●Project O BBS
  新規投稿 ┃ツリー表示 ┃設定 ┃ホーム ┃使い方  
15 / 127 ←次へ | 前へ→

【113】Voy in Seed 8
 制作者REDCOW  - 11/12/26(月) 22:01 -

引用なし
パスワード
    第8話
 
「X-105ストライク、応答せよ!X-105ストライク、聞こえているか?応答せよ!X-105ストライク、応答せよ!」
「…………ヘリオポリスが…壊れた…どうして…」

 バジルール少尉の声が通信装置の向こうから聴こえてくる。だが、彼にはそんな声は耳に入らなかった。目前に広がる光景を見れば、誰もが声を失うだろう。つい数時間前までは平和に暮らしていた大地が、無惨にも崩壊を続ける状況を見つめているのだ。その時、何かが気になった。
 
「…あれは、ヘリオポリスの救命ポッド?…それに、あれは?」

 キラは機体をそっとそちらへ向かわせた。
 
 艦長日誌補足
 我々はアークエンジェルの乗員として志願し、形式的に連合軍に所属する形をとった。満足な物資の積み込みも出来ずに敵襲に追われ出航することになったこの戦艦を、我々は無事にハルバートン氏が率いる第八艦隊へ届けなくてはならない。
 しかし、ZAFTによる攻撃は常軌を逸する行為であった。彼らは拠点攻撃用武装を施したMSを投入し、あろうことかコロニーコアを破壊。ヘリオポリスは崩壊を始めた。多数の民間人の犠牲は避けられないだろう。
 
「こうまで簡単に…脆いとは……」

 フラガ大尉が思わず口に出したその感想は、端的に目前の状況を言い表していると言える。数時間前の堂々とした姿は見る影も無く、コロニーは外郭部が細かく崩壊し、デブリの海と言えた。
 彼の呟きに構わず、バジルール少尉は宇宙に消えたX-105ストライクへの呼びかけを続ける。

「X-105ストライク!X-105ストライク!キラ・ヤマト!聞こえていたら…無事なら応答しろ!」
「…あ!…こちらX-105ストライク、…キラです。」
「はぁ……無事か?」
「はい。」
「こちらの位置は分かるか?」
「…はい。」
「ならば帰投しろ。…戻れるな?」
「…はい。(……父さん、母さん、無事だよな?…)」
 
 キラ少年の無事が確認された。ブリッジでは安堵の溜息が漏れた。
 彼の帰還は時間の問題だが、問題はこれからどうするかだ。
 
「で、これからどうするんだ?」

 フラガ大尉が腕組みをしながらラミアス大尉を見た。
 
「本艦はまだ、戦闘中です。ザフト艦の動き掴める?」
「無理です。残骸の中には熱を持つものも多く、これでレーダーも熱探知も…」

 彼女の問いも虚しく、敵の動きも掴めそうになかった。
 しかし、フラガ大尉は冷静に彼女に問いを投げかける。

「向こうも同じと思うがね。追撃があると?」
「あると想定して動くべきです。…尤も今攻撃を受けたら、こちらに勝ち目はありません。」
「…だな。こっちには、あの虎の子のストライクとデュエル、俺のボロボロのゼロのみだ。艦もこの陣容じゃあ、戦闘はなぁ。最大戦速で振り切るかい?かなりの高速艦なんだろ?こいつは。」
「向こうにも高速艦のナスカ級が居ます。振り切れるかどうかの保証はありません。」
「…なら素直に投降するか…?」
「…え…?」
「へっ…それも一つの手ではあるぜ?」

 私は二人のやり取りを静かに聞いていたが、事の成り行きに不透明感が増したのを見て彼らの話に割って入った。
 
「…お二人とも、ちょっと良いかしら?」
「ジェインウェイさん。」
「若者が二人揃って随分悲観的な話ね。あなた達、今がチャンスなのよ。進路は月へ行くのなら、一心不乱に月を目指すべきよ。」
「しかし、本艦は物資の積み込みも満足には…」
「だったら、望み通りに物資を積み込めば良いのよ。」
「それは、何処で?」
「…ゴミ拾いなんてどうかしら。」
「ゴ、ゴミ拾い!?…それって、まさか!?」
「そう、有るじゃない。ユニウス7という巨大な廃棄物が。」
「…しかし、墓荒らしの様な事をしては…」
「あら、生きるためには仕方の無い事よ。それに、敵はこう思うでしょうね。溺れる物はわらをも掴む…新兵レベルの安易な判断で最短の補給場所を目指すに違いないと。そう、丁度今しがたあなた達が話していたのはそういう事よ?」
「新兵レベ!?…確かに、仰る通りです。」
「だったら、彼らの裏をかくなら今よ。少尉を回収後すぐに急発進しユニウス7経由で月を目指すの。ユニウス7はデブリ帯なのだから、身を隠すにも丁度良いわ。手順としてはデコイは3方向へ飛ばす。一つは月、もう一つはアルテミス。最後はアメノミハシラへ。そして、私達もデコイにならなくてはだめよ。」
「私達がデコイになる?」
「そう、敵は私達が素人集団と侮って、デコイを使って実際はアルテミスへのサイレントランを決め込むと見るでしょう。だから、私達は盛大に盛り上げたデコイである必要があるわ。」
「…成る程。さすが大佐!」
「元よ。元。煽てても何も出ないわ。ふふ、でも、彼らは今それどころじゃないかもしれないけれど。」

