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【147】強くてクロノTrigger まえがき Double Flags 08/8/12(火) 2:14
【148】-01- (第一章 旅立ち!夢見る千年祭) Double Flags 08/8/12(火) 2:20
【149】-02- (第二章 帰ってきた王妃) Double Flags 08/8/13(水) 14:17
【150】-03- (第三章 消えた王女上) Double Flags 08/8/15(金) 1:06
【156】-04- (第三章 消えた王女中) Double Flags 08/8/31(日) 23:41
【157】-05- (第三章 消えた王女下) Double Flags 08/8/31(日) 23:42
【158】-06- (第四章 ただいま!) Double Flags 08/8/31(日) 23:45
【159】-07- (第五章 王国裁判I脱出) Double Flags 08/8/31(日) 23:51
【160】-08- (第五章 王国裁判IIドラゴン戦車) Double Flags 08/8/31(日) 23:53
【161】-09- (第五章 王国裁判IIIガルディアの護り... Double Flags 08/8/31(日) 23:57
【162】-10- (第五章 王国裁判IV脱出) Double Flags 08/8/31(日) 23:58
【165】-11- (第六章 廃墟を越えて……1.) Double Flags 08/9/24(水) 2:11
【166】-12- (第六章 廃墟を越えて……2.バンゴド... Double Flags 08/9/24(水) 2:12
【167】-13- (第六章 廃墟を越えて……3.アリスド... Double Flags 08/9/24(水) 2:29
【168】-14- (第六章 廃墟を越えて……4.ガードマ... Double Flags 08/9/24(水) 2:37
【169】-15- (第六章 廃墟を越えて……5.革命家.) Double Flags 08/9/24(水) 2:42
【186】-16- (第六章 廃墟を越えて……6ガードマシ... Double Flags 10/9/20(月) 19:56
【187】-16- (第七章 不思議の国の工場跡 一レジス... Double Flags 10/9/20(月) 20:11
【188】-17- (第七章 不思議の国の工場跡 二 古代... Double Flags 10/9/20(月) 20:13
【189】-18- (第八章 時の最果て@古代の賢者ハッ... Double Flags 10/9/20(月) 20:15
【190】-19- (第八章 時の最果てAエレメント) Double Flags 10/9/20(月) 20:17
【191】-20- (第八章 時の最果てBグリッド) Double Flags 10/9/20(月) 20:22
【192】-21- (第八章 時の最果てC梯子の先) Double Flags 10/9/20(月) 20:23
【193】-22- (第八章 時の最果てD星砂) Double Flags 10/9/20(月) 20:31
【194】-23- (第八章 時の最果てE現代へ) Double Flags 10/9/20(月) 20:33
【195】-24- (第九章  魔の村の人々1邂逅) Double Flags 10/9/20(月) 20:39
【196】-25- (第九章  魔の村の人々2魔族と魔物) Double Flags 10/9/20(月) 20:40
【197】-26- (第九章 魔の村の人々3魔女) Double Flags 10/9/20(月) 20:45
【198】-27- (第九章 魔の村の人々4魔女その二) Double Flags 10/9/20(月) 20:53
【199】-28- (第九章 魔の村の人々5異国の来訪者) Double Flags 10/9/20(月) 20:54
【200】:-29- (第九章 魔の村の人々6師匠) Double Flags 10/9/20(月) 20:56
【201】-30- (第九章 魔の村の人々7北の洞窟) Double Flags 10/9/20(月) 20:58
【202】-31- (第九章 魔の村の人々8近海の主) Double Flags 10/9/20(月) 21:04
【203】-31- (第九章 魔の村の人々9近海の主その二) Double Flags 10/9/20(月) 21:05
【204】-32- (第九章 魔の村の人々10ルッカの家) Double Flags 10/9/20(月) 21:07
【205】ご覧の皆様へ文字色について REDCOW 10/9/23(木) 14:18

【147】強くてクロノTrigger まえがき
 Double Flags  - 08/8/12(火) 2:14 -
  
この物語は、クロノトリガーの二周目の物語を創作したものです。

色々と見てきたけれども、二周目の、強くてニューゲームを題材とした小説らしきものは見当たりませんでした。
楽しめるようなものであるか、分かりませんがこれを機にまだ完結していないEDまでいけたらなどと考えております。
引用なし
パスワード
<Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 7.0; Windows NT 5.1; .NET CLR 1.1.4322; .NET CLR...@p5232-ipad401hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp>

【148】-01- (第一章 旅立ち!夢見る千年祭)
 Double Flags  - 08/8/12(火) 2:20 -
  
 今日はガルディア王国建国1000年を祝うお祭り、千年祭。その記念すべき初日であった。
 そんな日にクロノとマールの二人は出会った。
 1つの違和感を残して。


 リーネの鐘の前、わずかに汗の滲んだ額をおさえつつ二人は話しはじめた。
「クロノ、どう?」
「いや、何の収穫もないよ。どうなっているんだこれは」
 腰に二本の刀を差した赤い髪の少年――クロノは首からペンダントを下げた金髪でポニーテイルの少女――マールに言った。
 彼らは、ほんの少し前に『ここ』に戻ってきたのである。
 それこそ、何もかも終えて、物語で言うならエンドロールが流れているころだろう。
 二人の記憶が確かなら、クロノとマール、そしてもう一人の少女が『ここ』に戻ってきたのは夜中である。
 それがいつの間にか朝に、しかもベッドで寝ていたのだ。
 ベッドの中にいつの間にかいることに気づいたクロノは母親が起こしに来る前に飛び起き、母親の存在を確認した。
 しかし、話しかけてみるが、どうにも要領を得ない返事しか返ってこない。
 すぐに外へ出ると、そこには他の大陸からの人々が港から降り立つところであった。
 ますます混乱し、幼馴染でさっきともに『ここ』へ帰ってきた少女――ルッカの家に行くがそこにはルッカはおらず、直ったはずのルッカの母親ララさんの足が悪いままであった。
 ルッカの家を飛び出し、そのままガルディア城へ向かうが門前払いを食らう。
 衛兵に対しては何を言っても無駄であった。
 仕方なくリーネ広場へ向かったクロノ。
 そこには同じように動揺していたマールが、武器商人――ボッシュに何か言っているところであった。
 しかしボッシュはどうにも困った様子。
 クロノはすぐにマールに話しかけ、ことの事態を把握しようと話し合い、とりあえず情報を集めることにしたのであった。
 それでもなんの情報は得られない。
 それこそ、クロノとマールがはじめてであった千年祭の初日と同じ反応を皆がするのだ。
 そんな時二人に、一人の少年が歩いてきた。
 その少年に気づいた二人。
 少年からは、懐かしいような、恐ろしいような、奇妙な感じがにじみ出ていた。

 見た目11.12歳程度の少年がクロノとマールの前に突然現われ言った。
「君たちにはもっと強くなってもらいたい。
 まだ足りない。だから、強くなってもらわなくてはいけないんだ」
 クロノはその少年の目線に合わせてるためにしゃがんだ。
「君はこの世界のことをしっているのかい?」
 少し強めに、少年の肩を掴んだ。
 マールはそれを注意しようとしたが、少年はそれを簡単に振りほどいた。
 いや、クロノの目の前からその少年は消失し、少し先に居た。
 クロノとマールは驚き固まった。
「やっぱり気づいていたんだ。よかった。時間が繰り返しているって」
 目を合わせるクロノとマール。
「!」
「それならいいかな。頑張って、
 少ししかヒントはあげられないけど」
 それだけ言って少年は、文字通り消えてしまった。
 少年が消えてしまったことは周りを見る限り、自分たちだけしか気づいていないようだった。

 一瞬で現れた少年は、それは陽炎のように消えてしまった。
 呆然としているしかなかったマールは、なんとか声を絞り出す。
「クロノ、あの子の話どう思う?」
「・・・・・・何がなんだか、さっぱりだ。
 『繰り返している』ことに気づいていて。
 いや、あの少年が繰り返しているんだって言うんだっていう、信じられないけどそれが現実だっていうことを・・・・・・」
 クロノの声はそこで小さくなり、ふたたび声を出す。
「繰り返しているって言うなら、次に起きるのはリーネ様の誘拐だ。
 そうなら、俺は中世でもうマールに消えて欲しくないと思っている」
 思わず体に、拳に力が入っていた。
「わたしもクロノにもう死んでほしくない」
 古代のことを言っているのだろ。
 あの事件はクロノにとっても、それはマールを初め仲間たちにとっても、強烈な出来事であった。
「それにしても何が起こっているんだ」
 何もつかめないという事実がそこにある。
「…クロノ」
  カン、カラン、カン
 リーネの鐘が鳴る。
「またこの鐘が始まりか…」
「これはわたしとクロノの始まり」
 サッとマールはクロノの手を掴んだ。
「さっ、行こう。ルッカなら何か掴んでいるかもしれない」
 引っ張るマールにクロノはつられた。
 それはこれから何があっても大丈夫だといえる強さを感じた。
 ふたりははじまりの場所、あの広場に向かった。

 広場には多くの人が集まっていた。
 クロノとマールは思っていたよりも早くその広場に入ることができた。
 二人の記憶では、それが完成するのはもう少し後の時間であったからだ。
 広場ではルッカが装置の調子を見ている。
 広場に入ってきたクロノとマールに気づくと近づいてきた。
「やっと来たわねクロノ。準備は万全、さあ早くのって」
 その様子に少しクロノは戸惑った。
「ルッカ実は・・・」
 それを見て、すぐにルッカはその先の発言を手で制した。
「やっぱり、わたしと同じ時間軸のクロノよね」
 それは何を意味しているのかクロノにははじめ分からなかった。
「ルッカ?」
 疑問を声にしたマールにルッカはにこっとした。
「時間が繰り返しているのよマール。
 わたし達の冒険が始まったこの場所の時間軸に
 はじめはなんだか訳が分からなかったわ
 だって、いきなりこの空間転送装置の前に座っていたんだもん
 横ではタバンがこれの配線いじっているし」
 タバンを指差すと、それに気づいたタバンがクロノに気づいて簡単に声をかけすぐに装置の前に戻った。近づこうとしているちびっ子をいなしていた。
「すぐに嫌な予感がして家に戻ると母さんが足が治っていなくて
 さすがにその時は動揺したわ
 そして、考えたわ
 時間が移動できるようになったきっかけのヒト
 そのヒトがまだやってほしいことがあるんじゃないかって
 だからまた時間を戻したんじゃないかって」
「・・・」
 クロノとマールは唖然とルッカを見た。
「どうしちゃったの二人とも」
「ルッカすご〜〜い」
「ええ、まあサイエンティストだから」
 気をよくしたルッカが高笑いをしようとした時にさっきの少年があられた。
「三人そろったね」
 ルッカは高揚した気分を邪魔され、不機嫌に子供の方を向く。
「あんた何者?」
 そのときルッカは、少年にいつか古代であった不思議な少年――ジャキのときと同じようで全く別の何かを感じた。
 それはクロノとマールがその少年に感じたものに近いものでもあった。
「ルッカ」
「『真実を求めれば現われる
  わたしが消えた後もそれが残らん』」
 呪文にも似た何か不思議な言葉であった。
 ひどく、その言葉が三人に響きわたる。
「なんだそれは」
「アドニー・コンフォートの『銀楼』」
 そっとマールがつぶやいた。
「コンフォートって、あの!」
 ルッカの記憶にはその名が強く残っている。
「これは中世の偉人である歴史家が残したもの
 彼女はこれから起こる何かに気づいていたのかもしれない」
「意味が分からない」
「君たちには一つの選択肢がある。
 これは常に君たちに付きまとうこと…」
 少年はクロノの言葉を無視して進めた。
「ラヴォスゲートは現代にもある」
「!!」
「それに乗っていけばいつでもラヴォスを
 それも君たちの好きなタイミングで倒せる。
 もちろん、いますぐに行かなくてもいい
 ただ、その道を選ぶたびに僕は君たちの周りに現われる
 その道でいいのかと」
「どういうことだ」
「これから君たちにやってもらいたいことがある。
 でも、まだ今の君たちじゃ足りないんだ」
「足りないって」
「もう少し経験をつまないと」
「わたし達に何をさせようとしているの」
「それは君たちの手で見つけたほうがいいんだ。
 僕が直接いってもその本当の意味が分からない。
 対処できない
 今じゃダメなんだ
 ラヴォスゲートはあの小さなカプセルから行ける
 頑張って」
 三人が少年の指した先、装置の一方側に小さな光が見える。
 少年の方を振り返るとそこには少年の姿かたちが消えていた。

 クロノたちは実験を手早く終わらせ、観客を帰らせた。
「どう思うクロノ」
「なんともいえないな」
「せっかく救った世界なのに」
 クロノは小さなカプセル、ラヴォスゲートを見た。
「だったらもう一回救えばいいんだよ」
 マールの発言にクロノとルッカは、はっとした。
「そうよ、もう一回回ってもう一回救ってやればいいじゃない」
「そうだな、やろう」
 三人は決意を新たにポットに向かった。
「でもどうやって?」
 マールがそんな疑問を発した。
「あの少年は何かに気づいて欲しかったような気がするの」
「どういうこと」
「もう一回わたし達が繰り返すことで、
 前の時間軸
 前の周に気がつかなかった何かに気づいて欲しい
 つまりは、もう一回わたし達の行動を
 洗いなおして気づかせようとしているのよ」
「何を?」
「何かよ、何か」
「そこまで気づかせたいものって何なんだろうな」
「まあ、とりあえず進んでいけばわかるわよ
 今は絶対的に情報が足りないんだから」
「じゃあ行くね」
 マールはいつの間にかポットの中に入っていた。
「早っ!」
「そう、とりあえず進んでみろ、の精神よ」
「それでオレの幼い頃、一体何回ひどい目にあったことか」
「ぐずぐず言わない、さあ手伝って」
「おねがいねクロノ」
「分かっているよ。
 今回はマールが消える前に全部終わらせてやるからな」
「その調子よ、クロノ」
 ルッカとタバンは装置を動かしゲートを発動させる。
  ウウウィウィウィウィウィウィウィイイイイイン
  グオォン
 ゲートが開かれマールは吸い込まれていく。

 残されたクロノとルッカはすぐに中世へ旅立った。
引用なし
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【149】-02- (第二章 帰ってきた王妃)
 Double Flags  - 08/8/13(水) 14:17 -
  
 着いたのは予想通り裏山――ボーア山の開けた場所である。
「間違いない
 周囲にジャリがいる」
 モンスターの気配は把握し、後ろにいるメットをかぶった幼馴染の少女――ルッカに声をかける赤い髪、二本のカタナが目立つ少年――クロノ。
「分かっているわよそれぐらい」
 これも小声で話すルッカ。

  ガサガサ

 緑のモンスター――ジャリが草むらから現われる。

  "回転切り"

 すべてのモンスターにほぼ一撃ずつ与える。
 モンスターは一撃を受けて動く気配がなくなった。
 それらは、すぐに緑の砂になって山と一体化していく。
「弱いわね。強さも前の周のままなんて」
「まあ、早いほうがいい
 簡単に進めるならそれはそれで楽だ
 早く山を下りよう」
 二人は山を下り、クロノはガルディアの森へマールのもとに、ルッカはトルース村へ情報を集めに分かれた。


「あなたが情報屋のトマね」
 見慣れたトルース村の宿屋。
 宿屋は、いつになく暗い雰囲気を出していた。それは、この時代が今まさに戦争状態にあるからであろうか。宿屋一階にある食堂のカウンターはそのほとんど埋まっているのは人々が不安から逃れるために少しでも集まりたいという気持ちからのようにも見える。
 その中ではちまきをした見るからにおっさんの感じで出ている男――情報屋のトマにルッカは話しかけた。
 声をかけられ振り返るトマ。しかし、すぐに向き直ってしまう。
 無視されたと感じたルッカが何かを言おうと声を溜めると
「なんだい嬢ちゃん」
 返事をしてきたので、すぐにのどまで出ていた言葉を呑み込む。
「き、聞きたいことがあるの」
 ちょっと詰まりながらも別の言葉を出す。
「聞きたいことか…」
 空のコップを置いた。
「どこからやってきたのか分からないが
 さっさとこの土地から離れたほうがいい」
「どういうことよ」
「あんたの格好、ここの人間じゃないだろ?
 俺は情報屋というより冒険家なんでね
 世界中を回ってきたんだ
 少なくともこの中央大陸群にはあんたみたいな格好はいない
 別にあんたらが何者か知らないし、知る気もない
 今ここは戦争中
 旅はもっと安全な場所でしてきな」
「ちょっ、ちょっとある人の情報を探しているの」
「人探しは専門外だぜ」
「別に探してもらいたいわけじゃないわ。
 その人の情報がほしいだけ」
「なるほど
 その人がこの大陸にいるかもしれないからやってきたのか」
 トマは再びルッカの方を見た。
 一瞬驚いた様でもあったが、またいつものトマの表情に戻っていた。
 やっとこっちを向いたことに気をよくし、ルッカは話を進める。
「ちゃんと、一杯でも二杯でもおごるわよ」
 にやりとした。
 トマはカウンターの親父をを呼びつけ一杯を注いだ。
 ルッカは10ゴールドをカウンターの上に置いた。
「しっかり人の使い方わかっているじゃねえか。
 よし、なんでも聞いてくれ」
「ここにミドリのデカガエル見なかった」
「・・・デカガエル? 人じゃねえのかよ。
 巨大ガエルの料理でもつくるのか?」

  ドン

 思わずカウンターをたたく。
「そんなのどうでもいいでしょ?
 知っているの知らないの」
 迫力に押される。
 あたりの人もこっちを一瞬注目する。
 相手がトマと知ってか、すぐに自分たちの話題に戻っていく。
 トマ少々驚きはしたが、すぐに話し始めた。
「それは今二階にいる奴のことか?
 それともこの北ゼナン大陸に来たゴールデンフロッグのことか
 昔は南ゼナン大陸に居たんだが突然この来たゼナンに現われてな
 あの時は大変だったらしいが
 何でもガルディア騎士団団長に何年か前に退治されたらしい」
「う、上にいるの?」
 呆気に取られたようで少し止まる。
「ああカエルに似た亜人は確かに上にいるが・・・」
「ありがとう」
 トマの言葉を最後まで聞かず、ルッカは体をひるがえし階段を見ると会談から独特の足音が聞こえてくる。
「カエル!!」
 階段を下りてきた小柄な男に向かっていった。
 すぐにルッカが近づく。
 マントを着け、胸にはプロテクター、腰には剣が見られることから剣士である全身ミドリ色をした男――カエルはその言葉に反応した。
「ルッカか、久しぶりだな……? ん?」
 と、自分の言葉を頭の中に繰り返し、少し混乱し、固まった。
 そんな様子をルッカは見て、彼が何に混乱したのかのに気づいた。
「やっぱりカエルも同じ時間軸のカエルなのね」
「同じ時間軸? どういうことだ?」
「わたしの名前覚えているんでしょ」
「ああ」
「ううん
 今は時間がもったいないわ
 すぐにマノリア修道院に行くわよ」
「おい、ちょっとは説明しろ」
 そこへトマが近づいてくる。
「嬢ちゃん
 マノリア修道院は気をつけたほうがいい
 どうも最近のあの場所はきなきくさくてしょうがない
 オレが思うによからぬ事が起きているんじゃないかって思うんだ
 消えたここの王女様もそれに巻き込まれたんじゃないかって」
 その会話にマスターが関わってくる。
「はっはっは
 お嬢ちゃんにガセをつかませちゃいけないよ
 リーネ王女様はボーヤ山に見つかったて話じゃないか」
「そうか、見つかったのか
 でもあの場所には気をつけたほうがいい」
「分かったはトマ
 それとわたしは嬢ちゃんじゃなくてルッカよ
 さあ行くわよカエル」
「あ、ああ」
 ルッカは宿屋の出入り口に立つと
「トマ、無事に帰ってきたらもう一杯おごるわ」
「それはありがてぇ
 無事を祈っているぞ」
 笑顔で返事をすると、ルッカはカエルを押し出すように外へ出た。


 しばらくして
「マスター、不思議な奴だったな」
「あれがいつもあんたの言う西や東の大陸の人間か」
「いや、あのじょ…ルッカはちょっと違う
 なんか別の何かだ」
「へっ、相変わらずなに言ってんだ」
「そうだな、何を言っているんだろうな
 もしかすると、この世界を救うかもしれないな」
「大きく出たな」
「こういうことは大きく言った方がいいんだよ
 なんでもな
 まあ、なんとなくだが、何かをやりそうな目をしている」
「まあ、確かに不思議な感じをしていたが…」
 そこで二人の会話は終わった。
 トマはルッカに振り返った二度目、なにか強いものを感じていた。
 以前にも西や東の大陸で何度か見たことのあるそんな強い目をしてた。
 この中央大陸では魔王軍の勢力が強くなった今、あんな目をしている奴は見たことがない。
「なんか世の中いい方向に向かいそうな気がするぜ」
 誰に言うでもなく、一人トマはつぶやいた。


 一方のクロノは、いつの間にやら王の間に居た。
 王の間には二つ座。
 空席ともう片方にこの国の王、ガルディア王が座っていた。
 威厳と風格をかもし出すガルディア王、しかし戦争中ということもあってか少しやつれているように見える。これがしばらくたつと倒れこむまで心労を溜め込むのかと思うと少し心が痛い。
「おおそなたがリーネが外で世話になったという」
「ええまあ一応」
 どうも、先に着いたマールが色々と手を回してくれていたらしい。
「格好をみるに、この大陸、いや中央大陸のものではないな」
「ええ」
 多少、質問に答え難く、失礼かと思いながら短く済ます。
「なにやら不思議な感じのする少年だ
 リーネが裏山で見つかってここに帰ってきたときもこんな感じがした
 ふむ……なにやらそなたに感化されたのであろうか
 いや、まあよい
 外にでてしまい行方不明になってしまったリーネを助けたことに礼を言う
 近頃魔王軍の活動が活発になってきたせいなのか
 魔物も騒がしくなってきおった
 そなたに助けてもらわなければ今頃リーネはどうなっていたか
 想像するのも恐ろしい」
 クロノはただその言葉を膝を付いて聞いていた。
「今リーネは帰ってきた安心感からか自分の部屋で休んでおる
 そなたが来たら部屋に通して欲しいということだ
 よければ顔を見せてやってくれ」
「はい!」
「ふむ、なかなか元気がいい
 今度、他の大陸の話を聞かせてくれ」
「ええ、時間がありましたら」
「そうか、それは良い
 それにしても、あれほど大事にしていた髪飾りをなくしてしまうとは
 どこかに落としたのかもしれない
 そなたは知っているか」
「いえ」
(だってそれは今マノリア修道院あるから……)
「わたしも少し探してみます」
「いや、客人の手をわずらわすわけには」
「いえ、わたしもこの大陸を練り歩くつもりなので……」
「そうか」
「ではわたしは」
 そう言ってクロノはリーネの部屋へ向かう。
 同時にガルディア王の横に居た大臣が外へ向かう。
 大臣は侮蔑に満ちた目を向け、それをクロノは受け流す。
 この大臣の正体がヤクラという魔物だということを知っているだけに、今すぐに行動を起こしたいという衝動が起こる、がそれを押さえ込みマールの待つリーネの部屋へ向かう。
 大臣はクロノが見えなくなると、憎憎しくその方を睨んだ。
 しかしガルディア王が近くにいるため、すぐに足を外へ向ける。 

