避されるならば、我々の艦に協力する彼らもまた…故郷を失う運命を回避出来て然るべきでした。しかし、現実はそう甘くはない。違いますか?」
「…。」

 バジルール少尉の言葉は正論だ。
 それもまた分かるが故にラミアス大尉は心が痛かった。
 
 
「わぁ…驚かせてしまったのならすみません。私、喉が渇いて……それに笑わないで下さいね、大分お腹も空いてしまいましたの。こちらは食堂ですか?なにか頂けると嬉しいのですけど…」

 彼女は皆の刺さる様な視線に晒されつつも、思い切って話しかけた。
 彼女の発言に相槌を打つかの用に彼女の桃色の球体型ロボット「ハロ」も何かを言っているが、誰の耳にも入っていない。
 
「っで、って、ちょっと待って!?」

 キラは彼女の登場に頭が一瞬真っ白になっていたが、この事態に彼女の表情とは逆に青ざめる思いだった。
 カズイもじと目で呟く。
 
「鍵とかってしてないわけ…?」

 誰もが思う事だった。フレイがそれに続く。
 
「なんでザフトの子が勝手に歩き回ってんの、どうなってるのここの監視!」

 これまた彼女にしては的を得たもっともな発言だった。しかし、当の言われた本人は何とも感じていないようだ。
 
「あら?勝手にではありませんわ。私、ちゃんとお部屋で聞きましたのよ。出かけても良いですか〜?って。それも3度も。それに、私はザフトではありません。ザフトは軍の名称で、正式にはゾディアック アライアンス オブ フリーダム…」
「な、なんだって一緒よ!コーディネイターなんだから。」
「…同じではありませんわ。確かに私はコーディネイターですが、軍の人間ではありませんもの。…貴方も軍の方ではないのでしょう?でしたら、私と貴方は同じですわね。御挨拶が遅れました。私は…」
「…ちょっとやだ!止めてよ!」
「…?」
「冗談じゃないわ、なんで私があんたなんかと握手しなきゃなんないのよ!コーディネイターのくせに!馴れ馴れしくしないで!」

 キラは二人のやりとりをただ聴いているだけなのに、自分もフレイに責められている様に感じていた。彼女の発言の端々に「コーディネイター」の単語が否定の為に使われている。自分が言われているわけではないが、気分の良い話でも無い。
 そして、この時、加藤ゼミの面々はフレイの発言にある答えが浮かんでいた。
 
「あっ!!」

 ミリアリアが唐突に声を上げたが、その続きを言って良いのか躊躇う。
 彼女に衆目が集まるが、言葉を発する事が出来ずに沈黙が辺りを包む。
 そこに、空気を和ませる様にハロが無意味な言葉を発していた。
 ミリアリアの代わりに彼女の言いたい事を発したのは、カズイだった。
 
「…フレイって、ブルーコスモス。」
「違うわよ!」

 思わずミリアリアが溜息をついた。
 他の面々も呆れと妙な疲れが全身を包む様な気がしていた。

「…でも…あの人達の言ってることって、間違ってはいないじゃない。病気でもないのに遺伝子を操作した人間なんて、やっぱり自然の摂理に逆らった、間違った存在よ。」
「…はぁ。」

 まだ悪足掻きをする様に言葉を続ける彼女に、一同は沈黙した。

「ほんとはみんなだってそう思ってるんでしょ?」
「……。」

 その時、戸口から一人の女性が入ってきた。その人物はむっとした表情でつかつかと足早に歩いてくると、フレイの前でとまり、唐突に彼女の左の頬へ平手打ちを放った。
 
「痛い!?」
「…これがラクスさんの痛み。」

 再び返す手で右頬を打つ。
 
「痛っ!」
「…これがキラくんの痛み。」

 最後に、もう一度左頬へ思いっきり打ちはなった。
 彼女はあまりの強さに床に倒れた。
 
「きゃぁ!!」
「…これが、ここに居る私達の尊厳への痛みよ。恥を知りなさい!!!」

 入ってきたジェインウェイは、彼女のあまりの言い草に堪忍袋の緒が切れていた。
 頬を打たれ倒れ込んだ彼女は、震えたまなざしで彼女を平手打ちした人物に釘付けになっていた。
 
「あなたの様な甘えた事を言う人間が誤りを起こし、殺し合いをするのよ。生まれの違いはあれど、人としての尊厳を忘れたら終わりよ。その結果がこの戦争だと何故分からないの。あなた達はまだ子供。その子供がこの体たらくでは、未来はお先真っ暗ね。…でも、私の目の黒いうちは放置しない。罰としてフレイ、あなたは彼女の世話係よ。…いいわね?」
「…はい。」
「もっと、大きく!」
「はい!」

 収拾不能な程にこじれていた場の空気は、一転してジェインウェイの気迫で張りつめたものとなった。
 その後はそれぞれの持ち場に戻る事となり、フレイはジェインウェイの言いつけ通りにラクスの世話係となった。
 
「またここに居なくてはいけませんのね。」
「ええ、そうよ。」

 フレイは運んできた食事のトレーをテーブルに置いた。
 ハロが彼女の周りを無邪気に飛んでいる。

「フフ、びっくりしましたわ。あの方はどなたですか?」
「ジェインウェイさんのこと?」
「ジェインウェイさんという方なんですか。…凄く、怖かったですね。」
「へ?」

 フレイは彼女が唐突に何を言い出すのかと思ったが、自分が打たれたわけでもないのに怖かったとこぼす彼女に拍子抜けした。
 
「…別にあなたが打たれたわけじゃないでしょう。おかげで私は頬が痛いわよ。」
「……仰る通り、コーディネイターは病気ではなくとも遺伝子を操作した存在。私自身、自然に反していることは自覚しています。…でも、それは私が決めた事じゃありません。私の父や母が…そう望んで私を産んだのです。」
「…。」
「…私は、両親を批難しなくてはならないのでしょうか。ただ、私が彼らの望む結果を残すのかどうか…世の親という人の願いは、あまり変わらないのではないでしょうか。私は…その中で生きていくしかありません。批判は甘受する他ありませんもの。例えば、私の遺伝子を『元に戻す』ことが出来るわけでもありませんし。」
「…コーディネイターのこと、私は好きでも嫌いでもない。でも、あなた達のせいで沢山の人達が亡くなっているのも事実よ。勿論、それは私達にも原因が無いわけじゃないけど…。ジェインウェイさんが言った人としての尊厳じゃないけど、私は認めない。まるで100m走をドーピングして走る様なものじゃない。それを認めろって言うのよ!…あなたが自分で決めた事じゃない事もわかるけど、私達から可能性を奪う様な行動もやめて欲しいわ。」
「…やっと、率直にお話できましたね。」
「へ?」
「私も、あなたのこと嫌いです。でも、言いたい事がはっきり言えることは大好きです。見習いたい。またお話ししてくださいますか?」
「…い、良いわよ。係だもの。あなたも随分と良い性格してるわね。見た目が綺麗な女って、性格最悪よね。」
「フフ、ホント、仰る通りですわ。あなたもとっても素敵です。フフ!」

 ラクスが悪戯っぽい笑みを浮かべて笑う。
 そんな彼女にフレイもまた馬鹿らしくなって思わず笑った。
 
「あ、ご挨拶が遅れましたわ。私は、ラクス・クラインと申します。」
「フレイ・アルスターよ。」
 
 アークエンジェル艦橋
 
「…ん?んっ!はぁ!間違いありません!これは地球軍第8艦隊の、暗号パルスです!少尉。」
「追えるのか?」
「やってますよ!解析します!」

 通信を受けたCICの側で音声の解析が行われ再生される。
 
『こちら…第8艦隊先遣…モントゴメリー…アー…エンジェル…応答…』

 この声にいち早く反応したのは艦長であるラミアス大尉だった。
 
「ハルバートン准将旗下の部隊だわ!」

 ラミアスの言葉に艦橋の一同から歓声が沸いた。
 ノイマンが操舵しながら問う。

「探してるのか!?俺達を!」

 彼に続く様にナタルもまた尋ねる。
 
「位置は!?」
「待ってください!…まだ距離があるものと思われますが…」

 ナタルはその返答に思案顔になるが、他の一同はようやくの朗報に浮かれた。
 一方、ザフト軍ザラ隊母艦「ヴェサリウス」内のアスラン執務室では、キグナス艦長のグラディスとの話し合いがもたれていた。
 
「…というわけで、グラディス艦長の部隊はこのまま追撃を、我々はラクスの捜索をしながら追うこととなります。」
「…随分とどっち付かずな采配ね。司令部はやる気有るのかしら。」
「…私は、追撃が不可能であればピエロを辞めると申し出ました。」

 彼女の発言は誰もが思う事だろう。国の一大事になると言って援軍を送っておきながら、ラクスを探す為に部隊を割けという。この矛盾した政策は指導層の政治的立場の駆け引きの産物としか言い様がない杜撰さだった。
 そんな上層の命令をこの少年は突っぱねて見せたというのだ。グラディスはアスランの評価を見直した。
 
「…大胆な行動に出たわね。でも、お咎め無しということは、了承されたわけよね。」
「はい。私の援軍の要請を受け入れてくれました。足付きが第八艦隊と合流する前には何とか到着させると返答が来ています。」
「…援軍。こう言ってはなんだけど、上出来ね。侮る気は無かったけど、あなた予想以上に出来るのね。安心したわ。」
「え、あ、はい。」
「でも、いつ届くのか。たぶん、差し当たってはそれが一番ネックね。もの凄い足の早さが必要よ。司令部はロケットでも飛ばしてくるのかしら。いずれにせよ、やるしか無いのだけど。編成の主力は私達の方へ移送し、ヴェサリウスはあなたのジャスティスとオロールのシグーASで行くのね。」
「はい。その方が戦力のバランスを考えても丁度良いかと。周辺宙域は我々のテリトリーで、敵は連合の足付きくらい。足付きと遭遇した場合でも、敵は打って出て来ないでしょうから。」
「分かったわ、それではすぐにその様に…」

 その時、執務室に呼びかけが有った。
 アデスの声がする。
 
「ザラ隊長、前方に地球軍の艦艇が航行しているのを発見しました。」
「数は?」
「…まだ遠過ぎて確認は出来ていませんが、数隻の艦影を確認しています。」
「…わかりました。ブリッジへ行きます。」

 アスランはグラディスへ目配せする。
 二人は執務室を出て艦橋へ向かった。
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【118】Voy in Seed 12
 制作者REDCOW  - 12/1/8(日) 21:31 -

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   第12話 地球人

 ここはとある研究施設内の格納庫。
 その中をこつこつと靴音を響き渡らせながら、暗い施設内を二人の男が歩いていた。
 人の気配は彼ら二人以外には無く、壁面に光る電気系統の赤い線状の光が薄ら明滅を繰り返しているのが見えるのみ。
 彼ら二人のうち一人は若く軍服を着た軍人で、もう一人は初老の男だ。
 とても厳格そうな表情をした初老の男は、前方にそびえる巨大な構造物の前に立つと近くのコンソールを操作した。
 すると、その構造物にスポットが当てられ、全貌が明らかになる。
 
「…ほぅ、これが。」
「…まだ開発されたばかりの技術だが、元々我々が作ったものだ。動作は保証する。」
「ということは、使うのですか?」
「…無論だ。でなければ、君をここに呼びはしない。」

 初老の男は一息溜息を吐くと、コンソールを弾く。
 端末のモニター上にはこの構造物の名称や詳しい仕様についての情報が表示されていた。
 
「…動作を保証するということは、何が問題なんです?」
「まだMSでの実証実験をしていない。動く事を念頭に置いて広範に指定しているが、唐突に抑制が働く可能性も無いわけではない。そして、装備だが…設計上予定しているXM1は省いた。素体が採用するEEQ7Rも無い。有るのはビームサーベルのみだ。その代わり専用のシールドを持たせる。」
「…ふむ、ぶっつけ本番の実証実験ですか。」

 若い男は顎に手を当てて思案顔で構造物を見ていた。その姿は彼が知るこれまでのものとは明らかに違うスマートさが見て取れた。それは装備が足りないという単純な理由もあるが、それ以前に無駄な物が削ぎ落とされたことや試作段階であることも大きいだろう。
 初老の男はそんな彼を見る事も無く、ひたすら指を動かしながら話した。
 
「…まぁ、そうだ。だが、突然止まる事は無い。装備が無い分はバッテリーに当てている。機関が停止してもなお動けるだけの力があるだろう。スピードで困る事は無い。」
「ほほぉ、それは凄い。他に問題は?」
「…試作のため宇宙専用だ。しかも、速度は出るが…相当のGも掛かるだろう。…実戦投入するのも本来であれば許可の出ない機体だ。だが、奴らを降ろすわけにはいかん。必ず仕留める気で行ってもらう。」
「それはまた随分な話ですな。それでは復帰のための口実の様でいて、お払い箱の理由ともなりかねない。」
「…出すからには勝って貰わねば話にならん。お前が乗るのはそういう代物だ。」
「…国防委員長殿も人が悪い。まぁ、私も軍人だ。出るからには勝ちに行かせてもらいますよ。」
 
 彼の視線は、スポットライトの光で白く輝く機体の瞳に向けられていた。
 
「本艦隊のランデブーポイントへの到達時間は予定通り。合流後、アークエンジェルは本艦隊指揮下に入り、本体への合流地点へ向かう。後わずかだ。無事の到達を祈る!」

 アークエンジェル艦橋のスクリーンには先遣艦隊モントゴメリー艦長コープマンとジョージ・アルスター連邦事務次官が映っていた。
 
「私は大西洋連邦事務次官、ジョージ・アルスターだ。まずは貴君等が民間人の救助に尽力を尽くしてくれたことに礼を言いたい。あー、それとそのー…救助した民間人名簿の中に我が娘、フレイ・アルスターの名があったことに驚き、喜んでいる。」
「え!?」

 唐突な話にラミアスは驚いた。
 まさかあのフレイが彼の娘だとは思いもしなかったからだ。
 
「出来れば顔を見せてもらえるとありがたいのだが…」
「はは、事務次官殿、合流すればすぐに会えますよ。」

 コープマンがアルスターのはやる気持ち押さえる様促すと、通信を切った。
 その脇ではサイ・アーガイルがアルスター次官の個人的印象を語っていた。その話にラミアスもバジルールもただ相槌を打つ他無い苦しい物を感じつつ聞いていた。
 その頃格納庫では、

「…よっ!ん?ほぉー。」

 マードック曹長がコックピットで熱心にシステムを調整しているキラ少年に声をかけた。
 彼は額に汗しながら集中していた所に突然声を掛けられ、不機嫌に答える。
 
「…なんですか。」
「いや、どうかなぁって思ってな。」
「…オフセット値に合わせて、他もちょっと調整してるだけです。…あっ。でも、もういいのかなぁ。」

 キラは集中して作業していて考えてもいなかったが、冷静に考えてみれば第八艦隊とランデブーが成功すれば、もう自分が乗る必要は無かった。そう考えると自分のしている作業が急に無意味に感じられた。
 そんな彼の心中を見透かす様にマードックが唐突に笑う。
 
「はっはっはっは。やっとけやっとけ。無事合流するまではお前さんの仕事だよ。何ならその後志願して、残ったっていいんだぜ。俺は歓迎するぜ。なんたって坊主は優秀だからなぁ。」
「…冗談じゃないですよ。動かすのでも精一杯なんです。…あ、でも、MSを設計するのは面白いかも…あ、いや、でも、軍艦で働くなんて嫌ですよ!」
「およ、つれねぇなぁ。そんなに毛嫌いしないでくれよ。まぁ、降りるまでは宜しく頼むな!」
「…はい。」
「ちょっといいか。」

 その時、マードックの背後から声がした。
 その声はこの場の女神ともてはやされている長身でスタイル抜群の女性、セブン(ハンセン)のものだった。
 彼女の声にマードックが場所を譲ると、彼は自分の持ち場に帰って行った。
 
「…どうした?」

 少年は無言でセブンの顔を見ていた。そんな彼を彼女は首を傾げてみていた。

「OSの書き換えについてのことですか。」
「そうだ。お前の乗るこの機体のOSの調整を始めたいと考えていた。時間のあるうちにした方が良いだろう。」
「…あの、僕が乗る必要はもう無いですよね。」
「…そうだな。しかし、それにはOSを我々の物と書き換える他に方法は無い。だが、それについてだが、私はお前のシステムを消すのは惜しいと思っている。」
「惜しい?」
「そうだ。システムと機体の有機的統合による親和性の向上…私の考えたシステムは以前話した通り、論理的プロセスによる合理的統合を目指していたが、お前のシステム理論を伸ばしてみたいと考えた。だから、これを見て欲しい。」

 セブンは手に持っていたパッドを彼に手渡した。
 キラはパッドの情報を暫く読んでいた。
 
「…これは、僕のシステムにハンセンさんのOSをプラグインする様な構造…これじゃ、まるで…」
「不満か?我々はお前のシステムを高く評価している。この提案は我々の技術的アプローチをお前のシステムをベースに組み込む事で、両者の利点を統合する最良の物だと思っている。それに、この実装をすればお前の負担もかなり軽減されるはずだ。どうだ。」
「…これじゃ、僕はまだこれに乗って戦わなくてはならないわけですよね。」
「…そうなるな。だが、現実に今すぐ交代可能な話ではない。将来的には交代できる汎用性は必要だが、現段階での必要は最大級の効率だ。それがお前は勿論、我々をも守ることになる。それでは、嫌か?」
「…僕は兵隊じゃないんですよ。ただの、学生です。」
「…あぁ、そうだな。そして、私は民間人であり、今はこの艦の付属物だ。ここに居る限り、皆平等に死を考える。無論、可能性の上ではお前の方が危険だ。だが、お前に全ての負担を負わせたいとも考えていない。だからこそ、これをお前が受け入れて欲しいと思って持ってきた。それでもダメか?」
「…すみません。僕が弱虫で。」
「良い。気にするな。お前はよくやっている。」

 セブンはキラの頭をそっとなで、微笑んだ。
 キラは突然の行動に思わず頬を赤らめた。
 彼女はそれに構わずシステムの調整方法を普段通り簡潔に説明すると、その場を離れて行った。
 彼は身を乗り出して彼女の去る姿を目で追う。彼女の去り姿は相変わらずのプロポーションだった。
 
 ザフト軍ヴェサリウス作戦室では、テーブル上のディスプレイに航路図を表示して今後の作戦を練っていた。
 ここに居合わせているのは作戦指揮官クラスであるアスランの他にアデス、そしてキグナスからはグラディスとアーサーが居た。
 
「地球軍艦艇の、予想航路です。」

 アデスは作戦室のテーブル上に表示されている予想航路図に地球軍の予想航路を出した。
 連合の艦隊3隻の艦影を確認しており、それらはユニウス7の暗礁宙域と月の間の機動を辿っている。
 アデスは宙域図にこちら側の艦艇の動きを重ねた。それを見て、
 
「司令部より近傍宙域からの応援として、ラコーニとポルトが向かっているという連絡が来ていますが、合流は予定より遅れています。しかし、もしあれが、足付きに補給を運ぶ艦であるとすれば、このまま見逃すわけにはいかないでしょう。」

 アスランは航路上の味方艦の到達予定時刻を表示し、現状の判断を端的に述べた。
 いずれも到達にはもう1日程度の差があり、今すぐ無理に呼べるという距離ではない。
 
「仕掛けるんですか?…しかし、我々には…」

 アーサーが満足に戦力の揃わない状態での作戦に不安を漏らす。
 何より相手側は三隻。中に何が搭載されているかも不明だ。
 しかも、この先に現れるかもしれない足付きは手強い相手だと聴かされている。
 だが、グラディスは溜息を吐くと部下の発言を嗜める。
 
「アーサー、我々は軍人よ。司令部がやれと言えば、それがたとえ不足があったとしても立ち向かわなくてはならないわ。」
「それは…そうですが。」

 アーサーが恐縮する。
 その時、グラディスは航路図をみて疑問が過った。
 
「…でも、彼らの航路、ユニウス7へ向かっているということは、彼らはユニウス7を経由して向かってきている…ということかしら。それとも、別の作戦…もしかしたら、ラクス・クライン失踪と関わっているのかしら。確か、クライン嬢が失踪したのはユニウス7慰霊中よね。」
「その可能性もあるでしょう。宙域到着にはおよそ8時間。軌道予想から推測すると、月艦隊宙域とユニウス7の間三分の一程度を進んだ距離を目指している。場所としては中途半端な場所ですが、いずれにしろここに何らかの目的物があるのかもしれない。…暫くは遠くからの監視に留め様子を見ましょう。」

 アスランは予想図上に目印を表示し、その宙域までの間は潜行を決め込む事にした。相手側の動きがハッキリしない事も有るが、足付きが現れるならばそれに越した事は無い。無駄に動いて戦力を浪費するよりは潤沢な物資を待ちつつ月艦隊との本戦に備える方が得策と考えた。
 
「では、ラコーニとポルトへは先行させ、艦隊決戦へ備える方向で連絡を取ってはどうでしょう。無駄に大艦隊ではこちらの動きに気付かれます。」

 アデスの進言をアスランは了承する。
 この後、司令部とも連絡をとったアスランは、作戦合流ポイントを月周辺宙域と定め、現有戦力は表向きはラクス捜索に当たっていることとした。
 