 私の提案に感心するラミアス大尉。
 そこにフラガ大尉が腕組みしたまま慎重な表情で問う。
 
「…しかし、予想が外れた場合は?」
「…敵の戦力は鹵獲したXシリーズが3機にジン数機と壊れたシグーかしら。他にも何が有るか分からない。対して我々の戦力は2機。数の上では圧倒的に不利ね。でも、戦闘は数じゃないわ、頭よ。
 Xシリーズは私達の方がずっとよく知っている。シグーは壊れている。残りは世代遅れのジンのみ。…十分に戦えるわ。でも、無用なリスクを払うのは得策じゃない。私達は識別信号も持たない漂流者なんでしょう?なら、一刻も早く仲間と合流するべきね。」

 私達がそんな話をしている時、バジルール少尉が突拍子も無い剣幕で大声を上げた。
 
「なんだと!!!ちょっと待て!誰がそんなことを許可した!!!」

 あまりの剣幕に驚きつつ、ラミアス大尉が彼女に尋ねる。
 
「バ、バジルール少尉、何か?」
「…ストライク帰投しました。ですが、救命ポッドとシャトルを保持してきています。」

 フラガ大尉とラミアス大尉が少尉に負けないくらい大きく驚きの声をあげた。
 バジルール少尉とキラ少年のやり取りは続く。
 
「…認められない!?認められないってどういうことです!ポッドは推進部が壊れて漂流してたんですよ?シャトルもシステムエラーで動かないそうです。それをまた、このまま放り出せとでも言うんですか!?避難した人達が乗ってるんですよ!?」
「すぐに救援艦が来る!アークエンジェルは今戦闘中だぞ!避難民の受け入れなど出来るわけが…」

 受話器越しに熱く会話するバジルール少尉の肩に手を置き、ラミアス大尉が言った。
 
「いいわ、許可します。」
「…艦長?」
「今こんなことで揉めて、時間を取りたくないの。…収容急いで!」
「分かりました、艦長。」
「少尉、言いたい事はわかるけど、私達も軍人である前に人よ。それに、私達は彼らの世話になってこの艦を建造した。彼らには借りがある。…とハルバートン准将なら仰られるんじゃないかしら。」
「…。」

 私は彼女の決断に通じるものを感じた。荒削りだけど、正しく教えれば彼女は軍の中に蔓延する人種差別の波を押し返す力となるかもしれない。しかし、私がその手助けをすべきかどうかは正直わからない。
 我々はキラ少年が回収してきたポッドとシャトルの前に来ていた。そこにあったのは、我々のシャトル「アーチャー」だった。セブンによると、トゥヴォックはシャトルのエンジンがシステムエラーにより故障した様に偽装したようだ。
 私はシャトルが自社の物である事をラミアス大尉に告げ、予め謝意を告げていた。彼女はシャトルが我々の物であると知って安堵していた。
 中から出てきたトゥヴォックとも問題無く交流を済ませ、残るは民間人のポッドに移りハッチが開けられた。
 その時、キラ少年の肩に乗っていた緑色の羽を伸ばした小鳥型のロボットがポッドの入り口へ向けて飛び立った。
 思わず少年がそれを追う。

「…あっ!…あ、ああ…」
「トリィー、トリィー」

 小鳥は1人のロングヘアの少女のもとに止まった。

「…あ!」
「…。」
「あー、貴方、サイの友達の。」
「フ、フレイっ!…だっ。ほんとに、フレイ・アルスター。このポッドに乗ってたなんて。」
「ねえ、どうしたのヘリオポリス!どうしちゃったの、一体何があったの。」
「…。」
「あたし、あたし…フローレンスのお店でジェシカとミーシャにはぐれて、一人でシェルターに逃げ、そしたら…」
「…うっ」
「これザフトの船なんでしょ?あたし達どうなるの?なんであなたこんなところに居るの?」
「こ、これは地球軍の船だよ。」
「うそっ!?だってモビルスーツが。」
「あ、いやぁ、だからあれも地球軍ので…」
「…え。」
「で、でも良かった。ここには、サイもミリアリアも居るんだ。もう大丈夫だから。」

 一方その頃、ZAFT軍クルーゼ隊母艦「ヴェサリウス」の艦橋では…?
 