 相変わらず長い階段を登るクロノ。
 心の中ではすでに消えてしまったのではないかという焦りから少し強めに扉を開ける。
 そこには綺麗なドレスを着た、金髪でどうやったらその髪形ができるのか不思議な形の頭をした少女――マールがそこに居た。
(……か、かわいい)
 目のあったマールはキョトンとした。
「私はこのものと話があります
 少し席をはずしてください」
 さすが本当のお嬢様、堂に入っている。
 マールはお付きの者が部屋の外へ出たのを確認するとクロノに近づいてきた。
「クロノ、来てくれたんだ。結構早かったね」
「あたりまえだよ。でもすぐに行かないと…」
「分かっている、早くリーネ様救いに行ってあげて」
「わかってるよ」
「ガンバ、クロノ。
 あっ!
 それとこの紙を料理長に渡してくれる」
 机の引き出しから折りたたんだ紙を取り出し、クロノに渡した。
「わかった」
 じっとマールと見た。当のマールはまたキョトンとしている。
「行ってくる」
「よろしくね」
 クロノは一気に階段を下りていった。
引用なし
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【150】-03- (第三章 消えた王女上)
 Double Flags  - 08/8/15(金) 1:06 -
  
 重くはないのか少し不思議なメットをかぶりながらも必死に走るオレンジの服を着た少女――ルッカと背が低く、ぎょろっとした目のミドリの男、というよりカエル型の亜人――カエルは、最後のオルガントラップを解除して一気に扉へ入っていった。
 モンスターの力は正直弱かったので二人はどんどん進むことができた。
「そういえばグランドリオンはどうしたの?」
 最後の廊下を歩いるところで、カエルが帯刀しているものがなぜブレイブソードであるかを聞いた。
 自分にはちゃんと、あの時最後に使っていたミラクルショットがはじめから持っていたのだ。
 クロノもちゃんと刀を二本持っていた。おそらく、マールもワルキューレを持っているのだろう。それなのにカエルだけ持っていないのは不思議に思えた。

「いや分からない。
 とりあえず、手元にあったブレイブレードを使っているだけなんだが、そもそもいきなり時間が戻ったていうことに驚いていていて、それどころじゃなかったんだ」
 と、言いつつ内心はグランドリオンを持っていないことに動揺を覚えていた。
 ルッカの言う『この周』に来て一番初めに確認したのはグランドリオンの存在の有無であった。
 パレポリでリーネ様が消えたことを聞かなかったらそのままデナドロ山に向かっていたところなのだから。
「たしか、クロノもにじとかを持っていたし、わたしもこのミラクルショットがある」
 カチャン、とミラクルショットを取り出す。
 カエルから見てその銃の姿はあの最後の戦いから変わっていないように見えた。
「それは意思を持つもの。
 歴史に大きく干渉するものだから持ち越せなかったんだ」
 少年は突然現われた。
 奇妙な少年。
 意識はしていないが、そこに存在していたとはいえない。
 その少年は、いつか見たかもしれない、そんな少年、そんな風にカエルは印象を持った。
「こいつが例の少年?」
 聞くがルッカも少々驚いているようで肯くだけであった。
「お前は誰なんだ」
 短答直入に聞くと
「それは君が探すことだよ、グレン君、いや今はカエル君だったか」
 軽く返された。
 カエルには嫌味のようにも聞こえた。
 しかし、この姿でありながらも君の正体を知っているという脅しであるにも関わらず脅しらしく感じられなかった。
「名前もか」
「なまえ・・・」
 少年は驚いたようだった、済ました顔をして何でも知っているという顔をしていたため、カエルはしてやったりと少し満足した。
「名前か・・・。
 確かに僕は名乗っていなかった。
 そうだね
 東の大陸の言葉を借りるなら、フツヌシといったところかな? まあ、少年でもいいさ。
 さあ、この先の扉を開けるとヤクラが待っている。
 でも、ヤクラもその辺のモンスターと同じだと思ったら大違いだから、覚悟してね」
 それだけ言い残すと、姿がぼんやりと消えていった。
「フツヌシ? ルッカは聞いたことがあるか?」
「いや、全く。
 東の大陸の話なんて、なかなかゼナン大陸まで回ってこないもの。
 唯一接点があるとしたら、チョラスぐらいじゃない」
「だよな、まあ深く考えるのは後回しだ。
 早くリーネ様を助けに行こう」
 二人は扉の中へ入っていった。


 扉の先にはリーネ様がだけが居た。
 カエルは駆け出した。
「リーネ様、無事ですか」
「ああ、カエル助けに来てくれたのですか」
「リーネ様、ヤクラの奴はどこです」
「ヤクラとは?」
「ヤクラはリーネ様を誘拐した奴です」
「ああ、あの大臣の姿をしたものなら朝出てから帰っては来ていません」
「帰ってきていない」
(しまった、早すぎたか)
 端で会話を聞いていたルッカは心の中でつぶやいた。
(ちょっと急ぎすぎの)
「ではリーネ様、早く脱出を……」
 そんな時、扉近くで声がした。
「そうはさせんぞ、カエルの野郎」
 長く白いヒゲが生え、カエルと同じかそれ以下の身長で、いかにも立派な役職を持っているといわんばかりな格好――大臣が居た。
 姿は大臣であるがもう正体がばれていると分かっているのか、その口調が大臣のものではなかった。
「ガルディア王国崩壊には、その娘が必要なのだ。
 カエルの分際で邪魔するとは……。」
 大臣の目はすでに人間と思えないほど吊り上がり、凶悪な輝きを見せる。
 同時にモンスター特有の殺気を放つ。
「残念だがニセ大臣。
 いや、ヤクラ。
 これ以上、ガルディア王国を勝手にさせない」
 そんなカエルを見てフン、と笑った。
「そんなにも騎士団から追放されたのが悔しいか、アマガエルよ」
「言ってろ」
 カエルは剣を構え、踏み出した。


(馬鹿な、なぜこんなにも強く、早いのだ)
 ヤクラは予想外のカエルの力に翻弄されつつあった。
 騎士団にいたときはこれほどの力を持っていなかったはずだ。
 一体いつこれほどまでに力が上昇しているのか。
 一撃一撃、確実にヤクラを追い込んでいくカエル。
 カエルが少し離れるとすぐにメットの女から援護射撃がくる。
 ヤクラはあっという間に瀕死の状態となった。
 すでに体は人型からモンスターにかわった。
 ごつごつとした殻のような肉体に、牛のような顔とわずかに生えた角。顔は青色に、体は灰色と奇妙な体色である。
 はじめリーネは、なぜ大臣とカエルが戦っているのか分かっていない様子であったが、このヤクラの姿を見たら、なぜ自分がここにいるのか理解していることだろう。
 これでリーネの扱いが難しくなる。
「貴様らよくも」
 絞り出した声も、すでに死ぬ間際の一言になりそうだ。
 くそっ、くそっ、くそっ
 こんな事があってたまるか、やっとはるか西のここまでやってきたというのに
 またここでもか
 くそ
 カエルのやつめ
 くそ
 心の中で震わしても、相手との力の差は埋まらない。
 絶望といままでの苦心がヤクラをまだ少し、まだ少しと生き延びさせていた。
 それも時間の問題であろう。
 そんなときに声が聞こえた。
 ヤクラの中に響く何かを。
 それは何かを言っている。
 内容はあまり理解できない。
 しかし、
 このままでは自分は消える。
 そう、
 確実に消えるのだ。
 しかし、だが、だがこの力は。


 突然赤い砂が舞った。
「なによこれ」
 ヤクラに止めをとしていたなか、ルッカとカエルは吹き荒れる風に動きを止めた。
「リーネ様」
 しかし、リーネのところまで砂は飛んでいなかった。
 砂はやがて一つのところに、一つの塊になっていく。
 その中心にはヤクラがいる。
 砂は球状になっていく、次第に完全な球をつくったと思うと砂が薄れ、中の姿が現われる。
 それは、もとと何も変わっていないように思えるヤクラがいる。
 ルッカはかまわずミラクルショットを構えた。
「とどめよ」
  ドォキョォォン
 ミラクルショット特有の音が室内に響く。
 ルッカの放ったニードルが拡散して、ヤクラにダメージを与える。
 ぐっ、うめき後ろに下がるヤクラ。
 同時に、ヤクラに入ったニードルで傷ついたところから緑の何かが撒き散る。
 見方が悪ければ血液にも見えただろうが、それは粉末状、というより砂だった。
「リーネ様、もう少し離れてください」
 嫌な予感がし、少し近づき気味であったリーネにカエルは注意する。
 そしてカエルは膝を付いた。
 自分でも何の前振りもなく。
「カエル!!」
 近づこうとするリーネをルッカは止めた。
「リーネ様はなれて」
 リーネからすれば何を言っているんだ、と思ったがルッカの迫力に押され下がった。
 すぐにルッカはバックからあるものを出す。
  “火炎放射”
「カエル!!!!」
 リーネがまた声を引き上げる。
 火炎放射はそのまわりの砂を焼き払う。
「毒か」
 何とか立ち上がるカエル。
「前はこんな攻撃、なかったのに」
「これがあの少年の言ってたことか」
 カエルは先ほどの少年の声がよみがえる

「さあ、この先の扉を開けるとヤクラが待っている。
 でも、ヤクラもその辺のモンスターと同じだと思ったら大違いだから、覚悟してね」

(なるほど、たしかに大違いだ)
  “ファイア”
 炎の魔法がヤクラを直撃する。
 小規模の爆炎も生じ、煙が舞う。
  “ニードル”
 突如としてルッカの前に鋭いドリルが現われる。
 とっさにルッカはミラクルショットを盾にする。
  キュイン
 ドリルはその方向を曲げた、が爆煙のなかヤクラがタックルをし、ルッカは叩き付けられる。
「ルッカ!!!」
 声を上げるが返事はない。
 そこへカエルに衝撃が走る。
  ●ウーハー
 魔法とは感じの違う、緑の魔力のある風に吹き飛ばされる。
(この力は何なんだ)
 吹き飛ばされ、壁にぶつかる。
 心配顔のリーネ様が見える。
(魔法とはなにか感じが違う
 それに攻撃を受けたあとにもその力がこの空間に漂っている気がする)
 しかし今それを考えている暇はなかった。
「ヤクラ、貴様一体……」
 一体何が起きたのだというのだ。
 爆煙が収まってきたところにヤクラが何か紙のようなものを手にしている。
引用なし
パスワード
<Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 7.0; Windows NT 5.1; .NET CLR 1.1.4322; .NET CLR...@p2131-ipad41hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp>

【156】-04- (第三章 消えた王女中)
 Double Flags  - 08/8/31(日) 23:41 -
  
「カエルよ。
やはりお前は騎士団団長のアウロンよりも厄介だ。
 わしの最後の障害となりうる。サイラスと同じところへ行くがよい」
 その言葉にカエルはふっとした。
 誰もそのことサイラスが死んだということは、誰も、いや、クロノたち以外知らないはずの事実である。
 魔王とその配下ビネガーはその事実を隠していた。
 この姿となり魔物にも聞いたが、そんな事実は出てこなかった。

  “ニードル・グレート”

 今までで一番巨大なドリルがカエルを襲う。
 しかし、予備動作から予測していたカエルは防ぐ魔法を発動させた。

  “ウォータガ”

 巨大な水の塊がカエルの前に、ドリルの直線状に現われる。
 それはドリルを包み、勢いを相殺させ、ドリルそのものを水圧で圧縮させた。
 カエルはブレイブソードを強く握ぎり、攻勢に移ろうとする。
 が

  ガン

 “ニードル”発射後、すぐに行動を移していたヤクラの猛スピードのタックルによって自身が瀕死状態に陥る。
 魔法のコントロールによって少しの間ヤクラに気が行っていなかったので、予測できずまともに食らってしまった。
「さらばだカエル」
 そういったヤクラの顔は見れなかった。
 どうせ、憎々しくも笑っているのだろう。
 ヤクラはニードル発射口の照準を合わせる。

  ドォキョッン ドォキョォォン

 銃弾がヤクラの甲殻に当たる。
 ルッカが壁を背にし体勢を何とか固定して、銃弾を撃ったようだった。

  “プロテクト”

 自分への危機を感じ取り、すぐ防御の魔法を発動させた。

  ダダン

 ヤクラがその場で地響きを立てた。
 なんとか体勢を保っていたルッカが崩れる。
 ヤクラはなにやら紙のようなものを出現させた。

  ●リーフ

 にぶく低い声が発せられると、早さの乗った葉っぱが十数枚程度か、ルッカに向かう。

  ”断”

 虹の軌跡を描いた一線がその葉っぱをすべてたたき伏せる。
「ほう」
 現われたのは赤い髪とにじに輝くカタナといわれる武器を手にした少年――クロノであった。
「クロノ」
「どうやら間に合った」
 カタナ――にじを構えてヤクラと正面から対峙する。
 そして

  “サンダガ”
  “サンダガ”
  “サンダガ”

 強力な雷撃の三連発。
 一気にこの場の主導権を握るつもりだ。
 ヤクラは煙を吹き、電撃の中生き残る。
「貴様……」
 ヤクラが突撃の体制をとると

  “サンダー”
  “サンダー”
  “サンダー”

 雷撃によりその突撃体勢は崩される。
 クロノはおそらく接近戦に持ち込む気はないのだろう。
 ルッカの銃声が聞こえていた、しかしヤクラを見ると弾痕が甲殻のなかに見当たらないことから、通常攻撃は通じないと判断したのだろう。
(よく考えている)
「これなら……」
 またクロノが魔法を使おうとするが、ヤクラのおこなったのは赤い砂を撒き散らしただけだった。
「クロノ、それは毒!!」
 ルッカの声を聞きその場から下がるクロノ。
 だが、赤い砂はヤクラの周りを漂っているだけであった。

  ドウン ドウン ドウン ドウン

 聞いたことのある音。
 カエルは天井近くを見ると無数の針が回転しながら舞い、クロノだけでなくこの部屋にいる全員を巻き込むほど広範囲に広がっている。
「貴様らも道連れだ」
 笑うヤクラの低くにぶい声が聞こえた。
 道連れといってもヤクラの場合は頑丈な甲殻を持っている、助かるはずだ。
 大ダメージを受け動けないカエルとルッカ、無防備なリーネ様、すでにこの場から逃げ出すことはできなかった。
 『前の周』はこの反撃でみな倒れることはなかったが瀕死の、本当にギリギリの状態に陥ったことがある。
 クロノは一瞬考えて、すぐに呪文を唱えた。

  “サンダガ”

 手より放たれたイカズチの光が天井近くで、まさに落ちてくる寸前の針を破壊しつくした。


「大丈夫」
 ルッカ、カエルに声をかけるクロノ。
「来るのが遅いよ」
「13世並みに危なかった。
 一体なんだったんだ」
 カエルがヤクラの方を見るとすでにその姿は青色に固まっており、砂と化していた。
 確かに、カエルの言うとおりあのヤクラは奇妙であった。他の手下のモンスターは、『前の周』と同じ強さであったのにも関わらず、もしヤクラも同じ強さならカエルとルッカ、二人を苦しめることもなく十分に倒せたはずだ。
 何が変わったのか、何が変わっているのか。
 『前の周』のあの時と同じ部分があるのに、何かが違う。
 では何が違うのか。
「行くぞ、クロノ
 城の中のマールの様子を確かめないとな」
 にやりとするカエル。
「リーネさんがまだ生きているし
 予定よりも早く目的を達成できたからまだ大丈夫なはずよ
 代わりのマールが消えているってことはないと思う、って大丈夫」
 深刻な顔つきにルッカが体調を心配したようだが、クロノは大丈夫だと返した。
 考えが中断されてマールのことを思い出し早く行動しなければと気が急いでいた。
「マール? 城の中? 代わり?
 一体わたしがいない間にガルディアはどうなってしまったの?」
 カエル、ルッカともにどこまで話していいのか戸惑った。


「ということは、クロノさんとルッカさん、そしてわたしの子孫のマールは未来から来たって言うのね」
「信じられないでしょうけど」
「ええ、まだ少し
 いえ、魔物からわたしを救っていただいたのですから
 そこまでしていただいたのに
 信じないというのはおかしな話、信じますよ」
 にこりと笑ったリーネ様の表情からは少しの疑いも見られなかった。
「さあ、早く行きましょう
 マールが待っているのでしょう?
 わたしも遠い子供の姿を見てみたいわ」
 四人が奥の部屋から出ようとすると奥の宝箱が開き
「おーい、わしを忘れないでくれ」
 本物の大臣もここに捕まっていたことを思い出し、四人は大いに笑った。
 そして、五人はすっかり魔物の姿、気配の消えた修道院を後にした。
 だがクロノには言い知れぬ不安をその心に隠しつつ、マノリア修道院を見た。
引用なし
パスワード
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【157】-05- (第三章 消えた王女下)
 Double Flags  - 08/8/31(日) 23:42 -
  
「マール、どう? 大丈夫だった?」
 ガルディア城に戻った五人は、大臣とリーネ様、カエルに事情を説明してもらい、そのうちにクロノとルッカは王女の部屋に向かった。
 金髪の髪をドレスを着た少女――マールが無事にその部屋で座っていた・
「うん、少し自分が薄くなった感じだけど消えなかったよ。
 ありがとう、クロノ、ルッカ
 ところでカエルは元気にしていた」
 元気いっぱいに返事をする。
「ええ、やっぱりカエルもわたし達と同じだったわ」
「ふーん
 それでこれからどうする?
 このまま戻るとクロノ捕まっちゃうし」
「確かに、ここでこの時代の大臣を説得して
 裁判所をつくってもらわないようにしないと」
「そうだよ、それに父上を説得しなくいけないし」
「あの時点ではすでに
 ヤクラと本物の大臣が入れ替わっていたと考えたほうがよさそうね
 あの時期じゃ王様も説得するのは難しいし」
「じゃあどうする?
 城に戻るのは止めてそのまま未来に向かうって言うのは」
「それじゃダメだよマール」
「どうしてクロノ、自分が捕まっちゃうんだよ?」
「一回捕まらないとフリッツさんを助けることができない。
 やっぱり一回空中刑務所に入らないと」
「そうね、現代の大臣がヤクラなら
 裁判とかなくって裏でフリッツさんを亡き者とするでしょうね
 裁判があるから公にできるものだから
 そう考えると、クロノは独房に入るしかないか」
「もともとそのつもりだ」
「そう、やっぱり助けに行くべきよね
 ちょこっとつくりたいものがあるから
 それをつくってから向かうわ」
「ねえ、わたしも何か手伝えない?」
「そうね、ドラゴン戦車のとき補助としてきてくれるとありがたいわ」
「わかった」
「決まったな、次の行動が」
「さあ、今度は下で待っているリーネ様やカエルに挨拶しないと」


「カエルよ、この度そなたの活躍をきいた
 その功績で十分に騎士団に戻れるはず
 それでもこの城を去るのか」
 玉座に座り、その威厳をもつ王――ガルディア王は、目の前のカエルに話す。
「王の申し出はありがたいのですが
 わたしにも思うところがあります」
 カエルの違和感は大きかった。
 ルッカの言う『前の周』では、リーネ様誘拐の時点ではまだ自分は騎士団の中にいた。ただ一人独自にリーネ様を探していたはず。
 それなのに今回はどうだ。いつのまにやら、いや記憶は残っているのだが、大臣により自分が騎士団を辞めさせられてから、その後に、リーネ様が誘拐されたという。
 もうそのときにはヤクラは大臣と入れ替わっていたのだろう。
 あのヤクラもおかしかった、クロノたちしか知らないはずのサイラスとの事情を知っていたのだ。かつての自分がグレンだということは言っていないし、知られていないはずだ。
 事実、それまでサイラスとともにこの城に訪れることのあるグレンである、サイラスが行方不明になれば、グレンである自分に何か聞くはずであろう。
 いままで騎士団に所属していてそれを聞かれることはなかった。
 過去に調べたとき、グレンはサイラスとともに行方不明となっていた。
 自分はグレンという名を捨てた一人の亜人として生きていくことにしたと決心のついた瞬間でもあった。
「カエルよ、また騎士団の一員としてわたし達に力を貸してくれませんか」
 リーネ様の一言にもカエルは動じなかった。
「リーネよ、カエルを困らしてはいけない
 もう決心が固いようだ
 わしは引き止めることはしない
 思うように生きなさい
 それでも、いつでもこの地に戻ってきてその力を振るって欲しい」
「ありがたいお言葉」
 カエルは立ち上がり、扉の方へ歩く。


 下に降りたクロノたちはガルディア国王ガルディア21世と王妃リーネに挨拶をした。
 やはり大臣から裁判所をつくる提案がなされた。
 クロノたちはそれを複雑な模様で聞いていた。
 話が終わり、王の間を出るとマールが呼び止めた。
「ちょっと待って、食堂によってもいい」
「? お腹すいたの」
「それもあるけど」
 マールは恥ずかしそうに笑い、食堂の方へ走っていった。
 ルッカたちはその後を追う。
 食堂に入ったルッカとクロノは、すでに席についていたマールの横に座る。
「なにを待っているんだ」
「いいから、いいから」
 しばらく待つと調理場から甘い匂いとともにやってきた。
「これって」
 黄色く平たいもの・・・。
「クレープ?」
「そうクレープ」
 さっそくマールはもぐもぐと口に運ぶ。
「なかなかの出来ね」
「そうじゃないわよ、こういう現代のものを教えたら・・・」
 キョトンとしたマール。
「大丈夫、西の大陸ではすでに作られていたって調べたんだから」
「でも伝わるのはもっと後でしょう?」
 あっ、マールとクロノの時間が止まった。
「・・・どうしよう」
「どうするのよ」

 ふう

「まあ次に来たときまでに……」
「それじゃ遅いわよっ!!」
「なら、先に行ってくれ」
「なんで」
「オレが何とかする」
「どうするの?」
「内緒」
 のこりのクレープを口に運んだあと、クロノは立ち上がり、調理場の方へ歩いて行った。