 艦長日誌補足
 私はアークエンジェルに格納されたシャトル・アーチャーよりヴォイジャーとの通信を試みた。しかし、宙域に散らばるデブリ内に含まれるマグネサイト等により干渉が大きく断念した。仕方なく我々は今後の方針を話すべく、アーチャーにそれぞれ菓子を持ち寄り集まった。表向きは小さな同窓会である。
 
「現状ではこの暗礁宙域を抜けるまではヴォイジャーとの通信は難しいでしょう。それより、差し当たっての問題は、我々は連合に与し過ぎではないかと危惧します。」

 トゥヴォックはそう言い持ってきた水の入ったポットからカップに水を注いでいた。
 私は注がれた水の入ったカップを受け取ると答えた。
 
「貴方はそう言うと思ったわ。でも、状況的にはこうする他に私達が危機的状況から逃れるのは難しかった。彼らは経験不足により指揮能力を欠いていた。あのまま彼らに任せていたら、たぶん私達も彼らと一緒にこの世には無かったわね。」
「社長の言う通りだ。我々は取り得る最善の選択をしていると考える。」

 セブンの同意にトゥヴォックは眉間に皺を寄せて沈黙した。しかし、彼のこの表情は別に腹立たしくてそうしているわけではない。彼独特の普段の表情とでも言うべきだろうか。大抵この表情の時は、見た目とは裏腹に冷静に判断している。
 
「でも、トゥヴォックの指摘は重要な要素ではある。私達はどこまで彼らと共にすべきか。その前に幾つか不確定な想定をしなくてはいけないわ。それは、我々は本当に『我々だけ』なのか…ということね。」
「我々だけ?」

 セブンが不可解と言いたげな表情だ。隣で配給のカンパンを食べているイチェブも気になる様子だった。
 それについてはトゥヴォックが私の代わりに説明した。
 
「社長は…我々以外のワープ以降の文明の存在を想定されている。ここは我々の時代でいえばゼフラム・コクレーンが活動していた時代に近い。であるならば、我々のワープサインを目当てに何らかの文明が地球人にコンタクトを取りにくる可能性を想定出来る。しかし、実際は…この地球にワープ文明は存在しない。」
「…ならば、地球文明は無視されるだろう。ボーグは無価値な生命体を同化しない。」

 セブンの指摘は尤もだ。ボーグに限らず、連邦に加盟した恒星文明は全てワープ未満の文明への干渉をしないという暗黙の誓いがあった。それはあの獰猛なクリンゴンですらである。この宇宙の文明も我々とそう変わらない文明が栄えていると想定すれば、実際の地球にワープサインを発生させる明確な証拠が見つからない限り、何もせずに立ち去るのが普通だろう。
 
「セブン、確かに地球にはワープ船は存在しないわ。それでもいつかは作る事になる。しかし、今問題なのは…私達よ。私達にはヴォイジャーがある。あの船にはワープドライブが存在するのよ。」
「…つまり、他の恒星文明がこの未開な地球へと来る様、我々が誘き寄せる手引きをしている…と言いたいのか?」
「…そうね。その言い方は気に入らないけど現状を正しく言い得ている。今の状況は私達に都合良く言えば、いわば地球をワープ文明にしようとしているとも言えるわ。」
「…そんなことが可能なのか。」
「…不可能よ。でも、何かは来るかもしれない。それがバルカンなら良いわ。歴史の流れは違えども、同じ道を辿らせるように導く事はできる。だけど、それがクリンゴンやロミュランの様な獰猛な文明だったら。」
「…最悪、地球は壊滅するだろう。」

 セブンの言葉は大袈裟な話ではない。ワープ文明の力を持ってすれば、地球を破壊することなど雑作も無い話だ。
 そこに、先程まで黙々とカンパンを食べていたイチェブが話しかけてきた。
 
「あの、社長、良いですか?」
「なぁに、イチェブ。どうぞ。」
「僕が考えるに2つの道があると思います。一つはヴォイジャーを遠ざける。もう一つは地球人にワープ技術を教える。先程の話からすれば、合理的なのは一番ですが、たぶん、時間は稼げるが無駄でしょう。ワーププラズマの痕跡を撹乱する事は困難です。恒星文明があるならば、それらはその足跡を辿れます。…とすれば、二番目の選択肢もまた取る他無いと考えます。」
「いや、もう一つの選択肢があるぞ。」
 
 イチェブの話を聴いてセブンが言った。

「我々が地球人となるのだ。そうすれば問題無い。いや、我々は地球人…だったな?」

 私はセブンの話に首を傾げた。
 そんな私の反応に彼女は微笑んで答えた。
 
「…珍しいな。あなたでも分からないことがあるのか。我々が地球のカウンターパートをやれば良い。勿論、地球人もある程度知る必要はあるがな。だが、短期的にファーストコンタクトに必要な準備を備える時間は作れる。」
「つまり、私達が恒星文明の地球側代表として応対し、彼らとの交渉を纏め危機を回避する…ということね。確かに、それが一番合理的ではあるわね。フフ、まるで私が地球の提督みたいな話ね。」
「フッ、忘れたか。貴方は時期に提督だ。」
「…そうだったわね。予行演習…というには随分と無理な状況だけど。…となると、これまでの状況はそれほど悪いポジションじゃないわね。このまま私達の地球でのポジションを確立する行動を進めましょう。その方が後々やり易くなる。でも、飽くまで私達は『ただの』地球人よ。では、会議終了。皆さん、持ち場に戻って。頑張りましょう。」

 私の言葉に皆が頷いたその時、突然船体が大きく揺れた。
 セブンがコンソールのセンサーで外の状況を確かめる。
 
「左舷後方からZAFT艦。船種はナスカ級2隻。前方には3隻の連合艦艇が見える。ランデブー直前で仕掛けている所を見ると、つけていたのだろう。」
「私はブリッジに、イチェブはデュエルへ、トゥヴォックは船内の民間人が不安がらない様に保安をお願い。セブンはここで待機して私に情報を頂戴。」
「了解。」

 ボイジャーのクルー達はそれぞれの役割を担う為にシャトルを出て行った。
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【119】Voy in Seed 13
 制作者REDCOW  - 12/1/11(水) 23:41 -

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   第13話 シャノン・オドンネル立つ

「モビルアーマー、発進急がせ!ミサイル及びアンチビーム爆雷、全門装填!」
「熱源接近!モビルスーツ4!」

 地球連合第八艦隊先遣隊旗艦モントゴメリ艦橋では、艦長コープランドがクルー達に矢継ぎ早に指示を出していた。しかし、敵側の攻撃は猛烈な物で、彼らは勿論、彼らと合流するはずのアークエンジェルにも砲撃が向けられていた。
 
「…くぅ!」
「一体どういうことだね!何故今まで敵艦に気づかなかったのだ!」

 ジョージ・アルスター外務次官は突然の戦闘状態突入に焦っていた。月艦隊に近いこの宙域は連合軍の領域と考えていただけに、この場所で攻撃に遭うなどとは思っても見なかった。
 
「艦首下げ!ピッチ角30、左回頭仰角20!」

 コープマンは彼の話を聞いている余裕は無かった。そもそも誰がそんなことを予測出来るか。もし可能であれば、この戦力で十分等とは思わないだろう。だが、軍とはそうだとしてもやらねばならない時が有る。時に危険な賭けをしてでも遂行しなければ活路を見出せない事が有る。そして、この時の軍の至上命題はアークエンジェルを無事に向かい入れる事である。それなくしては軍の未来は厳しいのだ。
 
「うぉぉ!」

 敵側の攻撃が右舷方向を擦る。強い衝撃が艦内全体を揺らした。
 コープマンの額から汗が滴る。


「アークエンジェルへ、反転離脱を打電!」
「なんだと…それでは…」

 コープマンの命令にアルスターは驚いた。その意味する事は…
 
「この状況で、何が出来るって言うんです。」
「合流しなくてはここまで来た意味がないではないか!」
「あの艦が落とされるようなことになったら、もっと意味がないでしょう!」
「うぅっ…」

 身を盾にしてでもアークエンジェルを守る。
 コープマンの鬼気迫る決意に、アルスターの額からも汗の雫が滴った。
 
 艦長日誌補足
 アークエンジェルは地球連合との合流の直前というタイミングでZAFT軍の攻撃に遭った。地球連合の艦艇はアークエンジェルと比較すると旧式の艦の様で対応能力に限界がある。それに対して、ZAFT側は火力も有り足の速いナスカ級が二隻だ。このままでは撃沈は時間の問題だろう。私は急ぎブリッジに入った。
 
「状況は?」
「ジェインウェイさん、はい、今は艦後方からナスカ級2隻が我々と先遣隊双方を狙い撃ちする位置を取り攻撃してきています。我が方は現在MS隊の出撃準備を、友軍からはモビルアーマー隊が展開を始めました。」

 ラミアス大尉の説明に、私はアークエンジェルと連合艦艇、そしてZAFT艦の主だったもののスペックを思い出し比較した。状況的には後方からの高速艦2隻による砲撃は痛打であるが、アークエンジェルは彼らの主砲に耐える装甲をしている。
 
「ラミアスさん、モントゴメリに全軍砲撃停止を打電、私達はアンチビーム爆雷散布の上で、艦を反転させながら先遣艦隊とZAFT艦の間に入って。」
「え!?…それでは我々が集中的に攻撃に晒されます!しかも、それでは本隊の命令に反します!」
「…良いのよ。責任は私が取ります。…これでも私は予備役付。そして今は一時的にせよ復隊扱いよね?ナスカ級の主砲はモントゴメリは貫けてもアークエンジェルは貫けない。装甲の耐久性能を逆手にとってこちら側の陣容を立て直す時間を稼ぐのよ。私達は盾になって徐々に後退しながら先遣艦隊と合流。MS部隊は相手艦へ特攻よ。」
「と、特攻!?」

 その時、サイ・アーガイルが叫んだ。

「あ!?!……そんな……旗艦、モントゴメリ撃沈。」
「!?!」

 モントゴメリーは相手の砲撃に耐えられず、我々が対応する前に火を上げて沈んだ。
 私はその姿に異世界の艦隊とはいえ友軍の最後を敬礼で見送った。それに習う様にブリッジのクルー達が敬礼をした。
 
「…ラミアス大尉、友軍にシャノン・オドンネルの名で打電なさい。旗艦撃沈に伴い、本艦が指揮をします。私の前でやってくれた代償は…高くつくと思い知らせてあげなくちゃいけないわね。」

 私の言葉にラミアス大尉は勿論、バジルール少尉や艦橋のクルー達も驚いて私の方を振り向いた。
 私は彼らの反応に微笑んで言った。
 
「あ、言葉が過ぎたわね。勿論、やるからには勝つということよ。」

 クルー達は私の言葉に半信半疑ながら行動を始めた。
 
「隊長、足付きが連合の援軍と我が方の間を横切り始めました。」

 アデスが敵側の大胆な行動に驚いていた。
 だが、彼らは悪手の様で居てよく己を理解している。
 
「えぇ。攻撃かと思われたミサイルは、ビームを撹乱している。(装甲強度だけでも化け物なのに…アンチビーム爆雷、あんな物まであるのか。こうなっては相手側の思うつぼだ。)…MS隊全軍出撃!私も出ます。不在時の艦隊指揮はグラディス艦長へ委任します。しかし、別命あるまでは、ヴェサリウス及びキグナスはこの位置を維持して射撃に専念してください。」

 スクリーン越しにグラディスが頷いて通信を切った。
 
「しかし、足付きの艦長は命知らずですね。」

 アデスは敵側の判断に驚かされた事は事実だが、実の所はこの若いアスランの冷静な判断にも驚かされていた。そんな彼が相手に対してどんな感想を持っているのか気になった。そして、彼の答えは、
 
「…戦争をやり慣れているというのは、ああいうのかもしれない。矢面に立って戦うのは、いくら戦争屋と言っても嫌なものじゃないんだろうか。甘いのかな。では。」

 アスランの中では友と戦う葛藤や味方を失った不甲斐無さが鬩ぎあっていた。
 分かり合えるはずの友と戦い、守るべき仲間を守れない戦闘に意味は無い。父が常々言う戦うからには勝たねばならないという言葉は、悲劇を繰り返さない割り切りとしての必要悪かもしれない。
 でも、その気で友を失って、仲間を失って、その果てには何が残るのだろう。
 そんな思いが過っていた。
 
「キラ・ヤマト、ストライク、行きます!」
「イチェブ・オドンネル、デュエル、出撃します。」

 アークエンジェルからエール・ストライクとデュエルが発進した。
 
「俺のメビウスは何とかならねーのか!」
「無茶言わないでくださいよ。大尉のゼロのガンバレルなんて特注品の部類ですよ!この艦は元々Gの為に作られたんです。本体は直せてもガンバレルの修復は無理ですよ。先遣艦隊ならメビウス積んでますから、部品から改造して何とかってこともあるでしょうけど。」

 フラガ大尉のメビウスはガンバレルの部品が無いために修理が出来ずにいた。
 出られずに苦って居たとき、彼はふとあるものに目が向いていた。
 それは、ハンガーの一部区画に白い布で覆われた区画が作られていたのだ。
 彼は気になってその幕の向こう側を見に行ってみる事にした。
 
「イザーク・ジュール、ゲイツアサルト、イクゾー!」
「ニコル・アマルフィ、ゲイツステルス、出ます!」

 ヴェサリウスをまず飛び出して行ったのは新型試作機ゲイツの二機だ。ゲイツアサルトはデュエルを参考に武装を改造した高機動戦闘対応機であり、ステルス型はミラージュコロイドを搭載した機体だ。しかし、アスランはあえてこの戦闘でミラージュコロイドの使用は採用しなかった。敵に無闇に新装備を見せるのは得策ではない。特にミラージュコロイドはその存在を知られる事自体がリスクになる。敵が開発した技術とはいえ「新型」が装備しているはずは無いと思わせておくだけでも十分な利益なのだ。
 この二機に遅れてキグナスからシグーASとジンASが出撃した。ジンの部隊を指揮するのはオロールだ。彼らは迂回して連合の先遣隊を目指す。そして、最後に出撃したのがバスターとイージスだ。
 
「アスラン、俺達は後方支援型だが、このままここらで高見の見物か?」
「…そうだな。それも良い。相手は2機だが、指揮官は頭が良い様だ。俺達はこの戦場を見ている必要がある。」

 ディアッカは思わず口笛を吹いた。アズランと呼ばれていたあのアスランが、最近は増毛した様だ。いや、そんなことはどうでも良い。頭が元々良い奴であった事は間違いないが、ここに来て彼は化け始めてきた様に感じていた。
 
「このぉ!」

 ニコルのビームライフルが執拗にキラを攻撃する。最初は被弾していたキラだが、徐々にニコルの攻撃を読み始めると、少しずつ回避を始めていた。
 
「このパイロット、この短時間で僕の動きを読んだ!?…そんなこと、認めません!」

 左手のビームシールドからビームランサーを出して突撃する。
 キラはソードを構えて受け止めた。
 
「戦闘配備ってどういうこと?先遣隊は?」

 フレイはストライクへ向かうキラの足を止めて必死に尋ねてきた。
 
「…分からない。僕にはまだ何も…」
「大丈夫だよね!?」

 正直、何も知らない自分が強く言い切れる事ではない。でも、彼女の必死さはヘリオポリスで両親がどうなったか分からない自分自身に置き換えても、無理も無い感情だろう。

「パパの船、やられたりしないわよね?ね!?」
「…大丈夫だよ、フレイ。僕達も行くから。」

 誰も死なせない。死なせるわけにはいかない。
 みんなで生きて帰るんだ。
 
「うぉおおおおおおお!!!!」

 キラはゲイツを蹴り上げると、ブーストを掛けてソードでシールドを突き上げる。ゲイツのシールドは重い突撃に耐えられずひしゃげて中のビームジェネレータが破壊され爆発。左手首が吹き飛んだ。
 ニコルは努めて冷静に構えながら後退、キラは後退しようとする相手へ攻撃を仕掛けようとするが、バスターの砲撃に遭い引かざるを得なかった。
 
 その頃、イチェブはイザークと切り結んでいた。イザークの攻撃にイチェブはひたすら回避していた。必死に攻撃を仕掛けるイザークだが、何度打ち込んでも受けて流して行くイチェブの姿勢に苛立ちを隠せない。
 
「おにょぉれぇええ!!ちょこまかと、正々堂々と打ってきやがれ!」
「…そうか。」

 イチェブはそう呟くとイザークのビームサーベルを正面から受け止めていた。
 ビームの衝突が強烈な閃光を発して互いを引き離す。
 
「ぐっ!…な!?」

 イザークは焦った。前方に居たはずの相手が見当たらない。
 周囲を見回すが、警戒警報は鳴っていても姿が見当たらない。
 
「チ!(ミラージュコロイド搭載型なのか!?…熱源反応から探るのみだ。……いない。というより熱源だらけじゃねーか!)って、後ろ!?」

 なんと、イチェブはイザークを通り越してヴェサリウスの方へ迫っていたのだ。相手は艦の防衛を空にしてあえて敵へ特攻しようというのか。あまりの戦術に虚を突かれた格好だが、それならばこちらも同様に攻撃するのみとばかり、イザークはイチェブを追うのを止め、代わりに近くにいたストライクを攻撃した。
 
「…ストライクのパイロット、まだまだ甘いな。こんな腕でぇ!!!」
「ぐっ!!!」

 防戦一方に回るストライク、しかし、ストライク後方から艦砲の支援が始まった。
 
「何!足付きが射ってきた!?…合流を済ませやがったのか!?」

 アークエンジェルを中心に後方に布陣した連合艦が一斉にジンへ砲撃を始めた。
 それを合図とする様にその後方で潜んでいたメビウス部隊も、砲撃から逸れたジンを一斉に狙い撃ちし始める。
 
「…潮時か。収穫はあった。全軍後退!!!」

 アスランは全軍へ撤退命令を出した。
 その時イチェブが迫る。
 アスランは彼の攻撃を受け止めると絶妙のタイミングでディアッカが砲撃、デュエルは左手を失う。
 
「深追いをしたお前が悪い。」
「…抵抗は無意味だ。」

 次の瞬間、システムが急に言う事を聞かなくなった。そして、その瞬間を狙ったかの様にコックピット目掛けてデュエルのビームが飛んだ。強い衝撃を伴ってイージスは後方へ飛ばされる。

「ぐあああ!?くぅ…これは、やはり。…プログラム強制削除。BIOSインストール、コアファウンデーション及びカーネルからシステム構築、コアサービスへドライバインストール、プログラム起動、オールパラメータセットアップ、リブート!…多少性能は落ちたが、これでもう動かせる!!!」

 しかし、デュエルは迫って来なかった。
 素早く体制を立て直したイージスを見てイチェブは冷静に引いた。
 いや、セブンの声が彼に引く様に命じたのだ。
 
「ふぅ、やばかったぜ。やっぱりトラップが仕込まれていたか。アスラン大丈夫か?」
「ディアッカ…あぁ。帰投する。君は先に入って良い。」
「ん?後方支援は最後まで見守り…だろ?」
「…そうだな。ありがとう。」

 ディアッカはイージスと共に前方から帰還する味方を支援し、最後の一機が帰還したのを見て後退した。
 アークエンジェルもまた無駄な追撃は禁じ、全軍を引かせた。
 
「………これは、なんなんだ!?」

 フラガは幕の向こうにある物に思わず息を飲んだ。
 それは、まだ骨組み程度の物しか組まれていないが、MSらしき物が組み立てられ様としていたのだ。
<Mozilla/5.0 (Macintosh; Intel Mac OS X 10_6_7) AppleWebKit/535.7 (KHTML, like ...@i220-220-158-157.s05.a001.ap.plala.or.jp>

【120】Voy in Seed 14
 制作者REDCOW  - 12/1/15(日) 20:46 -

引用なし
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   第14話 飽和

 艦長日誌
 我々はZAFT軍の攻撃に遭い、旗艦モントゴメリを失いつつも先遣艦隊と合流を果たした。私達は地球連合の護衛艦バーナードとローの艦長達をアークエンジェルに招き、今後の航海の話し合いの席をもった。
 会合の前には戦死したモントゴメリの将兵達に対して黙祷を捧げた。
 
「…あのZAFTのナスカ級二隻を相手に撃退された手腕、本当に感服しました。」

 バーナード艦長であるロドリゴ・グライン少佐。彼は年齢的にはフラガ大尉よりは上の30代半ばといったところだろうか。武官というよりは文官上がりという容貌の男だ。彼の隣のローの艦長も彼の言に頷いて続く。
 
「私も久しく勝利の喜びから遠ざかっていましたが、あの圧倒的な戦闘。本当に感動しました。」

 ローの艦長はレッティ・ブライトマン少佐。彼もグライン少佐と同期くらいの年齢だろうか。顔つきはブライトマン少佐の方が軍人らしい精悍な顔つきをしている。
 連合軍の将兵は敗戦に次ぐ敗戦で若い世代を積極的に昇進させなくては維持出来ない領域にきているのだろうか。彼らが言うこの勝利への感動も実感としてのものなのだろう。
 
