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【116】Voy in Seed 10
 制作者REDCOW  - 12/1/2(月) 23:53 -

引用なし
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   第10話 歌姫
 
「ランデブーポイントに到達しました。」
「アーサー、スクリーンへ。」
「はい。」

 彼女の命令で前方スクリーンの映像が宇宙の映像から切り替わる。
 そこには一人の少年の姿が見える。
 
「ナスカ級キグナス艦長、タリア・グラディスです。本日よりザラ隊へ合流します。」
「ザラ隊隊長、アスラン・ザラです。貴艦の本隊への合流を歓迎します。」
「本艦には本国よりの緊急補給物資を満載しています。まずはそれらの編成をしましょう。」
「わかりました。では、私がそちらへ向かいましょう。後ほど。」

 簡単な挨拶の後、スクリーンがオフされた。
 
「あれがアスラン・ザラですかぁ…若いですねぇ。」
「そうね。でも彼、フェイスよ。」
「え、フェイス!?」
「…あの隊は特別よ。本国の最高幹部の子息で編成されたトップエリート集団。これがどういう事かわかるわね?」
「…コーディネイターの中のコーディネイター…ですか?」
「…えぇ。そして、最高の厄介…もとい、いつか国を動かすことになる存在よ。じゃ、アーサー、後は頼むわね。」
「はい、艦長。」

 グラディスは艦橋を出てった。

 艦長日誌
 私達はついに中継点であるユニウス7のデブリ帯へ到達した。ここには最も不足した水を始めとした様々な「物資」が散乱している。ラミアス大尉はまだ本調子ではないことから、この補給の采配はバジルール少尉に引き続き任せた。
 私はその際に避難民にも積極的に手伝ってもらう様提案し、我々のシャトルも使用して大型のゴミもリサイクル利用のために収集した。
 
「…ハンセンさん、これって、ジンだろ?しかも、これ3体分はありますぜ?」
「そうだ。かなりの損傷はしているが、使えるだろう。」
「え、これを直すんですか?」
「そうだ。…いや、直すというのは違うな。新しく作るといった方が良いか。」
「3体もですか?」
「いや、作るのは1体分だ。残りは分解して予備のパーツとする。」
「はぁ〜。」
「不満か?」
「いや、不満とかは無いが、出来るのかい?」
「問題は無い。設計はある。これだ。」

 セブンは手に持っていたパッドをマードックへ見せた。
 彼はその設計図を暫く黙々と見ていた。その視線はまるでパッドに釘付けになったかの様に微動だにしない。
 そんな彼の姿に他の整備士チームの一同も興味を持って彼の横からパッドを覗く。そして、彼同様に彼らも釘付けになった。
 
「………ハンセンさん。」
「何だ?」
「これ、……真面目に作れるんですかい?」
「ん、問題無い。お前達の高度な技術力と私の知識が有れば可能だ。違うか?」
「そ…うかい?いや、そうだな!お嬢さんがそんなに仰るんなら、お、俺達も頑張らなくちゃ、なぁ〜?お前ら?」
「お、おす!!!」

 メカニック一同、スタイル抜群のセブンに「高度な技術力」と褒められて満更でもない様だった。
 しかし、一つ疑問が残った。
 
「あのぉ、一つ聞きてぇんだが、こいつを作って、誰が乗るんだい?」
「ん、それには私が乗ろう。」
「えぇええええええええええええええええ!!?!」
「私が乗るのだ。お前達には期待しているぞ。」
「え、いや、ちょっと、そんな、勝手にいいんですかい!?」
「許可はジェインウェイ社長が取ってくれる。仮に私が乗らずとも、これを作ることによる戦力の増強は望ましい。違うか?」
「は、はぁ。」
「整備の合間で良い。私も協力する。一緒に作ろうではないか。」
「ま、まぁ、良いですぜ。」
 
 表面的には上の判断がどうなるか怖々ではあったが、内心は彼らの中にもこの新型を作ってみたいという闘志が湧いていた。
 というのも、セブンの見せた設計図は、それだけ「難解」な構造を採用した設計だったのだ。技術者としては、これを作るのは十分に良い冒険と言えた。
 
 ZAFT軍ナスカ級キグナスの格納庫では、2機のブルーとダークグリーンに塗られた機体の姿があった。
 
「これは…新型のシグー…ですか?」
「いいえ、ZGMF-600NX-V1 GuAIZ Assaultよ。」
「ゲイツアサルト?」
「これはその先行試作機よ。送られてきたGAT-Xシリーズのデータを参考に、急遽高機動戦闘能力を高めた高出力エンジンを装備し、ビーム武装を本軍では初めて装備する機体。予備パーツが少量しか無いのを留意して。この機体はイザーク・ジュールに配備されるわ。そして、こちらはZGMF-600NX-V2 GuAIZ Stealth。」
「ゲイツステルス?」
「えぇ、連合のミラージュコロイドのデータを参考に散布システムを搭載したステルス機よ。こちらはニコル・アマルフィのブリッツの代替機として配備されます。基本性能はこちらが今後量産される正式型番ZGMF-600 GuAIZの素体として採用されるけど、ミラージュコロイドはこの機体のみのオプションだそうよ。」
「…プロトタイプを更に改造して配備…ということは、本国も相当焦っているんですね。」
「…そう考えて良いわね。クルーゼの送ったデータは驚愕に値したと思うわ。あの彼が敗退し、しかも切れ者と評判の彼が判断ミスを犯して逃がした…首脳部がこれで焦らなかったら変なくらいよ。そうそう、彼、降格は免れたそうよ。暫く謹慎だけど。」
「そうですか。良かった。」
「そんなに良い隊長だった?」
「えぇ、的確に物事を判断される方だと思います。」
「…そうね。あと補充機だけど、シグーのアサルトシュナウド追加タイプがあるわ。」
「…オロールにはシグーのカスタム機ですか。…本気度が違いますね。グラディス艦長はGAT-XのOSについてはどう思われます?」
「先程資料を見せてもらったけど、あれは何?…およそ私達の知っている方法で思いついたものじゃないわ。あまりに突飛過ぎてどこから手を付けていいのかサッパリ分からない。でも、もの凄い高性能振りね。使いこなせれば相当のシステムよ。」
「はい、私もそう思います。」
「敵を褒めても仕方ないけど、いくら高度な技能を持つコーディネイターと言っても、ただの人よ。人1人の限界は超えたとしても、多数の知恵には抗えない。私達の敵は私達自身の奢りかも知れないわね。…とりあえず補充目録はこの他、我々の隊にあるジン・ハイマニューバが3機。いずれも高機動戦闘を得意とする機体よ。」
「次の戦いで奴らに勝たなくてはいけませんね。」
「…そうね。進路は月の第八艦隊でしょう。先に先行するためにナスカ級の足が選ばれたと思うわ。急ぎましょう。」