 この時期のゼナン橋は穏やかである。
 もう2、3ヶ月経つと海流の流れが強くなり、海風がひどくなる。たとえ橋の上でもその強風はおおきく、たびたび通行止めになるのだが今は橋は完全に壊れている。
 先の戦いで橋を破壊されてしまった。
 橋を破壊されたことは偶然であったが、おかげで魔王軍の進行が一時的に止まったことは事実である。
 現在、北ゼナン橋にはガルディアの兵士が着々と橋をつなぐ準備をしていた。
 その端の方へカエルが立っていた。
「カエル待たせたわね」
「ああ、クロノはどうした?」
「あとから来るわ」
「そうか……で、これからどうするんだルッカ
 さっきの話から、色々限定されそうだが」
「さっきの話って」
「修道院で少しこの世界のことを話したんだ。
 それでこれから俺たちの行動はどうするのかってことを」
 ルッカはバックの中からゲートホルダーを取り出した。
「時間がなかったからこれ一つしか作れなかったの
 だからカエルを現代に連れて行くことはできないの
 とりあえず、ゲートホルダーをまたもう一個つくるから
 一度現代に戻らないと」
「で、おれは?
 さすがに『前の周』みたいに隠匿生活っていうのもまずいからな
 積極的に動いていかないと」
「そうね」
「ならカエルにはグランドリオンを先にとってきてもらおうよ」
「そうね、確かにこれから先少しスムーズになるわね
 お願いねカエル」
「あっ、ああそれくらいなら構わないが」
 そこへクロノが合流してきた。
「なんとか、大丈夫そうだ」
「ほんと」
 まだちょっと疑わしいという顔でクロノの顔を見るルッカ、それを話すようにマールは言った。
「もう、心配しすぎだよルッカ
 大丈夫クロノなら何とかしてくれているから」
「そ、そう
 まあ、クレープ一つくらいでさすがに歴史が
 大きくどうこうなるとは思わないけど」
「なんだ、クレープって?」
「こっちの話よ」
「ところでどこまで話が進んだんだ?」
「オレが先にグランドリオンを取りに行くってところまでさ」
「先に?」
「ああ」
「ちょうどいいわクロノが来たことだし話しておくわ
 私の今の考えを」
「考え?」
「ええ、私は、
 ってまあこの時間軸にきてから考えたんだけど
 私はちょうど魔王との闘いがあってから
 私たちが直接世界に影響してしてきたんだと思うの」
「確かに、あの魔王のヤローと戦って巨大ゲートができた
 それでオレたちは原始へ、魔王のヤローは古代へ飛ばされたんだよな」
「そう、原始で私たちがやったこと覚えている?」
「わすれないよ
 わたしたちは滅びるはずだった恐竜人を生き延びさせた」
「ええ、アザーラといった主要な恐竜人は滅びたけど
 彼に反する恐竜人が極東の大陸へ行くのを
 もう人類と争わず干渉しないという約束とともに」
「結果は巨人のツメの守護者として
 ふたたび私たちの前に現われた」
「古代では魔王が来たことにより
 三賢者が封じられ
 魔神器の改良、もっと強力なもの」
「そして、黒の夢の出現、大きく歴史を変革してしまった」


 カエルは北と南ゼナンを流れる、バムロー海峡を越え南ゼナンに渡り、クロノたちは現代に戻っていった。
引用なし
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【158】-06- (第四章 ただいま!)
 Double Flags  - 08/8/31(日) 23:45 -
  
 現代に帰ってきた少年、少女の三人――クロノ、マール、ルッカは、リーネの鐘の前の広場で今後を話し合っていた。
「とりあえず。城でも話したように、クロノには空中刑務所に入ってもらわないといけないわね」
 ルッカはベンチに腰掛けた。
「多分、アレがガルディアの森のゲートを開くカギになっているんじゃなかったかって、前に話したことがあるわよね」
 マールもその隣に腰掛けた
「確かにそんなこといってたな」
「そう」
 ルッカは人差し指を立てた。
「私たちはそこまで時間を進めておく必要があるのよ」
「まあ、俺はもう覚悟しているから大丈夫だ」
「あるいはラヴォスを倒すのか。選択の時間だよ、クロノ、マール、ルッカ」
 聞き覚えのある声、三人はその方向へ向く。
「あの短時間でまた新しい未来ができたんだ。
 どうな未来か僕にはわずかしか分からないけど、さあどうする?」
 突然の来肪者―少年の言葉に、三人ははじめになにを言っているのか理解できなかった。
「忘れたの? ラヴォスゲートだよ、ラヴォスゲート。
 君たちはあのゲートがある限り、いつでもラヴォスに挑めるんだよ?」
「新しい未来って……」
「この世界には無数の可能性がある。
 君たちがいつラヴォスを倒し、いつ世界を救ったかによって未来は変わるんだ。
 君たちが物語を進めないでやっていたらこうなっていたかもしれない未来。前に、君たちが倒せなかったその瞬間に、もし、ラヴォスを倒せたらこんな世界になっている、って話さ」
「別の未来が見えるってこと?」
「まあ、考え方によってはそうなるね。ただし、これは過去の遺産、いやおまけみたいなものかな」
「おまけ?」
「そう、お・ま・け。
 現われた未来が、君たちの未来と繋がっているかどうか分からない。
 君たちの選択や他の選択、ほんの少し違っただけで未来は変わる。
 ラヴォスを倒して見れた未来が、すぐこの限定された時間の未来でないときもある」
「う〜〜ん、どういうこと?」
「さあ」
 話がややこしくなっていき、クロノとマールは付いてこれなくなってきた。
「まあ、分からなくてもいいさ。実際に見てみればいいんだし」
「ここに帰ってこれるの?」
「選択しだい」
 そういって少年は姿を消した。
「ルッカ、どういうこと」
「さあ、私にはあまり」
 少し理解できた部分もあるが、人に伝えるとなると、伝えにくくてあえてルッカははぐらかした。
「まあ、実際見てみればいいって話だからね。どうするクロノ?」
「まだ、ラヴォスを倒すのは早すぎると思うんだ」
 クロノはあくまで慎重にと考えていた。
「まだまだ先はあるから」
「でも、見てみたいな」
「そう?」
「だって、違う未来だよ。どうなっているのか面白そうじゃん」
「いやいや、とりあえず裁判を受けに行こう」
「ま、まあ、そこまでクロノ言うんだったらいいけど」
「ごめんマール」
「いいよ、ちょこっと興味があるってだけだから」
「……話はまとまった? お二人さん」
「ルッカ!!」
 驚いて、マールがベンチから飛び上がる。
「じゃあ、私は二代目ゲートホルダーや、
 この先に使えそうなものの案があるから、それをつくり終えたら助けに行くわ。
 じゃあ、ちょっとは周囲を気にしながらエスコートしなさいよクロノ」
「ルッカ!!!」
「あはははは、じゃあ、ねぁ〜〜」
 そう言い残し去っていった。
 しばらく黙るマール。
「じゃあ、いこっか」
「うん」
引用なし
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【159】-07- (第五章 王国裁判I脱出)
 Double Flags  - 08/8/31(日) 23:51 -
  
 目が覚めたら、バンダナをした少年――クロノのひたいのバンダナはにはうっすらと汗が浮かび上がっていた。
 バンダナをはずし、服の袖で汗を拭う。
 それからクロノは現状を確認した。
 周囲は見た覚えのある汚れた壁と鉄格子。
 机の上には薄く輝いている銀色のカップ、そして真新しい袋が置いてあった。
「? 起きたか」
 鉄格子の外には、鉄のよろいをしたガードがいた。
「ここは空中刑務所。 覚えているか?
 お前は王女様誘拐および国家転覆の罪でここに捕まったんだ」
 いわれてクロノは少しずつ思い出していく。


「マールディア様〜!
 ご無事でしたか? 一体、今までどこに!?
 何者かにさらわれたという情報もあり 兵士達に国中を探させていたのですぞ!」
 現代のガルディア城に入ると、顔をゆがませた長いヒゲと小さな背が特徴的な男――大臣が階段を降りてきた。
 大臣が近づいてきたのはクロノの前にいた少女――マールであった。大臣は後ろのクロノに気づき。
「 ム! そこのムサいヤツ! そうか、お前だなッ!
 マールディア様がさらったというのは!
 なるほど、自分から罪の意識でやってきたというのか」
「ちょっと、なに言っているの!!」
 クロノを値踏みするように見た後、にらみつけた。
「フム、そのカタナ。 この城の中で刃物を持ち歩くとは何たることじゃ。
 も、もしやそのカタナでわしらを脅すつもりなのじゃな」
「大臣!!」
「マールディア様。ささ、早く離れてください。
 脅されていたのでしょう。 ガルディア城に真昼間から乗り込んでくるとは大胆なやつじゃ
 警護官!! ささっと、ひっとられよ!!!」
 マールの制止も聞かず、大臣の命令で続々と警護官が集まる。
 しかしクロノは、前の時間軸(ルッカの言う『前の周』)でかなりの経験とともに力を手に入れている、早々やすやすと捕まったりすることはない。
 ましてや、生身の人間に対してそうそう気絶することはありえない。
 だが、クロノの気は一瞬にして失われた。
 急所を完璧に突いたその攻撃に反応すらできなかった。
「クロノっっっっ!!!」
 マールも何が起こったのかわからず、クロノの名を呼ぶ。
 が、クロノは床に沈み立ち上がらない。
 すぐに横の警護官から抜け出し、近づこうとするがある男によって止められる。
「マールディア様、危険です」
 低い声でマールを呼び止めた警護官、この男がクロノを気絶させた。
 その男を睨みつけると、マールの表情は驚きに染まった。
「ジ、ジーノ!!」
 マールがジーノといった男は、他の警護官とは違う衣服に身を包んでいた。
 その男、マールの記憶をたどれば一年ほど前大臣の命により、西の大陸エストの国家への外交のために出て行った男。
 ジーノはマールの前にひざまづく。
「遅れながら、 ガルディア王国騎士長、ジーノ・ノーティア・コンフォート。
 西の大陸より帰還したことを報告します」
「どうして…」
 歴史が違っている。
 マールは言葉をのみこんだ。
 彼は前の時間軸ではヤクラによってすでに殺されてしまったはず。
 ジーノは、マールの弓術は彼の祖父に教えてもらったものであり、兄弟子にも当たる。若く30代にしてガルディアの騎士長(昔からの通例でそういった呼び名が使われている)になり、マールが城の中で数少ない理解者であるとともに信頼できる人物であったはずなのだが。
「千年祭では何か起こるかわかりませんですからな。
 早々に西の大陸との交渉を引き上げて、戻ってきてもらったのですよ」
 マールに向かいそう言うと、振りかえる。
 クロノを見下ろす大臣。そこには少し憎しみがこめられているように見えた。
「案の定。 このようなムシがマールディア様に取り付きおって」
「大臣!!」
 抗議を言おうとするが、前にジーノが立ちふさがる。
「警護官!!
 この男を裁判にかける。 上に連れて行け」
「クロノーッ!!」
 足が止まる警護官。
「かまわん。連れていけ」
 ジーノがそういうと、警護官は二人がかりで床に倒れたクロノを運び出す。
 その様子を何もできずにマールはただ見ているしかなかった。
 そしてもう一つ。
 どうしてジーノが生きていたのか。
 それが不思議であった。
 あれほど悲しんだことが、不思議と現実になると不安でしょうがなかった。
 歴史は自分が知っているものと少しずつズレている?
 自分があの時、中世で消えることがなく現代に戻ってきたから?
 それが関係あるの?
 やっぱり私は一回消えなくてはいけなかったの?
 マールの不安は高鳴っていくばかりであった。


 そして裁判。
「せいしゅくに! せいしゅくに! 判決が出た! 10対0で無罪とする!!
 ……しかしだ。誘拐の意思はなかったにせよ、マールディア王女をしばらく連れ出したのは事実。
 よって反省を促すため3日間の独房入りを命ず!!」
「連れて行け」
 大臣は警護官をよんだ。
 弁護士のピエールはまだ納得のいっていない模様である、ぶつぶつと次の対策を考えているようだ。
 無言で連れてかれるクロノ。
 マールはその様子をただ見ているしかなかった、横にはジーノ。
 ジーノを出し抜いてまでむかうのは難しい、それは今までの経験から分かっていた、それに下手今行動にでたら、クロノの待遇が悪くなる、そんな気がした。
 そしてジーノの様子を見ていてマールにはどうも違和感を覚えた。
 いったい西の大陸で何があったのか聞いてみたかったが、なかなか切り出せず、時間が経ち結局クロノの裁判の時間になってしまった。
 クロノが送られていくところを見ると隣のジーノはすっと立ち上がり、裁判所から出て行った。
 声をかけようにも、なんと言えばいいのか思いつかなかった。
 それはクロノのことがあるからなのか、今のマールには分からなかった。


 クロノは『前の周』と同じく逃げ出すべきかどうか悩んでいた。
 ふと机の上を見る。
 それは、無罪にもかかわらず独房入りを命じられたことに同情して差し入れをいれてくれたものだ、中にはエーテルが入っている。『前の周』は有罪でこんな事はなかった。そのエーテルを見て決心が固まった。


 クロノは決心してから行動が早くすぐに脱出した。
 一回通った道なので早いということもあるが、『前の周』は誰かいるかもしれないと思い見て回ったのだが、結局残っていたのは骸骨や亡霊だけであった。そのため今回はすぐに脱出しようと考えていた。
 今考えると、大臣は事件が起これば検事として、片っ端から気に食わない奴、関係ない奴を連れてきて処刑したのだろう。


 唯一の生き残りフリッツを助けるルートで、一体のモンスターがあらわれた。
「ギア」
 『前の周』は一階層下にいたはずである。
「脱獄者はおめえか」
「……」
「無言は、肯定とみなす」
 ギアはすぐに戦闘態勢に入りトゲのついたこん棒を振り上げた。
 クロノの目には雑な魔法の構成がかすかに見えた。

  ”クエイク”

 魔力の干渉を受けた石の床が変形盛り上がる。
 クロノは後ろに下がると、床が槍のように飛んできた。
 確かギアはこんな能力は持っていなかったはず。
 ふたたび雑で少しさっきより大きな魔法の構成が見えた。

  ”クエイラ”

 直感的にその場を離れると、床が大きく抉られていた。
 クロノは体勢を整え、ナイフを手にした。
 そのナイフに「天」の魔力を加える。

  ”サンダー・ショット”

 クロノはあまり魔力を扱うことが得意ではないが、何かに力を加えることが少しだけできる。その応用で、サンダーレベルの電撃を手持ちのナイフに加えたのだ。
 こん棒を持ったギアが反応した、反応できた瞬間、電撃の力を得たナイフがギアに放たれる。

  ズダンッ

 ギアの体を突きぬけ、壁にものすごい音を立てて突き刺さる。
 そのとき、ギアの体から何かが見えたかと思うとそのまま恐怖の顔をしてギアは逃げてしまった。
「今のは…」


 疑問が晴れないまま、というか『前の周』もギアは途中で逃げてしまったのだが、フリッツを助け空中刑務所の出口まで来た。
 そこで所長はすぐに逃げ出すが、
  ポカポカポカポカ
 小気味よい音とともにメットをかぶり、いつもよりバッグが膨れている少女――ルッカが登場する。
「クロノ! 助けに来たわよ! ……っていってもまた自力で逃げ出せたのね」
 相変わらず無事なクロノを見て
「……、なんか、つまんないなあ」
「物騒なことを」
 と、二人でやっていると
「じゃ〜ん! クロノ! 助けに来たよ!」
 マールがやってきたのだ。
「何であなたもここに来るのよ!」
「いや、どうせ家出するなら早いほうがいいかなって。
 ダメだった?」
「……」
 クロノとルッカは顔を見合わせる。
「あ、ああ、もういいわ
 こんな所はさっさとおさらばしましょう!」
 ルッカを先頭に外へ出ようとしたとき、一人の男が現われた。
「そこまでです、マールディア様
 そして、クロノくん。君を逃がすわけには行かない」
「だれよあんた」
「……確かルッカといったか、クロノ君の幼馴染の。
 脱獄という犯罪者を逃がす手伝いをしたなら補助罪としてつかまえますよ」
「……ジーノ」
「さあ戻ってくださいマールディア様」
「彼は?」
 勝手に話を進められ気に食わないルッカがマールに聞く。
「ガルディア王国騎士長ジーノ。王国で最も強い警護官」
「……騎士長って」
 ガルディア王国は、100年ほど前に騎士団を解散させ新たに軍隊として再組織された。そのなかで旧来より親しまれている騎士という称号を設け、軍部最高責任者を騎士長と任命している。この騎士長という称号は、軍の最高責任者であるとともに軍最強の人物に与えられるものとして知られている。
 ゆえに大臣は騎士長を殺したはずだったのだが。


 クロノはそのジーノという男にいやな気を感じていた。
 少し前にこの男によって気絶させられたことはなんとなく分かっていた。
 ルッカやマールには向けられていないが、自分に対して向けられる殺気。
 どことなく師匠を思いだす強力な剣気である。
「ふたりとも先に行ってくれ、どうも俺の方に用事があるみたいだ」
「クロノっ!」
 すでに一回気絶させられているところを知っているマールからすれば、クロノが無事ですまないのではないかと心配する。
「ちょ、ちょっと、ルッカ」
 ルッカはクロノとジーノの様子を見て立ち入ってはいけないような気がして、マールを引っ張る。
「いくわよ」
 クロノの雰囲気からジーノもそれに受ける。というか、そういう風に仕向けたのはジーノ自身である。
 クロノからすれば、ジーノはドラゴン戦車が二人を止めてくれるのではないかと思っていると考えた。
 それともはじめっからクロノ一人が目的だったのかどうにもわからない。
 クロノは自分の体に浸透しつつある負の感情を押さえ込む。
 二本のカタナのうち、にじ、そして使い慣れた一本、あおぞらの二本を抜く。
引用なし
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【160】-08- (第五章 王国裁判IIドラゴン戦車)
 Double Flags  - 08/8/31(日) 23:53 -
  
  ドゴゴゴゴ

 石橋の先の方、空中刑務所の出口まで来て聞いたことのある音にルッカは止まった。
「さあ来なさい。」

  ドゴゴゴゴ
  ドゴゴゴゴ

 車輪の回る音と共に『前の周』よりひと回り大きいドラゴン戦車があらわれた。
 大臣はその後ろからひょっりと顔を見せる。その後ろにはふたりの護衛官がついている。
「マ、マールディア様。何でこんなところに、こっちにきてください」
 しかし石橋の上めいいっぱいに占められたドラゴン戦車の車体にはどこからも向こう側に移れるスペースはない。
 そんな中無理やり顔を出す大臣を護衛官は抑える。
「大臣、危険です」
 二人の護衛官は必死に大臣を抑えている。
「く、ぬぬぬ、王女様を人質にするとは」
「人質ではないわ! これから家出するんだもん!!」
「な、なんですと〜〜お! そんなこと許しませんぞ」
「許さなくたってもう決めたもん」
「マールディア様〜」
「大臣、危険ですって」
「分かっておる、ドラゴン戦車よ。マールディア様を傷つけるんじゃないぞぉぉ」
「大丈夫です。ドラゴン戦車には王族には傷つけないようしてありますから」
 そのまま護衛官に大臣は引きづられた。

  ”レーザー”

 いきなりドラゴン戦車が先制攻撃をはじめた。その後ろには「マールディア様〜〜」と叫んでいる。
「やっぱり強くなっているわね」
 ルッカはミラクルショットを構えた。
「いくよ」
 ミラクルショットのトリガーに力を入れる。

  ドォキョッン 

  コン

 弾丸はとも簡単にいとも簡単にはじかれた。

  ”アイス・ショット”

 「水」の魔力を加えた矢が戦車に当たる寸前に矢がはじかれるが、勢いのついた氷の魔法はそのままドラゴン戦車の車輪に当たる。
「物理攻撃に対しての完全防御みたいなものがあるのかしら」
 小さくつぶやくとルッカはスコープをつけた。
「ルッカ、矢も銃弾……」
「分かっているわ。おそらくは物理攻撃になにかしらのからくりがあるみたいだけど」
「どうする? 魔法は聞くみたいだから、魔法で攻める?」
「それはちょっと。あまり大規模な場合はこの石橋も壊れちゃうかもしれないわ」
「じゃあどうする」

  ドゴゴゴゴゴ

 ドラゴン戦車は車輪が回転し引っ付いた氷を引き剥がした。
 時間は刻々と過ぎていく。ドラゴン戦車自体の攻撃は単調なのでそれほど危険ではないので、十分に考える時間はある。基本はマールに攻撃を仕掛けてこないのでルッカ自身が気をつけていればよい。ただ大車輪にだけ気をつけていればいい。
 ただ、考える時間があるといっても時間がたてばそれがけこっちが消耗するし、扉外に警護官が集まってくる可能性もある。クロノの方も心配である。
「ルッカ、わたしが囮になるからその間に弱点を!!」
 ルッカの前にマールがでて、ワルキューレを構えなおす。
「でもマール」
「ルッカ……」
 マールは一回、後ろを振り向かずに答えた。
「……自分のできること、やることは、ねっ!」
 その言葉にルッカは言葉が出なかった。それは前に自分のいったことであった。
 ルッカはマールの決意に押され、すぐに新しく改良したスーパーサーチスコープをつけた分析を開始した。
 マールは、マールなりに色々考えていろいろな攻撃をし多くの情報をルッカに与えようとしている。それは、いままでずっと一緒に戦ってきたからこそのできるものであった。今までの戦いの中で、マールは確実に成長していた。(度胸は元々あったが)
 このスコープはいままではロボにつけていたサーチ機能を頼りにしていたが、ロボと分断されたときを考えて、構想だけはしてあったものだ。それをクロノが捕まっている間につくったもの。ちなみに今が試行中である。
 ルッカのあせる気持ちを何とか抑えるように、マールはなるべく落ち着いて戦っていた。
その気持ちが見ながら伝わってきてルッカも分析を続けることができていた。
 そんな中でスコープから、物理攻撃をはじき、魔法効果をわずかだが分散させる壁が存在し、瞬間的に発動し、ある変動が見られることが分かった。
「マール、戦車の弱点はアタマよ。
 前と弱点が変わっていないのは相変わらずあの大臣がやりそうなことね」
「でもどうするの? 物理攻撃が全部はじかれちゃうし、魔法も少しだけ分散させられるみたいだけど」
 やはりマールも魔法が少し分散させられていることに気づいていたようだ。これではアイス、ファイア級ではダメージを与えられないし、すぐに回復してしまう。
 ルッカは白い手袋をはめた。
「少しの間ならあの壁を消すことができる、と思う。
 だからその間にあの頭部を狙って、重点的に」
 さらにルッカはバッグからハンマーを取り出した。ハンマーはいつも近距離用にルッカが使っているものとは違った形をしていた。
 いままでルッカは近距離で銃が使えないときにハンマーを使っていたのだが、それは市販のハンマーをちょこっと合成したものであった。でも、それではどうにも威力が高くなく少しそれで悩んでいた。
 ルッカはいつも接近戦で役に立たなかった。そんな中、少年の言葉、そして中世でのヤクラのパワーアップ。今後強力な敵が現われたときに、あまり使わないからといってあの市販のハンマーを合成したでは十分な戦力にならない(実際にギガガイアで一度破壊されている)。そんななかで考え出されたのがこのハンマーである。また違う効果を持つマールの分も作ってある。
 ルッカはハンマーを手のひら小の弾丸状のものをハンマーの取っ手の付け根につけ、すぐにルッカは走り出した。マールを抜き、スコープで確認した壁ギリギリの場所で止まりハンマーを振り落とした。
「グラヴィティー・ショッ〜〜〜クッッッッ」
 ハンマーがドラゴン戦車の謎の壁にあたり、そこから光の粒子が放出する。それと共に壁が消失していく、マールはその光景に見とれていた。
 壁は少しずつ大きくなっていく。
 ふと我に返りマールはワレキューレを構えた。

  ”ヘイスト”

 狙いはドラゴン戦車の頭部。

  シュン シュン シュン

 十数発の矢は頭部を直撃し、壁が消えた。
 ルッカはそれを確認してすぐさまハンマーの効果を止め、左腕を上げ手をグー、ゆっくりと親指を出した。
 その合図にマールは簡単な魔法の構成を始める。
 ドラゴン戦車は頭部が破壊されたことにより処理能力が格段に落ち、動きが緩慢になっていた。
 魔法の構成が終わり、二人同時に放つ。
 狙いをつけるのはルッカ、範囲を指定するのはマール。
 お互いを補いつつ魔法を完成させる。