「…私は助言しただけ。全てはラミアス艦長の采配と、ここにいる全てのクルーの協力があったからよ。」
「そんな、正直私にはあれほどの戦術は思いつきませんでした。ここに大佐がいてくれて、本当に感謝したい気持ちです。」

 彼女は私に感謝の言葉を述べた。
 戦術自体は当然の結果を出したまでと思ってはいても、人に褒められることは素直に嬉しいもの。しかし、ZAFT軍の引き際もなかなかに鮮やかだった。
 彼らはこの戦いでほぼ無傷で引いてみせたのだ。それに対して我々は一隻を沈められ、MAも数機が撃墜されている。勝利というにはなかなか厳しい成績だ。
 それもこれも連合とZAFTの決定的な技術格差にある。アークエンジェルとMSという装備はようやくキャッチアップしたに過ぎないのだ。私は彼らにその事を言わざるを得なかった。
 
「…勝利、確かに相手を引かせる事は出来た。でも、艦は一隻沈められ、死者の数も…厳しい結果に違いないわ。彼らはほぼ無傷で引いたのだから、戦いはこれからよ。
 むしろ状況は悪くなっているかもしれない。こう言ってはなんだけど、足の遅い二隻に合わせながら私達は進まなくてはならない。これがどういうことか、わかるわね。」
「………連戦に継ぐ連戦…になるかもな。」

 フラガ大尉の言葉はストレートだが現実的な答えだ。
 彼らは今後も仕掛けてくるに違いない。…我々は足かせを履かされたに等しい。
 二隻の装備が貧弱過ぎることもあるが、アークエンジェルが世代を大きく飛び越えている事も言える。
 この差をどう詰めるかを考えなくては、彼らを生かして進む事は難しい。

 私は「大佐」としての権能を使い、3隻の事実上の指揮官として振る舞う事にした。アークエンジェル一隻を支援する程度ならともかく、3隻全てを指揮するにはこの立場を使う他は無い。
 大佐としての最初の仕事は、この艦隊の持てるもの全てを把握することからだった。

 新たに加わった2隻の艦にはメビウスというモビルアーマーと呼ばれる戦闘機が6機、クルーも1隻200名程の人数が居る。推進力の低さは我々の技術で多少は改善出来るだろう。
 そして、これらの艦艇からの物資によりフラガ大尉のメビウス・ゼロの修復は可能となった。

 そのメビウス・ゼロだが、セブンはメビウスの機動性の低さを可動式ブースターを搭載する事でクリアし、ガンバレルシステムの簡易化を提案した。
 彼女の提案ではノーマルメビウスにも大尉の空間認識能力無しにガンバレルを使用出来るAIを搭載させる、いわばフラガAIというものを載せるようだ。
 私はこの提案を了承し、これらの開発は新たに加わった2隻のクルー達にチームを編成させた。

 また、彼女が秘密裏(?)に開発をスタートさせたモビルスーツ開発計画は正式に私が了承した。新たに開発するMSはGAT-X105と共通の装備を運用出来るジン(仮名)とし、新たにクルーからシミュレーターの成績を元にパイロットを養成する事とした。
 
 それから、私はアークエンジェル内に新たな執務室を作り、そこに部隊の情報を集約出来る情報センターを構築することとした。
 いわば天体測定ラボのアークエンジェル版とも言うべき部屋だが、艦の制御はシャトル・アーチャーのコンピューターで遠隔制御出来る様に改造しており、この部屋のコントロールはアーチャーを通して全艦へ伝達される。
 …制限して作ったシステムではあるが、リミッターを一部解除したことで十分なパフォーマンスを得られる。当面はこの体制で情報力の問題は起こらないだろう。

 トゥヴォックを中心に編成した民間クルーの保安部隊がこの周囲は警備することとし、この機会に民間人の生活環境改善を進めるため、アークエンジェルの生活区画を民間人用に再設計した。
 彼らの中には学生も多いため、学校の必要も迫られていた為だ。また、民間人らに艦隊への娯楽の提供も奨励し、船内に放送局を設ける等積極的に民間人の力を活用する事とした。
 こうした作業を進める上でしばしの時間が必要と考えた私は、あえて暗礁宙域に戻る進路を取った。
 ZAFTが追ってくるにしても、我々が身を隠すには丁度良いからだ。
 
「…あんた達が!あんた達がいるから!!!あんた、本気で戦わなかったんでしょう!!!」
「フレイ!!!」

 サイ・アーガイルが叱る様に彼女の名を呼んだ。
 フレイ・アルスターは荒れていた。彼女は唯一の肉親を失い、キラ少年に当たる他無かった。
 しかし、キラ少年が出た時には既にモントゴメリは墜ちた後だったのは周知の事実。彼が責められる理由は無い。それでも、キラ少年からすれば、好きな相手から浴びせられる暴言はショックが大きく、自身の無力さを感じていた。

「フレイは、君の父さんが生きているなら、誰が死んでも良いって思ってるんだね。」
「な!?あ、あたしは!?」

 カズイは彼女の方を冷めた表情で見ていた。
 彼の言葉はピンポイントに自分の言動の問題を指摘していた。図星を突かれた格好の彼女は黙るしか無かった。
 その場に居続けるのを苦痛に感じた彼女は、食堂を駆け出して行った。
 
 ZAFT軍ヴェサリウス執務室では、アスランが今後の作戦を練る為にグラディスと話し合っていた。
 彼女は前回の戦闘での戦果は結果的には旗艦ネレイド級の撃墜という形になったが、力押しで行けばまだ戦えたのではないかと考えていた。
 
「…グラディス艦長。それでも不確定要素を引きずるのは嫌なんです。我が方は確かに装備も充実していました。力押しでやれるだけの戦力は有ったと思います。
 しかし、先行試作機の投入やブラックボックスのGATのOS問題、また我々の部隊の連携など課題というより問題と言った方が良い不安を抱えていました。
 今回の戦闘でハッキリしたことは、ゲイツの武装は見た目より燃費が悪いこと。そして、GATのOSはやはりトロイの木馬であったことです。」
「…結果論を言えばそうね。でも、指揮官として慎重過ぎては突破力に劣るわよ。私達は常に万端で戦えるとは限らない。
 場合によっては少数で大群を相手にしないといけない。そんな不利な状況でも勝ち抜く力が戦場では問われているの。
 確かに戦力の温存は為され、徐々に削るという安全策も使える。だけど、それでは決定力不足は否めないわ。」
「…彼らに痛打を与えるだけが戦争ではない。私は、少なくとも遂行し難い状況を作る方がずっと効果的だと考えます。
 確かに決定力には欠けますが、相手に決定させないだけのこう着状態には持って行ける。今は焦るときではないと考えています。」
「このまま泳がせれば第八艦隊と合流よ?…そうなればより多くの艦艇と対峙しなくてはならなくなる。
 敵の指揮官はこれまでのタイプとは違って全く予測が付かない。その彼らが大群を指揮して襲ってきたら…私達は大幅に不利になるかもしれない。
 今打てる策を打つ。敵を前に舌舐めずりは愚か者の行動よ。」
「…お言葉ですがグラディス艦長。これでも私はフェイスです。そして、この隊の隊長です。経験不足や若輩のそしりは甘んじて受け入れましょう。しかし、決定権は私にある事をお忘れなく。」
「…そうね。ご自由に為されば良いわ。私は苦言は呈すけど、飽くまで軍人。命令には…従うわ。では。」

 グラディスは敬礼して通信を切った。
 その表情はとても憮然としていた。
 アスランは溜息を吐いて椅子の背もたれに深くもたれかかった。
 何気なく頭をぽりぽりと掻いた時、違和感を感じた。
 
「…はぁ。勘弁してくれよ。」

 彼の手には、数本の毛があった。
 
 
「はい、どうぞ。」

 ドアを開ける音がする。食事のトレイを持って入ってきたのは、連合の制服を着た少年の姿だった。
 彼女はにこやかに語りかける。
 
「あら、今日はフレイさんはいらっしゃらないのですね。」
「…えぇ。今日は僕が代わりに。」
「そうですの。どうもありがとうございます。」
「いえ、…どういたしまして。」

 彼女は彼の様子がとても元気が無い様に感じられた。
 それは表情は勿論、姿勢にも覇気が無い様に感じられたからだ。
 
「どうなさいましたの?もしお時間がよろしければ、わたくしとお話してくださいませんか?」
「…あ、ぐ、あぁ、あ、ぅ、ぐぅぅぅぅ、あぁーーー!!!!」
「!?」

 少年は突然こらえ切れず堰を切った様に泣き出した。
 彼女は驚いたが、すっと立ち上がると、彼を胸に抱き寄せた。
 少年は驚いた表情を見せて彼女の顔を見るが、彼女は笑顔を見せて彼の頭を優しくなでた。
 その優しさに、彼は素直に甘える様に彼女の胸で涙を流した。
 
「おや、そこのねーちゃん、こんな所にどうした?確か君、あの学生達の仲間だろ。えーと、フレイ、アルスター、だろ?」
「…。」

 フラガは話しかけても反応しない彼女に苦笑した。しかし、張りつめた様な表情で立っている彼女を放っておけないとも感じた。
 それは女性を大事にというよりは、何かやらかしそうな不安の様なものの方が大きく感じられたからだ。
 
「へぇ、君はあれに興味あるの?女の子にしては珍しいねぇ。ロボ好きかい?」
「………殺したい。」
「へ?」
「………コーディネイターなんて、みんな死ねば良いのよ。」
「…おいおい、物騒だなぁ。じゃぁ、何かい、君があれに乗って戦うのかい?確か、新しいパイロット募集してたろ。」
「………フフ、それも悪く無いわね。アハハ、…何よ何よ、みんなよってたかってコーディネイターの擁護しちゃって。私は許さないわ。パパを、パパを殺した奴らなんて皆殺しにしなくて気が済みますか!ってのよ。」
「…そうか。でも、それなら君、このままじゃそれすらもできないよ。いくらOSがナチュラル仕様たって、体が出来てない奴が扱える代物じゃない。
 キラはコーディネイターかもしれないが、イチェブはナチュラルと言っても随分体を鍛えている。君はその覚悟あるのかい?」
「…あるわ。えぇ、あるわ。やってやるわよ。皆殺しにしてやるわよぉおおお!!!!」

 彼女の気迫は相当気合いが入っていた。
 だが、ここまで断言する彼女に、彼は少々悪戯心が湧いてきていた。
 
「おし!なら、俺が鍛えてやる。俺もこれでも軍人だ。鍛えるくらいはやれる。軍の機体を動かしたいなら、君は軍人になるんだ。いいな?」
「えぇ、良いわよ!さぁ、始めるわよ、今始めるわよ、すぐ始めるわよ!!!」
「(えらい気合い入ってるなぁ。さてさて、いつまで続きますか…?)」

 フラガは彼女に促されながら格納庫を出て行った。
 
 副長日誌
 私はアズラエル理事との協議の末、連合軍に協力する企業の幾つかとの大口の契約を締結する事とし、その見返りとして艦長達の早期救出を依頼する事となった。
 ブルーコスモスの主義者と言われているアズラエル理事だが、実際の彼はずっとビジネスライクな人間だと言う印象を受けた。
 彼は親しげに私と交流を持つ事を希望し、ゴルフに始まり、釣りに乗馬にボーリングと、忙しい時間を削っては遊ぶ約束を持ちかけてきた。無下に断る理由も無いので、彼との個人的な交流を進める事とした。
 艦の業務は不安だが暫くトムとベラナに共同で当たらせておく事とした。
 私は彼の車でロスの高級ホテルのプライベートルームへ来ていた。そこは彼のお気に入りのロス市街が一望出来る展望室で、部屋の調度類は宇宙に関係した模型や図版など様々なものが飾られている。
 彼は私をバーカウンターに座らせると、カウンターの中で作業を始めた。
 そんな彼に私は話しかけた。
 
「貴方は失礼だが…いわゆるブルーコスモスという主義者のボスにしては、その…随分ニュートラルな印象を受ける。」
「あぁ、良いですよ。お気遣い無くどうぞ。そうですねぇ、世間は僕らを主義者呼ばわりだけど、僕らはこれでも経済を発展させてきた一族の末裔。こういう悪者扱いにでもならなくて、どうして人類は発展することができるだろうかと思いますよ。いわば、僕らは体のいい汚れ役です。でも、誰かがしなくてはいけない。」

 彼は手慣れた手つきでバーカウンターでグラスにブランデーを注いでいた。
 一つを私に渡すと、もう一つを左手に持ちゆっくり口へ運ぶ。
 
「しかし、平和に暮らすこともできるんじゃないのかな。」

 グラスを置いた彼は、冷蔵庫からキャベツとピーマンと糸こんにゃくを取り出し、棚から小麦粉と出汁の素を出してきた。
 何を作り始めるのかわからないが、テキパキと手を動かしながら楽しそうに話す。
 
「えぇ、そうですね。確かに。でも、じゃぁ、僕みたいなのが表に出て手綱を引かなかったらどうなるか。僕より酷い、それこそ本当の『主義者』の出番が回るだけです。
 まぁ、勿論、僕も個人的にはコーディネイターは嫌いですよ。奴らは口で言う程清廉潔白でも優秀でもない。我々が長く努力して築いてきた資産を、横からかすめ取る泥棒達です。
 彼らは泥棒をしておいて権利を認めろというんですよ?…これでうんと頷くなら、その人の頭こそどうかしていると言いたいですよ。」
「…確かに彼らは横暴だ。人類の革新というよりは、努力する苦労を知らぬ天才の世間知らず…といった所かな。」
「おぉ、上手い例えですね。えぇ、…確かに彼らは生まれながらの天才ではあるんです。認めようが認めまいが…事実だから仕方ない。本来ならば、彼らはその知力をこそ武器に商売でもなんでもすれば良かったのです。
 勿論、我々との良好な関係が前提ですがね。
 しかし、彼らはそれを選ばなかった。宇宙に住めるのは彼らの力によるわけではない。我々の努力の結晶だ。そうした経緯を理解するならば、彼らは我々と多少の不利を覚悟してでも交渉を進めるべきだった。しかし、そうはならなかった。」

 彼は話しながらキャベツを千切りにし、ピーマンを細かく刻み、糸こんにゃくも適当に切ると、冷蔵庫から紅生姜と卵を出して、紅生姜もまた細かく刻むと、それら切った素材を全てボールに入れ、小麦粉をまぶすと卵を数個入れてから混ぜ、徐々に水を足していった。
 私は話しながらも器用にこなして行く彼に感心しながら話を続けた。彼も話しながらの作業が好きな様だ。
 
「…その結果がバレンタイン…ですか?」
「あれは……、私もコントロール出来た話ではないんです。ただし、あれを悪いとも思いませんよ。非情を承知で数に置き換えるなら、たったの2000万の犠牲で済んだはずなのです。
 結果はどうです?…生かしたがために、地球はエイプリルフールで7億とも8億とも言われる人口を、単なるエネルギー不足で失ったのですよ。
 …フフフ、幾ら非道な我々でも、それほどの被害を出せる程に世論に強いわけではありません。これは断言しても良い。我々も万能ではないのです。」
「で、あなたは、今後どうされるおつもりで。コーディネイターはそのうち滅びるでしょう。それは将来はわからないが、この時代の遺伝子工学では致死遺伝を回避して産むとなると、クローニングに近い結果にしかならない。
 そもそもコーディネイトの理想がブームに左右されるのであれば、遺伝子バラエティが飽和するのは見えていた。いや………元々あなた方はそれを知っていたのではないですか?」

 彼は私の問いにニヤリと不敵に笑うと、ボールの中身を予め熱したフライパンの中に注ぎ、焼き始めた。
 
「…いやはや、貴方は賢いですね。ブルーコスモスの中でも、これを理解しているのは多くない。仰る通り、ジョージ・グレンの告白でコーディネイト・ベイビーが産まれる『ブーム』がやってくることは予想通りでした。そして、それらの市民を積極的に宇宙開発に駆り立てたのも我々ですし、結果的遺伝飽和も予想通りです。
 彼らはこの予想の範囲でブームに乗せられていてくれれば良かったのです。そうすれば、新たなブームが遺伝子の飽和を緩和することも出来たのですから。」
「…とすると、プラント経営とコーディネイターの登場はブルーコスモスの願い…ということになりますね。」
「願い?…違いますよ。ビジネスです。飽くまで。彼らは我々が作るブームというショーウィンドウを飾る商品であれば良かったのですよ。それが暴発するのも…まぁ、仕方ないと思いますが、少々彼らはやりすぎた。我々の許容範囲というものも限界があるということです。」
「…難しいですね。今のまま進めば、落としどころは何処になるとお考えで。」
「…そうですねぇ。目下、それが一番悩みどころですよ。何しろ、私の後ろには私より跳ねっ返りが沢山居るんです。彼らを納得させつつ、あの宇宙人どもを黙らせつつ…どう落着させるか。妙案があるなら聞いてみたいものです。
 それこそ、本物の宇宙人でも来ない限り、纏まるものも纏まらないんじゃないですかねぇ。はっはっは…と。あー、出来ました。お好み焼きです。日本に行って気に入ったんですよぉ。どうぞ、酒のつまみにお召し上がれ。」

 彼はフライパンで焼いていたパンケーキの様なものを皿に移すと、そこに編み目の様にソースとケチャップに鰹節と青のりを振り、最後にマヨネーズで器用に外の夜景らしきものを描いて私の前に置いた。なかなかに香ばしい食欲をそそる香りがしていた。
 
 アークエンジェル艦橋ではバジルール少尉が警戒勤務に当たっていた。
 
「報告。」
「はい、現在の所、周囲に機影無しです。…そういえば、バーナードとローのエンジンを改修しているそうですね。」

 サイ・アーガイルの言葉に、バジルール少尉は自分の方でもデータを確認した。
 
「あぁ。改修はもう7割方終わったそうだ。ハンセン女史は凄い天才だな。彼女の手に掛かればあらゆるものが高性能になる。そういえば、彼女が開発している新型のパイロット募集、お前は応募したのか?」
「あ、はい。」
「そうか。何故、応募した?」
「はい。…えー、キラ…じゃなかった。ヤマト少尉にだけ負担を押し付けるのは悪いと思って。せめて一緒に戦える様になってやりたいな…と。」

 ナタルは彼の友情に感心していた。
 自分がもし彼と同じ立場だとして、そこまで友達を思う事が出来ただろうか。これまで半ばドライに物事を判断する事が大切だと考えて生きてきたが、彼の様に人を思う事もまた自分に必要な物なのだろうと、客観的には考えていた。
 そんな時、突然センサーが警報を鳴らした。
 
「何事だ!?」
「あ、はい。センサー範囲に機影らしきものを確認。これは、ZAFTです!!!」
「なんだと!?総員、第一戦闘配備!艦長と大佐には私が報告する。」
「はい!」

 アークエンジェルは再び戦闘へ入ろうとしていた。
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【121】Voy in Seed 15
 制作者REDCOW  - 12/2/13(月) 17:15 -

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   第15話「奪われた技術」

「…僕は、戦いたくなんか無かった。しかも、そこにアスランが…」
「そうでしたの…彼も貴方も良い人ですもの。それは悲しいことですわ…」
「え…?アスランを…知っているんですか?」
「はい。アスラン・ザラは、私がいずれ結婚する方ですわ。…でも、それは父が勝手に決められた方。私は、キラ様の方が魅力的に感じますわ。」
「え…」
「フフ、冗談です。…でも、素直な貴方の方が、アスランよりずっとお友達になれそうに感じますわ。できればこれからも、私の、お友達になって下さいますか?」

 彼女の潤んだ視線が注がれる。
 鼓動の高鳴りを感じ、喉が思わず鳴りそうな乾きを感じる。
 
「…ぼ、僕で良ければ。」
 
 キラは頬を赤く染めながら、彼女の申し出を受け入れた。
 
 艦長日誌
 我々は暗礁宙域で2隻の船体の改造をしつつ体制固めを急いでいた。2隻の艦の整備はセブンに指揮のもとに大方の整備を終えたが、まだ運行出来る状態には無い。
 艦隊の指揮系統の構築も急務だった。新たに大佐となった私のもと、3隻の艦を纏めるだけでは迅速な行動はできない。
 そこでアークエンジェルの一室を改造して設置した執務室に新しいコンピューター制御の管制を置き、3隻の艦の艦長または副長を常駐させ参謀として作戦計画を立てる事とした。私はここを作戦室と呼び、クルーの出入りを上級士官に制限した。
 また、長らく宙に浮いていた我々の3人のクルーのポジションを設定し直した。
 トゥヴォックには元々米国空軍の退役少佐というポジションを設定していたのでそのまま少佐として復隊扱いとし、イチェブにはキラ少年と同じ少尉を、セブンには技術中尉として民間から招聘扱いとした。
 セブンが平行して進めていた新型メビウスの開発は順調に進み、大尉のメビウスゼロ改造仕様が逸早く完成し、続いてフラガAI搭載型はフラガ大尉の頭文字を貰い受けメビウス・F(Furaga AI=フライ)とし、2機が完成した。
 6機あるうちの2機しか完成出来ていないのは、セブンの完璧主義故の妥協無き開発の結果として、当初仕様より大きくリファインされたためだ。これにより6機全て使える予定が、最終的には4機で残りの2機分は予備パーツ扱いとなるのは痛い。
 新しいパイロット編成については、メビウスはフラガ大尉のゼロの指揮のもと旧メビウス部隊の6名が交代でフライに乗る事とし、パイロットの補充に問題は無い。フライは新たに加わった二隻に二機ずつ編成される予定だが、現在は一隻に一機となる。
 アークエンジェルではこれまで通りにストライク/デュエル/メビウスの3機が搭載されるが、新たに開発中の機体を含めて最終的には4機体制を予定している。その新たな新型のパイロット候補生は選考の結果6名まで絞った。
 そこにはフラガ大尉の名前もあるが、他にサイ・アーガイル、トール・ケーニヒ、カズイ・バスカークの加藤ゼミの学生が残った。そして意外な人物としてはフレイ・アルスターの名前があったことだ。
 彼女はこれまた意外にもフラガ大尉に次いでの好成績で、シミュレータの成績は振るわなかったが体力では圧倒してみせるほどの差をつけた。この他にはアーノルド・ノイマンが3位に付けている。
 新型の開発はまだまだ掛かるため、出来ればこのままこの宙域に留まりながら体制固めをしたい所だが、状況によってはそれも許されないことが想定される。連合との連絡もつかず、ヴォイジャーとの連絡も上手くいかない現状を考えると歯痒いが、出来る事をする他に無い。
 
