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第5話
艦長日誌補足
ドックを攻撃された連合軍は我々の目前で三機の試作機を奪われた。
我々はイチェブの乗っていたデュエルと、ラミアス大尉達のストライクを確保した上で、近くの公園へ移動した。
トゥヴォックとの交信を試みたが攻撃の影響か上手くリンクがとれず、仕方なく我々はキラ少年の操縦するストライクのシステムのアップグレードを試みた。しかし、彼が独自にくみ上げたシステムは独特の構造を持ち、我々が用意してきたシステムにこの場で改修するには長い時間が必要だ。しかも、システムへのアクセスは彼と密接に結びついているため、現状では彼にセブンと共に作業させ、オプションの武器システムへのアクセスを確立させるのが精一杯だった。
彼の驚異的な能力には驚かされたが、我々の前には問題が山積していることに変わりない。
「こんな感じで良いですか?」
「そうだ。それで良い。お前は優秀だな。」
「…有り難うございます。でも、ハンセンさんも凄いです。」
「私は…こうした作業には慣れているからな。お前の様に初めて触れる物をすぐに理解出来ることは優秀だと言って良い。お陰でOSはこの機体と一体的に動作していて、我々が作ったシステムへの改修を拒んでいるがな。」
「す、すみません。」
「気にする事は無い。私はお前の考えたこの構造に興味が有る。システムは論理的に正しい構造をしているほど効率的だと思っていた。だが、お前の考えた構造は、論理的であるより有機的…とでもいうべきか。まるで生命体の様にこの機体と結びつくことで性能を向上させている。」
「そう、なんですか?」
「わからないのか?…まぁ、もっとも、私もMSというものの運用を理解していない。肉体を駆使する以上の効率をロボットが達成することが可能なのか、それは今後のお前次第だがな。」
「…。」
「どうした?…怖いのか?」
「…はい。」
「そうか。…ふぅ、お前は無理をすることはない。我々にはイチェブもいる。お前が一人で頑張ることはない。」
「イチェブさんも民間人ですよね?なぜ、MSを操作出来るんですか?」
「イチェブは事前に我々のシステムをテストした。それに、お前よりは感情をコントロールできる。」
「感情をコントロール?」
「そうだ。感情をコントロールすることで、必要以上の感情が表に出る事による不安定さを低減している。…のはずだが、人間とは時に脆い様だ。常にそうあることが正しいはずだが、私の人間性が感情を操作できなくすることもある。悩ましいな。」
「…そうですね。」
「私の作業はこれまでだ。後はお前が使いやすい様に調整するといい。」
セブンはそう告げてストライクのコックピットを降りた。
キラ少年とセブンがストライクのシステム修正にあたっていた頃、私は彼の友人達に手伝ってもらっていた。
「これでいいですか〜?」
「えぇ、皆さん有り難う。」
キラ少年の友人達はこの土地の工科大学生で、彼らはシステム制御についての知識が有った。彼らの協力を得て気絶した大尉を機体から下ろした我々は、彼らに周囲にある武器の入ったコンテナ車を集めさせ、それぞれのシステムをアップグレードする作業をしていた。
そんな中、ラミアス大尉が目を覚ました。
「うぅ、」
「気が付きました?キラー!!」
ミリアリアという名の赤い髪の少女が彼女の目覚めに気付き、キラ少年を呼ぶ。
彼はその呼びかけに答え、ストライクのコックピットから降り始める。
「うぐっ!」
起き上がろうとする彼女の体に激痛が走り、思わず呻く。
そんな彼女の体をミリアリアはそっと支えると優しく話しかける。
「あー、まだ動かない方がいいですよ。」
「はぁぁ。」
彼女は呼吸を整えてゆっくりと起き上がった。
ミリアリアは自力で体を支えられるのを見て取ると、近くの荷物から水筒を取り出した。
そこにキラ少年がやってきた。
「…すみませんでした。なんか僕、無茶苦茶やちゃって。」
「お水、要ります?」
キラ少年は恐縮した表情で彼女の前に立った。そこに、ミリアリアが彼女へ水を差し出す。
ラミアス大尉はそれを受け取り一口飲み、
「…ありがとう。」
と、彼女に謝意を告げた。
その時、後方で楽しそうな話し声が聞こえる。
「すっげーなぁ、ガンダムっての!」
「動く?動かないのかぁ?」
「お前ら!あんまり弄るなって!」
「なんでまた灰色になったんだ?」
「メインバッテリーが切れたんだとさ。」
「へぇ〜。」
少年達が嬉しそうにはしゃぎながらMSを見つめていると、
「その機体から離れなさい!」
「んー?…うわぁ!」
彼女は突然立ち上がり様、胸の中にしまっていた銃を出して構えていた。
銃口はMSに触れる少年達に向けられている。その表情は硬い。