  ””反作用ボム―らいと―””

  ドォォォォォン

 ルッカの狙いで戦車の中心から少し上部へ吹き上げるように発動、マールの範囲指定で柱のように上空へ余分な破壊力が放出される。
 ドラゴン戦車の三分の一がつつまれ、巨大な車体は壊れ始めた。
引用なし
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【161】-09- (第五章 王国裁判IIIガルディアの護...
 Double Flags  - 08/8/31(日) 23:57 -
  
 部屋中が書類、木片などでぼろぼろになっていた。
 狭い空間で二人、カタナを構える二人。ともに息を切らし、それでも相手の隙を突こうと目を走らせる。
「……」
 二本のカタナを扱うクロノと中段の構えで向かえているジーノ。

(似ているな)
 ジーノはクロノの太刀筋を見て、自分に近いものを感じた。それは自分の師である祖父や父、妹のだれかがクロノという少年が関わり合いを持っているということ。たしかこの少年はトルースに住んでいると考えると、関わりや繋がりがないとは全くいえない。
 多くの相手をこのカタナで戦ってきたが、こうも自分の剣術とにていると、自分が弟子を取ってその稽古をつけているようだと感じられる。祖父をはじめ、父や妹などはこのようなものを感じていたのだろうか。早くしてガルディア軍の中に入りその役を負っていた自分ではあまり考えられないものである。マールにしても兄弟子としておきながら、祖父から習ったものはまったく別のもの、手合わせなどはなかった。
 あとは確たる証拠があれば…、もしそうであるならば、このクロノという少年、自分の家系に伝わる剣術をここまで使いこなせるという才能、いや努力のなせる技、それに感心する。
 そしてここまで自分なりに昇華させていることを。
(不思議な少年だ。確かめたいが、今は逃がさないことを優先にしなければ)
 ガルディアの騎士長として任命されてから、私事を切り離して考えてきた。自分の欲のために進んではいけないと。
 フッと気を入れる。
 クロノ少年もそれに気づき身構える。
 ジーノは自分から仕掛けていった。
 中段からの横薙ぎ。
 クロノはそれを受けるが、ジーノは突然右手をカタナの添える手からはずした。力の割合でクロノのカタナが、ジーノのカタナを押す。
 ジーノはそのあいた手で肩に手を当てる。

   ガクッ

 骨がすれる音。
 突然のバランスを崩したところに、その力を利用されてクロノの顔面は、地面に吸い寄せられる。だが、地面に打つ前にクロノは体を捻り、転がった。
 直接ぶつかるよりもダメージを減らし、散らばる書類に巻かれながら立ち上がる。
 手にはしっかりとカタナが握られていた。
「古武術?」
 クロノにほとんど回避不可能な技をかけたのに対してのこの対応、それは東の大陸で使われる武術の一つに近かったためにそんな言葉が出る。そしてこの中央大陸群、特にこのゼナン大陸で普通見られるものではない。いよいよもって、このクロノ少年の正体が見え始める。
 優先としておきながら、見極めてみたくなった。
(ここで揺すりをかけてみるか)
「お前の師は誰だ」
「!」
 とたんにクロノが固まる。
 ただそれも瞬間的なもので、すぐに隙のみせぬ構えを取る。
(かかったか)
 いきなりストレートに聞く、こういったやり取りは苦手と見える。まあ、それも演技だということも考えられるが。
「黙っていても分かるぞ。
 お前の師は私よりも強いからな」
 バンダナにわずかな汗がにじみ出ている。
 あせりなのか、それとも演技なのか。前者と判断したいものだ、あまり父親らの弟子とは戦いたくないというのが正直なところ半分、どんなものなのかもっと確かめたいと思うのが半分である。
 ジーノは力を緩め、半歩進む。
 たまらずクロノは動く。

  ”破”

 吐く息で力を強める。

  ”裂”

 その剣を迎え撃つ。
  ……
 金属音はなく、互いにすれ違う形となり、互いに服の先を奪っただけだった。
 これで確信が持てた。
 ジーノの使う剣術は元々人間外の、競技としてでなく戦闘を主眼と置いたものであった。そのため致命傷にならないのは『打たない』ことになっている。知能の低い魔物、人間を襲う魔物は、単純である。彼らは人間に対して力で見ると絶対的有利とおもっている。そのため、自分の有利を、人間から傷を受けることはないと思っているために、その自分で作り出した壁を崩されると逃げるか、余計に暴れだすことが多い。それを考えると、知能を持った魔物、魔族は、相手のするのが幾分か楽であるが、多くは知能の低くて人を襲う魔物、魔族を相手にするため、敵に対して致命傷にならない技は『打たない』ようになる、いわば独特の癖である。
 まあ、外へ教えるときは競技用に消化した剣術を教えているのだが、この少年は本来のものを学んでいるし、経験も多い。
「面白い」
 思わずつぶやく。
 そして付け加えるように言葉を出す。
「一刀、即断」

 クロノは自分の顔が険しくなったのが感じられる。
 『一刀、即断』というのは師匠がよく漏らしていた言葉だ。
 ジーノはさらにつづける。
「マールディア様が気にかけるのも納得がいく……だから危険だ」
 コンフォートは構えを取る。
 その構えを見てクロノは体が強張る。
 師匠がかつて漏らしていた、ガルディア軍騎士長ジーノの本気の構え、習えにそって『一刀、即断』を行うのだろう。
 いまのクロノにそれを抑えることは、できるのか。
 二本のカタナを握りなおす。
 ジーノが動く。

  タンッ

 咄嗟にそれに相対する攻撃の型を取る。

   キンッ
引用なし
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【162】-10- (第五章 王国裁判IV脱出)
 Double Flags  - 08/8/31(日) 23:58 -
  
   カーーン、カン、カン

 クロノにとって気味の悪い音。
 金属音と床に響く音。
 愛刀の“あおぞら”が折れた。
 師匠よりもらった真剣。『前の周』で多くを共にしたカタナが二つに折れる。
 剣先が石床の上で、明かりの炎に揺れて光る。
「届かなかったか」
 さらにカタナを構えるジーノ。その腕には薄く長い傷ができていた。
 ジーノは二本のカタナを完全に押し切ることができなかった。クロノは上手く、カタナを一本失いつつもジーノの技を流したのだ、ただその代償は大きい。
 ジーノの技は斬るものより、武器破壊に近い破壊力があった。
 魔法の付与も使わずこれだけの力を発揮していたのだ。
 それだけでも恐ろしいことである。
 これが破壊の技というモノか。
 カタナの本来の形とは別のもののようにそれは感じられた。
「次は防げまい」
 ジーノはふたたび同じ構え。
 次は防げるか。
 否。
 そんな思いがクロノの中を埋めた。
 『前の周』ラヴォスと戦ったときとは別の、何かが襲ってくる。
 振り払うようにジーノを見る。

   ドォォォォォォォォォン

 部屋を揺らす地響き、忘れていたように残っていた机の上のコップが落ちる。

   カラン

 音は橋の方からであった。
 ジーノを見ると、バランスを崩し倒れていた。

   ごほっ!!こほっ!!こほっ!

 落ちた埃がのどに当たったのかセキをしていた。
 クロノは折れたあおぞらの先をもち、部屋を出た。
 せきが止まりジーノもその後を追いかける。


「マール、ルッカ」
 二人を呼ぶ。
 周りには機械の残骸が散らばっている。
 やはりドラゴン戦車を倒したようだ。
「クロノ、おそい〜」
「すなまかった」
 そんな一言を交わし、大臣橋を今回も渡り(マールは初体験)階段を下りる。
 その後、所長室からジーノが来る。
 騎士長は大臣の前に止まり、
「追いかけますか? 大臣」
 冷淡に話しかけるジーノ。
 その態度に大臣は苛立ちながら、
「その前にわしをたすけんかい!!」
 怒鳴り散らす。
 が、騎士長にはそれは全く効かず、大臣を兵士二人ともども助けた。
 助け出された大臣は穴の開いた橋の下と見ないように向きをかえる。
「どうせここから逃げ出せん」
 大臣は長く続く階段を見ながら、降りる音を聞きつつニヤリと笑っていた。


 階段を下りながらクロノは話しかけた。
「マール、やっぱりこの後警備官がいるのか」
「たぶんね。
 だけど今回は騎士長がいるから」
「……上手く逃げられるかどうか分からないか」
「うん」
「さっきも、なんの連絡手段もないあんなところでいきなり現われるなんて、
 かなり頭の切れる騎士長ね。
 ふたたびここに来るとき厄介な相手になるわ」
 そんなことを言ったルッカに、クロノは黙っていた。
 折れた刀の刃を鞘に包み階段を降りる。


 正面の入り口手前で、『前の周』のように囲まれたクロノたち。
「度が過ぎますぞマールディア様。
 囚人を逃がすなどとは」
「大臣!!」
 どこから現われたのか、それよりどうやってあの状態から抜け出したのか、大臣は騎士長と共に中央の入り口にいた。
「クロノは無罪よ!!
 あなたこそなんでクロノを死刑にしたのよ!!
 裁判では…」
「何のことを言っておりますか、マールディア様。
 そこのクロノ少年は反省のために独房に入っていたのですから。
 それを死刑とは。
 ふう、何を言い出すかと思えば……」
 そのとき一人の警護官が大臣に耳打ちする。
 フム、大臣はいきなり大声を出した。
「頭が高ーい! ガルディア王33世様のおな〜り〜ッ!」
 大臣と騎士長は左右に分かれ、中央に入り口が開かれると共に堂々とガルディア王、この国の王がでてくる。
 その姿は威厳のあるものであった。多くのものが彼に慕う。引き付ける。有無を言わさない態度、強固な姿勢をみせていた。
「父上……」
「いいかげんにしろマールディア。
 お前は、一人の個人である前に一国の王女なのだぞ。」
「ちがう、ちがう、ちがうもん!
 今の父上と話しても何も聞いてくれない、何も信じてくれない」
「何を言い出すか、信じないとは。
 城下になど出てから悪い影響を受けおって!」
「行こう! クロノ! ルッカ!」
 マールは二人を連れて外へ出て行った。
 呆然と見ている王をはじめ警備兵。
「何をしておる! 追えッ! 追え〜いッ!!
 大臣が叱咤して警護官がマールらを追いかけ始めた。
 すぐに大臣もその後を追う。
 騎士長のジーノも国王に一礼をして外へ出る。
「マールディア……」
 一人、国王は扉の先、ガルディアの森その先を見ていた。


 騎士長ジーノは大臣たちクロノのいった方向とはちがう場所にいた。
 一人、ガルディアの森の少しはずれたところにある湖に一人たたずんでいた。
 湖は澄み、城での騒動が嘘の様でもあった。
 ジーノはそのほとりに行き、座り込んだ。
  ごはっ!!ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!
 どす黒く、変色した液体、血液を体内から吐き出す。
 血は辺りの草の葉、茎、花を変色させた。
(いつ見てもいやな色。しかしそれももう慣れた)
 胸に手を当て、片手から瓶を取り出し、その中に入っている粒――薬を二、三粒取り出す。
 そして西方で手に入れた薬を湖の水と共に体内の中に流し込む。
 現在の先端医療は西方が握っていた。
 西方で直せないものは、不治の病とされるほどに。
 心臓の鼓動が少しずつ平時に戻っていく、その脈動が分かる。
 ジーノは寝そべりながら先ほどのことを思い出していた。
「クロノといったか。面白い少年だ」
 おそらくその正体は、ジーノの予想するものであろう。
 自分は祖父アラン・プリースト・コンフォートの後を継ぎ、祖父に代わってガルディア王国軍の騎士長を任せられた。
 あの父たちがジーノの役職に、自分より上の役職に、嫌に思うことはあるまい、彼らはそういう人たちだ、長年のコンフォート家という役割が分かっている人たちだ。
 しかし、自分に剣技をすべて伝えられなかったことはどうだろうか。
 途中祖父は亡くなり、すでに第一線から離れていた父に会う機会も、軍としての忙しさから失ってしまった。
 妹は父が亡くなると放浪の旅に出て、たまに地方での武勇伝を聞くぐらいだ。
 彼らが、俺に伝えられなかったものを彼は手にしているのだろうか?
  ………
 そう考えてばかばかしくなった。
 軍の道に若くして入ってすでにそういったことは考えても仕方が無いことだと思っている。
 自分でこの道を選んだのだから。
 軍に入り、騎士長に上り詰めてからも剣技に関しては鍛えていた。
 それがガルディア軍の騎士長としての役目だと、部下になんと言われようともそう考えていた。
(王女も自分で道を決めることができるように育ったか)
 そう考えると外に出たことも悪くはない、そうジーノは思っている。
 ジーノは体の向きをかえて、湖とは逆に広がるガルディアの森を見、聞き、感じる。
 自然のざわめきが聞こえる。
 外交などから帰ってくると、いつもこうやって自分の護るものを確かめていた。
 今回は忙しく、久々の帰還であった。
(それにしても)
 よくよく考えてみると不思議なものはあの少年ばかりではない。
 マールディア様はどこに行っていたのか。
 帰ってくる前なので詳しくはまだ聞いていないが
 この大陸では行く場所に限りがある。秘密裏に国中を探し、有効性をみてパレポリやサンドリノ地方の砂漠民族にも捜索して回ったという話だ。
 それにもかかわらず、それこそひょっこり城に現われた。
 あれほど探したのに見つかることは無かったというのに。
  ………
 このガルディアで何かが起こり始めているのか? 建国千年祭の最中、歴史的事件が起こるには都合がよすぎる。
(まあどちらにせよ。
 ガルディアの一端を握る者としてこの行方を見届けなければならない。)
 心地よい風により意識の遠のく中、ガルディア軍騎士長。
 かつて、ガルディアの勇者と呼ばれた血を受け継ぐ者の中で、最後の、ガルディアの護り手となる男はしばしの休息を取る。
引用なし
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【165】-11- (第六章 廃墟を越えて……1.)
 Double Flags  - 08/9/24(水) 2:11 -
  
 ガルディアの森からゲートを通ってバンゴドームに抜け出した三人、クロノ、マール、ルッカの三人。
 三人はこれからのことについて話し合いを始めた。
「許せないわね」
「いきなり、どうゆうことなのルッカ?」
「なんかさあ、全部あの少年の手の上で動かされているような気がして」
「??」
 ルッカの言いたい事が、わかっていない様子のクロノとマールに向かって言った。
「つまりは。この現象を引き起こしているのはあの少年の仕業っていうことよ」
「この現象って、俺たちが二周目に存在しているってことが?」
「おそらく、おそらくよ。あくまで仮説の域を出ないけど」
 ルッカは息を置き、二人をあらためて見直してから話し出した。
「……あの少年は言ったわ。
 私たちにやってもらいことがあるって、そして経験も積んでもらいたいとも。
 つまり今の私たちじゃ足りなくて、それでも私達に何かをやってほしいってことよ」
「今のわたしたちに足りないもの?」
「あるいは見逃しているもの、ね」
 ルッカはその指を何も無い宙でくるりと回す。
「想像がつかないな」
「そうよねぇ、今の私たちじゃ想像がつかない。
 だから、あの少年が現われて私たちの進む方向を直していく、間違った道を行かないようにしているんじゃないかっておもうのよ」
「別にかまわないじゃないか、進むべき道が分かっていることは楽で」
「構うわよ!!
 つまり私たちの行動は全部少年によって誘導されているってことよ!!
 あの少年のやりたいことが何なのか聞かされていないことから考えると」
「わたし達が操り人形になっているってこと?」
「そう、少年が何を考えているか分からないのに、知らない間に片棒を担ぐのはいやよ」
 ルカが拳をぐっと握った。
「つまり、あの少年は悪い奴かもしれないってこと?」
「……ええ、まあ……でも悪い奴っていうことも見方によるわ。
 悪いなんて判断はその人の立場によって違うもの。
 例えば、ジールや恐竜人にとって私たちは悪だったといえるでしょうね」
「でもジールはこの星を……」
「マール、これはあくまでも見方によってちがうってことよ。
 ジールもはじめはこの星を滅ぼそうとしていたわけではないはずよ。
 単に永遠の命を求めて、力を求めてしまったから、ああなってしまった。
 のかもしれない」
「ラヴォスに利用されたってことか」
「そうともいえるわ、それに恐竜人もあの大陸から追い出した私たちは、彼らにとって悪だったでしょうね」
「でも解決したんじゃないか? 『前の周』で、これ以上何を望むっていうんだ?」
「確かに、言い過ぎかもしれないけど恐竜人は私たちがいなければ滅亡していたのは確かね」
「あの少年が何が目的で私たちの前に現われたのか……」
「意外とあの少年がすべての原因で、最後に自分を倒して欲しいってパターンじゃないかしら」
「それは……」
「そうね……、言ってしまってからなんだけど、あまり想像したくないわね」
「ああ、でも……まさか、また未来はこのままなんてな」
 そこはすでに捨てられたドーム。
 人だけでなく、ロボットやミュータントさえいない。
 灰の空気が漂う空間。
 それはクロノ達が見た、希望が閉じてしまった未来だ。
「あの救った未来はどこに、未来のロボはどうしたんだろう?」
「また壊れているかもしれないわね……」
 マール、ルッカは少し沈んだ気持ちになった。
「にして一体何があったの?
 この未来で、あの少年の言うことを信じるなら、ラヴォスは私たちが倒すことは確定済みなはずなのに」
「何かがあったってことだろ」
「その何かが重要なのはわかっているけど」
 そこでマールはすっと立ち上がった。
「わたしたちはこんな野望に屈してはいけないのよ」
「へっ?」
「野望よ、野望。
 こんなの許せないよ! せっかく救った未来を!!」
「マール?」
 クロノもルッカも呆気に取られている。
「だって、こんなのおかしいよ、こんなのってあんまり、あんまりだよ」
 肩を落とし崩れた。
「マール……」
 それを呆然と見ていたクロノは、ふと何かが繋がった。
「野望か」
 低く、確かめるようにクロノは言った。
「クロノ?」
 マールを見ていたルッカは顔を上げた。
「『前の周』の世界では、オレたちが過去に何かやるとその後のすべての時代に何かしら影響がでていた。
 メディーナの村、パレポリ、黒の夢、すべてオレたちが何かをやってきた結果つくられたものだよな」
「ええ」
「それはオレたちが巻き込まれたから起きた結果なんだよな」
「巻き込まれたって言う表現が正しいかどうか分からないけど。
 まあ、そうなるわね」
 ルッカには今だクロノが何を言いたいのか分からない。
「でも、オレ達の記憶は変化する前の物が残っていた、これはなぜなんだ」
「変化の前の記憶?」
「つまり、『前の周』だけでなく、『今の周』の記憶も持っているってこと」
「それは、私たちがその変化を目のあたりにして……ってあれ?」
「それっておかしなことだよな。
 オレ達の頭の中にはメディーナの村がまだ人間と友好的ではないときの記憶と友好的な記憶が混在している。
 一見見逃しがちで、そのときはラヴォスを倒せば世界が救えるって思っていたからあんま考えなかったけどな」
「確かにヒトの記憶って曖昧なところがあるから、そういう風に二重に記憶があることに何の疑問も浮かばなかった」
「でもそれの何がまずいの、クロノ」
 クロノは二本のカタナの鞘を腰から抜きだし、目の前に二本の鞘のまま手に持った。
「この武器は共に『前の周』の世界で鍛えられたもの。
 マールの弓やルッカの銃も同じだろ?」
 肯く二人。
「オレたちは取り残されているんだ、世界の変化に」
「取り残されているって、それは逆じゃないの?
 私たちの方が進んでいるんでしょ?」
「世界が変化しているのに、変化前の記憶が残っているのに?」
「あっ」
「二重の記憶を持つこと、本来そこにあるはずのないものを持っていること。
 変わった側から見ればオレ達は過去の遺物をいつまでも引きずっている存在だってこと」
「!! それって私たちの存在の否定じゃない!」
 その言葉にマールはびくっとした。
「でも、オレ達はここにいる」
 なだめるような声でやさしく言う。
 クロノは再び腰に二本のカタナをさした。
「これはオレ達が世界から否定されているとは思えないよ」
「確かにそうだけど」
「逆に二周目があるってことは、必要とされているって事なんだろ?」
 まだルッカは納得のいっていないようだった。
「だったら、あの少年はなんでわたし達の前だけに見えるのも……」
「そういうことなんだろうな、必要のある人間にしか見えない」
「なんか選ばれしものってかんじね」
「まあ、『前の周』での冒険は偶然だった。
 それでも戦い、生き残った俺たちだから選ばれたのかもしれない」
「わたしは偶然でもよかったと思う、それでクロノやルッカ、それにみんなに会えたから」
「私もマールに会えてよかったわよ? たぶん私じゃ、未来を変えようなんて思わなかったから」
「アリスドームのことね」
「そうよ、あのとき、ここぞってときなのにクロノッたらどもるんだもん」
「しょッしょうがないだろ!! 驚いていたんだから」
 そう、あの時クロノは未来であるということに少し絶望していた。
 この未来のあまりの悲惨さに。
 だからあの時、自分がラヴォスを倒すなんていう、あんなすごいものを倒すなんていうことは思いつかなかった。
「で、今回はもうラヴォスの心配はしなくていいんだよな」
「たぶんね、あの少年の言う通りなら」
「少年……。ほんと何者なんだろう」
「未来を見せてくれる少年、それは少年が未来を知っているってことかな?」
「たぶん、あの少年のやってもらいたい何かっていうのは、過去の遺物を持っているオレ達だからこそできることなんだろ。
 この過去の遺物を使ってもらわないとこの星は救えない。
 今度も何があろうとやってやろう」」
  ほおぉぉぉ
 という声がマールとルッカの口から洩れる。
「今度はどもらずに言えたわねクロノ」
「ルッカ!!」
「うん、すごい決心だよ」
「マールもそこまで驚かなくてもいいだろ」
「あはははは、ごめんごめん、ついね。
 でも、私達だからできることか、なんかそう思うと、なんかいいほうに向かっているって気がするわ。
 私達のやっていることは、まだ間違いじゃないって。
 その辺はさすがクロノね、前向きぃ〜前向きぃ〜」
 それは愛刀”あおぞら”を失ったクロノ自身の一つの結論だった。
 失ったものに意味がなければクロノは今、ひどく混乱していたどろう。
 自分に対しての区切りをつけるための結論でもあった。
 そんなミュージックが流れる中、突然ドームの出入り口が開いた。
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【166】-12- (第六章 廃墟を越えて……2.バンゴ...
 Double Flags  - 08/9/24(水) 2:12 -
  
 ガルディアの森のゲートからバンゴドームに出た少年少女――クロノ、マール、ルッカの前の扉―バンゴドームだた一つの出入り口が開いた。
 振り返る三人の目の前には長身の灰色のローブを着て、フードによってマスク代わりに顔を隠した体格から男らしい人物が、銃、のようなものを構えていた。
 男の視線が三人を捉えるとすぐにそれをしまった。
「いや、すまん、まだロボット達がいると勘違いしてな」
 頭の方に手をあげ敵意のないことを示すその男は明るい口調で話し出した。
「でもここはずいぶん前に重力変動が起こって廃棄されたはずなんだが、まあもともと倉庫だって話だけど」
 そこでルッカが前にでて。
「そう、なんだか分からないけど私たち気づいたらここにいて」
 後ろでおお、とルッカにギリギリ聞こえるぐらいの歓声を上げる二人。
「そうか、重力変動にね」
 そういいながら男は鑑定するかのように三人を見る。
 この時代のアンティークにも残されているかわからないカタナを二本下げた少年とここでは見かけない元気のよさがにじみ出ている少女と妙に探るような感じで話す少女、明らかに怪しいことこの上ない。
 第一、格好がこの時代にそぐわない気がした。
 それでもその男は話を進める。
「ふ〜ん。
 重力変動に巻き込まれてきたのか、最近多いね。
 となるとあんたらも他の大陸から来たってわけか」
「他の大陸?」
 まだ少し気になる表現もあったが、あえてルッカはそこだけ聞き返した。
「なるほど、あんたらまだ外に出ていないな? ちょい外に出てみ?」
 そういって三人は、その男に連れられるように外へ出た。