「…ZAFT軍はセンサー範囲から1000kmの宙域に2隻確認されている。長距離センサーの識別により前回我々を襲った艦隊だろう。想定時間で1時間程後に我が方へ到達すると思われる。暗礁宙域へ先行している機影が2機、バスターと新型のグリーン(ゲイツ・ステルス)の熱源パターンと一致している。」

 作戦室には私の他にトゥヴォック、アークエンジェルからはフラガ/ラミアス/バジルールの3名、そして、2隻の艦長であるグライン/ブライトマンの両名が集っていた。
 トゥヴォックがセンサー情報を説明する。
 それを感心した様に5名の連合クルーは聞いていた。
 
「…いやぁ、最新のコンピューターはこんな距離からそれだけの情報を出せるんですか。これは、裸同然じゃないか。」

 フラガ大尉の言葉に周囲の士官達も同意するように頷く。
 
「そうね。我々の技術をもってすれば、これくらいは出来て当たり前。問題は彼らをどう叩くのが最適かを、ここで皆さんには議論してもらいたい。
 私は基本的には部外者よ。解決策は自分達で出して欲しい。
 貴方達なら、彼らの立場になって考えた時にどう攻撃したら良いと考えるかしら。それを加味して考えて頂戴。私はその問いに答えましょう。」

 私の提案にまずブライトマン艦長が挙手した。
 私は彼女の方へ向き頷き、発言を許可する。
 
「私は現状の宙域を早期に離脱し、月への航路を進むことを提案します。」
「その根拠は?」
「こちらは既に敵の動向を把握しています。確かにこの宙域に留まればデブリを盾に出来ますが、それは敵も同じ。逆にデブリへの誤爆による想定外の被害を出す危険性もあります。まだ距離のあるうちに先行し、母艦隊の援護を受けた方が有利に働くと思います。」
「そうね。でも、改修が不完全な為に艦の足は遅い。ナスカ級の足はドレイク級の足を越える。私が彼らなら、貴方達をこの宙域から追い出しさえすれば勝ち。何も今叩く必要は無いと考えるわ。それは以前フラガ大尉が話した様に、敵の引き際の良さが手掛かりじゃないかしら。」

 ブライトマン艦長は私の返答を聞いて押し黙った。
 彼も気付いたのだ。彼らが何故あの時に叩いて来なかったのかを。
 彼に続いて、グライン艦長が挙手した。
 
「では、こんなのはどうです。先にバーナードとローを先行させ、アークエンジェルは殿に付き布陣するというのは。」
「それでは、折角の艦隊戦力が削がれるわ。もし敵の増援が先回りして待機していたら、アークエンジェルが殿に成功しても、ドレイク級は沈められるでしょうね。つまり、殿は賭けの要素が強いわ。使えなくはないけど、そのままでは危険よ。」
「しかし、新しいメビウスFを投入すれば、かなりの戦力増強を期待できるのではないですか。」
「お忘れの様だけど、メビウスの武装はリニアガンよ。PS装甲には効かないわ。しかもたったの2機。確かにやりようはあるけど、新型に慣れてもいないパイロット達が全員生還出来るかしら。人員の損失を覚悟したとしても、艦の生存率はアークエンジェルとのランデブーに掛かってくる。ザフトがこの宙域で連合艦を見逃したのは戦力として見ていなかったからよ。侮られていたから。でも、今はアークエンジェルがあるから警戒を強めている。」

 私の言葉にグライン艦長も降参の様だ。
 そこに、バジルール少尉が手を挙げた。
 
「大佐、発言失礼します。」
「どうぞ。」
「自分は大佐の意図している艦隊戦力の改修を待ちたいと思います。しかし、敵は容赦なく攻めてきます。でしたら、こちらから打って出てみてはどうでしょう。
 相手は籠城戦を決め込んでいると侮っているに違いありません。勿論、それなりの警戒はしていたとしても、こちらの艦隊が逃げこそすれども、逆に迫ってくるなどとは思っていないはずです。我々はそこに付け入る隙がある様に思います。」
「…続けて。」
「は。具体的には艦の防衛網を偽装デブリを利用して構築。先回りして有利な位置で待機し艦隊戦に持ち込むというものです。こうすればこちらの機動力不足は不問となり、位置取りとタイミングに絞る事ができます。」
「…戦力は不足無い。相手への奇襲も可能。何より攻撃は最大の防御…私は割と好きな考え方ね。でも、その方法は長くは戦えないわ。相手も奇襲と判断すれば引くでしょう。でも、引かれたら増援が大挙してやってくる。いえ、今も向かっているかもしれない。だとすれば、この戦術は彼らと決戦する覚悟が必要ということよ。我々の準備でそれが可能かしら。」

 バジルール少尉は私の問いかけに押し黙った。
 彼女もまた自分の戦術で可能かどうか判断しかねているのだ。
 そんな彼女の意見に援軍が現れた。ラミアス大尉だ。
 
「あの、横からよろしいですか。」
「えぇ、どうぞ。」
「私は少尉の意見に賛同したいと思います。理由は、決戦する必要は無いからです。」
「どうするというの?」
「我々は戦闘陣形を布陣し対峙して威嚇するのみに留め、バーナードとローの二隻は戦闘に参加させずに改修を続けさせ完了させます。
 時間的には戦闘時間内での完了は無理ですが、戦闘時間後数時間もまたずに完了させる事は可能だと報告が上がっているのを考慮すれば、我々は敵を排除出来ずとも撤退させられれば良いと考えます。」
「…良いわ。おめでとう。ラミアス大尉、いえ、ラミアス艦長。少尉と貴方は良いコンビね。
 グライン艦長とブライトマン艦長は艦の整備に徹して出来るだけ早く完了出来る様頑張って。ラミアス大尉はアークエンジェル及びバーナード、ローの戦闘部隊を用いて敵軍を排除する作戦を実行して。
 部隊長はフラガ大尉にやってもらいます。良いわね。」

 突然振られたフラガ大尉はきょとんとした顔で私を見たが、慌てて姿勢を正した。
 
「は、はい!…はは、責任重大ですねぇ。」
「フフ、そう。重大よ。頼りにしているから宜しく頼むわ。
 さて、私は適宜必要に応じて行動しますが、現状、艦隊の行動は3隻の艦長達の連携に委ねます。その間は私も遅れている開発のサポートに回るから宜しく。
 あと、皆さんにはコミュニケーターを配布します。呼び出しはこれを耳につけて手で触れ、自分の名前を言ってから相手の名前を言えば良いわ。
 ラミアスからグライン…みたいにね。では、会議終了。解散!」

 
 暗礁宙域を先行するバスターとゲイツ・ステルスは探索を続けていた。
 アスランは前回の戦闘後、あえて大きく距離を置く方針を採った。それは敵側を油断させる意味合いもあるが、評議会が要請していた「ラクス・クライン捜索」の為であった。
 そもそもアスランは彼女の婚約者という立場も有り、あの時点で戦闘を継続し続けるわけにも行かない政治的な事情があった。故に彼は足付きの戦力を削る程度に留め、自陣営の戦力の温存と捜索の両立を計る。
 見失った暗礁宙域では自軍の艦艇の残骸らしきものは確認出来た。幾つかの遺体も回収するに至ったが、肝心のラクスクラインの消息は不明だ。
 ただ、不幸中の幸いかどうかは分からないが、残骸には脱出艇の残骸は含まれていなかったことから、彼女が何らかの形で生存している可能性はあると言えた。
 バスターが接触回線で話しかけた。
 
「ったく、アスランも厄介な立場だな。お姫様探しもしなきゃいけないし、足付きも追わなきゃいけない。俺ならお姫様探しは後回しにするけどな。」
「ディアッカ…イザークが聞いたら激怒しますよ。彼は彼女の大ファンなんですから…。でも、そうですね。あの状況で足付きを逃がすのは僕もどうかと思います。
 ただ、戦果を上げていることも事実。婚約者という建前も入れれば絶妙な采配と言えるでしょう。」
「…お前は相変わらず頭が切れるな。まぁ、お偉方を納得させるには損害ゼロで船一隻撃沈は十分戦果だよなぁ。
 しかも悲劇のヒロイン探しも両立だ。あの小賢しさは一体なんなんだ。あいつってあんなにセコセコ動くキャラだったか。」

 ニコルは彼に問われてしばし自分の脳内にあるアスランの記憶を引き出した。彼は確かに優しいし優秀で手先も器用ときているが、性格的には優柔不断で決断力は無い方かもしれない。
 しかし、人前での立ち居振る舞いはさすがの秀才だけに隙無く動けるし、戦闘においても身のこなしは一流だと言える。
 彼は命じられる事に忠実であり、あまり自分を全面に出す様な人間ではない。
 だが、ディアッカの言う通り彼は変わった。
 その変わり方は豹変と言っても良い。
 
「…元々は彼も次をリードする指導者の息子。相応の能力が有って然るべき。これまでが羊の皮を被っていただけなのかもしれませんよ。
 でも、貴方の言う通り彼に似合わずあまりに手堅い。…フフ、正直、そうした役割は僕の役割だと思ってました。」
「はは、言えてるな。でも、お前、そんなことを考えて動いてたのかよ。怖いねぇ。」
「そうですか?…そうかもしれませんね。(…ですが、彼がそう動くなら、もう僕が気を使う必要はなさそうだ。)」
 
 ニコルは心の中でそう呟き思わず笑った。自分が背伸びをしなくて良いということは、正直言えば気楽な事だ。これまで「このメンバー」の中で彼は最年少でありながら「最大の気配り」を強いられてきた。
 リーダーとされたアスランは優柔不断、イザークは癇癪持ちで、ディアッカは無関心、そして兄貴分として纏めてくれていたミゲルは戦死し、何もしなかったら勝手に啀み合いが生じてバラバラになりがちなこのチームを支えてきたのはニコルだった。
 ただ、今回のアスランの変化はアスランだけに限らなかった。
 これまで無関心だったディアッカは以前と違い全面に出てくる気配もあるし、イザークは以前より落ち着きを見せてきている。そして自分自身、アスランの変化を切っ掛けに負担が軽くなったことは間違いない。
 それがこれまで被ってきた自分自身の「殻」を破る結果となるのであれば、ニコル自身楽しみな面も感じていた。
 その時、センサーに一つの機影らしき物が観測された。
 
「…センサーに反応、識別…連合のメビウス!?…でも出力が少し違う。新型でしょうか。」

 ニコルがセンサー情報をディアッカに転送する。
 
「…どうだろう。近づいてみないとわからねぇ。幸い、向こうさんとの距離もあるし、メビウスのセンサーエリアは狭い。もしかしたら、お姫様を撃沈した奴らの仲間…なんてこともな。」
「連合がこの宙域に来る理由はなんでしょう。ここはZAFTの領域です。クライン嬢の慰霊団を撃墜するメリットも無ければ、そもそもここまでやってくる事自体が困難なはずです。」
「と、すれば、この宙域にいる連合といや…足付きか。」
「はい。…どうします。罠の可能性もありますし、単なる哨戒として出ているだけかもしれません。しかし、新型が来ているということは、連合の援軍が待機している可能性も。」
「…罠を張る程向こうが余裕だとは思えねぇ。でも、理由は分かる。この宙域なら身を隠し易い。どこかで潜んで修理に励んでいるって寸法だろう。てっきりあの遅いドレイク級引っさげて進んでいると思っていたが、見つからなかった理由はこういう事か。」
「何かを待つために待機しているのか、それとも修理の為かは定かじゃないですが、この場を選ぶ理由は一つ。相手側は動きたくないからでしょう。動きたくない相手ならば包囲殲滅が常套。ディアッカ、貴方が艦へ繋げてくれませんか。僕はこのままステルスで潜行してみようと思います。」
「…おい、大丈夫か。まぁ、わかった。無理するなよ。」
「はい。」

 バスターが離脱する。
 ニコルは彼の離脱後岩陰に隠れ、ミラージュコロイドを起動しエンジンを停止した。
 
 アークエンジェル艦橋。
 
「バスターが後退、グリーンが消失しました!」
「何、よく確認したのか!」

 CICからのセンサー情報の報告に、思わずバジルール少尉の声が上ずる。
 
「センサー情報は宙域ポイント351マーク12より離脱後消失とあります。」
「…どういうことだ。」

 突然消失した機体。
 詳細は先行させたメビウスとの通信を待つ他無いが、通信をすればこちらの居場所がバレる危険性もある。
 しかし、こうした行動に対しても抜かりは無かった。

「先行するフラガ大尉に繋げ。」
「はい。」

 予めフラガ大尉には敵側へ接近する前に遠回りに飛行させ、領域の幾つかのポイントに中継アンテナを散布した。このお陰で直接の通信を辿られずにアークエンジェルとの通信を確立させていた。そして、その通信も独自の新しい暗号化を施している徹底振りである。
 
「こちらアークエンジェル、バジルール少尉です。大尉、敵グリーンの消失を確認しました。何かわかりませんか。」
「…こちらフラガ。敵さんはこちらでも確認出来ていない。どうなっているんだ。とりあえず哨戒行動の真似をしているが。」

 フラガの方でもサッパリ状況はつかめていなかった。
 その時、ラミアスが通信に加わった。
 
「…あまり考えたくはないけど、ミラージュコロイドの可能性を考える必要があるわね。」
「何だそりゃ?」
「最新の光学遮蔽技術よ。ブリッツに搭載していたの。もしかしたら、ブリッツを使っているのかもしれない。センサーを赤外線反応に切り替えてみて。たぶん、かなり極小の噴出反応を検出出来ると思うわ。」
「わかった。やってみる。」
「詳しい情報はそちらに転送するわ。これからは根比べ…というべきかしら。」
「…?、まぁ、了解。」

 フラガとの通信が切れた。
 バジルール少尉はモニターにブリッツの情報を引き出していた。
 
「艦長、ブリッツが…というよりは、ブリッツの…情報が漏れたと考えられているのですね。」
「…えぇ。大佐もさすがね。センサーラインの強化はこのためだったのね。あれ程のシステムが無ければ我々は今頃蜂の巣よ。」
「スクリーンに表示します。」

 少尉が大型スクリーンにセンサー情報を表示した。
 
「こちらがまだ情報で上を行っていると信じたいですね。」
「えぇ。」

 二人の視線は消失したポイントから僅かにそれた宙域に新たに現れた反応へ注がれていた。
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【122】Voy in Seed 16
 制作者REDCOW  - 12/2/25(土) 0:08 -

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   第16話 「通信」

 ZAFT軍ザラ隊旗艦ヴェサリウスでは、バスターからの近距離通信で連合の足付き艦隊と思しき部隊の存在が伝えられた。執務室でその報を受けたアスランはグラディスと思案していた。
 
「…お姫様探しのつもりが、結果的に足付き追撃になったわけね。まさか、これも想定内というわけかしら。」
「さすがにそれはありません。ただ、本国の増援として指揮下に入ったツィーグラーを先行させても何の手掛かりも無い。妥当な結果と言われれば仰る通りになるのでしょう。」
「まったく、足の遅いローラシアを先行させると言いながら、頭の回る事。で、叩くのかしら?」
「そうですね。…叩けるなら叩きましょう。相手がわざわざ潜む以上、そこに意味があるんでしょうから。とはいえ、どの道叩くつもりですが、出来ればあぶり出したいのが本音です。」
「相手の目的は何かしら。デブリベルトに留まりながら修理をする程の損傷を受けている様には見えなかったけど。修理じゃないとしたら…援軍を待っているのかしら。」
「この宙域に彼ら以外の連合がやってくるとしたら、その動きは逐一報告されるはずです。しかし、そうした情報はありません。援軍の線は薄いでしょう。
 考えられるのは新造艦である足付きが内部的に負荷をかけて想定外の破損をしたか、ドレイク級の損傷に問題があるかだと考えます。」

 グラディスは顎に腕組みをしながらしばし考え込む様に間を置くと言った。
 
「最近、私も貴方の石橋の叩き方が少し分かった気がするのよね。私が貴方なら…この場で突貫工事はしたくない。でも、見つけた以上は攻撃をしなくてはならない。
 ここは最大船速で強襲し、敵に考える暇を与えずにあぶり出せれば勝ち…と考えているんじゃないかしら。」

 グラディスの意見にアスランは穏やかに微笑むと答えた。
 
「良いですね。やってみましょう。」

 アスランの即答振りにグラディスは眉を上げて驚いてみせたが、彼女も笑みを浮かべて同意した。
 その後アスランはバスターを帰投させると、二隻を最大船速でゲイツステルスの待つ宙域へと進ませ始めた。
 
 艦長日誌補足
 私は艦隊の指揮はアークエンジェルを中心に任せ、我々が為すべき艦隊戦力の改修に努力していた。
 トゥヴォックは民間保安部隊の結成を終えると、それをバーナードから引っ張ってきた武官に引き継がせた。これでアークエンジェルに不足した武官については、ひとまず補強出来ただろう。
 彼にはセブン1人で遅れがちなローのエンジン改修作業の監督に向かわせた。これで作業効率は上がるだろう。
 
 私はMSハンガーへ出向いていた。
 ハンガーでは所狭しと整備士達が働いている。そこに幕の張られた例の一角へ足を運んだ。
 そこには新しく組まれつつあるMSの姿があった。忙しく働いている作業員達の中で、整備主任のマードック軍曹が私を見つけて声をかけてきた。
 
「あ、大佐!どうしました。」
「あら、マードックさん。って、もう大佐なのよね。ふふふ、どう?作業の進み具合は。」

 私の問いかけに彼は苦笑混じりで答える。
 
「いやはや、ハンセン女史は凄いですぜ。こいつの設計もとんでもない物だったけど、これを実際に組み上げる技術は…俺達がおおよそ知っているようなレベルを超えている。なのに彼女の手に掛かれば難なく進んでしまうんだ。あの手は魔法かなにかですか。」

 彼の驚きは無理も無い。
 彼女は「我々の時代でも」高度な技術者だ。それがこの時代で作業する。いくら人間の作法に慣れてきたといっても、彼女は偽装を上手くこなす方ではない。しかも、この状況下で最善を尽くすとなれば偽装どころではなく効率を優先するだろう。
 実際そのお陰でドレイク級の改修も進んでいるが、少々やりすぎた感はある。
 私は溜息を一つ付くと、彼同様に苦笑混じりに答える他無い。
 
「…確かに彼女は天才ね。私達でも一目置くほどよ。でも、時に真面目過ぎて付いて行くのが大変になるのはご愛嬌かしら。
 さて、私も作業を手伝うわ。分からない事が有れば彼女の変わりに答えましょう。何か有る?」
「大佐がですかい!…わかりますか?これなんですが。」

 彼は私の提案に、いかにも懐疑的といった表情で手に持ったパッドを操作して設計の分からない所を示した。
 私は彼のパッドを受け取り目を通す。
 
「…(これは神経接続型インターフェース。…フラガAIで味をしめたのね。それにしても…これはいつ出来上がるのかしら。)このシステムはいわばオールガンバレル操作の試作ね。
 彼女の理論によれば、このオプティカル回路を全身に巡らせ、それぞれの末端に電子/光コンバータを接続して神経伝達スピードを人間の生体性能に近づけている。一部ではたぶん反応速度は上回るはずだわ。
 精密部品については、我々のシャトルにある部品を利用するようね。」

 彼は私を見て呆気にとられた表情で暫く立っていた。
 だが、ハッと我に帰ると目を輝かせて私に矢継ぎ早に質問を始めた。
 その時、耳に装着したコミュニケーターがアラート音を発した。
 
「はい、こちらジェインウェイ。」
「ラミアスです。敵母艦が動きました。高速でこちらへ向けて発進してきている様です。」
「高速で………グリーンはどうなったの?」
「大尉のメビウスを追ってゆっくりこちらへ迫っています。」
「そう。今の所は予定通りかしら。また何か変化が有ったら教えてください。」
「はい。では。」