「何をするんです!止めて下さい!彼らなんですよ、気絶してる貴方を降ろしてくれたのは!…うっ。」
話している途中で銃口を向けられ口ごもるキラ少年。
ラミアス大尉は周囲に睨みをきかせながら言った。
「…助けてもらったことは感謝します。でもあれは軍の重要機密よ。民間人が無闇に触れていいものではないわ。」
「…なんだよ。さっき操縦してたのはキラじゃんか。」
トール少年が仏頂面で呟いた。
私は彼らに間の手をだすことにした。
「…そうね。ラミアス大尉。あなたをここへ運んできたのも、そして介抱したのも彼らよ。」
「ジェインウェイさん!?それにハンセンさんも。」
「我々は彼らの協力のもと、奪われた機体に対してトラップを発動させた。どの程度の役に立つかは分からないが、少なくとも彼らが我々のシステムを利用する事は不可能になる。」
「我が社の技術には絶対の自信があります。そして、彼らは工科大生。こんな状況だけど、私達はまんざら運が悪いとも言えないわ。なぜなら生きている。だったら、一人で頑張るよりみんなで頑張って生き残ることを考えてはどうかしら?」
「…ジェインウェイさん、あなた方は何をしたのですか?」
「…そうねぇ、あなたが言う通りこれらは軍の重要機密。こんな事もあろうかと、念には念を入れて予め作っておきましたの。泥棒にはお仕置きが必要でしょう?」
「え?」
ラミアス大尉は複雑な表情で私達を見ていた。
その頃、宇宙空間では2機の機体が交戦していた。
「……んっ、くそー!ラウ・ル・クルーゼかっ!」
「お前はいつでも邪魔だな、ムウ・ラ・フラガ。尤もお前にも私が御同様かな?」
「えぇい、ヘリオポリスの中にっ!」
メビウス・ゼロがコロニー内へ侵入する。
それを追ってシグーも内部へと入って行く。
「…こちらX-105ストライク。地球軍、応答願います。地球軍、応答願います!」
キラ少年には歩きながら通信を任せ、私達はトレーラーの中で話していた。
トレーラーの通信設備はX105との交信が可能になっていることもあるが、これから我々が拾い集めた装備を宇宙艦に届けることになった。何か攻撃が有ったとしても、こちらにはフル装備のデュエルがある。我々の防衛はイチェブに任せた。
「ジェインウェイさん達が装備を粗方集めていて下さったのは助かりました。しかも、アップグレード作業まで。」
「これが私達の仕事です。失礼ですが…X105の調整時にこちらでデータベースをチェックさせてもらいました。勿論、守秘義務は守らせて頂きます。まぁ、どの道同じですから、一を知ろうと百を知ろうと一緒です。」
「場合によっては、貴方方は軍の厳しい監視下に置かれる可能性もあるんですよ?」
「既にハルバートン閣下に要請された時点で、我々には相当の監視が入っているものと理解しています。我々が敵に与しないように…と。でしたら、こちらから積極的に誠意をお見せした方が良いかと判断しました。ご不満かしら?」
「いえ、そう仰って頂けると、正直私も有り難いです。」
「フフ、もっとも、私達もボランティアではありません。それ相応の対価は社の方へ入れて頂く所存ですわ。」
「まぁ、商売がお上手ですこと。」
その時、上空を二機の機体が飛んで行くのが見えた。
「メビウス!それにシグー!?」
ラミアス大尉が表情を曇らせた。
私も状況が変わった事を理解し、セブンにイチェブへ動く様伝えさせる。
「セブンよりイチェブ、敵襲はわかるな。我々に抵抗する者には無意味だと悟らせろ。」
「デュエルよりイチェブ、了解。」
デュエルがビームライフルを構える。
シグーに乗るクルーゼは二機のMSの姿を見て色めき立った。
「ほぉ、あれか。」
「残りの機体か!?」
フラガの目にもそれらが認められた。しかし、こちらは手負いで追われる状況。対応出来る余力がなかった。
シグーは武装の無いストライク目がけて発砲する。しかし、その攻撃はストライクの間に飛び入ったデュエルのシールドにより弾かれた。しかも、その跳躍しざまにライフルをシグーへ向けて射撃。その射撃はシグーの右手を正確に破壊。続けざまに左足の付け根に向けてグレネードを発射し破壊した。
「な!?この私がこんな物に、ぇえい!私はここで死ぬわけにはいかんのだよ。ッチィ!」
「…抵抗は、無意味だ。」
イチェブは強い思念を込めて敵機へ言葉を送信した。
それを見たクルーゼは何故かその言葉が脳深くから発せられ、奇妙な恐怖感が彼の中に湧き起こるのを感じた。
「…こ、この私が怯えている…だと!?」
その時、彼の視界に一筋の光が走った。
小高い丘の地面を破壊して、巨大な船が目前を横切る様に飛翔した。
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