 バンゴドームの外は三人にとって、『前の周』で見た光景とほとんど同じであった。
 瓦礫の山と空中を舞う灰。
 土はパサパサとして砂漠化手前。
 あたり一面を灰のほかにスモッグのような煙が世界を包んでいる。
「これは……」
 とすこしワザとらしくいってしまうルッカ。
「あんたらがどこの大陸から来たか分からないが、だいたい同じようなもので違う。
 ここはあんたらがいた大陸とは違う。
 つってもふつーは分からないよな、ここの人間の多くもそうだった、当然か」
「??」
 三人はいまいちこの男の言うことがつかめなかった。
「まあ簡単に説明すると、過去の世界地図によればこの大陸を中央大陸あるいは中央大陸群と呼んでいた。
 先にいっておくがなんでここが中央大陸って付けられているのかは知らないぞ。
 それでここを中心に、南北東西に大陸が存在していたらしい。
 そのあと名称が確定した後も大小さまざまな大陸が発見されていったけど、この大陸を中央大陸、北の大陸は少し呼び名が違ったらしいが、西の大陸、東の大陸、南の大陸という名前は固定されていた。
 時代は流れ、これら大陸間の交流やなんやらで巨大組織を成立させていったわけだが……」
 この辺りの知識はいくつかの移動手段を持った現代人の三人は知っていた。
「知ってるかどうか、あんたらの歳じゃわからないが、大崩壊が起こり、ロボット達が暴走を起こしたりなんかして大陸間交流とその手段は失われてしまったらしいんだ。
 そううち人の記憶から他の大陸のことが消えていった。
 なんせ大崩壊とロボットの暴走があったから、他の大陸との交流手段がなく、地形も変形していたからなしょうがないことだがな」
 わかったか? といって三人の様子を見る。
 まあ、あまり疑問符が浮かんでいないのである程度は理解したと思う。そう考えるとこの大陸の人間よりもずいぶん豊かな大陸にいたことが分かる。
「で、この大陸に来て調べたことなんだが。
 この星はまだいくつかの大陸が残されている、あんたらの来た大陸や、俺の来た大陸色々だ。
 あんたらはそこからポッとここに落ちてきてしまったわけなんだな」
「聞いてるとあなたはこの中央大陸の人間じゃないみたいだけど」
「ああ、東の大陸から跳んできた」
「とんで? どうやってとんでくるのよ。交流がなかったんじゃないの?」
「それが最近、内の大陸で空間移動装置っていう、長距離を瞬間的に移動できる装置を直すことができてな。
 大陸間の交流を始めようって話だったんだ」
「だったんだって、どういうことなんか問題でもあるの?」
「それなんだが、あんたらはどうやってここに来た?」
 逆に聞かれてルッカが戸惑うところにクロノが助け舟を出した。
「分からない、気づいたらここについていた」
「じゃあ、あんたらはどこから来たんだ? なんか主要な都市とかドーム名とかあるだろう、地域名でもいい」
「それはガルディア……むぐ……もご…もご」
 ガルディアと言ったクロノをルッカとマールで抑える。
「(ちょっとなにいいだすのよ、バカじゃない、バカ、バカ、バカ)」
 小声でクロノに言い放つ。
「ふごふご……もごご」
 マールに口を押さえられてて反論もないクロノ。
「ええっとね」
 クロノをマールに任せ、考え出す。
「(ああ、クロノ、あんまり喋らないで、あと手かまないで)」
 といってもクロノはルッカによって一瞬に手首を紐で結ばれ動かせず、マールが手で口を止めているので息苦しいだけなのである。
 そんな二人を置いてルッカは言った。
「ア、アシュティアドームよ」
((うわっ、自分の名前をドームにしちゃったよ))
 ふたりはそんなルッカに驚き、さらに内心ドキドキであった。
「アシュティアドームか……」
 ルッカは二人にもまさる冷や汗ものであった。
 この時間だとても長く感じられた。
「近いな」
(((あるのかよ!! しかも近いのかよ!!!)))
 三人は心の中で突っ込みをいれつつ、この後どう撒くか頭をスロットのごとくフル回転させた。
 そんな三人の様子を知ってか、知らずか男は続ける。
「確か中央大陸の監視者ドームの分館がそんな名前だったか? あのとき見かけたかな」
 なぜかさらに窮地に陥る三人、ドツボの奥に入りかけたところ、マールがクロノの手を離した。
 とたんにクロノは前に倒れるが無視。
「本当ですか? 実は私の母が何年か前にアシュティアドームに行くといったきり帰ってこなくって。
 はじめアシュティアドームって言うのがどういうところなのか分からなくって。
 二人に手伝ってもらって、他の大陸にあるって聞いたからどうにかして他の大陸にわたる方法を探してやってきたんです」
 マールが一気に捲くし立てると、少し間が開いた。
 内心マールは上手く辻褄合せができたかなと思った。
「ということは、君のお母さんはあの団体の人なのかな」
「あの団体?」
 正直なに言われても相手が勝手に勘違いしてくれることを祈りながら
「……知らないのか。
 アシュティアドームなら私も知っている。道案内もかねて同行しようか?」
「結構です」
 ルッカはきっぱりと断った。するとその男はにやりとした。
「心配するな。共に人間。機械の恐怖にさらされてきた者同士。
 機械共の勝手な考えで死んでいくものを見過ごせはしない」
 そう強く言う男だが、ルッカにとってはあまりよくはない考えであった。
「あなた一体……」
 その自信はどこから、と続けようとするが男によってさえぎられる。
「人は私のことを革命家と呼ぶ。
 革命家リュト・サペル。
 機械が支配しつつあるこの世界を機械から解放するために活動している」
「革命家?」「機械の支配?」
 クロノとマールは疑問の声を上げた。
「ああ、彼らは人口の調整という理由から、自分達に不都合な人間、機械のことを研究していた者、オレのような思想の持ち主、力を持ったものを捕らえ殺している。
 こんな事許されるはずはないと思った。
 オレはこの機械の支配から人を解放するためにドームの人に声をかけている」
 リュト・サペルの話でクロノとマールは不思議な感覚に包まれた。
 それが何のか分からないが、それとは別にクロノたちはジェノサイドームでの光景を思い出していた。
「それはここに支配する機械が現れたってこと?」
「いいや」
 リュト・サペルは否定した。
「ここの大陸の人々は機械に恐怖し、倒す力を持とうとはしない。
 何人のも仲間が、知り合いが捕らえ、殺されてしまったのを知っているからな。
 だから臆病になるのは分かる。
 しかし、それでも戦わなくてはいけないとき時がある。
 大崩壊から数百年。
 それで疲弊した人間に手の裏を返したように暴走した機械。
 恐怖によって支配する世界は我慢できない。
 それに突然ここの大陸の機械が、ヒトと共存して、このボロボロになった世界を共に歩まんとしていた機械がなぜ我々ヒトに敵意を持ったのか知りたい。
 勘違いしないで欲しい、オレの目的は機械の排除ではなく、機械からのヒトの解放だということを」
 ルッカは少し考えた言った。
「残念だけど私達はあなたを支持することができないわ。
 私達にはかけがえのないロボットの知り合いがいるの。
 彼はとても大切な友達だから、あなたの意見には賛同できないわ」
 それはルッカだけでなく、クロノもマールも同じであった。
「そうか、まだ正気を保った機械がいるとは、貴重な機械だ。
 大切にするんだな」
 リュト・サペルはそういってあっさりバンゴドームから去っていった。
 クロノたちは感じていた。
 このリュト・サペルという男は機械の排除ではないといっているが、実際は機械に対しての憎しみがあるのではないかと。
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【167】-13- (第六章 廃墟を越えて……3.アリス...
 Double Flags  - 08/9/24(水) 2:29 -
  
 革命家と名乗るリュト・サペルと別れたクロノ、ルッカ、マールはトランドームへ向かった。トランドームでは、『前の周』と同じく食糧不足で悩んでいた。
 未来はわずかに違っていても抱える問題は変わっていないこと。それはやがて来る未来において食糧という問題は重要な位置を示すことを認識させられた。
 一行は32号廃墟を抜けてアリスドームへ向かった。

「お前達は一体何者だ、どこから来た」
 アリスドームの入り口で若者、といってもクロノたちよりも年齢は上でぐらいの男に聞かれた。クロノは「旅の者だ、トランドームから来た」と答えると、男は続いて言った。
「革命家とかいうものじゃないんだな」
「革命家?」
 三人の頭の中にはバンゴドームで別れたリュト・サペルが思い浮かんだ。
 クロノがその名を言おうとするとルッカが引っ張り黙らせた。
 トランドームでもクロノたちは似たようなことを聞かれていた。そこではドームの人たちに聞くとリュト・サペルに対する良い印象を持っていなかったのだ。
「誰ですか、それは?」
 マールが初めて聞いたかのように、聞き返すと若者がクロノとルッカの二人を奇妙に見ながらも答えた。
「名前は知らん、俺達にロボットを倒すのを手伝ってくれっていってきた奴だ。
 俺達はロボットには手を出さないって決めたんだ。あんなのに勝てるはずがない
 特にこのドームはロボットが沢山いる。
 そんなとこでロボットを倒そうなんて思う奴はいないよ」
 そうはき捨てた。
 その言葉の端々から、余計な真似はするな、よそ者は関わるな、そんな気配が伝わってくる。
 その空気に飲まれないように言葉を出す。
「私達は食料を探しにトランドームから来たの」
 若者は三人を軽く見定める。
「食料を探しにか、ご苦労なこった」
 そういって若者は後ろに下がっていった。
 その背は、お前らに期待はしていない。
 そんなことがありありと感じられた。
「ちょ、ちょっと」
 ルッカが若者に手をかける。

  パサ

 若者は軽くその手を払いのけると言い放った。
「どこのドームも一緒さ、ここでも食糧不足は変わらんさ」
 ルッカの目にはその男が少し諦めているように見え、若者は少し周囲を見て様子をうかがっているようだった。
 ドームの中から一つの塊が動いた。
 のそりのそり動くものは近くに来ると人間であることがかろうじて分かるものだ。
 姿は老人、ドンであった。
 かつて、『前の周』でこのアリスドームの人をある程度まとめていたこのドームの長老格の人物であり、マールの子孫でもある男だ。
「しゃべってもいいだろ」
 しゃがれた声で若者にそう話した。
「いいのか?」
「ああ、ここに来た。
 トランドームやバンゴドームから来たという。
 それはこの者たちは32号廃墟を抜けてきたということではないか。
 あそこのミュータントを倒すことができたのなら何とかなるかも知れん」
「しかし…」
 しぶる若者。
「わしらも限界なんだ」
 老人ドンは強く三人を見た。
「食料庫はそこの階段を下りたところにある。
 そこにはガードロボがいてな我々ではどうにもならんのじゃ」
「大丈夫よ、わたしたち強いから」
 胸を張ってマールは言った。
 ドンはにこりとわらいもとの場所に帰っていった。
 よろしく頼む、ということなのだろう。
 クロノたちが階段を下りる所で若者に止められた。
「少し前に同じことを言ってドームの食料庫にいった奴がいるが帰ってこない。
 あいつは自分だけ生き延びようなんて考える奴じゃない、それが帰ってこないということはロボットにやられたんだろ。
 気をつけろ、死ぬなよ」
 それだけ言ってまたドームの入り口の方へ歩いていった。


「よう! また会ったな」
 階段を下りると再びあの軽い声が聞こえてきた。
「「「!!!」」」
 見たことのある男が、操作パネルの前に立っていた。
「どうした? そんな驚いた顔をして」
「リュト・サペルっっ!! どうしてあなたがここに」
 灰色のローブをした、正直顔があまり見えない男がそこにいた。
「ん〜そうだな。その前にリュト・サペルって言うのは呼びにくいだろ? 
 なんかかっこよく、アーベルシュタイツァーなんて…」
「よけい呼びにくくなっているよリュトさん」
「そう! そんな感じでいい」
 革命家リュト・サペルはそれを聞くとすぐに操作パネルの方に向き直った。
「だから、何であなたがいるのよ」
「ん〜、やっぱり何か障害があるな」
「聞きなさいって」
 ルッカが再び声をかけようと近づくと、いきなり振り返った。
 ルッカは瞬間的に後ろに下がる。
 リュト・サペルのローブから見える目はまっすぐな黒瞳をしていた。
(!!!)
 するとリュト・サペルは、通路のない右側の扉を見た。
  はっ!
 力をこめて吐いた息をあげるとリュト・サペルは跳ね上がり、右側の扉の前に飛び移った。
「マジか」
 クロノも思わず呟く。
「じゃあ、用事があるんで」
 リュト・サペルはすぐに扉の先に進んでいった。
 呆然としている中、ルッカがいち早く回復した。
「私、追うわ」
「は? 何言ってるんだ」
 クロノに返事をせず、すぐに段差のある通路のない道に
「とああぁ」

  タンッ タンッ タンッ

 装置パネルを利用して上手く駆け上がる。
「三段跳び?」
「ちょっとルッカ、どうするのよ」
 登りきったところでやはり少し段差があり、あまりこちらの方へ寄らず壁側にしがみついているような形のルッカへ聞いた。
「マールとクロノは先に食料庫に行って…」
「なに言ってるの!」
「私じゃ、登るので精一杯だからとっとと操作パネルを使えるようにして…」
「じゃあ、何で登るのよ!!」
「ちょっと気になることが……よろしく……、マール、新兵器を使うときなんだから」
 ルッカは左の扉の中に消えていった。
 マールはクロノに向き直った。
「どうしようクロノ」
「ルッカなら大丈夫さ、いまはガードロボを倒して進むことだけを考えよう。それにあっち側はそれほどの敵もいなかったし」
 クロノはマールの手を引き左側の扉に入っていった。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
 声をかける相手は聞こえているのないのかどんどん先に進んでいく。
 襲いかかる昆虫型のミュータント(それとも昆虫?)を素手で倒している。
 両手を合わせて握り、それを襲いかかるバグに当てるだけでバグは蒸発したように倒される。
(素手で甲虫を! 一体どうなっているの)
 すぐに灰となる虫を呼吸を整えてみると焼き焦げたような痕が見える。
 しかしバグはすぐに灰となってしまうためにあまり観察できない。
 どうやって甲虫を倒しているのか考えているうちにリュト・サペルは先のドアに入ってしまう。


 ルッカがドアを抜けるとリュト・サペルが立っていた。
「ここまで来たのか」
 言葉の中に呆れが入っている中で、さらにはしょうがないという感じが出ていた。
「あんたが人の話を聞かずに……どんどん進むからでしょ」
 途中、今おかれている状況に気づき声量を小さくする。
「これから先は危険なロボットがいるんだが……」
「大丈夫よ!!」
 ルッカは再び声を大きくしてしまい一体のロボットが近づいてくる。
「気づかれたか、少しはなれていろ」
 リュト・サペルは再び両手を合わせて、ちょうど、クロノが一本のカタナを持つような持ち方でロボットを斬り込む形で突進する。
「よけて」
 そんなリュト・サペルに後ろから声がした。
 左によけた瞬間、銃声が

  ドォキョッン

 弾丸は一気にロボットを貫き、心臓部をえぐるだけではなく二分の一ほど装甲を持っていった。
「なんと」
 驚きの声を上げた。
「このルッカ様が作った特別製のミラクルショットの敵ではないわ」
「自分でつくったのか?」
「そうよ」
「……見たこともない材質だな、あれほどの威力が出るのは内部に何かあるのか」
 リュト・サペルがミラクルショットに触れようとするが、ルッカはすぐに手を引っ込めた。
「それは企業秘密よ。
 それよりあなたこそ素手でミュータントを倒すなんてどんな鍛え方してるのよ」
「素手で倒した? 何を言ってるんだ、そんなこと出来るわけないじゃないか」
「でもさっきこうやって」
 先ほど見たリュト・サペルの動作をなぞるように繰り返す。
 両手を合わせて握る。
「あ、あ〜あ、それかそれは見ていれば分かる」
 リュト・サペルはそういうと次のフロアに入っていってしまった。

   キュィィィィィィイン

 けたたましい音と共にロボット達が向かってくる。
 先に進んだリュト・サペルを小走りで向かっていき、ロボット達に対しての臨戦態勢を取る。すぐに手元のミラクルショットを構えるルッカをリュト・サペルは手で制した。
 見てろ、ということなのだろう、狙いをつけるのは止めたがミラクルショットからは手を離さずリュト・サペルを見た。
 リュト・サペルは同じように手を合わせて握り、近づくロボットに向かった。
 その速さはクロノに劣るがそれでも早く、階段で見た高い身体能力がうかがえる。
 巧みにロボットのタックルなどをかわし。
 数体のロボット達はそれにほんろうされる。
 そのうちの一体がリュト・サペルから少しはなれて止まった。
 ロボットの目?のようなものが光る。圧縮レーザーである。
 リュト・サペルはその一体に瞬時に近づき、そのロボットに対してレーザーが発射さえる前に手を振り下ろした。

   グァァン

 何か赤白い光が見えた。
 ロボットは振り下ろされた握ッた両手により焼き焦げ、停止した。
(なに!! いまの)
 ルッカはスコープを掛けさらに詳しく見る。
 その後のリュト・サペルの動作は早かった。
 仲間が倒れたことを認識したのか、他のロボットも動きが止まる。
 これではリュト・サペルにやってくれといっているようなものである。
 リュト・サペルのはなつ赤く白の混じった光によってほとんど瞬時に機能停止にロボット達は追い込まれる。
 まるで踊りのステップを踏むかのように動いたと思うと、あっという間にこの状況。
「すごい」
 その鮮やかさに思わずこぼれた。
 かなり弱いロボットだが、これほど鮮やかに破壊するとは、リュトには十分な余裕が残っているというこのなのだろう。
「これが俺の武器だ」
 差し出したのは黒い手のひらに収まる球体。
「強力なエネルギーを凝縮させた兵器」
「まあ、兵器っていうと結構、恐ろしいものだが、凝縮と電磁場の方向性を調整することができる、エネルギーブレイド。
 昔の武器の名にちなんで、ファイアシャベリンと俺は呼んでいる。
 東の技工士が作ったのもだ」
 技工士という言葉をルッカは聞いたことがないが、おそらく現代でいうボッシュのような鍛冶屋のことだろうと想像した。
「なんで一瞬しかブレイドを出さないの? 節約?」
「節約のためってこともあるが、これは凝縮させて高熱をもったレーザーを放出するだけの武器だ。
 ロボットの中には光学システムの他に、熱源センサーを持っているロボットもいる。
 それらをごまかすために一瞬しか出さないのさ。
 ほらさっき、一体をこれで倒したら他のロボットの行動パターンが変化したように見えただろ? それは全部この熱源に反応したからさ」
 確かにルッカのスコープにも強力な熱源が見られたからその正体が分かったのだ。
「わかったかい?」
 それでもあまりルッカは納得していなかった。
「まあ、十分この場所のロボとに対応できるから、もうついてくるな、とは言わないさ。
 先に行くぞ」
 リュト・サペルは再び歩みをはやめた。
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【168】-14- (第六章 廃墟を越えて……4.ガード...
 Double Flags  - 08/9/24(水) 2:37 -
  
 クロノとマールは鉄筋の上を渡り問題のガードマシンの部屋の前に来ていた。『前の周』と同じなら、あと数歩でガードマシンのセンサーに引っかかるだろう。
「ルッカになにをもらったんだ?」
「うん、なんかふくろを渡されて」
 ごそごそと出す。
 取り出したものは手甲とペンチであった。
「ペンチ??」
「どっかの工具みたいだな」
「一つは太陽石とにじの貝がらを利用した攻撃力強化の手袋、命名ライフショットと空間を湾曲させることができるペンチって説明書には書いてあるけど」
「どういう仕組みなんだ」
「さあ?」
「じっくり読む時間がないから本番で確かめるしかないかな」
「大丈夫なのか?」
「緊急時マニュアルには、セーフティがかかっているから大丈夫だって」
「……」
「………」
「心配は残るが、急いでルッカを追わないといけないからな」
 クロノは一歩踏み出した。

   ピーピーピーピー

 警告音が部屋中に鳴り響く。
 同時に巨大なガードロボが出現する。
 姿かたちは『前の周』のものと同じであった。
 大きな図体に地面につかずにわずかに浮いている。その横にビットが浮いている。
 戦闘開始。
 クロノはすぐに壁を使い大きく跳び上がった。
  凍れる・・・
 マールは唱えた“アイスガ”の呪文をクロノのカタナに絡みつかせる。

  “アイスガソード”

 魔力でカバーした氷のカタナは一体のビットを直撃し

   ダアァァアアン

 瞬時に爆砕した。

  ”サンダー・ショット”

 右手により『天』属性の魔力を込めたナイフをガードロボに放つ。
 ナイフはガードロボ本体に直撃し大きく震わした。
 クロノはナイフが直撃したのを確認し、カタナを構えると、

   ドフゥン

 クロノが衝撃波で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
 クロノはどこからの攻撃か気づく前に、マールの声が聞こえた。
「ビットを……」
 最後まで聞こえるまえに、クロノは体を少しずらした。

   ピュン

 ビットを見ると何か光るものが見え、肩に何か熱いものが通り過ぎるのを感じた。
 左肩に少し火傷のあとができた。
 ビットの攻撃は『前の周』ではこの圧縮ビームは軽くかただが痺れる程度だが今回はそうも行かない威力らしい。

  ”サンダー”
  ”サンダー”
  ”サンダー”

 連続雷撃、『天』の属性を持つ魔力の塊がガードマシンに直撃した。

   ドフゥン

 再び衝撃波がクロノを襲った。

  ”アイスガ・カルン”

   クルウゥゥゥン カン

 冷気はビットを包み、浮力を消し去り床に落とした。
 ガードマシンに注視しながらクロノの方に近づくマール。
「イマイチ能力が掴めないな」
「ビットの行動を停止しても、なんかすぐに復活しそうだけど」
 凍らせたビットは氷の塊に包まれながらもがたがたと揺れている。

  ”ケアル”

 マールの回復呪文はクロノの火傷を癒し、マールはクロノが立ち上がるのに手を貸す。
「大丈夫?」
「ああ」
 例え回復呪文で傷を治癒させたとしても痛みは残る、まだクロノの肩は痺れていた。
 クロノが再びカタナを構えるとマールは離れた。
 沈黙を続けるガードマシンに近づく。

  ”らくよう”

 わざの発動するまえに腕が伸びきったところで、重くなった。剣先はガードマシンにわずかなところで力及ばず止まった。
 クロノはその重さに何とか踏みとどまり、無理に横薙ぎに力を加えるため、カタナを傾けるが重さが増し、それが体全体に広がっていく感じがする。
 わずか数秒の間で体が動かないほどになり動けなくなっていた。