 コミュニケーターの発声が消えた。
 しかし、敵の動きが気になった。これまで慎重に動いてきていた敵が大胆にも高速で接近してきているという。潜んでいる敵を前に高速接近とはどういうことだろう。
 一撃離脱を構えるには宙域の条件も悪く、最悪なんらの効果も上げられず仕舞いになりかねない。
 幾つか保険は掛けたつもりだが、敵の意図を計りかねた私はシャトルに待機させているイチェブへ通信した。
 
 アークエンジェルのブリッジでは、敵側の動向がセンサーを通して逐一補足されていた。
 その時、サイ・アーガイルがセンサー情報を慌てて読み上げる。
 
「敵ナスカ級が消えました!」

 その声に驚きバジルールが声を荒げる。
 
「見間違いではないのか!よく確認しろ!」
「はい、いや、間違い有りません。情報をそちらへミラーリングします。」

 そこには確かにセンサー識別からロストしていることが確認出来た。
 ラミアスがその報告を聴きしばし考えると、手元のコンソールを動かしモニターに情報を表示した。
 そこには何かの計算結果が表示されていた。
 
「艦長、これは…。」
「…予想だけど、もしあの距離からサイレントランされた場合にこちらへ到達する想定時間よ。」
「サイレントラン!?…しかし、どうして。」
「敵はミラージュコロイドによる光学遮蔽を利用して潜行している。私達は勿論そちらをモニタリングするけど、母艦もそうだとしたら…相手はミラージュコロイドの弱点を逆手に利用してきている可能性があるわ。」

 ラミアスの話は大胆というには荒唐無稽とでも言える程のものだった。
 勿論というべきか、バジルールはその意見に反論した。
 
「敵母艦サイズでミラージュコロイド!?あのサイズで潜行出来る程のエネルギーがナスカ級にあるとは思えません。」
「えぇ、私もそう思います。でも、たぶん目的はそれだけでも十分な陽動になる。潜めている私達からすれば、敵は派手に動いてくれる方が有り難い。だからこそ…そうしないのよ。プラン変更も視野に入れる必要があるわね。」
 
 ラミアスは全艦に第一戦闘配備を敷き、敵艦の攻撃に備えてMS及びMA部隊を宙域に待機させる命令をだした。
 
「キラ・ヤマト、ストライク、行きます!」
「イチェブ・オドンネル、デュエル、出撃します。」

 ストライクとデュエルが艦前方に待機し、ドレイク級から出撃したメビウスF二機が後方に待機した。

「…ったく、囮ってのは性に合わないねぇ。」

 フラガ大尉のメビウス・ゼロはゆっくりと背後の「グリーン」を誘導していた。
 敵側は全くアクションを起こすわけでもなく、こちらの動きにそっと付いてきていた。何度か攻撃に最適なモーションをとってみたが、相手側は一切手を出して来ない。
 さすがのフラガもここまでの慎重さを見て煽るのはやめたが、敵の動きが不気味であった。
 
「艦との距離は………そろそろか。じゃぁ、行かせてもらいましょうか。」
 
 フラガはエンジンを全開にして発進した。
 そのときグリーンがミラージュコロイドを解除した。

「お、乗ってきたか!?」

 グリーンがバーニアを吹かして急速に接近を始める。
 後方からターゲティングを受けていることをセンサーがアラートで知らせる。フラガはそのアラートを半ば無視する様に感覚を研ぎすます。システムがロックオンされた事を強い警報音で知らせてくるが、彼は全力で機体を高速航行させ続けた。
 一筋の光線が通り過ぎる。彼はそれを紙一重という僅かな差でかわした。
 彼のメビウスは新しく搭載したエンジンにより、これまでならば不可能だった細かい上下運動なども可能となったお陰の産物だ。
 
「…ふぅ、さすがだねぇ。アニカちゃんは天才だぁ〜♪」

 一方、グリーンを操縦するニコルは相手の機動力の高さに驚いていた。
 彼の知るメビウス・ゼロは直線的な高速航行に長けた飽くまで「戦闘機」であって、上下左右といった飛行中の運動性能はMSに劣るものと思っていたが、このメビウスはエンジンが改修されて高性能になっていた。
 
「…甘く見てはいけないですね。連合は着実にキャッチアップ…いや、我々を凌駕し始めている。引き締めなきゃ…。」

 彼は努めて冷静だった。彼の乗る機体はミラージュコロイドの影響でかなりのエネルギーを消費していた。無駄玉を打てる程の余裕は無い。引き返して補給を受けることも可能だが、艦隊側からの命令は何も無い。
 ZAFTは階級等の命令系統が曖昧な軍事組織であり、一見すると混沌とした指揮系統を持つが、コーディネイターはそれぞれの持てる力の最大を行使し合うことで、最大のパフォーマンスを発揮しながら自然に連携することを旨としていた。
 故に、命令が無いということは、彼には一定の自由が与えられているのと同時に、最大の戦果を期待されているとも言える。
 ナチュラルならば尻込みする様な制度設計だが、コーディネイターである彼らにとっては自由が最大の価値なのである。
 
 逃走を始めたゼロを確実に仕留めるためには相手の足を止める必要がある。これまでならば接近戦に持ち込んで叩いたものだが、新型がエンジンのみ改修されたのかはわからず、無闇に接近するのは憚られた。ならば、やる事は一つであった。
 ニコルはゲイツの残るエネルギー全てを使ってターゲットを攻撃することにした。武器システムのエネルギーリミットを全解除し、ターゲットスコープを覗き込んだ。彼の操作で照準が絞られて行く。
 
「…全ターゲットロックオン、オートファイヤシステムスタンバイ。カウント、3、2、1…ファイヤ!!」

 ゲイツ・ステルスのビームが幾筋も放たれる。オートファイヤシステムにより、攻撃操作が自動で駆動し正確に精密射撃を始めた。しかし、それらは全てメビウス・ゼロに当たる事は無かった。
 
「な、なんだ!?、へった糞だなぁ。って、くそ!俺がか!?」

 フラガは自分の認識の甘さを悔いた。
 敵の攻撃は全て前方のデブリを狙ったものだった。
 大型の岩などがビームにより破砕され、宙域前方に無数に飛び散る。このまま突っ込めば機体の損傷程度では済まされないだろう。彼にはエンジンを逆噴射して緊急停止させる他に道がなかった。
 そこへゲイツ・ステルスがシールドからビームクローを出して迫る。
 
「頂きますよ!!!」

 だがその時、彼の進行方向を巨大なビームの閃光が阻んだ。
 
「!?」

 そこに現れたのは、彼らが宿敵である「足付き」だった。
 いや、足付きだけではない。
 足付きからはストライクが出てきていた。
 ストライクはシュベルトゲベールを構えてゲイツに急迫する。
 咄嗟に受け止めようと盾を構えるが、斬撃を受け止めた瞬間にエネルギーが切れた。ストライクはそのままゲイツの左腕を切り落とすと、その衝撃で弾かれたゲイツにバーニアを噴かして迫る。
 
「うぉおおおお!!!!」

 キラが咆哮する。
 半ば迷いを振り切る様に彼は突進する。しかし、システムが攻撃アラートを知らせる。彼の機体をアグニの強力なビームが擦り、機体がじりじりと音を立てて悲鳴を上げる。
 
「ディアッカ!ナイスです!」
「おう!お前は早く後退しろ!」

 ゲイツの後方からは、潜行していたナスカ級と共に複数の機体が出撃していた。彼らはバスターの支援砲撃と共に迫る。
 ストライクはメビウスを庇いながら後退すると、それを援護する様に一斉に艦隊が艦砲射撃を始めた。
 宙域が眩い閃光で溢れる。
 
「アークエンジェル前進微速、特装砲用意。」

 ラミアスが指示を出す。
 バジルール少尉がモニターを見ながら呼応する。
 
「ローエングリン照準、エネルギー充填率、80…90…100%充填完了!」
「丁!」

 ラミアスの号令下、特装砲が閃光を放ち前方を貫いた。
 
「回避!」

 グラディスの命令下、ナスカ級キグナスは回避運動をするが、彼女の判断は一歩遅く、左舷から翼に掛けてローエングリンの光が貫いた。
 損傷した左翼から爆発音がし、激しい衝撃が艦内全域を伝う。
 
「くぅ、報告!」
「は、左舷壁面損傷、左翼中破。隔壁緊急閉鎖していますがぁ……負傷者が出ている模様です。」

 アーサーの読み上げにグラディスは腸が煮えくり返る程の怒りを感じていたが、同時に足付きとの戦力差を改めて実感させられていた。
 
「今のは何なの!?」
「は、はい、センサーの記録からポジトロン反応が出ています。」
「ポジトロン!?…陽電子砲ですって!?!……なんて破壊力なの。(こんなものを正面から相手するなんて聞いてないわよ。…いいわ。やってやろうじゃない。アスラン・ザラ、見てなさい!)…キグナス前進微速!主砲照準、敵、足付き!」
「か、艦長!?」
「キグナスの勇姿を見せてやるのよ!!」
「は、はい!!」

 キグナスは損傷しつつも前進してきた。
 アークエンジェル艦橋では敵側の動きに動揺が広がった。
 
「敵ナスカ級、迫ります!」

 CICの報告にラミアスは狼狽えた。
 
「特攻する気!?回避!あ、訂正!!!(……できないわ!?敵はドレイク級を狙って!?)」
「艦長!このままでは。」
 
 迫り来る敵艦の姿に、いつも冷静なノイマンが慌てた。
 
「分かってるわ!特装砲用意!」
「この距離では充填が間に合いません!」

 ラミアスの命令も、バジルールはそれでは全く間に合わない事を告げる。
 だが、彼女にはそれ以外に打開策は見えなかった。
 
「いいから、出来るだけ充填して放って!!!」
「艦長!」

 CICのアーガイルが報告を上げる。
 彼女からしたらこんな余裕の無い状況で他の情報を上げられるのはうんざりだが、そんな事は言っていられない。
 
「今度は何!!!」
「後方から艦影!」
「なんですって!?」
「敵、ナスカ級です!!!」
「!?」

 艦橋が戦慄した。
 後方に現れたのはもう一隻のナスカ級、ヴェサリウスの姿だった。
 
「ザラ隊長、足付きを捕捉しました。…さすがです。」

 アデスが賞賛の言葉を告げた。
 その言葉にアスランは軽く手を挙げて返答する。
 
「いや、グラディス艦長程の人じゃなければ、あの場で引き下がってこの作戦はダメでしたよ。本当に尊敬すべきは彼らです。」
「…左様ですな。しかし、隊長の判断無くしても、この作戦は成立しませんよ。」
「…ありがとうございます。アデス艦長。さて、では、ヴェサリウス主砲照準!敵、足付き!砲撃用意!」

 アスランの命令下、ヴェサリウスはアークエンジェルに照準を合わせた。
 もう、その命令を下すばかりというその時、それは発せられた。
 
「ZAFT艦隊に告ぐ、今すぐ攻撃を止めなさい。」

 周辺宙域全域に聴こえる通信チャネルで、ジェインウェイの言葉が発せられる。
 
「本艦隊はZAFT現最高評議会議長、シーゲル・クラインの令嬢、ラクス・クライン嬢を保護している。
 宙域を漂っていた救命ポッドを人道的に保護した我々に対する攻撃は、ラクス・クライン嬢の命を奪う行動とみなす。本艦隊は貴艦隊が即座に攻撃を停止し、現宙域から去ることを希望する。
 もし守られない場合、クライン嬢は我々と運命を共にする事は免れないことを言い添える。尚、彼女の身柄は本艦隊が責任を持って移送し、外交チャネルで貴国に返す用意がある。」

 この通信に両軍は一時停止した。
 この通信は両軍にとって衝撃的な内容であった。
 
「………大佐、こんな………」

 ラミアス他アークエンジェル艦橋の誰もがその言葉に息を詰まらせ絶句した。
 キラもストライクの中で半ば時間が止まった様に聞き入っていたが、そのあまりの内容に愕然としていた。
 ヴェサリウスからアスランが怒りを抑えつつ足付きへ通信を入れる。
 
「…貴艦隊が…我が国民であるラクス・クライン嬢を保護したというが、本当か。その確認をさせて欲しい。」

 この通信に対し、一通の映像通信が発せられた。
 そこに映っていたのは、ラクス・クライン本人だった。
 
「はい、アスラン。お元気ですか?私は、大丈夫です。狭いお部屋に缶詰ですけど、地球軍の皆さんは良くしてくださっていますわ。
 地球軍の方々が仰る通り、私は彼らに保護されました。もし皆さんがこのまま攻撃を継続されていたら、私も貴方と会えなくなるところでしたわ。」

 彼女は終始笑顔でそう告げるのに対し、アスランは怒りも忘れ、半ば呆気にとられつつ言った。
 
「…あの、ラクス、貴方が無事で良かった。
 あー、その、我々は地球軍の言い分を聞き入れ、一時撤退します。しかし、本当に…その、無事の様ですね。」
「はい!とっても無事ですわ♪ですから、アスランも気を落とされないで。私、必ず帰ってきますから。」
「…はい。私も、必ず貴方を迎えに行きます。それまで、ご無事で。」

 この通信により、この戦いは唐突に終わりを告げた。
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【123】Voy in Seed 17
 制作者REDCOW  - 12/2/26(日) 23:59 -

引用なし
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    第17話「不可解な人質」
 
「…あれじゃ、まるで人質だよね。」
「…うん。」

 トール・ケーニヒの言葉にミリアリア・ハウが頷く。
 いや、その思いはこの場に集まる誰もが感じていた。
 あの時のあの通信内容を聞いた者なら、軍のやる事の汚さに幻滅を感じるのは無理も無い。食堂で同じ食事を取れること、休みが与えられた事は素直に有り難い事だが、何か納得が行かない良心の呵責を感じていた。
 
「…でも、あの場で大佐が言わなかったら、僕達どうなっていたんだろう。」
「………。」

 カズイの指摘はいつもながら的を射ていた。
 あの時にジェインウェイの通信が発せられなかったとしたら、ブリッジの指揮官達は打開策を見出せたとは思えなかった。少なくとも、ブリッジクルー達よりジェインウェイは一枚も二枚も上手だったことは間違いない。
 
「そういえば、キラは?」
 
 ミリアリアがトールに尋ねたが、彼は首を横に振った。
 彼女の問いにはサイ・アーガイルが答えた。
 
「さっきマードックさんに呼ばれて整備に向かったよ。…キラも複雑だろうな。あいつ、口では助かって良かったとか言ってたけど、相当無理している。
 フレイの件以来、塞ぎ込みがちだろ?いや、それ以前からMSに乗って戦うってこと自体、凄い負担だと思うんだ。それでも正義感…って言うのかな。あいつなりに信じてやってきたと思うんだ。それが、今回はまるで悪者だろ。」
「…悪かろうと、生き残らなきゃ意味が無いじゃない。」

 彼らのテーブルの横に水の入ったコップを手にしたフレイ・アルスターが現れた。
 彼女はトレーニングウェアを着て、その首にはタオルがかかり、顔は汗ばんでいた。
 コップの水を一口飲むと続ける。
 
「私は大佐の行動を支持するわ。使えるものを使わないで死んだって、誰も褒めはしないわよ。」
「だけど、物事には…」
「あらサイ、なら…私達はあの場で正義の味方ぶって、悪役に大人しく殺されろとでもいうの。私は真っ平ごめんよ。悪者?上等よ。悪かろうが生き恥晒そうが、勝たなきゃ何も言えないもの。…パパの様に。」
「……フレイ。」

 サイはそれ以上言えなかった。
 彼女はそれを言い終えると、食堂のカウンターの方へ歩いて行った。
 
 艦長日誌
 先の戦いはクルー達に動揺をもたらしていた。
 彼らは若く正義感に燃えている。だが、戦争は時に残酷な状況に出くわすものだ。その場で悪魔と罵られようと、冷徹に決断出来ずに生き残る事は出来ない。そして、それを理解しつつも、人とはとても繊細な生き物だ。
 
「…大佐、思惑通りに時間は取れ、我々は順調に航路を月艦隊に向けて進めています。」
「…そう。」

 バジルール少尉が私に現在の状況を報告した。
 その後、彼らは一様に押し黙っていた。
 私は一息溜息を吐くと、彼らに話しかけた。
 
「…皆さん、納得が行かない様ね。まぁ無理も無いわ。でも、私達は正義の味方でも何でも無い。軍人よ。課せられた使命を遂行する事にのみ、その能力を使わないといけない。
 ただし、私も人道を理解している。貴方達が良心の呵責に苛まれるだろう事もまた。だとしても、誰かが悪者にならなければならない時もあるのよ。
 誰か一人が悪者になることでクルーが救えるなら、私は躊躇わず悪魔にでもなる。それだけのことよ。」

 彼らには少々辛辣かもしれないが、これまでの経験上、ここで引いては何も良い結果は生まない。
 そこにフラガ大尉が挙手し発言を求めた。私はそれに頷いた。
 
「自分は大佐の行動は仕方ないと理解しています。自分も同じ立場なら、同様の指示を出します。」

 彼の言葉にバジルール少尉も続く。
 
「私も大佐を支持します。むしろ、大佐に感謝しています。本来であれば作戦指揮を任された我々がしなければならなかったことを、大佐が代行してくださり…正直、安堵しています。」

 バジルール少尉は自身でもその策を過らせていた。だが、それを決断する余裕を見出せず後悔していた。
 ラミアス大尉もまた、彼女の言葉に続く。
 
「…私も、助かりました。申し訳有りません。」

 まるでそれは雪崩を打つ様に、その場の参加者が皆感謝と支持を始めたのだ。さすがの私もこの状況には苦笑する他無かった。
 
「…もうやめて。ここは何かの宗教かしら。私は、やるべき事をしただけ。誰に感謝される話でも無いわ。もし何か悔いる事が有るなら、次は気をつければ良い。さぁ、私達がすべき事をしましょう。以上、解散。」

 ZAFT軍ヴェサリウス内アスランの執務室には、アスランの他にグラディスとアデスの姿があった。
 彼らは椅子に座りコーヒーを手に会話を始めた。
 
「まったく、呆れる程間の悪い話ね。本国の要請通りにクライン嬢は見つけた。でも、敵に保護され人質にとられ、あの最高のタイミングで…お陰でキグナスは大ダメージよ。」

 そう口火を切ったのはグラディスだった。その表情は晴れやかとは言えないが、それも当然だ。この場で一番活躍しながら、一番割を食ったと言えるのが彼女の艦だった。
 損害を覚悟の上で攻撃を仕掛け、後少しという所で逃す結果となった現状は腸が煮えくり返る程度では済まされない。クルーにも死者が出たのだ。怒らない方がおかしいくらいだ。
 
「グラディス艦長………今回は本当に申し訳有りません。私に非情さがあったなら…あの場で仕留めることも出来たと思います。」
「アスラン!?」

 アスランの言葉に一番驚いたのはアデスだった。あの温和なアスランがこのような事を言ってのけるとは夢にも思わなかった。しかし、この言葉は彼女に対して十分な牽制となった。
 彼の言葉に同意すれば、彼女はクライン嬢を見殺しにする事に同意する様な話だ。軍人として忠実な彼女からすれば、上層の命令は絶対である。
 
「…良いのよ。結果はどうあれ見つかった。後はどのように奪還するか。状況はより深刻よ。足付きを倒せばクライン嬢が死に、クライン嬢を生かせば足付きも無事。
 生きたまま奪還するとなると、当然白兵戦も視野に入れざるを得ない。私達の戦力に白兵戦要員なんていないわよ。まさか、鹵獲同様にあなたがやる気。」

 彼女の言う通り、事態はより深刻な方向と言えた。
 彼女の奪還を考慮に入れると攻撃オプションが限られる。
 だからと出来ないと言って帰る事が出来るわけでもなければ、このまま足付きをジョシュアに行かせるわけにもいかない。
 だとすれば、彼らは「どちらも」遂行出来ないといけない。
 
「…クルーゼ隊長ならば、私にこう言うでしょう。彼女を生かすのが難しいならば、彼女の亡がらを抱き泣いて見せるくらいの芝居は求められる…とでも。
 自分が泣いて済むのであれば、それでも構いません。だけど、問題はそこじゃない。見殺せば、父はシーゲル様と事を構えることになります。そうなれば…ZAFTは。」

 アスランの口調は淡々としたものだったが、その内容はその場に居るものを凍らせるには十分な内容だった。
 多少落ち着いたグラディスが言う。
 
「…国防委員長閣下の意図はわからないけど、少なくとも議長は彼女の生還を求めているでしょうし、国民もそれを望んでいるというのが本国の声でしょうね。
 まったく、足付きを倒しても倒さなくても、火に油を注ぐ様な話よ。…あなた、この戦いは何処まで行けば良いと思っているの?」
「…そんなことわかりませんよ。もう来る所まで来てしまった。現状は我々がまだ押しています。その間になんとか出来れば良いのですが。そもそも、私は政治家じゃない。」
「あら、いずれは貴方もお父上の様に立つことになるんじゃないかしら?」
「…そんな先のことはわかりませんよ。」