「このような事態になろうとは…。いかがされます?中立国のコロニーを破壊したとなれば、評議会も…」
「アデス、君は何を勘違いしている。地球軍の新型兵器を製造していたコロニーの、どこが中立だ。」
「…しかし、我々のした事は…」
「…フッ、住民の殆どは脱出している。我々は彼らを攻撃したのではない。連合との戦闘で『運悪く』壊れたにすぎん。さして問題はないさ。血のバレンタインの悲劇に比べればな。それに、君も同意しただろう?」
「…う。」

 クルーゼの言葉は嘘であることは間違いないが、それが全て間違っているわけでもなかった。
 アデス自身、本国がD装備の許可を出している時点で、最高評議会がこの事態を了承していたと考えられることは理解出来ていた。しかし、自分達がされた事を他国の無辜の民にしてしまった事は、些か心咎めるものを感じていた。とはいえ、血のバレンタインの言葉はその先を言わせないだけの力が有った。
 
「敵の新造戦艦の位置は掴めるかね?」

 クルーゼの質問に、オペレーターは崩壊熱等による探知不能を告げた。
 そこにアデスが問う。
 
「まだ追うつもりですか?しかし、こちらには既にモビルスーツは…」
「あるじゃないか。地球軍から奪ったのが3機も。」
「あれを投入されると?」

 クルーゼは頷く。しかし、アデスは彼の自信が不安で仕方なかった。
 最初の侵入し、MS奪取まではまぁ良かった。だが、動かしてみればOSはブラックボックスで、相手側の機体には翻弄されていた。そして、極めつけが隊長ですら敗退して戻ってきていることだ。得体の知れない力の差を感じているとも言えた。
 
「しかし…」
「OSがブラックボックスだから怖い…とでも言うのかね?それこそお笑いぐさだ。我々は相応の準備は済ませたのだ。何も怖がる必要はない。考えても見たまえ、彼らはナチュラルだ。確かに彼らが我々より鹵獲機体に詳しいことは間違いない。それは先の戦闘データが示している。
 だが、彼らはまんまと我々の攻撃にやられ、ブリッジクルーは木っ端みじんだ。足付きが素人のクルーでどこまで出来るか…フフフ、宙域図を出してくれ。ガモフには索敵範囲を広げるよう伝えろ。」

 ガモフの廊下で一人の赤服を来た少年が立っていた。
 
「…キラ。」

 アークエンジェルの食堂では加藤ゼミの面々が再開を祝っていた。
 フレイ・アルスターは婚約者であるサイ・アーガイル少年と抱き合い、熱々っぷりを見せつけていた。
 そんな姿をキラ少年が黙って見つめていた頃、ブリッジではユニウス7へのサイレントランの準備が進んでいた。
 
「では、デコイ発射と同時に、ユニウス7への航路修正の為、補助エンジンの噴射を行う。3番デコイとして本艦がメインエンジン噴射。その後は艦が発見されるのを防ぐため、慣性航行に移行。第二戦闘配備。艦の制御は最短時間内に留めて交代監視…でいいですね。」
「ユニウス7までのサイレントランニング、奴らが上手く騙されてくれればその後は通常航行に戻れるが、それまで最低でも5時間ってとこか。…後は運だな。」

 ヴェサリウスの艦橋でも追尾の準備が進められていた。
 アデスは一抹の不安を拭い切れず、再度クルーゼに進言した。
 
「奴等はヘリオポリスの崩壊に紛れて、既にこの宙域を脱出しているのではないですか。」
「いや、それはないな。どこかでじっと息を殺しているのだろう。網を張るかな。」
「網…でありますか?」

 アークエンジェル艦橋でバジルール少尉が威勢良く命令する。
 
「1、2、3番、デコイ宙域待機。」
「デコイ、1番、2番、3番、待機完了。」

 ラミアス大尉がクルー達を見回してからすっくと立ち上がり話した。
 
「本艦はこれより1番デコイ発射と同時にユニウス7への進路へ航路修正、2番デコイの30秒後にメインエンジン噴射、その30秒後に3番デコイ発射でいきます。」
「1番デコイ発射!」
 