  ”ライフ・ショット”

 マールの声に呼応するかのように魔力の矢がガードマシンの中心に突き刺さり、消える。
 マールはさらに弓を引く。
 同じところに矢は刺さり。さらに弓を引く。
 強化された魔力の矢を放ったところで途中で消え去った。
 重さから逃れることができたクロノはその場をはなれ、マールの近くに行く。
「たすかったよ」
 クロノはガードマシンの能力に気づいたことを話した。
「たぶん、空気を操るとみた」
「空気?」
「衝撃波や近くに行ったとき、なんか空気が薄く感じた」
「どうするの?」
「サポートしてくれ」
 なにも言わずにマールは呪文の構成を始めた。

  ”ヘイスト”

 クロノの体がわずかに赤みをおびる。
 クロノはカタナを構え、ガードマシンに近づいた。
 体がだるくなる。
 そのときビットが動き出す。

  ”サンダガ”

 雷撃の波がガードマシン、ビットを巻き込み爆裂させる。

  ドゴォォォォォン

 体に感じていた気だるさが一気に抜ける。
 ビットはその機能を停止した。
 ガードロボの方は一時的に機能を停止していたが、クロノを認識し動き出す。

   ピーピーピーピー

 ガードマシンの警告音がなる。
 同時に冷気が辺りを包んだ。

  ”アイスガ”

 無数の氷がガードマシンを襲う。
 続いてマールは呪文を発動させる。

  ”アイスランス”

 人二人分の大きさの氷の刃が一気にガードロボを貫く。
 そこへクロノがカタナに『天』属性の魔力を込めたカタナを振り下ろす。

  ”サンダーブレイド”

 カタナに纏った”サンダー”の力が貫かれたガードマシンの装甲から中身をえぐるように斬り込む。

  ”かいてんぎり”

 追い討ちをかけるようにガードマシンを斬った。


 クロノはガラクタとなったガードマシンを見ていた。
 その表情は神妙でありマールは声をかけるのを戸惑った。
「……クロノ?」
「やるせないな」
 クロノは食料庫へ歩いていった。
引用なし
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【169】-15- (第六章 廃墟を越えて……5.革命家.)
 Double Flags  - 08/9/24(水) 2:42 -
  
「ここがアリスドームの中心部だ」
 居住区から離れたドームの中心部、中央制御室。
 かつては人の手で管理されていたであろうその場所はロボットによって管理されている。巨大なディスプレイにパネル、意外と綺麗にまとまっていた。いや、綺麗にまとまっているというよりもそれ以外ほとんど無かった。
 そこはルッカは懐かしい場所だった。
 クロノ、マールと共に世界を救おうと決めた、決意した場所である。
 そのルッカに前にはボロボロのローブを来た長身の男がいた。
「で、リュトはここに来てなにを知りたいの」
 リュトの黒瞳がルッカを見た。
「アリスドームの秘密だ」
「秘密?」
「ルッカ、だったか?
 このアリスドームでおかしいと思ったことはないか?」
「? いやなにも」
「そうか、まあこの大陸に来て日が浅いというのなら分からないでもないが。
 なら、ここ以外に人のいるドームに行ったことがあるか?」
「トランドームに」
「トランドームに比べてこことなにが違う?」
「ここの方が大きいって事?」
「確かにアリスドームの方が大きいが、トランドームとあまり人口は変わらない」
「そうだけど、それはロボットに支配されているからで…」
「ロボットに支配されているというが、トランドームにロボットはいたか?」
「……見かけなかったけど。
 それはトランドームがここと違ってこの中央制御室があるから…………あれ?」
「考えてみたか?
 中央制御室でなくてもトランドームには居住区の環境を一定に保つ制御室があることに、そしてそこはロボットが管理していない。
 でもここにはロボットが制御室を支配している」
「でもそれはここが大きな施設だから」
「知らないかもしれないが、ここと同じ程度の施設はどのドームにも存在していた」
「それってどういうこと」
「ここの制御室はその中央制御室と言うように他のと少しだけ設備が違う。
 その一つに通信用のシステムがあるわけだが……」
「通信システムって、それが生きていれば……」
「そう、他のドームと交流を可能とすることができる。
 だが、この大陸のどのドームも通信システムだけ破壊されている。
 だから俺はこのアリスドームは他のドームと違ってロボットがドーム内、といっても居住区以外を支配している理由がここにあるのだと考えた。
 そしてそこから、一つ浮かんだのが、ロボットは完全に人を滅ぼそうとはしていないということ。
 もし滅ぼそうとしているなら、なぜ環境制御室を破壊しない? 俺はこの大陸のほとんどのドームを見て歩いたが制御室はほとんどすべてのドームの中に生き残っていた。中には新しく直されているところもあった」
「誰かが直したとは考えられないの?」
「そんな奴はこの大陸にはいないよ。俺が見て回った限りは」
「でも、ロボットなら通信システムだけを破壊することができるんじゃないの? 
 それとも、ロボットにはこのアリスドームを守る理由があるって言うの?」
「それは俺も考えた。
 だから、その理由を知りにここまで来た。
 まあ、ここに入り込むだけでも苦労したんだがな」
「苦労? あなたの実力ならばこの辺りのロボットにはそう簡単に負けはしないと思うけど」
「問題はロボットじゃなく人間さ。
 さっきも言ったがこのドームにはロボットがいる。
 そのためここの住人はなにがロボットの気に触るかビクビクしているのさ。
 そんなんじゃ、俺の言う反乱や反抗なんてとても無理、そんな気にはならない。
 それを促そうとする俺は厄介ものってわけになる。
 あんたらも似たようなものだろう?
 違うか?」
 確かに、ルッカはさっきのドンの様子を見ているとそんな感じがしていたのは事実だった。
「確かに下手に刺激してこっちが巻き込まれたんじゃどうにもならんからな。
 ここの人間はもうほとんどロボットに支配されている状態さ。
 抜け道探すのに一苦労だったな」
 リュト・サペルはパネルを操作しはじめた。
「それでな。なぜそこまでロボットがこのアリスドームを残す理由を、といっても仮説はあるんだがな」
「仮説?」
「まあな」
 それ以上続けず、パネルを操作した。
 ルッカもなんとなく歯切れが悪いがこの男とそれ以上喋らないというような雰囲気が出ていた。
「なるほど、このアリスドームはずいぶん古いんだな。昔の資料がたくさん入っているな」
「昔の資料?」

  カチカチ ポチ

「擬人ロボットや人造人間、対戦闘用ロボット、家庭用ロボット、昔の人は色々やったんだな」
「擬人ロボット?」
「ああ」
 ディスプレイに人間そっくりの構造をしたロボットが映し出される。
「大陸によっては近代になっても戦争をしていてな、そこで人間に姿かたちが似ている擬人ロボットって言うものが戦場を動かしたって話だ」
「人造人間となにが違うの?」
「人造人間は人間が素体となっているんだ。
 失った腕とかを機械に変えた人のこと、これはロボットが開発された初期にもっとも盛んだったていう技術らしいな。
 逆に、擬人ロボットは元から全て人工知能で補っていたものに、人間の姿かたちのからだを与えたもの。
 これが大変そっくりに作ってしまってな、戦争時、それは大変だったらしい。
 いま、擬人ロボットがいないのはその時の教訓から、擬人化の技術を廃棄したってらしい。
 まあ、このときにも色々と問題が起きていたらしいが……ロボットの歴史にも色々あるんだな。
 ロボットは人間が作り出した文化だ、これは否定できない事実だ。例え今がどんなものであろうともな。
 かつてはヒトとロボットが作り出したのが今の文明。
 かつては協力し合っていた時代もあったというのにこの始末。一体でどこで間違ったのか」
 リュト・サペルはため息をつく。
「? なるほど、ならば、ここの狂った機械を作り出した大元は何だ?
 どこからこの……」
 何かを掴んだのかさらにパネルを操作する手を早める。
「リュト」
「なんだ?」
「調べ物が終わったら、そのデータベースを使わせてもらってもいい?」
「……それはかまわない。
 どうせ、ルッカもこのデータベースを目的にしていたんだろ」
「ええ、まあ」
「大丈夫だ、たぶんそれほど時間はかからない、と思う」
 ははは、と笑いながら操作を続けるリュト・サペル。


「やっと見つけた。これがこの大陸の元凶だな」
 数分後、ディスプレイに現われたのはかつてルッカがマザーブレインとであった場所であった。
(あれは、ロボの故郷の工場? 歴史は変わっているといっても、マザーブレインという存在は変わっていなのね)
 少し暗い気持ちになった。
 そんな思いをよそにリュト・サペルはさらに深い情報を探って行く。

   ウィィィィイインウィィィィィイインウィィィィィィイイン

 突如、扉から三体のロボットが現われた。
 それに気づき、素早くその場を離れるルッカとリュト・サペル。

  ”レーザー”

 高圧レーザーが操作パネルを焼き切る。
「やろってのね」
 ルッカはミラクルショットを取り出しかめた。
「まてっ!!」
 リュト・サペルはルッカを止めポケットから黒い球体を取り出した。

  ”アクセス”

 球体は光を放った。
 光はロボット三体と包んだ。
 物陰に隠れ、光が収まるのを待ち、再びロボットを見ると三体は停止していた。
「見ていろ」

   スウィン

 ロボットの機能が回復し、互いに何かを確認しているようだ。
(なにが起きているの)
 少し把握し切れていないルッカはその様子をじっくり見ていた。
『音声確認』

   カーカー

 三体のロボットはその場を離れた。

   ウィィィィィン

 三体がこの部屋から出て行った。
「どうゆうこと?」
「今投げたのは、ロボットの認識するシステムを少しいじる信号を出すプログラムを、光として浴びせて誤認させるようにするもの、ロボットを壊さずその場をやり過ごすことができる兵器さ。
 ただ特殊な機器を使っているので、大量に使うことができないからな。
 あまりこの辺りを壊すことができないから仕方なく使ったまで、いわゆる秘密兵器だ」
(確かに、機械を詳しく分析していればそれも作れるかもしれないけど)

   ウィィィィィン

 再び扉が開き、ルッカは構える。
 数対のロボットが入ってきた。
 先ほどのロボットとは別の形をしたものであった。
「修復ロボットが来たか」
「修復ロボット?」
「ああ、おそらくさっき破壊したデータベースを直しに来たんだろう。
 すまないなルッカ、しばらくはここに入れないわ。
 なに調べるか分からないが」
 二人はロボットに気づかれないように外にでた。
「大丈夫よ、見当はついているから」
「そうか、俺はしばらくこのドームの中を漁っているつもりだ。
 金髪ポニーテイルのお嬢さんの母親を探すんだろ?」
「へっ、あ、ええ」
 リュト・サペルが苦笑いをする。
「また機会があたら会うこともあるだろう」
「データベースが直った頃に再びここに来ますよ」
「そのとき俺がいるか分からんがな」
「はははは」
「冗談はともかく、いつ直るか分からないぞ。
 まあ、数日中には直るだろうけどな」
 二人はそういって別れた。
 革命家リュト・サペルはそのまま留まり、ルッカは元の来た道を引き返した。
引用なし
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【186】-16- (第六章 廃墟を越えて……6ガードマ...
 Double Flags  - 10/9/20(月) 19:56 -
  
 クロノとマールは鉄筋の上を渡り問題のガードマシンの部屋の前に来ていた。『前の周』と同じなら、あと数歩でガードマシンのセンサーに引っかかるだろう。
「ルッカになにをもらったんだ?」
「うん、なんかふくろを渡されて」
 ごそごそと出す。
 取り出したものは手甲とペンチであった。
「ペンチ??」
「どっかの工具みたいだな」
「一つは太陽石とにじの貝がらを利用した攻撃力強化の手袋、命名ライフショットと空間を湾曲させることができるペンチって説明書には書いてあるけど」
「どういう仕組みなんだ」
「さあ?」
「じっくり読む時間がないから本番で確かめるしかないかな」
「大丈夫なのか?」
「緊急時マニュアルには、セーフティがかかっているから大丈夫だって」
「……」
「………」
「心配は残るが、急いでルッカを追わないといけないからな」
 クロノは一歩踏み出した。

   ピーピーピーピー

 警告音が部屋中に鳴り響く。
 同時に巨大なガードロボが出現する。
 姿かたちは『前の周』のものと同じであった。
 大きな図体に地面につかずにわずかに浮いている。その横にビットが浮いている。
 戦闘開始。
 クロノはすぐに壁を使い大きく跳び上がった。
  凍れる・・・
 マールは唱えた“アイスガ”の呪文をクロノのカタナに絡みつかせる。

  “アイスガソード”

 魔力でカバーした氷のカタナは一体のビットを直撃し

   ダアァァアアン

 瞬時に爆砕した。

  ”サンダー・ショット”

 右手により『天』属性の魔力を込めたナイフをガードロボに放つ。
 ナイフはガードロボ本体に直撃し大きく震わした。
 クロノはナイフが直撃したのを確認し、カタナを構えると、

   ドフゥン

 クロノが衝撃波で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
 クロノはどこからの攻撃か気づく前に、マールの声が聞こえた。
「ビットを……」
 最後まで聞こえるまえに、クロノは体を少しずらした。

   ピュン

 ビットを見ると何か光るものが見え、肩に何か熱いものが通り過ぎるのを感じた。
 左肩に少し火傷のあとができた。
 ビットの攻撃は『前の周』ではこの圧縮ビームは軽くかただが痺れる程度だが今回はそうも行かない威力らしい。

  ”サンダー”
  ”サンダー”
  ”サンダー”

 連続雷撃、『天』の属性を持つ魔力の塊がガードマシンに直撃した。

   ドフゥン

 再び衝撃波がクロノを襲った。

  ”アイスガ・カルン”

   クルウゥゥゥン カン

 冷気はビットを包み、浮力を消し去り床に落とした。
 ガードマシンに注視しながらクロノの方に近づくマール。
「イマイチ能力が掴めないな」
「ビットの行動を停止しても、なんかすぐに復活しそうだけど」
 凍らせたビットは氷の塊に包まれながらもがたがたと揺れている。

  ”ケアル”

 マールの回復呪文はクロノの火傷を癒し、マールはクロノが立ち上がるのに手を貸す。
「大丈夫?」
「ああ」
 例え回復呪文で傷を治癒させたとしても痛みは残る、まだクロノの肩は痺れていた。
 クロノが再びカタナを構えるとマールは離れた。
 沈黙を続けるガードマシンに近づく。

  ”らくよう”

 わざの発動するまえに腕が伸びきったところで、重くなった。剣先はガードマシンにわずかなところで力及ばず止まった。
 クロノはその重さに何とか踏みとどまり、無理に横薙ぎに力を加えるため、カタナを傾けるが重さが増し、それが体全体に広がっていく感じがする。
 わずか数秒の間で体が動かないほどになり動けなくなっていた。

  ”ライフ・ショット”

 マールの声に呼応するかのように魔力の矢がガードマシンの中心に突き刺さり、消える。
 マールはさらに弓を引く。
 同じところに矢は刺さり。さらに弓を引く。
 強化された魔力の矢を放ったところで途中で消え去った。
 重さから逃れることができたクロノはその場をはなれ、マールの近くに行く。
「たすかったよ」
 クロノはガードマシンの能力に気づいたことを話した。
「たぶん、空気を操るとみた」
「空気?」
「衝撃波や近くに行ったとき、なんか空気が薄く感じた」
「どうするの?」
「サポートしてくれ」
 なにも言わずにマールは呪文の構成を始めた。

  ”ヘイスト”

 クロノの体がわずかに赤みをおびる。
 クロノはカタナを構え、ガードマシンに近づいた。
 体がだるくなる。
 そのときビットが動き出す。

  ”サンダガ”

 雷撃の波がガードマシン、ビットを巻き込み爆裂させる。

  ドゴォォォォォン

 体に感じていた気だるさが一気に抜ける。
 ビットはその機能を停止した。
 ガードロボの方は一時的に機能を停止していたが、クロノを認識し動き出す。

   ピーピーピーピー

 ガードマシンの警告音がなる。
 同時に冷気が辺りを包んだ。

  ”アイスガ”

 無数の氷がガードマシンを襲う。
 続いてマールは呪文を発動させる。

  ”アイスランス”

 人二人分の大きさの氷の刃が一気にガードロボを貫く。
 そこへクロノがカタナに『天』属性の魔力を込めたカタナを振り下ろす。

  ”サンダーブレイド”

 カタナに纏った”サンダー”の力が貫かれたガードマシンの装甲から中身をえぐるように斬り込む。

  ”かいてんぎり”

 追い討ちをかけるようにガードマシンを斬った。


 クロノはガラクタとなったガードマシンを見ていた。
 その表情は神妙でありマールは声をかけるのを戸惑った。
「……クロノ?」
「やるせないな」
 クロノは食料庫へ歩いていった。
引用なし
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【187】-16- (第七章 不思議の国の工場跡 一レジ...
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:11 -
  
 ドームの奥、じめったい空気とかび臭い匂いのなか一人の少女がある機械をいじっていた。
 機械の周りには多くの工具が散らばっており、それこそ足の踏み場もないものである。
 ただし、床とは違って少女はロボットに対してとても丁寧に扱っていた。
 連日の作業で疲れているにもかかわらず少女――ルッカは長期間放置されていたロボットを修理した。ロボット――ロボは、起動するとともに記録の混乱などがあったが、いまあ落ち着いている。
「クロノサンとマールサンはドウシタノデスカ」
「あの二人なら監視者ドームにいったわ。理の賢者に会いにね」
 ルッカはロボの動きを確認していた。
「やっぱりロボも『前の周』のこと覚えているのね」
「ハイ。クロノサンとの共に戦った日々。400年間フィオナの森を見続けた記録。全て残っていマス」
「そう、ね。ねえロボ。私達の周りで一体なにが起こっているのかな」
「やはり、ダレカの陰謀なのでショウカ?」
「まだ情報が足りなすぎるわ。ボッシュはなにも知らなかったけど、ガッシュやハッシュなら何か知っているのかもしれない、と思いたいけどあまり期待はできないわね」
「クロノサンとマールサンは知っているノデスカ?」
「ええ、でも可能性にかけてみたいじゃない? それにガッシュは……」
「訪ねたときにはナクナッテイマシタネ」
「ええ」
 無言。
 ルッカは作業をし続けた。


  ”サンダガ”
  ”サンダガ”
  ”サンダガ”
 四回目の三連続の雷撃。
 突き抜けた雷撃はクロウリーさまから放出される。
 クロウリーさまの驚異的な復元能力を細胞の限界から焼きつかせる。
 クロノはカタナを、マールは弓を構える。しかしクロウリーさまは限界をむかえて灰となり消え去った。
「マール、大丈夫?」
 敵の脅威が去ったのを確認してクロノはマールにかけよる。手に持ったミドルポーションを傷口と体内に取り込ませる。
「少し頑張りすぎたみたい」
「復元にかかる時間差に気づかなければ大変だったよ」
「へへへ」
 額に汗がにじみ、顔色も少し悪くなっているが、精一杯の笑顔を見せたマール。
 マールの体調が十分に回復すると地下水道跡を出た。