 アスランはそう言ってカップを口に運んだ。
 彼の言う通り彼らが何を考え行動しようと、事態は彼らの意図するものとは逆の方向に進むばかりだった。
 
 ジェインウェイはいつものシャトルアーチャーでの定例会議を招集した。
 ドレイク級の改修作業も終わり、艦隊が月へ向かって全速で航行を始めた事で余裕ができたのだ。
 表向きはいつもの様にお茶会としてお菓子を持ち寄っての座談会だ。
 
「セブン、トゥヴォック、エンジン改修作業ご苦労様。」
「社長、礼には及ばない。我々はすべき任務を全うしたまでだ。だが、感謝は受け取ろう。」

 セブンの言葉に私は思わず笑った。その反応に彼女は訝しげにしていたが、そんな反応がまたおかしかった。
 トゥヴォックがそこに咳払いをして状況説明を始めた。
 
「…我々は現在、月軌道に向けて航行しています。到着はこの速度であればそう時間は掛からないでしょう。しかし、問題は到着してからです。いくら我々が偽装しようとも、本物の軍部との接触は少々危険を伴うことが予想されます。」
「それは承知しているわ。でも、出来れば向こう側の上層と話が出来ると良いのでしょうけど、現状ではヴォイジャーとの通信も出来ないから、出たとこ勝負になるでしょうね。」
「いえ、ヴォイジャーとの通信は確立しました。」

 彼の発言は唐突で、さすがの私も目を丸くした。
 
「なんですって、いつ?」
「暗礁宙域離脱後にチャネルが開けました。ただ、チャネル発信元はボイジャーではなく、シャトルコクレーンからのものでした。」
「で、どうなって?」
「話によれば、副長が連合軍の大西洋連邦の上層との接触に成功したそうです。彼らは我々の救出に乗り気で、援軍を派兵する用意があると告げたそうです。」
「援軍ね。で、その上層の人間とはどんな人物なの?」
「副長からの報告では、ムルタ・アズラエルという、いわゆる主義者の最高幹部とのことです。」
「ブルーコスモスね。信用に値する人物なのかしら?」
「それは何とも。ただ、副長はそう考えられる人物だと見ているようです。」
「そう、わかったわ。後で私の方からも通信をしてみる。以上、解散。」

 主義者の最高幹部が我々に興味を示したというのは話が早い。
 私は副長との通信の上で彼の情報を頭に入れた。
 彼らはいまだ劣勢にある軍の立て直しに躍起になっている。そして、我々の元にやってきた3隻の艦も彼の指示によるものらしい。
 彼は軍とは別の独自の情報網があるらしく、不明のはずのアークエンジェルの位置をある程度推定出来ていたという。…でなければ援軍などやってくるわけは無いが、その背景は気になった。
 
 アークエンジェルの展望室で一人涙を流す少年の姿があった。
 キラはこれまでの様々な出来事を思い出し、胸を詰まらせる思いを感じていた。
 人を殺してしまった事、フレイの父を守れなかったこと、同じコーディネイターである少女を人質にして生きている事。そのどれもが彼の脳裏を埋め尽くし、安息させる暇を与えない。
 普段は作業に没頭することで何とか堪えていたが、先日の一件はそうした緊張の糸が切れる出来事だった。
 今度の自分は悪役としての役回りで、これで人殺し、役立たずとくれば最悪ではないかと自問自答し、そんな自分に耐えられず涙が溢れてきて、それを止めたくても止められずに溢れる涙に、様々な感情が堰を切って押し寄せ声を出して泣いていた。
 
「…どうなさいましたの。」
「テヤンディ!」

 そこに現れたのは、桃色の髪の少女だった。
 彼女の周りをハロがポンポンと跳ねる様に漂っている。
 
「ぁぁ!何やってんですか?こんなところで…」
「お散歩をしてましたら、こちらから大きなお声が聞こえたものですから。」
「お散歩って…、だ、駄目ですよ…勝手に出歩いちゃぁ……スパイだと思われますよ?」

 キラは涙を拭いながら言った。
 彼女はそんな彼に悪戯っぽく微笑む。
 
「ふふ、このピンクちゃんは…」
「ハロー。」
「…お散歩が好きで…というか、鍵がかかってると、必ず開けて出てしまいますの。」
「ミトメタクナイ!」

 彼女の答えにキラは溜息をつくと、彼女の手を握る。
 
「…あぁ…とにかく、戻りましょう。…さぁ。」
「ふふ、戦いは終わりましたのね。」
「…えぇ。まぁ、…貴方のお陰で。」

 キラの顔をにこやかに覗き込むラクス。
 しかし、彼の顔は晴れない。
 
「…なのに、悲しそうなお顔をしてらっしゃるわ。」
「……僕は…僕は、本当は戦いたくなんてないんです。それに、アスランは…。貴女も僕と同じコーディネイターなのに、人質にするなんて…。」

 キラは思い詰めた表情を再び始めた。
 彼女は彼の苦悩の深さを感じ取り、自分の手を取る手にもう片方の手を添えた。
 
「…気に病む必要はありません。私は、私の存在が誰かの命を救うのであれば、それで構いませんわ。命に亡くなって良い命なんてありませんもの。出来れば誰もが笑って暮らし、話し合える方が幸せですわ。」
「…でも。」
「…貴方は出来る事をしたのだから、それを気に病む事はありません。それより、貴方がこうして無事で私とお話して下さる…そんな事実の方が、ずっと大事な事だと思いますわ。」
「…あなたは…」

 彼がそう言いかけた時、彼女は彼の手を引いて引き寄せる。
 彼の体は無重力下で難なく彼女の元に引き寄せられ、そして抱きしめられた。
 
「…私は、誰でもない、ただの一人の人ですわ。」
 
 キラは彼女の胸で再び涙をこぼした。
 その姿をそっと廊下の影から覗く視線が有るとも知らず。
 

「…不本意だけど、私達の艦はこのままの戦闘継続は無理の様ね。我々の方から移せる人員はそちらに移したから、彼らの事はくれぐれも宜しく頼みます。」
「はい、グラディス艦長。」
「悔しいけど、アスラン・ザラ、期待しているわよ。」
「はい。」
「また会いましょう。ZAFTの為に!」
「ZAFTの為に!」

 グラディスとの通信が切れた。
 執務室の椅子に背を深く沈めると、彼は思索耽た。
 
 グラディスのナスカ級キグナスは左翼部の損傷の程度が重く、戦闘継続は困難と判断し本国へ帰投することになった。
 戦力の減少は痛いが、これまでの働きを考えれば十分な戦功を立てている。彼女は本国に帰投後昇格することが決まっており、内容としては凱旋帰国と言える。
 また、アスランへも唐突なフェイス昇進ではあったが、それに見合った結果を出しているということもあり、本国からネビュラ勲章の授与が伝えられた。そして、新たな援軍が派遣されることが決まった。
 日程的には連合の月艦隊への攻撃に合流させるというものだったが、近傍宙域にそのような事が可能なほどの船速を誇る船は存在しないため、リップサービスと割り切り溜息を付くのだった。
 
「…ラクス、何であんなに嬉しそうだったんだろう。」

 不可解な程ににこやかな彼女の表情は、誰かに強制されて言わされているという感じは受けなかった。
 どちらかといえば、とても自然に寛いでいる様な印象を受けた。ただ、不可解という言葉を使いつつ、彼女にとってはそれが普通の様にも感じられ、自分自身で何を言っているのだろうと自問自答する様な話でもあった。

 思えば彼女との関係は仲睦まじいとは言えなかった。勿論、喧嘩する程の険悪さはない。だが、喧嘩する程お互いを深く知っているわけでもなかった。
 有るのはぎこちないながらも彼女との関係をとろうと努力する自分と、それをにこやかに受け取ってくれる健気な彼女。
 正直な感想を言えば、こんなものは飯事の様なもので、彼女の方がそれをずっと上手く演じていた。

 それでも、あれ程自然に寛いでいる顔を見た事が無い。
 彼女の身辺には四六時中SPが付き、外出するにも自由が有るわけではないことは知っている。
 アイドルとして、親善大使として、彼女は公私ともに拘束された生活を送り、いわば現在の状況は初めての外泊くらいの勢いなのだろうか。

 あまり深く考えると頭痛の種になりそうな気がして考えるのを止めた。
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【124】Voy in Seed 18
 制作者REDCOW  - 12/3/3(土) 1:18 -

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    第18話「化石」
 
「あぁ、すばらしい。まさか自分の目でここまで到達出来る日が来るなんて。」
「ここがカイパーベルト。太陽系最外縁部のオールトの雲の手前ですよ。お気に召した様で?」
「えぇ、最初に聞いた時は眉唾物の話だと思っていたけど、こうしてこの場に立ってみると、彼女の申し出を受け入れて良かったわ。」

 彼女は終始ご機嫌だった。それは無理も無いことだった。
 このCEという世界に住む人類の中では、彼女がこの領域を通る初めての人間なのだ。
 世が世なら、彼女の一歩は小さくとも、人類にとっては大きな一歩とでも喧伝されるだろう出来事だ。しかし、彼女はそう出来ないことを条件にこの場に立っている。
 ある日突然仕掛けられた買収工作は、彼女が出社し自分のオフィスでゆっくりと新聞に目を通している間に、それは見事なまでに一瞬と言って良い程にあっさりと完了していた。
 世界中を駆け巡った投機資金は自身のグループ会社は勿論、世界中の「加われば良い」と考えていた企業や、手を出すには多額の資金が必要と断念していた企業群も含めて、全て「VST」と名乗る企業のもとに集結していたのである。
 そして、彼女が新聞を見終えた所に、オフィスへ何の前触れも無く入ってくる人物達の姿があった。先頭を歩く人物はサングラスをかけた女性で、両サイドには先住民を思わせるタトゥーの男と、アジア人の男が連ねていた。
 
「あなたがシャノン・オドンネルね。この会社は私の会社が買収しました。」
「…何ですって?」

 私は卓上のPCから彼女の言葉の真偽を確かめたが、確かに彼女の言う通りの現実が現れた。
 それはあまりに突然過ぎて、一瞬頭の中が真っ白だった。そんな私に彼女はこんなことを言った。
 
「驚いたわ。データで知ってはいたけど、本当に私にそっくり。フフ、こういう偶然は何か運命的なものが糸を引いているのかしら。」

 彼女はサングラスを外す。
 その顔は鏡でも見ているかの様に私にそっくりだった。
 いや、顔だけじゃない。声も背格好も同一と言って良い程だ。
 
「私は貴女と取引がしたいの。」
「…どんな。」
「そうねぇ、確か東洋の歴史では、こういうのを影武者と言ったそうね。」
「…それは、貴女の身代わりになれというの?」
「いいえ。その逆よ。」
「え。」
「…私が、貴女になるのよ。」

 それが、キャスリーン・ジェインウェイとの出会いだった。
 
 艦長日誌
 艦隊は月の第八艦隊との合流ポイントへ向けて航行していた。新しいエンジン周りをまとった二隻の艦はアークエンジェルの船速に十分に付いてきており、到達予定時間はかなり短縮出来そうだ。その間に我々は新型の為のパイロット選定を決める事となった。
 
 これまでに参加した候補の中で、最後まで残ったのはフラガ大尉にノイマン軍曹、そして意外にもフレイ・アルスター二等兵であった。この中で、私はフラガ大尉については候補選考から外す事とした。
 理由は、彼が既にパイロットであること。
 彼はMSへの転向を考えていた様だが、それは希望として受け取り、訓練を受けられるものとした。残るは二人。
 
 最終選考はセブンが調整した新型用OS搭載のシミュレータによる実技選考とした。
 この選考で使われる機体はジンだ。しかも、これまでのデータを凝縮してセブンが魔改造といってもよい極悪的な難易度の調整を加えたジンを、自分のジンで倒すというものだった。
 
 先に乗ったのはノイマン軍曹だ。
 彼は持ち前の冷静な持ち味を活かし、OSがアシストする操作を加味して柔軟に機体を乗りこなしていた。さすがにパイロットとしても操縦してきている彼だけに、その資質は十分なものといえる。
 ジンとの戦闘結果は10分程の戦闘で撃沈という結果に終わった。
 
「次、行きます!」

 そして、フレイ・アルスターの番だ。
 彼女の操作は所々ぎこちなくはあるが、この選考が始まってからというもの、フラガ大尉のメビウスで操縦訓練をしていたというだけあって、なんとか操縦は出来ていた。だが、逃げに終始していて、攻撃に転じる動きが全く見られない。
 ただただ、逃げているのだ。
 
「ちょっとぉ、なんなのよコイツぅ!!付いて来ないでってば、後ろに付かれるの嫌なの、もう!」

 ジンが銃を構えて撃ってくるが、彼女はそれをまるで僅かに予知したかの様に紙一重の差で回避している。
 …あれは真似て出来る様なものではない。
 
「…いい加減にしなさいよ、この宇宙人!えい!!!」

 彼女の機体が突然宙返りをして攻撃を回避すると、そのままの勢いで銃を構えて発射した。
 その攻撃は見事に敵ジンのコクピットに命中し、パイロット死亡。…つまり、戦闘に勝利したのだ。
 
「…ざまぁ、味噌漬けよ!!!」

 み、味噌漬け!?…という疑問は置いておき、彼女はめでたく新型の正式パイロットに決定された。
 だが、今回の選考に残ったメンバーには皆訓練を受けさせる事にした。
 
 その頃、ZAFT軍ヴェサリウス艦橋ではアデスは勿論、そこにはZAFTレッドのメンバー達が話し合いをしていた。
 
「アスラン!お前、勲章貰う暇があったら、その…ラクスちゃん…を救い出す方法を考えろよな!!!」

 初っ端から飛ばすのはイザーク・ジュールだった。
 彼は大のラクスファンだけあり、ラクス救出に燃える炎は大きい。
 その言葉に半ば頭痛を覚えつつも、アスランは答える。
 
「…何も勲章を貰う為に戦っているわけじゃない。あれは本国が勝手にしていることだ。正直うんざりしている。君に言われるまでもなく、彼女は許嫁だ。救い出すためにどうすれば良いか考えているさ。」
「ほぉ、じゃぁ、策はあるのか!」
「…だから、その策をみんなで考えているのだろう。妙案があれば聞くよ。イザーク。」
「妙案!?そんなもの、突っ込んで乗り込んで行って、『ラクス様、お迎えに参りました。』『キャァ、有り難う!もう大好き!』と熱く抱きしめてだなぁ…」

 イザークはもはや自分の世界に入っていた。
 ご丁寧に熱い抱擁シーンまでジェスチャーしてみせる始末だ。
 
「…イザーク。君がラクスに並々ならぬ思いが有る事は分かった。その気持ちは胸に仕舞おう。だけど、突っ込んでいってどうやって救出する。乗り込んで行くということは、君が白兵戦を仕掛けるのかな。」
「おぅよぉ!!!槍でも鉄砲でも、何でもこいだおい!!」
「はぁ…(俺、なんでこんな奴しか周りにいないんだろ…)、良いだろう。君が乗り込むと良い。でも、足付きに組み付いて中に侵入するとなると、奇襲でもしないかぎり難しいだろう。
 前回の戦闘でミラージュコロイドはバレていた。向こうは当然それを想定して対峙してくると見て良い。本気で艦を落とさない限り難しいだろうが、そうなればラクスの命は無いだろう。」
「ぐぬぬぬぬ。」
「アスラン、良いですか?」
「良いよ、ニコル。」
「はい、僕は第八艦隊と合流する前に足付きを叩く事を提案します。」
「今叩くと?…これからやるとなると、相手との戦闘時間は10分有るか無いかになるぞ。」
「はい。それでも10分もあるんです。何もせず合流されるよりは少しでも削っておいた方が良いはずです。
 クライン嬢を救出する事も大切ですが、我々の最大最重要の任務は足付き艦隊を沈める事です。見逃せば、犠牲は…クライン嬢だけでは済まされないでしょう。」

 ニコルの鋭い視線が飛ぶ。
 普段の彼からは想像もつかない様な冷たい視線に、アスランは背筋にそら寒いものを感じつつ、彼の提案が「自分の一番言いたいこと」であることに気付いた。
 いわば彼は憎まれ役を買って出るというのだ。
 
「…君は、俺に彼女を犠牲にしろというのか。」
「…いいえ。白馬の王子様ならば、必ずやハッピーエンドに出来ると期待しています。」
「…ったく、無茶を言ってくれる。良いだろう。仕掛けてみようじゃないか。ディアッカ、君はそれで良いのか。」

 唐突に振られたディアッカだが、彼は指で鼻をこすると、彼らしい不敵な笑みを浮かべた。
 
「…俺は隊長さんの命令に従うまでだぜ。ま、どの道あいつ等とは決着付けなくちゃならないからな。」
「…そうか。それを聞いて安心した。アデス艦長、聞いての通りです。急な仕事ですが、お願いします。」

 アスランの姿勢はいつも丁寧だ。
 アデスはその低姿勢ながら大胆さも持ち合わせたアスラン・ザラという男に期待してみたくなった。
 
「アスラン、君は良くやっている。私もやれる限りをやろう。」
「有り難うございます。」

 アスランは強く拳を握りしめた。
 その目は遠く先を行く足付き艦隊を見据えるかの様に。
 
 アークエンジェル艦橋ではCICが敵の発進を確認していた。
 
「方位、202マーク5、空間グリッド3842195。後方航行中のZAFT艦隊からの出撃を確認。」
「機体はジン3機並びにバスター、グリーン、ブラック、…それに、イージスです!」
「イージスだと!?」

 サイ・アーガイルの読み上げにバジルールはこれまでの戦闘を思い出していた。
 これまでの戦闘で目立った動きこそして来なかったが、イージスは的確に戦場をコントロールしていた様に見えた。イージスが出てくるという事は、敵も本気で落としに来ているのだろう。
 彼らは連合が開発した機体を上手く運用している。しかも、これまでの戦闘を見る限り、彼らは深追いはしない慎重さも兼ね備えていた。
 敵の目的がどの程度を目指しているのかは分からないが、確実にダメージを負わせることに着目していることは明らかだろう。
 
「大佐、自分は特装砲発射後、出来る限りの弾幕を張り牽制を掛けながら振り切ることを提案します。」

 彼女の提案にジェインウェイは顎に手を当てしばし思案すると答える。
 
「…振り切って振り切れるかしら。向こうも仕掛けてくるには何かの勝算があると見るべきね。」
「と、仰られますと。」
「分からないわ。彼らじゃないもの。ただ、言える事は、逃げちゃダメよ。戦いながら…思い知らせるべきね。」
「思い知らせる!?」
「ラミアス艦長、バーナード及びローのフライを出撃させて宙域にスタンバイ、私の合図で一斉射撃。MS隊も出撃させて。彼らには別の動きをしてもらいます。」
「はい。本艦のメビウスゼロはどうされます?」
「フラガ大尉にはフライ部隊を指揮して貰いますから、MA隊として動いてもらうわ。」
「わかりました。僚艦に打電、MA出撃手配をお願い。MS隊ストライク、デュエルを出撃、大尉のゼロはMA隊の指揮を。」

 連合艦隊が慌ただしく動き始めた。
 ZAFT側でもその動きが確認されていた。ヴェサリウスのブリッジでは足付き艦隊から5機のMAの出撃が報告される。
 敵側の動きの速さに、アスランはイージスの中でヴェサリウスからの情報を見て舌打ちした。
 
「(…この距離でこちらの動きが全て補足されている!?…連合のレーダーは化け物か。これでは奇襲にならないじゃないか。)全機散開!敵の陽電子砲には注意しろ。あれは触れて良いものじゃない。」

 各機から了解の通信が入る。敵の動きの速さから計算して、もう撃って来てもおかしくない。…と思っている矢先に第一射が二筋の閃光を走らせ宙域を貫く。対応に遅れてジンの一機が足を損傷した。
 
「損傷した機体は戻れ!(くそ、まるで見透かされている。)敵陽電子砲の射程を定めさせるな。ヴェサリウスは後方待機を維持。」

 バスターが進行を止めて途中の宙域で回避運動をしながら撃ち始めた。
 バスターの弾幕が宙域に煙幕を張る様に味方の姿を隠す。
 その隙を突く様にイージスを先頭に各機が続く。
 
 アークエンジェルではジェインウェイが号令を出した。
 
「今よ!」

 MA隊が一斉に射撃を始めた。
 しかし、その射撃する方角は進行方向正面ではなく、上下で別れていた。
 それはまるで宙域を水平に隠す弾幕を回避する様に。
 
「何!?(全て予測済みだと!?)くそ、全機撤退!)」

 アスランが作戦の中止を叫ぶ。
 しかし、イザークが1人その命令に背き突進した。
 
「ラクス様は目前なんだぞ!!!ここで引いてはイザーク!男が廃れるぜ!」

 ゲイツ・アサルトのバックパックから小型ミサイルが射出される。
 それらの射線上を辿る様にゲイツが高速でアークエンジェルへ迫る。
 
「もらったぁ!!!!」

 イザークが咆哮する。だが、彼の突撃はストライクによって止められた。
 
「…アークエンジェルを傷つけるのは、この僕が許さない!!!」
「なにぃぉおおおお!!!」

 イザークは相手の技量が高くない事は先の戦いで見抜いていた。
 そんな奴が堂々と自分の前にやって来たことに、自分を安く見られた様で憤慨した。
 
「大した技量も無いくせに!!!」
「ぐぅぅ。」

 キラは食いしばりながらシュベルトゲベールで受け止める。
 
「ラクス様を返しやがれ、この卑怯者がぁああ!!!」
「な!?…んだとおお!!!ラクスは渡さない!!!」

 キラの頭の中で何かが弾けるのを感じた。そして、その瞬間、周りに見える全てのものが漠然とだが、ある種当然とも言える程ハッキリと理解出来る様に感じられた。
 彼の前方からは途方も無い闘争本能が感じられる。それは自分に対し攻撃を仕掛けているのだが、何故だろう、突然動きが緩慢になった様に見える。
 理由は分からないが遅く動くのであれば、こちらも容赦する必要は無い。
 