 デコイの発射に合わせて補助エンジンで艦の針路修正を完了した。
 ヴェサリウス艦橋では作戦会議が行われていた。
 
「…ヴェサリウスは先行し、ここで敵艦を待つ。ガモフには、軌道面交差のコースを、索敵を密にしながら追尾させる。」
「アルテミスへでありますか?しかしそれでは、月方向へ離脱された場合…」

 クルーゼの作戦にアデスが疑問を呈した時、オペレーターが彼らに報告する。
 
「大型の熱量感知!初現、解析予想コース、地球スイングバイにて月面、地球軍大西洋連邦本部!」
「…ん!?」

 アデスは実際にクルーゼの言う通りにデコイの発射を見て驚いていた。
 アークエンジェル艦橋では…
 
「メインエンジン噴射!ユニウス7への慣性航行開始!……ふぅ、みなさん、ご苦労様です。あとは5時間をリミットに交代で監視に当たってください。では、私は少し休ませて貰います。」
「あ!?」

 CICに座る少年達が駆け寄る。
 ラミアス大尉はクルーへ労いの言葉を掛けて席を立ち、ブリッジを出ようとしたところで気を失い倒れた。
 
 ヴェサリウスでは尚も作戦会議が行われていた。
 アデスは初現の方向が月であったこと、3射目もユニウスセブン経由で月方向であったことに危機感を感じていた。
 
「隊長!一つ目と三つ目は月方向だったんですよ?本当に良いんですか?」
「…そいつは囮だな。」
「しかし、念のためガモフに確認を。」
「いや、やつらはアルテミスに向かうよ。考えても見たまえ、テスト問題の選択肢の不正解肢の常套は同じ方向の答えだ。本当の正解肢はそれ以外にあるものだよ。ならば答えは2つに一つ。そして、アメノミハシラは彼らを受け入れまい…となれば、残るは一つではないか。フフ、ヴェサリウス発進だ!ゼルマンを呼び出せ!」

 その頃、ガモフの廊下ではまだ赤服の少年が宙空を眺めていた。
 
「(ラスティ……ミゲル……)」

169 hits
<Mozilla/5.0 (Macintosh; Intel Mac OS X 10_6_7) AppleWebKit/535.7 (KHTML, like ...@i60-36-245-180.s05.a001.ap.plala.or.jp>

【105】Voy in Seed 制作者REDCOW 11/12/19(月) 23:17
【106】Voy in Seed 1 制作者REDCOW 11/12/19(月) 23:17
【107】Voy in Seed 2 制作者REDCOW 11/12/19(月) 23:18
【108】Voy in Seed 3 制作者REDCOW 11/12/19(月) 23:19
【109】Voy in Seed 4 制作者REDCOW 11/12/23(金) 23:05
【110】Voy in Seed 5 制作者REDCOW 11/12/23(金) 23:06
【111】Voy in Seed 6 制作者REDCOW 11/12/23(金) 23:07
【112】Voy in Seed 7 制作者REDCOW 11/12/23(金) 23:18
【113】Voy in Seed 8 制作者REDCOW 11/12/26(月) 22:01
【114】Voy in Seed 9 制作者REDCOW 11/12/28(水) 18:22
【116】Voy in Seed 10 制作者REDCOW 12/1/2(月) 23:53
【117】Voy in Seed 11 制作者REDCOW 12/1/6(金) 20:14
【118】Voy in Seed 12 制作者REDCOW 12/1/8(日) 21:31
【119】Voy in Seed 13 制作者REDCOW 12/1/11(水) 23:41
【120】Voy in Seed 14 制作者REDCOW 12/1/15(日) 20:46
【121】Voy in Seed 15 制作者REDCOW 12/2/13(月) 17:15
【122】Voy in Seed 16 制作者REDCOW 12/2/25(土) 0:08
【123】Voy in Seed 17 制作者REDCOW 12/2/26(日) 23:59
【124】Voy in Seed 18 制作者REDCOW 12/3/3(土) 1:18
【126】Voy in Seed 19 制作者REDCOW 12/3/19(月) 20:08
【127】Voy in Seed 20 制作者REDCOW 12/3/22(木) 23:26
【125】VOY 資料 制作者REDCOW 12/3/11(日) 17:32 [添付]

  新規投稿 ┃ツリー表示 ┃設定 ┃ホーム ┃使い方  
15 / 127 ←次へ | 前へ→
ページ:  ┃  記事番号:   
9113
(SS)C-BOARD v3.8 is Free