 地下水道跡を出ると、そこは前と変わらない風景が見えた。
 死の山も監視者ドームも。変わらない風景。こわれた風景。
「死の山も、ドームも変わらないな」
 二人は死の山の山道を通りすぐ、監視者ドームに歩いた。
 ちょうど監視者ドーム入り口近くでマールが聞いてきた。
「ガッシュはわたし達のこと分かるのかな? ……といってもわたし達の会ったのはガッシュさん本人じゃないけど」
 『前の周』ではクロノたちはガッシュの思考パターンが入ったヌゥと出会っていたが、ガッシュ本人とは会うことはなかった。
「ボッシュは聞いてもなにも知らなかったことを考えると、やっぱりルッカのいったとおりなにと考えたほうがいいかも……、あけるよ」
 クロノは扉に手をかけ、監視者ドームの扉を開けると、そこは以前とは違った人の気配。今まで二人が訪れたどこのドームよりも人の気配があった。
 しかし、ライトはついていなく、二人は目の前は薄暗い。足元にはガラクタ。二人は手を引きながらその気配のするほうへ向かう。
 数メイトル歩いたところでクロノは足を止めた。
 マールのそれに続いて足をとめる。
 それからクロノは体を動かすことをとめた。
 クロノの額には銃口。
 人の気配があったことに油断していた。
 いきなり銃口を突きつけられるとは、おもわずマールが動こうとするが背中から硬い何か、おそらく銃口を押し付けられた。
 他にも数人がクロノとマールの周りを取り囲んでいる。
 クロノはよくルッカにミラクルショットで殴られているが、こうやって突きつけられるのははじめてである。ガルディア王国の兵士にも銃士はいるのだが直接対峙することはなくここまで来た。と、ここでクロノは銃についてあまり知らないことに気づいた。クロノの技術の多くは、剣技に注がれている。ウェポンマスターと称される師匠からは剣技を中心に、中近接戦闘を主として鍛えられたためあまり遠距離に対しては覚えなかった。ある程度の基礎知識らしきものはあるのだが、正直忘れている。銃に関してはルッカの方が師匠から学んでいたのであまり気にしなかったせいもある。そのため、内心、まずいと感じながら、どのように対応するべきなのか考えていた。
「何用だ」
 低い男性の声。クロノに銃を突きつけているほうの男が発した声。それほど歳を食ったわけではなく、年齢の近さが感じられる若者といった印象をクロノは受けた。
「人に会いに来た」
 正直にクロノが答えると、男は少し黙り、さらに質問をしてきた。
「どこから来た」
「アリス、ドーム」
「……誰に会いに来たんだ?」
「ガッシュ、という老人に会いに来た」
「そんな人物は知らん」
 男は即答した。
「魔神器、海底神殿、黒鳥号を見たことがある」
 気配のいくつかが動くのを感じた。
 男もその単語に何かあるのか、動きを止めていた。
 しばらく、硬直状態が続くと、近づいてくる気配がある。そして、小声で何かの話が広まる。
 やがて、銃口を突きつけている男に伝わる。
「少し歩いてももらう」
 男は銃口をクロノからはずした、同じくマールの背中に突きつけられていた銃も離れる。
 男が先導し、クロノとマールはその後ろを歩く。さらにその後ろからは何人か付いてくる。
 50メイトルほど歩いたところにある部屋に入れられた。
 部屋の中は簡素なもので、ソファーらしきものが二つとディスプレイがあるだけであった。
「座っていてくれ」
 二人が腰掛けたのを見ると、男も座った。どうやら、客人として迎えているようだ。
 男は二人を見て口を開いた。
「さっきはすまなかった。
 最近物騒な輩が出歩いていて少し警備を強くしていたんだ」
「輩といいますと?」
「まあ、それはいい。
 君達は他の大陸の人間なんだろ?」
「ええ、まあ」
「なら分かると思うが、この大陸は異常なほど機械が支配している場所。
 おかげでこの大陸のドームの人々はみな生きる気力を無くしてしまっている。
 そんな中でもこのドームは、おそらく唯一活気のあるドームなんだ」
「活気のあるドーム?」
「チーフ、喋りすぎでは?」
 クロノたちの後ろに座っていた男が言った。
「大丈夫だ、それにいくつかの知らせるようにといわれていただろ?」
「しかし」
「心配するな」
 先ほどまでクロノに銃口を向けていた人物とは思えないほどの笑顔で部下であろう男に言った。
 部下であろう男も、チーフと呼ばれたこの男にそれ以上なにも言おうとはしなかった。ただし、少し納得がいかないといったことが顔に表われていた。
 マールが顔を向けると、その部下であろう男は顔を背けた。
「まあ、話が折れたが、どこまで話したか……
 え〜と、たしか唯一活気のあるドームというところまでだったかな」
「はい」
「君達はアリスドームから来たといっていたから、少しちがうだろ?」
「ええ」
「例えば、我々のようにドームを守る組織があること。
 他のドームでは、ドームを守る組織はなかっただろ」
「はい」
「それには理由がある。
 このドームは、他のドームから集まってきた人間で構成されている。
 生まれたドームの暗い雰囲気になじめなかった者。
 ドームの外に出てミュータントに襲われた者。
 そんな人間が集まってこのドームを自分達で動かしている。
 知っているかどうか分からないが、他のドームは人間が住むのに最低限な自動環境制御システムが働いている。しかし、このドームにはそれがない。
 なぜか、それはこのドームが機械に反抗するレジスタンスでもあるからだ。
 機械のヤツらは、オレたちがこのドームに集まり、機械に反抗するそぶりを見せていたために、かなりはじめのときに自動環境制御システムを破壊されたんだ。
 他のドームはこのことを知っているから機械に手出しはしたくないと考えているのだろうが、それでは機械共の思うツボ。
 だから、オレ達は何とか自動環境制御システム自分達の手で直そうとしたんだ。
 でも、自動環境制御システムはもう100年近い前のシステム。
 当時を知るものはいないから、ほとんど手探りで直していったでも、それも途中で難しくなった。そんなときに、数年前にこの大陸にガッシュさんが現れた。
 ガッシュさんはオレ達の知らない技術で、いままでの自動環境制御システムを作り出したんだ。
 そこからオレ達は仲間を集め、機械から再びこの大陸の支配権を取り戻すために戦っている。いまはまだ、このドームの守りを固めることを優先しているから、まだまだ機械共との戦いは避けている。
 なんたって相手は無尽蔵に兵士がいる。
 人間は有限だから、持久戦になったら確実に敗れるのはこっちだ。それに相手は面倒なことに学習機能を持っている。それを考えると、一気に畳み掛けるって言うのが…」
 そこでチーフの話は終わった。なぜなら、部屋に青い服を着た小さな老人――ガッシュ、ガッシュに付き添うようにヌゥ、そしてガタイのいい男が入ってきたからだ。
「エド、彼らが……」
 チーフは立ち上がり紹介した。
「ええ、彼らが先ほど伝えた二人です。
 おっと、紹介が遅れた。オレは組織の自衛部門のチーフをやっているエドガーだ」
 クロノとマールも立ち上がった。
「オレはクロノ、彼女はマール」
 ガッシュはつぶれた声で紹介を始めた。
「私は、もう知っているかもしれないがこのドームの所長のガッシュだ。
 後ろにいる、青いのはヌゥ。
 となりにいるのがこのドームの責任者の一人、自衛部門のリーダーのトルエ」
 ヌゥの方は全く動かないが、トルエの方は柔らかい直礼をした。
「すまないが、自衛団の人たちは少し外してもらえないか」
「なっ!!」
 チーフのエドガーとリーダーのトルエ以外は、何か抗議しようとしたが、二人に制止される。しぶしぶ、エドガーとトルエに連れられて部屋を出る。
 自衛団が外に出たをの確認すると、ガッシュは二人にソファーに座るように勧め、自分も二人の目の前の席に座る。
「おぬし達が見たという海底神殿、黒鳥号は本当の話か」
「はい、それでガッシュさんはわたし達に見覚えがありますか?」
「見覚え、か」
 長い白い眉毛のそこに隠された目がうっすらと大きくした。
「いや、ないな。
 おぬし達のような、懐かしい力を持ったものならば忘れないと思うが」
「懐かしい力?」
「過去に失われた力。
 エレメントが広まるとともに次第に使われなくなった力。
 時に神の法、魔の法と呼ばれる力。
 自らを最も消費する力」
 クロノとマールは自分たちのことを話し始めた。
引用なし
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【188】-17- (第七章 不思議の国の工場跡 二 古...
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:13 -
  
 監視者ドームの個室。
 大きなディスプレイ、ソファーと机、そして青い物体ヌゥがいるだけの空間で
 老人――ガッシュと若者二人――クロノとマールがソファーに座って話していた。
「時を越えて、か」
 つぶれた声が部屋にひびく
「タイムトラベラー。
 いや、タイムジャンパーとでも言うべきか。
 ふむ、だが、わしの『時を翔ける翼』が役に立ったことは開発者として、十分な成果といえるか。
 それで再びタイムゲートによって、お前さん達はラヴォスを倒したにもかかわらず、この未来のありようをみて、どうするべきか考えているということだな」
「ガッシュさん。
 未来で生きているあなたならこの未来の原因は何か知っていませんか?」
「確かに、未来という時代を考えれば原因を探るのは一番だな。
 この未来に落とされたわしもこの未来のありようをみれば、その原因がどこにあるのか、実際に調べたくなるものだ。
 それにこのドームは、他のドームからデータを収集するために改造を施した。もちろん、このドームの人間に協力しながら。
 はじめ、わしはラヴォスについて調べた。ここの落とされた原因がラヴォスにあったからな。そして私が調べた中では、おぬし達の言う『ラヴォスの日』以前に正確な時間は分からないが倒されていることが分かっている。
 これは、おぬし達がラヴォスを倒すことが前提でこの時間平面があるのだろう。そして、AD1000年以降に何かが起こり、この星を滅ぼしたということ。では、なにが起きたのか。
 このドームの中にもともと残っていたデータに面白いものが残っていた。どうもこのドームは、そもそもこの星に関係したエネルギー観測所を持っていたらしい」
 ガッシュは手元から、手のひらに納まるほどの機械を取り出した。
 そのような機械をクロノは見たことがあった。以前ルッカの発明で有線操作から無線操作を行うためにつくったリモートコントローラ、略してリモコンに似ていた。ただルッカが作ったものはもう少し大きく、また上手く操作できないということから完全自立自動型ロボをつくることにしていた。この未来の技術では、すでにリモコンの技術があるとは、少し知識があるだけに、クロノは驚いていた。
 またここにルッカが居たらこういった技術にもっと驚いていただろう。ディスプレイから発せられる光から机の上の空間に立体的な映像を映し出す。
 そこに映し出されたものはグラフであった。
 ギザギザの折れ線グラフ。
 ただクロノには、数字と線の羅列にしか見えず、なにを意味しているのかサッパリわからなかった。一方少し知識のあるマールは、横の数字がかろうじて年代を表していることぐらいしか分からなかった。
 そこへガッシュが説明をしはじめた。
「このグラフから百年周期でエネルギーの異常な高さが見られる。
 これが君たちのいう何かに関係しているのかもしれないな」
 グラフには、AD1000年以降でいくつかのエネルギーの高さが見られる。
「これがエネルギーの異常ですか?」
 マールがAD1000以降で一番最初の突出した場所をさす。
「いやこれはエネルギー革命だ。
 他にもこういった産業上の革命というのが起きてな、分かりにくいから史実に基づいて少し分けてみるともう少し分かりやすい」
 ガッシュはリモコンをさらに操作した。すると、立体的なグラフの線が黒から、赤と青に変わった。
 さっきマールが示した点は、青で示されていた。
 もう一つ、赤の線は、ほぼ百年周期で高い値を出していた。
「100年周期で何かが起きている?」
「その通り。
 この記録を見るにはAD1010年近くからこの赤い線は始まり、十数年後に一度大きな値を示している。
 これを始まりとして、AD1120〜1130年ごろ、AD1210〜1230年ごろ、AD1320〜1330年
ごろと少しずれているが、何かしらのエネルギーが発生している。
 わしははじめ、これはラヴォスの影響ではないかと考えたのだが、どうもエネルギーの質が違うようなのだ。
 ただし、このエネルギーの影響は多くのものに影響を与えていることはたしかのだ」
「それはどこまで分かっているの?」
「この影響は負の遺産と、わしは考えている。
 ラヴォスでないにしろ、これほどまで長い時間この星に影響を与えているのだ。
 そして今から200年ほど前、AD2100年の中頃にそれは起きた。
 現在この大陸群を支配している存在、マザーブレインの暴走が明るみに出たときだ。
 これにより、この時代の人類は知らないうちに機械に支配されていくようになっていった。
 このAD2100年、人類はマザーブレインのヴァージョンアップ作業をしていたのだ。
 今思えばマザーブレインはこの時をまっていたのかも知れんな。
 そして、人に危害を加えるようになったロボット、機械知性体と人類との抗争いや戦争が始まった」
「その戦いは? まさか二百年も戦争が続いているわけではないだろう?」
「そう、この時の戦争は、お互いに消費し続け戦争は自然消滅した。
 このときはまだ人類もロボットと十分な戦いをするだけの力を持っていたのだが、戦争が消滅し、人類は破壊された町で生きていくことになり、自然と文化レベルが下がっていった。
 一方のロボット側は、戦争中につくった環境を操作し、人類を滅亡させるようなシステムがやがて自らにも影響を与えるようになり、主要なアンドロイドたちが動かなくなっていくなど、ロボットも文化レベルを下げることになってしまったんだな」
「では、なんでいまロボットが襲ってくるんですか?」
 そしてガッシュは立ち上がり、部屋を一周した。
 その様子をクロノとマールは不思議そうにみていた。
 再びソファーに戻り座る。
「これでよし」
「なんなんですか?」
「いや、知っていると思うがここには監視カメラが設置されている。
 これ以上の話はここの人間には聞かせられないのでな……」
「?」
「自分達にも制限が課されるようになったロボット、マザーブレインはロボットの生産を止め、必要以上の消費を抑えた。
 しかし人類は戦争が終わると、人口が増加の一歩を辿っていった。
 そこでマザーブレインは人間の人口を管理するために、人間を刈り取りはじめた」
「…………」
「そんな…」
 二人の顔が変わる。
「マザーブレインにとっては星を守るためなのだろうな。
 しかもマザーブレインの意図は人類には知らされていない。
 人類は知らないので対抗しようとするが、マザーブレインからすればそれは自分の計画に邪魔になる存在、故に叩かれる。
 それが何年も、何十年も続いている。
 やがて人は生きる気力をなくし、今の時代のようになっているのだ」
「なんでガッシュさんはそれを教えてあげないんですか?」
「わしはこの時代の人間ではない。手助けはするがこういった本質には自分達で近づいていかなければならない。
 それに本来ならもう十分に星の環境は元に戻っているはずだった。しかし再びAD2234年にエネルギーの嵐、しかも今まで出最大級のものが起き、この大陸の環境が悪化していったのだ。
 ロボットは予想だにせず、十分な防衛策を持たずに、更なる暴走を、人類はすでに機械文明とは離れたものではあったが、ヒトの無気力を増大させていくものであった。
 現状の環境は多くがこの最後のエネルギーの嵐が原因だ」
 少し静かになったあとマールが立ち上がった。
「よし! これが今度の冒険の目標だね」
「?」
「だから、このエネルギーの嵐の原因を探ることが今度の目標。
 このエネルギーの嵐の原因を探らなきゃ、このままこの星は悪くなっていくばかり、私達でそれを止めないと、きっとそれがあの少年の望んでいたことなんだよ」
 クロノは少し考え口に出した。
「……そうだな、よしやろう」
 クロノも立ち上がり、同意する。
「このエネルギー嵐の原因か、これは困難をきわめるぞ」
「覚悟の上です」
「そう、わたし達は一回世界を救っているんだから、今度も救ってみせるよ」
 ガッシュは、クロノ、そしてマールをみた。
「たしかに覚悟はあるな。
 まあ、時代を飛べるのなら可能かもしれないな。
 再びここに来るときには『時を翔ける翼』を完成させておこう」

 クロノたちは監視者ドームを去りしばらく経った後。
「これでよかったのか? 少年よ」
 ガッシュの前には、子供、ただしこの未来の大陸では見たことのない服装を着た少年がいた。
「聞いている分には冷や冷やしたけどね」
「ふぁふぁふぁ」
「ふう、分かってやっているのならなお悪いよ」
「ここのレジスタンスも安定してきて、やっと自分の研究にはいれるからのう」
「古代の賢人ガッシュ、あなたの専門は……」
「わしは別に歴史を変えたいわけじゃない。
 ただわしの研究と世界の関わりをもつのか知りたいだけなんだよ」
「ルッカ女史の研究は?」
「彼女はわしと少し考えが違っていた。
 彼女の研究も完成されたものに近い、なんといっても最初のエネルギー革命を起こした火付け役でもあったからな。
 ただし、わしの考える研究とは違った。
 わしの元の時代、BC1万年以上前の頃、それからいままで、わし以上の研究の成果が見えないのだ」
「ふん、私以上の天才は居ないと?」
「それは違う。
 参賢者の中で自分が天才と思っている人物は誰も居ない。
 そうでなければ、自国の崩壊、女王とその系譜を救えたのだから」
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【189】-18- (第八章 時の最果て@古代の賢者ハ...
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:15 -
  
「確かに私たちはそのエネルギーの嵐が起きた原因について調べてその原因をつぶしていけばのね?」
 赤髪のとがった頭の少年――クロノと金髪でポニーテイルの少女――マールがプロメテドームに入るとすでに不思議なメットをしてメガネをかけた少女――ルッカによって後ろにタンクを積んだ人型のロボット――ロボは全快していた。
 プロメテドームの奥には、ロボの腕力によりすでにゲートの扉が(ムリヤリ)開けられていた。
 クロノとマールによって監視者ドームでのことを話し終わった。
「デモ、おどろきでした。ソンナ事実があったソンザイしていたトハ」
「ロボは知らされていないのね」
「ハイ」
「なぜかしら?」
「必要ない、ということか?」
「う〜ん、でも、やっぱり納得いかないわね」
「どうゆうこと? ルッカ」
「う〜ん、上手く説明できないけど、なんか引っかかるのよね」
「ルッカ、とりあえず時の最果てに行こう。
 今のところ目標も決まったことだし、ここで考えていても進まないよ」
 クロノはそう言って、ドームの奥の扉の近くに歩いてく。そこにはすでに破壊された扉があった。どうも、クロノとマールが監視者ドームに行っている間に(ムリヤリ)破壊したようだ。
 たしか、プロメテドームの入り口の近くに残骸が積まれており、すでに掃除も終わっていた。初め、クロノとマールが来て、扉が(見るから)にムリヤリ開けられた様子を見て、少し非難するような目をルッカに向けると、一言「面倒だったから、壊しちゃった」といっていた事が思い出される。
 三人と一体は扉の中に入り、ルッカはゲートホルダーを掲げ、スイッチを押した。
  ウウウィウィウィウィウィウィウィイイイイイン
「いくわよ、時の最果てに」
 ルッカの声に呼応するかのように、時空の穴が開く。
 三人と一体はその流れに身を任せ、吸い込まれていく。
  グオォォォォォォン
  クォォヲオオン
  キュルウウウウ

 目が覚めると、三人と一体は、小さな部屋。柵のようなもので正方形に囲まれた場所、その部屋には三人と一体以外には、ヒト一人立てるぐらいの円の中が円柱状に上に伸びる黄色がかった白い光の柱が三本立っていた、いや立っていたというよりも存在していた。
 クロノが監視者ドームで見たことのある、空間に浮かぶ映像のように、まるでそこに映し出されているかのようにあった。クロノたちはこの存在を知っている。『光の柱』。次元の歪みが存在する場所、時代に繋がっているゲートの入り口である。
 ここは、時の最果て。
 全ての時代と近く、そして遠い場所。
 そこで三人は、石にしては感触の柔らかい、木材にしては違和感のある床に転がっていた。
 この三人が転がっているのには理由がある。ゲートは時代の違う四人分を運ぶという、不安定な中状態。次元の力場が捻じ曲がり、すべての時間に通じる、時の最果てに行き着く、そう、この不安定な状態こそが時の最果てに行くカギでなのだ。そしてこのゲート、いつもより不安定な分、ものすごく「酔う」。
 『前の周』でもそうだったが、ロボ以外三人とも「うぅぅあぁ」「はぁぁぁぁぁぁ」などとうめき声を上げている。ロボが声をかけるが、あまりかんばしくない様子である。まあ、だいたいだそっとしておいてくれというものであった。体が揺れるのも、体にさわる機敏な状況であった。
 しばらくして三人は回復に至る。
 三人とも乗り物酔いはほとんどしない。酔う酔うといわれている船に乗っていても彼らは平然としているのである。その三人がこれほどきつく感じる、いわゆる『ゲート酔い(マール命名)』。『前の周』彼らがここに来たとき、ラヴォスゲートはそれようのバケツだと思ったぐらいだ。
 バケツの上に、『ゴミ箱ではありません』と書かれた紙がなかったら勘違いしていたところだ。また、その紙を無視してやってしまったという話も聞く。
「今日はなんとか」
 少しひたいに汗がにじみ出ているのを袖で拭いてクロノは立ち上がる。
「無理してないでさっさと行くわよ」
 一番初めに回復したルッカはそんな様子のクロノを置いて奥の部屋に歩いていった。
 そのあとをマール、ロボもあえて無視して続く。

 三人と一体は奥の扉を開け、『光の柱』の部屋より少し大き目の正方形の形をした部屋に着く。
 その真ん中には灯のついた柱とともに、灯の光に当てられ、わずかに影のある老人が立っていた。しかも立ったまま「カーカー」と寝ていた。
 先頭に居たルッカがほんの2メイトルまで近づくと、老人はパチンと、器用にも立ったまま寝ていた体を少し動かし、目を擦り三人を一体を確認した。
「おや、お客さんか……。
 最近ここに訪れるものもすっかり減ったというのに懐かしい……」
「ハッシュさん! 私たちのこと覚えているんですか?」
「はて……? ずいぶん懐かしい響きじゃな。
 たしかにどこかで会ったことがあるような、懐かしい気もするが」
 ルッカの顔にどっと疲れが見えた。そこへクロノが、
「しょうがないさ、他の賢者も覚えていなかったんだから」
「それもそうよね」
 そんなルッカをみて、マールが前に出た。
「わかったわ、おじいちゃん」
「なんじゃ、お嬢ちゃん」
「私たちはラヴォスを倒したものよ」
 マールの発言に老人はその白い眉毛にかかった目を大きく開いた。
「なんと、お前さん達があのラヴォスを……、ということはあのときの……。
 いやまてまて、彼らは別のさぃ……」
「覚えているの!!」
 大きな声をだすマールに少し身じろぎながら肯く老人。
「まあ、覚えておるよ。
 しかし、あの少年達とは……。
 確かに見た目も全く同じじゃな、いや最近似て非なる存在を見るから、すっかりお前さんたちも、新しく……」
「似て非なるもの……?」
「いやいやこっちの話じゃ、それよりなんでおぬし達がここにいる? 世界を救ったのではないのか? すでにゲートが閉じられているというのに」
「それが私たちにもさっぱり」
「? 一体どういうことじゃ」
 ルッカは、今自分たちに起こってることを老人に話した。

「なるほど、だいたいわかった。
 いまお前さん達は、ラヴォスを倒したことで救ったはずの未来が、なにかしらの災厄によって再びこの星が危機に見舞われていることから、それを救いたいと……」
「まあ、だいたいそんなところね」
「そうか」
 老人ハッシュはうなる。
「お前さんたちは覚悟ができているのか」
「もちろん」
 言ったクロノの目を見る。
「確かに覚悟はあるようじゃな。
 ただ一つ……」
「?」
「ただ一つ、わしらのように星の痛みをつくったものに対してはそれなりの代償が存在する」
「代償ですか」
「そうじゃ……。
 この時間平面、いや、二周目といったほうがいいじゃろう。
 この二周目で感じたことは」
「感じたこと?」
「何か知っているの」
「いや、おぬし達は気づいているのかということじゃ。
 二周目の意味を。
 ふ〜む、そうじゃな『前の周』と比べて何か変わったことはないか?」
 ロボはこの二周目で目覚めてまだ間もないといってもいいため、なかなか難しい質問であった。
 そのため投げかけられたのは他の三人。そのなかクロノが発言した。
「敵が一部強くなっていたことか?」
「違うのお」
「『前の周』から武器を引き継いでいるって事?」
「いやいや」
「『前の周』では出会わなかったヒトに出会うようになったこととか?」
「近いのぉ」
「歴史?」
「ふむ、及第点三歩手前というところかのぉ。
 よく考えるんじゃ、時代を作り変えたお前さんたちなら分かるだろう」
「そんな事言われてもねぇ」
「まあよい、この時間平面で結末(エンディング)までに気づけばいいことじゃ」
「結末ですか」
「そう、お前さんたちがあのエネルギーの嵐の原因を探し、そしてそれを解決した後までに気づいてくれればよい。
 前の時間平面で覚悟してラヴォスを倒すという途方もなかった目的はすでに達成しておるのだからのぉ。
 自信を持って行けば良い」
「ソレデ、ハッシュサンはエネルギーノアラシの原因について、どこまで知っているのデスカ」
「さて、エネルギーの嵐の原因か。
 正直、なにが原因なのか詳しくはわからん」
「ハッシュでも……」
「しかし、結局のところお前さんたちが関わってきたことが、少しずつ複雑に絡み合っておる。
 一つのことが原因だというには難しいのではないのではないのか?」
「一つ一つ原因をつぶしていくしかないのか」
「そうなるだろうな。わしも少し考えてみよう。
 まあ、あまり参考にもならないかもしれないが、この知識を役に立てよう」
「アリガトウゴザイマス」
「なに、気にするな。ラヴォスを倒した恩人だ、悪くは扱わんよ。
 それからスペッキオの部屋に寄っていくとい……」
  ウウウィウィウィウィウィウィウィイイイイイン
「!! ゲート」
「どうやら時間の迷い子らしいのぉ、最近はめっきり時空の歪みも減ったというのに
 これも時間全体に影響を及ぼしている何かがなくなったためなのかも知れんな……」
「わたしが行きましょうか」
「いやいや、大丈夫じゃ。スペッキオの部屋に行ってるがよい」
 老人は三人と一体をスペッキオの部屋に送り出すと、光の柱の部屋からの迷い子が姿を現すのを待った。
 その姿は少年、服装は現代風、黒茶の髪色に青い目、一般的な中央大陸の血統である。
「ここは、『時の最果て』……。時間の迷い子が、行き着く所だ。
 君はどっから来なすった?」
「え、僕はパレポリから来ました」
「いつの時代が分かるか?」
「時代?」
「君が来た年代、年のことだ」
「ああ、王国暦……」