「(大した技量も無いのは、君の方だ!!)」
「な、ぐあぁああ!!!!!」

 シュベルトゲベールがゲイツのコックピット付近を切り裂いた。その損傷により内部で誘爆しイザークが負傷する。
 すかさず止めを刺そうと動くストライクだが、そこを強力なビームが走る。変形したイージスの放ったスキュラがストライクとゲイツを引き離すと、そのままイージスはゲイツに組み付いて後方へ撤退していった。
 
「…敵ながら、毎度潔い引き際ね。引くなら追わなくていいわ。全機撤収。全艦全速前進。」

 ジェインウェイが宙域を見つめながら命令を告げる。
 第八艦隊はもうすぐだ。
  
「キムからヴォイジャー。」
「はい、こちらヴォイジャー。なんだいハリー。」

 ハリー・キムはデルタフライヤーで「シャノン・オドンネル」を乗せ、オールトの雲を抜けようとしていた。
 本物のシャノンとの影武者契約の交換条件は、彼女の、いや、まだ人類の誰も見た事も無い領域への探査であった。
 とはいえ、この任務自体は米国宇宙軍の最新型宇宙船を使用した試験飛行という名目で、デルタフライヤーがワープドライブを搭載した未来の船だと夢にも思わないだろう。
 彼女は純粋に科学的探究心が旺盛で、自分の目で見たもの以外は信じない。…そうした所はジェインウェイにそっくりだ。

「なぁ、トム、こちらで人工的な、亜空…あ、いや、通信をキャッチしたんだが、帯域の問題か上手く調整出来ない。そちらに転送するから調べてくれないか。」
「良いだろう。ベラナにスタンバイさせておく。」
「わかった。転送を始める。」

 ハリーは航行中、謎の通信をキャッチしたのだ。その内容は上の通り、何を発しているのかさっぱりわからず、いくら調整しても自動翻訳機の調整範囲に入る音声通信に変換出来なかったのだ。
 デルタフライヤーのコンピュータは限定的なため、その通信内容をサンプリングしたデータをヴォイジャーで解析すれば、もしかしたら聴けるかもしれないと彼は考えた。
 トレスが機関室から通信を入れる。
 
「こちらベラナ。あなたの通信を解析してみたけど、こちらでもサッパリわからないわ。なんかイルカやクジラの声みたいなものに近い音声データには変換出来たけど。」
「イルカやクジラ?他にデータは?」
「音声データの他に幾つか画像データがあるわ。んー、何かの文字みたいなものと、色々な絵があるわねぇ。それに、これは…クジラ?…クジラに羽が付いた様な生き物の画像があるわ。」

 シャノンは彼女のあるワードに引っかかった。
 
「羽!?」
「え、そこに艦長がいるの!?」

 シャノンの声に、ベラナはジェインウェイと勘違いして驚いた。
 ハリーは慌てつつ、どう説明して良いか言葉を選ぶ。

「あ、いや、その、例の。」
「え!?…あ、あぁ。そ、そういえばそんな話だったわね。えーと、シャノンさん…よね?」
「えぇ、そうよ。ベラナさん、初めまして。その…羽の付いたクジラの画像を、こちらへ送って貰えるかしら?」
「良いわ。どうぞ。」

 ベラナがフライヤーのモニターに画像を転送する。
 モニター上に映された絵を見て、シャノンは驚愕した。
 
「…エヴィデンス・01。」
「え?エヴィデンス?」

 ハリーは唐突に告げられた単語に首を傾げる。
 
「…エヴィデンス・01よ。知らないかしら?初の地球外生命体の証拠として、プラントに化石が残されているわ。」
「…どういうことよ、それ。化石って、億単位の昔のものってことよね。」

 通信の向こう側のベラナが不可解とでも言いたげな表情で話す。
 それに対し彼女は腕組みをし、右手を顎にあててしばし考えると、半ば自分に言い聞かせる様に言う。
 
「…そうかもしれないし、違うかもしれない。私達はまだ科学のほんの僅かな際に居る存在よ。でも、一つだけ言える事が有るわ。彼らは『居た』のよ。…その生死はともかくとしてね。」

 シャノンはその画像に見入っていた。
<Mozilla/5.0 (Macintosh; Intel Mac OS X 10_6_7) AppleWebKit/535.11 (KHTML, like...@i114-181-54-79.s05.a001.ap.plala.or.jp>

【125】VOY 資料
 制作者REDCOW  - 12/3/11(日) 17:32 -

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[添付]〜添付ファイル〜
・名前 : voiinseed.jpg
・サイズ : 459.2KB
   とりあえず、ボイジャーの資料を作っておきました。
スタートレックヴォイジャーの宇宙艦とはこんなものです。

テクノロジーレベルは比較にならない程強力です。
とはいえ、万能でもありません。

ガンダム世界とは戦闘のやり方が違うけど、キャスリーン・ジェインウェイは悪魔です。(何)彼女は何処にいても、どんな手段を使っても勝ちにくる辺り、ある意味パトリック・ザラとは共感出来る人かも知れませんが、彼女の人道主義の前には全てが却下されるほど頑固者なので、たぶん無理でしょう。

宇宙連邦と地球連合は歴史的経緯を考えると互換性があるという設定です。宇宙連邦に繋がるのは地球連合の様な普通の人類の歴史であるという基盤から、コーディネイターの異質性が出てくるわけですが、ヴォイジャーはコーディネイター以上の遺伝子制御技術(生体遺伝子組み換え等)があるため、彼らの技術を客観的に評価出来る程度には公平に分析出来ます。
(※何より、Star Trekの本編内でコーディネイターよりよっぽど酷いヴィディアやボーグといった遺伝子どころか生体そのものを改造する種族と遭遇しているため、コーディネイター程度では驚きません)

果たして、彼らは故郷へ帰られるのだろうか?

添付画像
【voiinseed.jpg : 459.2KB】
<Mozilla/5.0 (Macintosh; Intel Mac OS X 10_6_7) AppleWebKit/535.11 (KHTML, like...@i118-20-116-125.s05.a001.ap.plala.or.jp>

【126】Voy in Seed 19
 制作者REDCOW  - 12/3/19(月) 20:08 -

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    第19話「決意」
 
 ZAFT軍ヴェサリウス内アスランの執務室では、応接椅子に座るザフトレッドの面々が居た。
 アスランの対面に座るのはディアッカ・エルスマンとニコル・アマルフィだ。
 彼らメンバーのもう一人の姿はない。
 
「…イザークの負傷具合は幸い軽度だった。命令無視の結果とはいえ…無事なことは不幸中の幸いというべきか。」

 アスランはイザークの処遇に苦慮していた。
 作戦中の命令無視による独断行動の結果の負傷だ。
 機体の損傷も含めての責任は重い。
 
「イザークの奴、顔の傷は幸い治るらしいが、本国に帰還する必要があるって聞いて拒否ったそうだぜ。まぁ、あいつの熱さはいつもあんな感じだ。確かに傷を負いはしたが、本人も機体も直せる範囲だから、隊長権限で不問…ってなわけには行かないのか?」
「ディアッカ…言いたい事は分かるが、あいつの為になるのかわからない。ZAFTは自由な規律の軍隊だが、上官命令には罰則を科せる権限がある。…とはいえ、正直な話を言えば、今はどちらでも良い。戦いたいというなら、それを優先する。」
「ほぉ…。」

 ディアッカはアスランの意外な判断に驚いた。
 この件は以前の彼の真面目さを考えれば、確実に問題にしてイザークの動きを押さえ込むと考えていたからだ。
 そこにニコルが尋ねる。
 
「どちらでも良い…ということは、イザークはそのまま戦力として温存するということですか。」
 
 ニコルの質問に、アスランは溜息を吐きつつ答えた。
 その表情からは彼が自分の決断に満足している風には見えない。
 
「…そうだ。いずれにせよこちらの戦力は不足している。1人でも欠けるのは痛い。失態は功績で挽回してもらうしかないだろう。」
「そうですか。僕も…提案した張本人です。処罰は覚悟の上でしたが、アスランはそもそもこの戦いをあまり乗り気ではなかったのではないですか。」
「乗り気?………決断した以上、ニコルだけの責任じゃないよ。
 試す価値はあると思っていた。いや、価値は有ったのかもしれない。だが、それで分かったのは…相手の能力が想定より驚く程高いという現実だよ。
 データは冷酷だ。奴らのセンサーレベルは並外れている。こちらの動きは全てお見通し。
 俺達は連合のセンサー範囲ぎりぎり圏外を航行していたはずなんだ。…少なくとも俺はそのつもりだった。なのに、従来のレベルを大幅に越えていた。」

 アスランの指摘は二人も実際に目にしていた。
 連合艦隊は機敏に対応し、こちら側の攻撃態勢とほぼ同時に行動して戦術を揃えて来ていたのだ。
 しかも、それだけではない。こちら側に合わせて戦術を凌駕してさえみせた。
 それは単にセンサー上で識別していたというよりは、動き自体を把握しているとでも言える程機敏で的確な行動だった。
 
「…もしかしたら、俺達はとんでもない勘違いをしているのかもしれない。」
「勘違い?」

 ニコルが首を傾げた。
 ディアッカも珍しくアスランを真面目な顔で注視している。
 
「あぁ。俺達はモビルスーツが重要だと思っていた。だけど、本当はあの足付きが一番重要だったんじゃないのか。」
「…連合の大鑑巨砲主義の修正としての足付きではなく、飽くまで大鑑巨砲主義version2.0とでも言う代物だと?」
「おいおい、ちょっと待ってくれよ。鹵獲MSだって十分高性能だぜ?…なのにあの足付きはもっとすげーってのか?」
「…そう想定出来る条件がこれだけ揃っていて、否定する方が難しいとは思わないのか。二人は。」

 言い終えてアスランが背もたれに深く体を沈め、目を閉じた。
 注視する二人の顔には、うっすら汗がしたたっていた。
 彼の滲み出る苦悩の姿が、この時ハッキリと彼らにも共有出来るものとなったのだった。
 
 その頃、アークエンジェルの食堂では、加藤ゼミの面々が第八艦隊と合流するとあって最後の会食と洒落込んでいた。
 
「一時はどうなる事かと思ったけど、さっきの戦闘も無難にこなして何とか無事にこれたな。」

 サイ・アーガイルは感傷に浸る様にこれまでのことを思い出しながら話していた。
 カズイがそれに続く。
 
「そうだね。でも、フレイはどうするのかな。」
「フレイは……わからねぇ。」
「え、サイ、最近フレイと話して無いの?」

 カズイの質問はサイにとってはとても痛い問いであった。
 それでも話さないわけにもいかないかと腹をくくる。
 
「…俺達、別れたんだ。」
「えぇ?!」

 全員が驚く。
 あまりの反応に彼自身も驚くが、気まずいながらも続ける。
 
「フレイはこの前のパイロットの件と良い、かなり本気でトレーニングを受けているだろ?…でも、俺達は元々は民間人で、一時的に入隊している扱いだ。だから、第八艦隊との合流でオーブに一緒に帰るもんだと思っていたんだ。だけどさ、あいつ、残るって言ったんだ。」
「残るってことは…正式に入隊するってことでしょ?それとサイと別れるのはどう繋がるのよ。つまり、一人で帰れって言われたから?でも、それならサイは残る気無かったの?」
「…ミリアリア、俺がそんな冷たい男だと思ったか?…勿論、一緒に残ると言ったさ。俺としてはフレイには帰って欲しかったけど、自分は残るつもりだった。」
「じゃぁ、別れる理由無いじゃない。なのにどうして?」

 確かにこの中には全く別れる要素は無い。
 フレイは除隊しないことにも同意し、彼自身も残るというのだ。
 一緒に戦って行こう!…で万事安泰であるはずだった。しかし、サイにとってはまさかの答えが待っていたのだ。
 
「…振られたんだよ。そもそも俺達の関係は親同士が決めた物だ。あいつは…俺の事を頼りにしてたし、大きな不満も無かったんだとよ。でも、それがいけなかった。
 あいつ、変わっただろ?…おじさんが亡くなってから自立し始めたんだ。つまりはさ、俺は単なるお守り役だったってことさ。」

 しみじみと語る彼の話に一同は何も口を挟めそうになかった。
 しばし辺りに静けさが降りる。
 カズイが話題を変えようと口を開いた。
 
「あ、あのさ、キラはどうするのかな。凄く辛そうだったし、除隊…するよね?」

 この会食にキラの姿はなかった。
 彼はいつもの通りMSのメンテで出払っている。
 しかし、この場で一番帰りたいと感じているのは彼だろうことは一同の共通認識だった。
 
「うーん、だけどよぉ、俺、この前こっそり見ちゃったんだけどさぁ、あのピンクの御姫様とキラがラウンジで抱き合っていたんだぜ?」
「えぇええ!?」

 トール発言にどよめく。
 彼は頭をぽりぽり掻きながら自分の発言に自重しつつ続ける。
 
「あ、いや、俺が見たってことは内緒だからな!…ここだけの話、あいつ、お姫様のことを人質にした事を凄く恥じていて、堪え切れず泣いていたみたいなんだ。そこをお姫様が慰めた…と。どうも、あのお姫様とキラ…出来ているんじゃないかな。」
「…あ…それ、わかるわ。この前の戦闘でも、キラ、彼女の事凄く気にしてた。うん、だったら、彼女の為に残るかもしれないわね。」
「っちぇ、いいよなキラは。何でも出来て、ルックスも悪くないし。あんな綺麗な子と付き合って…リア充爆ぜろ。」
「…わかるぜ、兄弟。」

 カズイの最後の呟きに、普段なら引いているはずのサイが同意した。
 そう、彼ら二人はゼミの男達の中では、彼女のいない不遇者同士となっていたのだ。まさに兄弟。
 
「あ、そうそう、俺も残るが、お前達は無理しなくて良いからな。」

 サイの言葉にトールが首を横に振る。
 
「いやいや、サイが残るなら俺も残る!乗りかけた船だ!最後まで乗ってやるさ!!!」
「トールが残るなら、私も残る!」

 彼は力強く拳を握り宣言する。
 彼の話にミリアリアも意志を固めた。
 だが、その彼女の決意に一番驚いたのは隣に座るトールだった。
 
「え!?!ちょ、ミリィは戻れよ。無理すんなって!」

 彼は慌てて彼女の説得に入る。しかし、彼女の意志は固い。
 
「ちょっと、私を女だからって差別しないで!それにトールと離れるなんて、嫌!」
「ミリィ…」

 感動のあまり、彼は思わず彼女に抱きついた。
 彼女はそれに応えるようにひしと自らも彼を抱しめると、もはやそこは二人のラブプレイスだ。
 それをこのバカップルだめだとばかりにジト目で見る二人。
 
「…はぁ。みんなが残るなら、僕も残るよ。怖いけど…最近トレーニング楽しいし。」
「良いのか?」

 サイはカズイが無理していないか心配して声をかけた。
 だが、彼は首を横に振って答える。
 
「僕もアークエンジェルのクルーだよ。仲間はずれにしないで欲しいな。」
「はは、そうか。そうだよな。」

 一同の決意が固まった。
  
 艦長日誌
 我々は連合軍第八艦隊と合流した。
 旗艦メネラオスとの通信チャネルも開き、この艦もようやく連合軍の正式な一員として迎え入れられることになった。
 そして、この軍を指揮する最高指揮官デュエイン・ハルバートン准将が自らアークエンジェルを訪れた。
 
「よく守ってくれました。ラミアス君の話から聴きましたが、ジェインウェイさんの采配だったと知り驚きましたよ。この場を借りて改めて礼を言いたい。」

 ハルバートンは帽子を脱ぎ、深々と私に向かって礼をした。私はそれを直す様促して応じる。
 
「いいえ、礼には及びませんわ。私も犬死には御免です。生き残る為に協力するのは当たり前です。それに、ふふ、それ相応の報酬を頂きますし。」
「ははは、相変わらずだ。しかし、あなたの功績は大きい。この艦は勿論、試作の2機を持ち帰れることは、今後の連合とZAFTの戦況を大きく変えることになるでしょう。しかも、それが可能となったのは貴女の存在が大きい。
 どうです、正式に復隊されるおつもりはありませんか。」

 来た。この質問は想定内の言葉だ。

「私が復隊したとして、どのような扱いになるのかしら。今は飽くまで臨時で暫定の大佐でしたけど、正直私もそれなりに歳ですから。」
「何をおっしゃるか。この件については、既に上層部側も了承していてねぇ。貴女が良ければ正式に連合軍第八艦隊所属の大佐として復帰することになる。
 まぁ、私の部下扱いではあるが、不自由は無い様に私も努力する。どうですかな?」
「…准将閣下、勿体ないお言葉ですわ。ただ、正式に軍属となると…経営上に不都合が出ますわ。」
「ふむ、確かに兼業軍人はあなたの経営は勿論、我々としても問題だ。ただ、あなたはこれだけ秘密を知ってしまっている立場だ。それほど選択肢が無いことは承知してくださるものだと思うが。」
「条件を提示したら、そちらは飲んでくださるかしら?」
「条件?…内容次第ですな。」
「私が責任を持つのはアラスカまで。それ以降は民間企業として戻る事を許可して頂けますかしら?…この艦を無事に送り届ければ軍部としては十分じゃなくて?」
「…惜しいな。私としては貴女と共に戦いたいものだが。」
「准将閣下……私は何も軍から全て手を引くわけでは有りません。状況次第では継続もあり得るでしょう。しかし、私が軍属として残らなかった理由もお察し下さい。」
「…火星での記録は目を通した。当時の軍部が君に対して辛く当たったことは承知している。…うむ、これまでの貢献を考えれば、我々が譲歩しない方がおかしいというべきか。わかった。私が君の希望を保証しよう。」
「閣下、有り難うございます。」

 この後の交渉で、私は正式に第八軌道艦隊所属大佐として着任した。
 所属艦隊はこれまで通りアークエンジェル及びバーナードとローを指揮下に置くが、ハルバートン准将は月のアルザッヘル基地への移動ではなく、大西洋連合司令部のあるアラスカへの降下を求めてきた。
 これには私も異を唱えたが、准将は一刻も早く地球に持ち帰りGAT-Xシリーズの量産化をはかり、失われ続ける若者の命を減らしたいと望んでいた。
 彼の言葉は我々の連邦にも通じる人道が宿っている。少なくとも彼の様な指揮官が連合にいることは救いと言えた。
 指揮系統については、所属艦隊の指揮権は私にあるものとし、第八艦隊旗下では旗艦メネラオスの命令に従うものとした。
 
「え、わ、私が中佐ですか!?」

 私の言葉に一番驚いたのはラミアス大尉だ。
 准将との会談後に作戦室に集まった上級士官との会議の席で、私は彼女に昇進の話を振った。
 彼女からしてみれば、雲の上の話が唐突に自分に振りかけられ、どう反応して良いのか頭真っ白という様子だ。
 
「貴女にはこれからもアークエンジェルの艦長で居てもらいます。これまでの働きは十分な力を発揮していたと評価しているの。どうかしら?」
「…私に務まるのでしょうか。中佐だなんて。」
「この度私が正式に着任する以上、この作戦室の面々は私の軍の参謀として機能してもらう必要があります。その為に一定の権限を持ってもらわないと、これからの任務に差し支えると判断したの。
 それに、私が指揮するのはアラスカまで。それまでにここに要る皆さんには私が居なくても機能するだけの技量を学んでもらいます。いわば、ここは上級士官としての資質を磨く学校だと思ってくれて良いわ。」

 この後ラミアス大尉は同意し彼女は中佐に、バジルール少尉は大尉に、フラガ大尉は少佐に昇進させた。
 二隻の艦長のグライン/ブライトマンの両名は少佐のまま留任し、トゥヴォックを中佐に昇進させ腹心とした。
 その他の処置はほぼそのままで、人員については降下するアークエンジェルへバーナード及びローから補充すると共に、民間人についてはそのままアークエンジェルが降下してアラスカ経由で本国へ送り届ける事となった。
 操艦についてはこれまで通りとし、トゥヴォックの所属をバーナード及びローの指揮官として配置し、宇宙へ残ることとした。
 方針が決まると話は早い。艦隊からは地上用戦闘機であるスカイグラスパー2機が補充された。また、不足していた必要物資も滞り無く積み込まれ、これまでガラクタの山を再生して利用していた整備陣も色めき立っていた。
 
「これ、こんなに急いで整備する必要有るんですか?」

 キラはハンガーでフラガのメビウス・ゼロの整備を手伝っていた。
 地球降下も視野に入った事から、セブンの発案でメビウスに翼を付ける作業をしていたのだ。
 大気圏内でのガンバレルの使用は無理だが、前回の戦闘後にラミネート装甲に切り替えたこともあり耐久性も上がっている。