 二人はその後も部隊の調整を話し合い、今後の行動計画を練った。

 私はシャトルアーチャーに乗ってユニウス7周辺の貴重な物質の収集に当たっていた。破壊されたコロニーの残骸であるこのデブリには希少金属類が多数含まれており、その中には彼らには「まだ」扱えない物質も少なからず含まれている。
 水の確保は民間人達に任せ、私はトゥヴォックと共に遠くのデブリの収集を彼らに申し出た。彼らは心配してくれたが、私達の出動を快く受け入れてくれた。

「艦長、ポイント231、マーク4に微量ですがダイリチウム反応があります。」
「まだ彼らには扱えないけど、いずれこれを扱う日が来るのよね。」
「…はい。しかし、我々がこれを収集したところで、大きな変化は無いでしょう。」
「そうね。…ところでトゥヴォック、この世界をどう思う?…私達の居た世界とは似ている様でかなり違う。あなたのバルカンも存在しないし、クリンゴンも居ない。一見すれば地球が小競り合いを永遠にしていても平和と言える程の安定した宇宙よ。」
「…地球人は好戦的な種族です。しかし、理性もまたある。我々バルカンはあなた方の理性と旺盛な好奇心に興味を持った。それが我々とあなた方との関係の始まりと言えるでしょう。ですが、我々が居ないあなた方に今が無いとすれば…この世界の彼らにあなた方と同じ進化を見る事が出来るとは思いません。」
「そう。この世界は可能性というにはあまりに異質だわ。でも、私達になる可能性がゼロではない。その一つがシャノン・オドンネルの様な類似ね。だとすれば、バルカンやクリンゴンが居ないと考えるのも…もしかしたら間違っている可能性もあるわ。」
「…その可能性はあります。…我々はゼフラム・コクレーンのワープサインを見て地球文明へのファーストコンタクトを取りました。であるとすれば、我々と同一…または、我々と同レベルの恒星文明がヴォイジャーのワープサインを目当てに来る可能性があります。」
「…私もそれを考えていたの。差し当たって問題となるワープサインは太陽系外までしか出していないわ。だから系内で発生させたわけじゃないから、地球文明のものと考えるとは限らない。でも、我々と同レベルの恒星文明が無いと考える方が難しいことを考えれば、そろそろ何らかの動きが有ってもおかしくはない。少なくとも警戒はしておくべきよね。」
「…はい。…さすが艦長、私も失念していました。事前のスラスターでの航行は、この様な可能性もお考えになっていたのですね。」
「…それは偶然よ。私はただ、系内をワープ反応で不安定化させたくなかっただけ。でも、そう考えると正解ではあったのよね。」
 
 その時、アークエンジェルから通信が入った。
 バジルール少尉が焦った声で話しかけてくる。
 
「シャトルアーチャー、聴こえますか!」
「はい、こちらシャトルアーチャー。ジェインウェイよ。何か有りました?」
「ジェインウェイさん、ご無事ですか。今、ザフトのMSを発見してヤマト少尉が撃墜しました。周囲にザフトが居るかもしれません。至急戻ってください。」
「わかったわ。すぐ戻ります。通信終了。」

 私達は通信を切ると、アークエンジェルへ方向を転換した。
 
 しばらくして私達が戻ると、ハンガーでは救命ポッドの様なコンテナが置かれていた。バジルール少尉の話では、キラ少年がザフト機を撃墜した際に周囲で発見したものだそうだ。
 彼女は再度の拾い物に随分と気分を害しているようだったが、少年も悪気が有ってしたわけではない。彼女には警戒態勢を取らせながら開封すれば良いとなだめた。
 ポッドの入り口が開かれる。そこから現れたのはピンク色の丸い玩具だ。
 
「ハロ、ハロー、ハロ、ラクス、ハロ。」
「ありがとう。御苦労様です。」

 そして、ゆっくりと出てきたのは一人の少女だった。
 長い桃色の髪をもった美しい容姿をした少女。およそ我々の世界でも見た事の無い様な不思議な雰囲気を持った「人間」の姿に、私も半ば呆気にとられながら見ていた。
 宙空をふわふわと漂いながら出てきた彼女を、周りを囲むアークエンジェルのクルー達もまた、ただ呆然と見守っていた。

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【126】Voy in Seed 19 制作者REDCOW 12/3/19(月) 20:08
【127】Voy in Seed 20 制作者REDCOW 12/3/22(木) 23:26
【125】VOY 資料 制作者REDCOW 12/3/11(日) 17:32 [添付]

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