「アニカちゃんは仕事が早いからな。…そのために出撃出来ないのはまずいだろ?」
「それは…そうですが。」
「それより、お前の方は良いのか?」
「はい。ハンセンさんがOSの調整をしてくれています。今度積み込まれたスカイグラスパーはストライクと互換があるそうで、武装が使えるそうです。」
「へぇー、そりゃまた凄いな。こいつにもそんな機能有れば良いのになぁ。ま、このゼロの大気圏内改造は簡易だ。突入は無理だが、空力抵抗を利用した慣性飛行翼を持たせることで重力下の操縦性能を上げているそうだ。
 詳しい事は分からないが、アニカちゃんの話によれば摩擦熱にもラミネートのお陰で数分は頑張れるそうだぜ。保険ってやつだな。」
「イチェブくんの方は新しい装備が完成したそうですね。」
「あぁ、今作業してるあれ、あいつが作ったそうだぞ。凄いねぇ。お前もだがあいつも天才だ。古い俺みたいなのがセコく見える。嫌だねぇ、年の差ってのは。」
「そんな、僕は彼と違って何も出来ないですよ。」
「そうか?前の戦闘じゃ、俺にはそうは見えなかったけどな。」

 イチェブのデュエルは敵ブルーを参考に小型ミサイルポッドを搭載させた。
 この武装についてはイチェブがコツコツと自分で設計した案があり、それをそのまま採用した格好だ。
 また、ストライク同様にシールドを持てる様にした他、今後の運用効率向上のために武装の共通化を進めることにした。
 セブンはこなすべき仕事が沢山あることは勿論、制約の有る中での開発という新たな状況を楽しんでいる様だ。
 
 その頃ZAFT側ではアスランが作戦を練っていた。
 
「足付きはアルザッヘルへ行くものと思っていたが、どうやらそのまま降下する気の様だね。」

 アデスは連合側の動きを見て推測を語る。
 それを聞くアスランはしばし顎に手を当てて考える仕草を見せると、口を開く。
 
「…それだけ連合も焦っているんでしょう。あれは確実に戦局を左右する。それは俺達自身が使っていて痛い程知っています。」
「…そうだね。叩きますか?」
「…勿論です。刺し違える覚悟が要るでしょう。」
「しかし、我が方はジン5、ゲイツ2、それにバスターとイージス。向こう側には密集した艦隊が待っているのに対し、我々はヴェサリウスとツィーグラーの2隻。かなり分が悪い。増援も間に合わないこの状況では…」
「艦長、増援は…端から期待していません。そもそも、優れた種だなんて嘘ばかりだ。批判しているナチュラルと…何が違うんだ。」
「…アスラン。」

 デスク上の星図を見てアスランは表情を歪め、これまで押し殺していた思いを吐いた。
 突然の独白にアデスも彼の気持ちを察した。
 暫くの沈黙のあと、姿勢を正したアスランは表情を引き締めて指示を出す。
 
「艦長、ツィーグラーの人員はヴェサリウスに移します。全MS部隊は出撃。ヴェサリウスは後方待機。ツィーグラーには…私が乗ります。」
「それは…」
「それ以上は言わないでください。そもそも、その覚悟なくして戦えますか。恐怖に打ちのめされていたら、勝てるものも勝てない。」
「いや、しかし、それならば私が!」
「艦長…いや、アデスさん、この戦いで無闇に将兵を失うのは勿体ない。この戦場から逃れられる船速を維持出来るのはヴェサリウスだけだ。艦長が居なくなっては船に申し訳ないです。」
「………我々にもその覚悟が無いと思っているのかね。これでも私は君より年も上だ。なのに年端も行かない君にそんな覚悟を迫っている私は何だろうか。」
「指揮官が範を見せずして、部下が努力するわけではないですよ。勘違いしないでください。私も死にたくはない。勝ちに行きます。」
「…。」

 その表情は固い決意の色が伺えた。
 そんな彼に何を告げたとしても、彼を傷つけることにしかならない。
 そう考えたアデスは、その後何も反論はせずに大人しく彼の意思に従った。
 
「…ここに置くわよ。あんた、また戦闘になったらどうするの?」

 フレイは食事の載ったトレイをテーブルに置くと、彼女に話しかけた。
 話しかけられた方は、微笑んで応じた。
 
「フレイ、あなたはどう為さるの?」
「私?私も本当は戦いたいわ。でも、使える機体も無いし、体も出来てないって言われているの。」
「そうですか。私は…無用な戦いが一つでも減らせるのでしたら、出来ることをします。…あの、トレーニングはお辛くないですか?」
「…あぁ〜〜〜もぉ〜〜〜!そのしゃべりどうにかならない?もっとフレンドリーにならないかしら?」
「フレンドリー…のつもりでしたが…お気に触りましたら、改めてみたいのですが…どうお話したら?」
「私は同じ女の子同士、普通にため口聞いて欲しいのよ。よそよそしいのは無し。良い?」
「その…同じ年頃の女の子とお話することが無くて…良く分からないんです。えーと、フレイ、私もトレーニングを一緒に受けるのは…ダメですか?」
「え?何言ってんのよ。あんた一応捕虜よ。今は『お客様』扱いしているけど、自由に動いていい軍隊がどこにある?ZAFTだって勝手に出歩いて良いわけじゃないでしょ?」
「…それもそうですね。ごめんなさい。でも、ここでずっと一人も寂しくて…退屈です。いつも貴方がお食事を運んで来てくださる時間が楽しみなんですよ?」
「う、うーん。あんた、歌が好きなんだっけ?」
「はい。」
「だったら、私のトレーニングに付き合うより、あんたの好きなことした方が楽しいと思わない?」
「それは…そうかもしれませんが、私は一人より皆さんと何かご一緒できる事が有ればと思って。」
「…はぁ。もう、謙虚なんだか腹黒いのか。まったく。…良いわ。この件は私の方でも頑張ってみる。でも、期待しないでね。私は下っ端なんだから。」
「はい。」
「あぁ、もう!……って、もう、笑っちゃうじゃないの。」

 二人はお互いに顔を見合わせて笑った。
 
 メネラオス艦橋
 
「前方より接近する機影確認。ZAFTです。こちらへ向かっています。邂逅時間は15分程度と思われます。」
「くぅ、この大事な時に。」

 ハルバートンは敵の絶妙なタイミングに苦った。
 ようやく合流したのもつかの間、ZAFTが攻撃してくるのは想定内としてもこの動きは早過ぎる。
 しかし、その時自陣営から通信が入った。
 
「オドンネルです。ZAFTの進軍はそちらでもキャッチされていると思います。我々はこれより迎撃態勢に入りますが宜しいですか。」
「いかん、アークエンジェルは即刻降下を。奴らの目的はそちらだ。」
「はい、それは承知しています。しかし、降下までに数分の猶予があります。我々は彼らをよく知っています。未経験のそちらより私の方がこの戦い有利に運べる自信がありますが、それでも強行為さると言うのですか。
 勿論、私は貴方の指揮下にあることは了承しました。ご命令とあれば、それ以上は申しませんが、下策であると進言しておきますわ。」
「………10分だ。10分でどうにか出来ぬなら、君等は降下してもらう。」
「…充分ですわ。有り難うございます。」

 ハルバートンは部下であるはずの彼女に圧倒された。
 彼女には彼にも理解出来ない何か得体の知れない威圧が感じられた。
 この圧力を感じる相手は、彼の記憶にある相手の中ではアズラエル理事くらいだろう。
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【127】Voy in Seed 20
 制作者REDCOW  - 12/3/22(木) 23:26 -

引用なし
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   第20話「低軌道会戦・前編」

「…ストライクめ。この痛み…思い知らせてやる。」

 イザークは右目を覆う包帯に手を当て、その怒りを露にした。
 隻眼というハンディキャップすら、彼の怒りの前にはものともしない。新たに整備されたゲイツ・アサルトソード。
 シールドビームクローだけではない、対艦刀はストライクの装備を参考にヴェサリウスのチームが完成させた。接近戦での不利を克服する為に開発されたこの装備をもって、彼は戦いに臨む。
 
「ザラ隊長、全軍出撃しました。我々も向かいましょう。」
「アデス艦長、こちらの準備も整いました。ヴェサリウスは深入りしないでください。」
「…健闘を祈る。」
「…ツィーグラー、発進!」

 アスランの乗るツィーグラーが動き出した。
 
 連合艦隊は一時的にシャノン・オドンネルの指揮に入った。これはハルバートンが彼女の提案を受け入れ、10分間を彼女の自由に任せたからだ。
 しかし、彼も無条件に全てを与えたわけではない。10分という時間の制約の他に、アークエンジェルの前進を認めなかった。その代わり自軍の艦艇の指揮権を認めた。
 
「…着たわね。戦争が機動力のみで決まると思ったら大間違いよ。戦争の本当の恐ろしさを見せてあげるわ。」

 ジェインウェイは作戦室から矢継ぎ早に指示を出した。連合艦隊にはアークエンジェルを中心にV字型の陣形を採り、艦隊火力ロスを出さない横一列の隊列にした。そして、アークエンジェル後方にはシャトルアーチャーが待機し全軍の指揮命令の中継をさせる。
 上方の空間にはフラガ大尉のメビウスを中心にフライを4機と艦隊のメビウスを全機回した。下方の空間にはストライクとデュエルを配置。
 あえて空いた空間を作ったのは重力空間への誘い込みを兼ねてのものだ。
 
「…何だよ、あの陣形は。あからさまに下へ来いって言ってるだろ。」

 バスターでMS部隊後方から支援砲撃ポイントで待機を始めたディアッカが思わず言った。
 実際、誰がどう見ても「下へ来い」と言わんばかりの陣だ。
 
「…どうします?あれ、乗るかそるかで言えば…乗っちゃだめですが、イザーク行きましたよね。」
「はぁ〜…ニコルは上へ行け。オロール達を引っ張ってくれ。俺はあいつの支援をする。」
「了解。ディアッカ、あなたはイザーク思いですね。」
「へん、笑ってくれ。腐れ縁は腐っても縁だってな。」
「…死なないでください。」
「お前もな。」

 ニコルはイージスを変形させ上方のジンの編隊の先頭へ出た。
 メビウスからの攻撃が始まる。一定の防衛ラインが突破されたのを合図とするかの様に一斉に射撃が始まった。それらは先頭を走るイージスを集中して狙う。

「そんな玉、いくら出しても意味有りません!」

 スキュラを放つ。しかし、瞬時にメビウスはその射線上を避け、執拗にイージスへの攻撃を続けた。それはまるで攻撃されるのが分かっていたかの様に、彼らの攻撃はこちらの攻撃の一歩手前で判断している様に感じられた。
 
「ストライク!!!!」

 イザークは目標を認めた。艦隊下層で陣取るストライクとデュエル。二機はゲイツが向かってくるのを見て呼応する様に前進する。
 丁度艦隊前衛周辺まで来た彼らは先にデュエルが小型ミサイルを放って牽制する。だが、イザークはものともせず対艦刀で迫り来るミサイルを切り裂いて突き進む。
 それを後方からバスターが支援。
 
「イチェブさんはバスターを。僕はあのブルーをやります。」
「…わかった。」

 イチェブは同意するとすぐにバスターへ向けてバーニアを吹かす。
 交代する様にシュベルトゲベールを構えたストライクがイザークへ対峙する。
 それを見て舌舐めずりをしイザークは突進した。
 ソード同士が衝突する。激しい火花を散らせジリジリと互いを牽制し合う。
 
「ストライク!この痛み、晴らさせてもらうぞ!」
「…ぐぅ!新装備か。」

 メビウス・ゼロは敵側の攻撃部隊がまっすぐにこちらへ向かってくるのを認め、全メビウス隊に一斉射撃を命令する。
 近接信管のミサイル群は敵MSとの交差面手前で爆発する様にセットされているが、敵側もそれに即座に対応して来ていた。
 彼らは先頭のイージスを中心に縦列を組んでいる。しかも、イージスのスキュラは対艦攻撃に使える程の出力があるため、おいそれとその正面に陣取る事が出来ない厄介な武装だ。
 唯一の救いはこちら側の管制が相手側より「一歩早い」ことだ。
 
「…こりゃすげーや。先読みしている。いくら強くっても、当たらなけりゃ意味ないよね。」

 メビウス部隊はアークエンジェルCICより逐一敵側の攻撃情報が伝えられていた。そして、その情報にオートで回避運動が出来るシステムが組み込まれていた。システム管制を担当しているのはセブンだ。
 
「…空間グリッド51394の722α、スキュラ起動、射線軌道51393の722β修正、回避α1クリア。艦隊主砲発射角865修正、発砲、敵ジン左腕部損傷、程度D支障無し。…」

 彼女は黙々と作戦室のジェインウェイのそばで処理していた。
 メネラオス艦橋ではハルバートンが目視は勿論、モニター上の情報を見て驚いていた。彼のこれまでの戦闘経験からすれば、下層のMSが互角に対応していることは納得しても、上部のメビウスでは物の数に入らないと思っていた。
 しかしどういうことか、メビウス部隊は艦隊の火力を利用して善戦している。しかも現在まで損害ゼロである。
 こんな戦いは一度も見た事が無い。

「…閣下、私は夢を見ているのでしょうか…。」

 側近のホフマン大佐がシートの隣で、前方から視線を逸らさず直立不動のまま尋ねる。

「…夢だとすれば、随分良い夢じゃないか。出来れば覚めないで欲しいものだ。」
「…全くです。しかし、オドンネル女史は…とんだ怪物ですな。あ、これはオフレコですよ。彼女に知られたら食われそうだ。」
「はっはっは、私もそれを思った。いやはや、我々は今まで一体何を考えていたのだ。戦争のいろはは情報だ。Nジャマーがなんだ。彼女は個人のビジネスで解決してみせたではないか。我々がコーディネイターに劣るという幻想は終わる時が来た様だ。」
「…そのようですな。」

 ハルバートンはしばし考えを巡らすと、彼女に前命令を取り消して暫くの間制限無く戦闘させてみる事にした。

 アスランはツィーグラーをゆっくりとジンの後方から前進させていた。
 艦砲での支援をしつつ全体を俯瞰する。
 
「…(下層の方は連携をしてくれている。問題は…馬鹿にしてくれる。雑魚と思っていたメビウスに当てられないだと。よし。)ニコル、君は艦を叩け。ジンは各自散開しメビウスを多方面から攻撃。突破が無理なら各個撃破だ。」

 アスランの命令後、ジン部隊が散開し隊列を解いた。多方面に別れて攻撃を始めたジンに対し、メビウスも散開すると編隊を組んで各機体をまるで役割分担が決まっているかの様に整然と攻撃し始める。
 普段ならば敵ではないはずのメビウスが機械的な程に精密に飛んでくるのだ。ジンに乗るZAFTのパイロット達もこのようなメビウスの挙動は見た事が無い。
 しかし、コーディネイターはその動きにも対応出来る柔軟さがある。機体性能はこちらが上ならば冷静に動けば良い。オロールを中心にジン同士も連携してメビウスを一機ずつ標的を絞り攻撃を始めた。
 以前の彼らならばこのような無様な戦いは選択しなかっただろうが、さすがの彼らも学習した。
 メビウスが撃墜され始める。…とはいえ、ようやく損害を互いに出し始めたというのが正しい状況判断だろう。
 その動きは作戦室に座るジェインウェイも認めていた。
 
「…押してくるわね。強者は弱者の真似事はしないのかと思っていたけど、それほど愚かじゃないのね。良いわ。そんなにデートがしたいなら、こちらが行ってあげるまでよ。全軍微速後退!」

 艦隊がアークエンジェルを除いてゆっくりと後退を始めた。
 それは逆V字を描く様に徐々にアークエンジェルが全面に立つ格好となっていく。そして、それと同時に全軍の攻撃が後方支援射撃となりアークエンジェルを中心に壁となった。
 敵側の動きを見てアスランはツィーグラーを全速力で噴かし、出せるだけの攻撃兵器を使って前進する。
 MS部隊の攻防は膠着状態を続けていた。ストライクとゲイツの戦闘は勿論、バスターとデュエルの戦闘も決着がつかない。特にバスターは対艦刀を持って参戦していた。本来なら長距離攻撃機であるバスターが接近戦に対応しているのである。
 バスターが牽制射撃を放っても、デュエルは小型ミサイルで迎撃し迫る。それを対艦刀で振り払うの連続である。
 戦闘時間もこれまで経験していた時間を大幅に越えている。手数も多い分さすがにエネルギーの限界の方が近い。しかし、それは相手も同じはずだと考えていた。だが、相手側は一向に手を抜く隙を見せない。

「…やばいな。」

 ディアッカはこのままでは勝てないことは想像出来た。しかし、アスランは撤退命令を出さず、ニコルもメビウスに振り回されている。ここで冷静に判断出来るのは自分以外には居ないと思えた。
 だが、果たしてこのタイミングが正しいのかは判断しかねた。
 ゲイツのエネルギーはバスターよりは持つが、イザークは冷静ではない。しかも、気のせいでなければ、足付きは高度を下げている。
 ほんの僅かずつで誤差の範囲の様に錯覚するが、数値上はゆっくりとだが確実に下げているのだ。このままだと押しつぶされかねない。
 
「艦長、敵ボスゴロフ級が突っ込んできます。」
「ローエングリン照準!敵、ボスゴロフ級!」
「このままでは撃てても破片は…」

 アークエンジェル艦橋では目視でツィーグラーが迫るのが見えていた。
 最初は交差する軌道を描くと思われていたツィーグラーが、唐突に衝突軌道へ変更したのだ。
 後退しながら射角を取る。
 
「丁!」
「…ここまでくれば、確実だ。」

 アスランがコックピットの中で不敵に笑った。
 ローエングリンがツィーグラーを貫く。しかし、爆散しつつも大きな破片がそのままアークエンジェルへの衝突コースを描いた。
 作戦室でジェインウェイが叫ぶ。
 
「フラガ少佐、今よ!リミッター解除!」
「ほい、来た!リミッター解除!」

 ゼロのガンバレルのリミッターが解除されリニアガンが収納されると、新たな砲芯が現れ発砲する。
 濃い橙色の光線が走り、4基のガンバレルが大型の破片に向けて次々に攻撃すると、それらは粉々に破砕され消滅した。
 
「ヒューーー!ビーム兵器ってのは良いねぇ。しかし、おっそろしい破壊力だ。」
「大尉、ナイスタイミングよ。」

 ツィーグラーは消滅した。
 この事に作戦の失敗が濃厚となったZAFTは浮き足立ち、士気が乱れ始めた。
 ジンがメビウスに押され始めるのを見てディアッカが後退命令をだそうとしたその時、ゲイツステルスに乗ったアスランがステルスを解いて宙域に現れ後退命令を出す。
 だが、メビウスは食らいついた様にジンを離さない。
 ニコルを支援に回そうにも彼もゼロとフライの連携に遭い、動けそうになかった。イザークは相変わらずストライクに執心している。額から汗がこぼれた。
 
「アスラン!幾ら何でも一方的じゃねぇか!!!」
「そんなことは分かっている。お前も見ただろう!あんなもの、あれに付いている兵器のレベルじゃない!」
「だけどよぉ!!これじゃ、あんまりじゃねぇか!!!敵さんは今回は逃がす気ねぇぞ!どうするんだ!」
「逃げ道は俺が作る。ニコルを回すから、お前はイザークを何とかしろ。」

 アスランがそう言って通信を切った。しかし、彼にだって何ら目算等無い。ツィーグラーを消滅させたあの光線を見ては、さすがの彼もゾッとしていた。
 陽電子砲に破壊光線…次は何が出てくるのだろうか。
 足付きは不思議のデパートである。そして、それが連合の新装備として全軍に行き渡った日には…自分達に明日はあるのだろうか。まるで悪夢だった。

 だがその時、センサー範囲に未確認の機体が確認された。
 セブンはその情報を分析するが、こちら側の予想データの標準値から大きく5倍以上の出力で迫っているため、CEの兵器群では対応出来るスピードではなかった。
 
「社長、通常出力の5倍のゲインを持つ機体が急速に宙域に接近している。識別は分からないが、技術標準はZAFTのものの様だ。」
「新型にしては速度が異常ね。どうなっているの。」
「…制限付きのこちらのコンソールからでは難しい。」
「分かったわ。」

 ジェインウェイは耳のコミュニケーターに触れた。
 
「ジェインウェイからトゥヴォック。シャトルのコンピューターで見ているかしら。あれは何?」
「こちらトゥヴォック。こちらでも捕捉しています。確認出来た事は、出力がストライクの5倍はあります。そして、Nジャマーが不自然な反発を見せているのが確認出来ます。」
「反発?」
「はい。機体を中心に同心円範囲に球状の斥力フィールドを発生させた様な印象です。」
「それって、まさか…」

 艦隊前方ZAFT艦隊より更に深い後方から急速に何かが飛来した。
 
「フハハハハハハ、お待ちどうさまかな諸君。私は帰って来たよ。」

 仮面の男は不敵に笑みを浮かべ、友軍機へ識別信号を送った。
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