  がちゃ

 扉を開けると1匹の緑の野カエルがいた。
「ス、スペッキオ??」
 マールは思わずその野カエルに向かって言う。
「なんだ、おめーら 確かにオレ、スペッキオ。 戦の神! ん? お前ら見たことがあるぞ。
 なかなかの心の力をもっているな」
「クロノ、あれ、スペッキオなにに見える?」
「野生のカエル、かな?」
 マールに聞かれてクロノは答え、近くにいたロボをみる。
「ワタシニハ、ミドリカラーのゴンザレスにミエマスガ」
「私には、モスティに見えるけど」
「モスティ、ってガルディアの森にいる?」
「ええ、確かにモスティに」
「オレの姿、おめーの強さ。おめーが強ければ強そうに 弱ければ弱そうに見える。
 ん? おめーら、十分に力を使いこなしていないな
 そうか、表のジジイ、それでここに通したか」
「使いこなしていないって、どう言うことよ」
「にしても厄介なヤツらをもってきたな
 わかった、実戦で教えてやる、かかって来い」
 そういってスペッキオは戦闘体制に入った。
「三体一でも、四体一でもいいぞ、かかって来い。
 おめーらの持ってる心の強さ、力。ためしてやる」
「もうあの顔を見ると、何を言っても無理なようね」
 三人と一体、一様にして同じ姿ではないのだが、全員がスペッキオの姿をそう感じた。
「行くわよ、ロボ、マール、あとクロノ」
「……あ、ああ」
 なんかついでのように言われたクロノは、なんとなく、いや、なんとなくだが。
引用なし
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【190】-19- (第八章 時の最果てAエレメント)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:17 -
  
 部屋の中央ではスペッキオが踊っていた。
 クロノたちは傷ついていないものの疲労の色が見える。
「どーした、もう終わりか? まだ始まったばかりだぞ」
 スペッキオの手には、淡く光る石を持っていた。
(強い……)
 クロノは今までにないほどの強さを感じた。
 最後に戦ったときとは、終始こちら側の有利に進んでいたはずだったが、いまは全く歯が立たない。
「……あれじゃ、全くの別人ね」
 疲労困憊ながらも喋るルッカ。
「使っているものは魔法じゃないし、なんなの」
 そう、スペッキオは魔法ではない、何か物の不思議な力をつかいクロノたちを圧倒したのだ。
「魔法は、完全とはいい難いが使いこなしているようだな」
 スペッキオは跳ね、踊るのをやめた。
「俺が使ってたちからは エレメント。
 名前ぐらい、聞いたことがあるだろう?」
 スペッキオの手には白い板をどこからか取り出した。
 三人と一体は顔を見合わせた。
「知らないのか。まーいい。
 エレメントを扱うにはグリッドがいる」
 ポンッ と白い板を投げ渡された。
「それがグリッド。しばらく持ってろ」
 するとクロノたちの持っていた白い板が次第に半透明になった。
「これって?」
「消えていったけど」
「それでいい。
 エレメントはだいたい白、黒、青、赤、緑、黄の六つの属性の成り立っている」
「だいたいって」
「まー、その辺は気にするな。
 ツンツン頭のおまえは『白』が強いな、他に『緑』、『黄』がやや強めだな。
 このポニーテールのギャルは『青』と『白』。
 こっちのメガネのネーちゃんは『赤』とやや『黒』が強めだな。
 ロボットのニーちゃんは『黒』。
 てな具合に、この星に存在するものには、ある程度の属性が備わっている。
 その力はあまり変わらないが、環境や性格などで強めになったり、弱くなったりする。
 それがエレメント。
 昔の者が自然を操るために作り上げた、世界の循環システムの一部。
 そして、世界を支配していた事のある力。
 魔法とは質の違うちから。
 じゃあ、身体を慣らすために今回も、『エレメントが使いたい〜』と念じながら、ドアの所からはじめて
 この部屋の柵に沿って、時計回りに3回まわる!
 あんまり回りすぎてバターにならないよう、気をつけろ」
 三人と一体は部屋の周りを三回回った。
 その様子をスペッキオはしっかりと確認した。
「よーし! ハニャハラヘッタミタ〜イ!!」
 スペッキオが呪文を言うと
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
 特に効果音は流れなかった。
「どーだ、新たな力わくだろ。試してみるか?」
「ええ、特になにが変わったか分からないけど」
「そうか、だったらこれ握ってみ?」
 スペッキオはこぶし小の宝石をクロノたちに渡した。
「それがエレメント、少し魔法を使う感じで力を込めてみ」
 言われたとおりに渡されたエレメントを強く握り、魔力を込めると淡く光り始めた。光り始めるとさっき渡されたグリッドが胸元辺りぐらいの宙に浮かぶ。
『おお』
 歓声が上がる、ロボ以外。
 ロボは魔法を使えなかったので、イマイチ魔力を込めるという使い方がよく分からなかったのだ。
 そんなロボをみてスペッキオは一言。
「おまえは、もう少しグリッドを考えながら回ってろ」
「ハイ」
 ロボは再び、一人で部屋の周りを回り始めた。
 それを見つつルッカは言った。
「これは一体どんな原理なの?」
「グリッドをよく見てみろ。エレメントが入るぐらいの穴が入っているだろ?
 そこにエレメントをはめ込んでみな」
 空中に浮かんでいるグリッドの中にエレメントをはめ込む。
  ガチ
 それはちょうど納まった。
「これでツンツン頭はこのエレメントを使うことができる
 これは魔法のように、詠唱や構成を組まなくても発動できる」
「へー、これだけでエレメントが使えるんだ」
「ちなみに他人にはこのグリッドが淡く光っているようにしか見えていない」
 スペッキオは自分のエレメントを開いた。
 すると、三人(と走っているロボ)にはほんのり薄い光が見えた。
「ただこれは意識してないと見えない。
 まあ、この光が見えたら相手がエレメントを使っていると分かるけどな。
 ツンツン頭、ためしに使ってみろ。
 声と魔力にエレメントは反応する、自分でエレメントの音を聞いてみろ」
 クロノははめたエレメントに手を添え、聞けといわれた音を聞く。
 そして一言。
  ●レーザー(白)
 一筋の光が、スペッキオの少し脇を通る。
「簡単だろ?」
 肯く。
「さてグリッドを良く見てみろ、エレメントの輝きがなくなっているだろ?
 こうなったらしばらくはエレメントは使えない」
「一発限りってこと?」
「ちがうちがう。
 当分使えない使えないだけ、エレメントは自然エネルギーを使って発動させるもの。
 一度使えばエネルギーを消費して溜めなくてはいけない。
 まあ、自然に溜まっていくからそんなに心配しなくてもいい。
 時間がたてば勝手に回復してる。特に周囲の環境が重要なんだ。
 白のエレメントなら、光。
 青のエレメントなら、水。
 赤のエレメントなら、熱源。
 黒のエレメントなら、影や高いところ。
 緑なら、植物や風。黄なら、岩やイカズチ。
 そういった要素が多いところでは回復力が高い。
 場合によるが、早くて10分、長くて1日なんてものもある。強力なものほど回復する時間は長くなる。
 まあ、でも」
  カツン
 スペッキオは器用に足を鳴らす。
「これで、エレメントは回復した。
 この空間には全ての要素がある、とっても回復しやすい。
 それとエレメントの力加減はグリッドで調整してくれ、グリッドのレベルはその穴にある横の列にいくほど高くなっている。
 グリッドにはレベルがあるから、低すぎると使えないから気をつけろ。
 エレメントを沢山使ったり、グリッドに力が蓄積されれば自然とグリッド数は多くなる
 そうそう、もう走らなくてもいいぞ」
 スペッキオはいまだ走り続けていたロボをとめた。
「使えば使うほど強くなっていくのね」
「強くなっていくというより、成長していくといったほうが正しいな」
「で、成長していく過程でエレメントの色と自分の色が関係していくのね」
「まあ、そうだな、グリッドの裏面を見てみろ。
 それがエレメントバランス。
 一番高い位置にあって強く輝いているのが、先天属性といって、もともとの属性。ほかに輝いているのはまあ、扱える程度だ。まあ、各々の属性には得手、不得手がある」
「アノ、ワタシには緑のエレメントが0%と描かれているのですが」
「それは全く扱えないってことだ。
 もしかすると、特殊な経験をして消費したり、出てきたりしたのかもしれないな、今のところはガマンしとけ」
「ソウデスカ」
 そこにマールが割って入ってきた。
「でもロボは、砂漠を緑の大地に変えたんだよ」
「よくわからないが、そのボディに蓄積されていないのかもしれないな」
「でも、納得いかないよ」
「大丈夫デス、マールサン。
 緑のエレメントガ使えナクテモ、ミナサンガ居るので十分デス。
 ソレニ経験を積メバ、可能性はアルノデショウ」
「そうだな。 
 それといい忘れたけど、グリッドにエレメントが入っていないと使えないからな。
 それに一つのグリッドにエレメントをつけたら6時間ぐらいは外せないから、気をつけろ。
 さて、長々と説明も終わったし、もう一戦するか?」
「どうするクロノ」
「ああ、でも、エレメント一つずつじゃあ、無理だな」
「おー、忘れていた。
 選別だ、もらっとけ」
 スペッキオはそれぞれ5つのエレメントをクロノたちに投げ渡した。
 そして、再びスペッキオとの戦いが始まる。
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【191】-20- (第八章 時の最果てBグリッド)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:22 -
  
 やはりその光景は実にあっさりしたものであった。
 奇怪な生物が正方形の部屋の中央に立ち、周囲には焦げた何かが転がっていた。
「まだまだおれ 強い。 戦いの神」
  ”しお”
 戦いの神、スペッキオは『しお』を振り蒔いた。
 『しお』は焦げた何かを囲み、大きな柱をつくった。
 光りの放つ柱が消えると、そこからクロノ、マール、ルッカ、ロボの姿は現われた。
「少しはグリッドが成長したか?
 周囲、数十メイトル内で発動されたエレメントもグリッドは吸収する。最初の成長は早いぞ。
 また強くなったらここに来る。おめーら、オモシロイ」
  ガチャン
 三人と一体は無言でその部屋を去った。

「お〜〜い」
 いつもと同じように老人が呼んだ。
 老人は彼らの意気消沈とした様子を見ると、
「やはりスペッキオにコテンパンにされたか。まあ、代わりに新しい力を手に入れたよじゃな」
「ハイ、慣れるまで何周も部屋の中を走らサレマシタ」
「走ったの? と??」
「ええ、エレメントを身体になじませるためにロボはあの部屋を何周も回ったのよ」
「何周も、か」
「ええ」
「……なるほど、そりゃスペッキオに一杯やられたな」
「へっっ?」
 マールが呆気にとられる。
「どういうことですか??」
「たしかに、体になじませるというために回ったのは分かるが、そんなに何回も回る必要はないのじゃな」
「それじゃあ、なんのために回らしたのよ、スペッキオは」
「まあ、奴のことだから軽い暗示をかけたのじゃろ」
『暗示?』
「そう暗示だ」
「機械ノワタシニモ、暗示ガカカルノデスカ?」
「……知性があるのなら、予測と現実、そして入り込みやすい情報を組み合わせれば不可能ではないだろう」
「ソウナノデスカ」
「?……あまり納得がいっておらんようだな。あんまり深く考えることではない、それにエレメントが使えるようになったのだろう。十分な成果ではないのか?」
「ハイ」
 少し気の抜けた返事をするロボ。
「でも、エレメントなんて一体これはいつの時代のものなの? 現代では聞いたことがないわ」
「そんなことはあるまい。このエレメントははるか昔、浮遊大陸が浮かぶ理由はこのエレメントの技術を利用したもの」
「浮遊大陸をこのエレメントで??」
 小さなエレメントを握るルッカ。しかし、このエレメントが一体どれだけのが数が必要なのか想像だにできなかった。
「それは失われた技術って事か?」
「失われた? そんなことはない。お前さん達が知らないだけでエレメントは現代でも流通しておるぞ」
『ええェェェ!!』
 三人は同時に声を張り上げる。
「エレメントなんて聞いたことがないわよ、使ったことがないわ」
「それは気づかんだけじゃろ。すでに身近なものに沢山のエレメントが日常の一部として使われておる。環境が悪化したところでは十分なエネルギーが確保できないから、ほとんどがエレメントの力を失っているときもあるがのお。
 エレメントとは昔の者が自然を操るために作り上げた、世界の循環システムの一部いわば人工の兵器だ。それを世界中に広めて、人工のちからを自然と置き換えることによって世界を支配しようとしたものがはじめ作り出したものだ。だが実際は、自然のエネルギーを吸収していたりするからエレメントが野生化して失敗したという話じゃ。
 まあ現代に使われているエレメントのほとんどはグリッドの方法が失われ、エレメントから滲み出るエネルギーを使っているに過ぎないが」
「グリッドってさっきもらったこれのこと?」
 ルッカが取り出した白い板、さきほどスペッキオからもらったものだ。これがないとエレメントは発動しないといっていたしなものである。
「グリッドは別に特別なものでできているわけじゃない。
 やろうと思えば、そこらへんに落ちている石でも、木の枝でも、紙でさえもグリッドにすることができる」
 老人ハッシュは1枚の紙を取り出し、目の前で空(から)のグリッドにしてしまった。グリッドにしたのが分かったのは、老人から淡い光が滲み出ていたからだ。しかし、淡く光る長方形のグリッドは、瞬時に紙に戻り床に落ちてしまった。
「紙に戻ったけど」
「それはわしが拒否したからだ。わしにはもうグリッドがあるからな、一人一つしかグリッドは持てん」
「だったらなんでグリッドの方法をみんな忘れていったの?」
「忘れていったのではなく、認識できなくなったのじゃ。
 充分な自然の力がないところには、消費したエレメントは回復しにくい。
 回復する時間が長くなっていくに連れて、人々は他の便利なものを作り出し、やがてエレメントは人々の記憶から薄れていったのじゃ、まあ他にも理由はあるがのお。
 エレメントが認識されなければ、やがてグリッドを扱うことも忘れ、人は物質をグリッドにできるということを忘れていったのじゃよ。
 おぬしたちはここでエレメントと、グリッドについて認識できたからこそ、それらが使えるようになったのじゃ。
 エレメントが再び世の中に認識されれば、またエレメントは復活する。
 ただし、中世、現代ではエレメントを作る技術は人にはないがのお」
「じゃあ、現代にあるっていうエレメントはどこから来たの?」
「はるか、東の国じゃ、果てしなく東の、極東といわれる場所から流れ出るといわれておる」
 老人はポケットからカギを取り出す。
「さて、これがわしのグリッドじゃ。グリッドは物質。
 一度グリッドに指定したものは、絶対離れないというわけではないがどこかで繋がっている。ある種の契約みたいなものじゃ。
 もちろん、元の物質として持っておくこともできるが、自分がイメージしたものに変化することもできる。こういうことができるのも全て、世界中にエレメントが広まっているということの証なのかも知れんな。
 ほれ、おぬし達もやってみなさい」
「どんな形にもなるの?」
「生き物でなかれば、何にでも」
引用なし
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【192】-21- (第八章 時の最果てC梯子の先)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:23 -
  
 クロノはある物をイメージした。
 イメージは魔法の構成などで養っているために、意外とリアルに想像できる。すると手元の白い板は変化を始める。
   グォン
 白い板は金属の板に変化していた。
「イメージしていたのとちがうな」
「イメージに失敗すると大抵は、金属の板になる、理由は知らんが」
 周りを見るとルッカ以外は皆、金属の板になっていた。
「ああ、何でこう失敗しちゃうんだろ」
「機械に新たなイメージをサセルノハ難シイデス」
「イメージどおりの形にならないわね」
 そんなクロノたちに老人ハッシュは、
「これがなくてはグリッドでエレメントが使いこなせないからのお。
 ゆっくりやるといい、ゆっくり慣れていくのじゃ」
 クロノは再びイメージする。
 それはグリッドにゆっくりと伝わっていく。
 グリットはそのイメージにゆっくりと合わせていく。
   ブオン
 クロノの手元にはリストバンドが現われていた。
 マールやロボも自分がイメージしたとおりのものができたらしく、さっきの金属板のものではなくなっている。
「成功したようじゃな。では、どれどれ」
 老人ハッシュはクロノのリストバンド(グリッド)に触れた。
 するとリストバンドは消え、クロノの目の前の空間にグリッドが浮かぶ。
『え』
「このようにグリッドを知っているものが、それを認識しつつ、物質状態のグリッドをつかむと自分ではなく、相手のグリッドが開いてしまう。ここに注意しておいたほうがよい」
「誰かに盗まれることがあるのか」
「いや、グリッドは盗まれんがかわりに6時間以上はめたままのエレメントが盗まれてしまうのじゃ。
 なかなか細工のしようがないからのお。
 バレてしまえば一発じゃ、充分気をつけておくことじゃ。
 ……さて、それでは次どこに行く気なんじゃ」
「現代に戻ろうかと思う。
 前にも話していたし、ハッシュの話を聞いてて、やっぱりオレたちがやってきたことが複雑に絡み合っているというのだったら、やっぱ同じ流れで進めていけば何かおかしなところが見つかりやすいんじゃないかって思って」
「なるほど、確かにそれが一番分かりやすいかもしれんのお。
 じっくり考えるのじゃ、でなければみつからんこともある」
「ところでさっきここに来た子供は?」
「? ああ、さっきのは……なんじゃったかのお」
「おいおい」「ハッシュサン」
「おお、思い出した、確かその部屋で休んでもらっているのじゃ」
 老人が指差したのは、先ほどまでいたスペッキオの部屋に入る扉の横。同じくらいの扉があった。
「?? さっきまではなかったのに」
「コレハ一体ドウイウコトナンデショウカ?」
「それに梯子も……」
 先ほどまで見えなかった扉の隣には確かに梯子がかかっていた。
「不思議に思っておるな、これが認識じゃよ。
 目に映るものが全てではなく、時に目に映らない大切なものがある……」
「ねえ、中でなんか聞こえるけど」「ん? どれどれ」
   ガチャガチャ
 ドアノブを押したり引いたり捻ったりしているが、開く気配はない。どうやらカギがかかっているようだ。
「ねえ、ここカギがかかっているんだけど」
「ふう」
 話を途中で切られてしまいハッシュは少ししょんぼりとしていたが、それに答える。
「ああ、この中の住人がカギをかけておるのだろう。
 全く普段は開けっ放しだというのにこんなときだけ」
「え! ここにはハッシュとスペッキオ以外に住んでいるの」
「? 知らんかったのか。
 その扉の先には、あるとき突然この空間に落ちてきてな、勝手に住み込んできたのじゃ。
 まあ、ときたまわしの使いとして他の時代に行ってもらうことがあるが、今ヤツらにさっきの子どもの世話をしてもらっているのだよ」
 マールが扉に耳を近づけると、

「もっと静かに……モ」
「だなぁ〜〜」
「…!!!」
「あ、こら…………ダモ」

「確かに誰かいるわね。三人? かしら」
「まあ、あいつらにはあまり関わらんほうがよいだろう。それよりそこの梯子に登ってみるがいい」
「この先には何があるんですか?」
「そこは星砂の部屋につながっとる。まあ、行ってみるがいい」
 言われて三人と一体は梯子を上った。


「夜の星みたいだ」
 梯子を上って出た空間は、真上に夜の星空のようなものが広がっていた。瞬きを惜しむぐらいの綺麗な空。吸い込まれそうな暗い中に小さな点、星がパチパチと輝いている。
「綺麗な場所だな」
「そうね」
「それにしても、この黒。まるで魔王が出てきそうな雰囲気ね」
 魔王というのは、『前の周』でかつて中世を支配する魔族の王としてクロノたちと敵対し、そして紆余曲折ありながら最後にはラヴォスと戦った古代人のことである。その魔力と古代人としての知識は幾度となくクロノたちを助けた。その魔王にはよく『闇』の中にいる。そんなイメージがあった。夜になるとふといなくなり、いつの間にかみんなとともに敵と戦っている。そんな不思議な人物であった。
「客か……」
 くぐもった声がした。
 クロノたちにはその気配を感じることはできず、それはすっと彼らの前に現われた。
 黒いローブを身に纏い、見えるのは片目だけ、そのほとんどを布で覆っている。目立つ黒い色のローブも、この暗闇の空間では体型さえも分からない。
「ジャキ?」
 マールの放った言葉に、その黒いローブの男は顔がこわばった。
「人違いだ。オレはそんな名前じゃない。
 オレはただの男、この星砂の部屋の住人。
 ん〜〜、そうだなこの部屋の名をとって星砂の男といったところか」
「星砂の男ねえ」
 確かにその男、明らかに魔王とは雰囲気が違った。
 何か傲慢な感じがする。
「そう、星砂。この部屋に広がる星砂を管理する役目を押し付けられた男だ」
「広がる星砂って」
 ルッカは足元を見た。
 そこには床とばかり思っていたが硬い砂が敷き詰められていた。
「コノ床ニアルモノガ星砂デスカ」
「そうだ、といってもお前達のいるところは少し固めてある。下のジジイがうるさくてな、しかたなく固めたんだ。少し歩けば感触の違う地面が広がっているからな。
 砂って知っているか?」
「ええ」
「お前達が思っている砂とは少し感触が違うから、歩くときこけるなよ」
 星砂の男はこちらに背を向けて歩き出した。
 一度振り返り、
「付いて来い、どうせしたのジジイから何も聞いていないんだろ?」
 いわれ、クロノたちはバランスを保ちながらも地面に砂と、上に夜空の浮かぶ空間を歩いた。


 しばらく歩いたところで星砂の男は足を止めた。しばらくといっても、まだあの登ってきた梯子が見える位置だ。
 星砂の男の隣には上の空間から落ちてくる砂の細い柱がみえる。そこでゆっくりと星砂の男は座った。
「おまえらもその辺で座れ」
 促されたクロノたちは感触の悪い砂の上に座った。
「この砂って、空から落ちてくるの?」
「星空から落ちる砂、だから星砂だ。
 そうそう、お前達の紹介がまだだったな。どうせ、下のジジイに言われてきたんだろ? あのジジイが呼んだって事は、なんかここに役立つものがあるんだろな。遠慮せず、お前らのことは話してみろ」
 しかし、なんとなく話し辛い。
 クロノたち、三人と一体は顔を見合わせた。
 そんな、話しをすべきかどうか悩んでいるクロノたちを見て。
「あんま気にするな、おれはここの住人だ。たいていの事は驚かんし、悪い目で見ることもない。さっさと話しちまえ」
 そう言われてクロノは自分たちのことを話し始めた。
引用なし
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【193】-22- (第八章 時の最果てD星砂)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:31 -
  
 話を聞き終えた星砂の男はうなる。
「世界を救うね。あのバケモノ(ラヴォス)を倒したお前らなら可能かもしれないな。
 それに、お前らの話からすれば『前の周』にはこの部屋は無かったというのだからな」
「この砂だらけのこの部屋、一体何なの?」
「さっきもいったがこの砂は”星砂”……オレは何年も…何十年もここで過ごしてきた、ように感じている。この砂とともに。
 実際はどうかは分からないけどな。なんせ、この時の最果ては普通と時の流れが違う。それもこの空間の特性というもの」
「この空間の特性?」
「この空間の時の流れが違うということ。あえて言うなら、普通の空間と朝に食事を摂る時間が同じだとする」
 一息ついて、星砂の男は続けた。
「五時間後に昼食を摂るとすると、あんたらの時間は、……そうだな現代という時間の中ではしっかり五時間後であるが、この時の最果てでは三時間ぐらいしか経過していない、お前らがおやつでも食っている時間にやっとこっちは昼食を摂るという具合に、ずれが生じているわけだ」
 クロノとマールはイマイチ理解していないが、ルッカは簡単にまとめた。
「時間の進み方が違うってこと?」
「まあ、そういうことだな、ここに流れている時間も、他の空間の時間も一律ではあるが、二つは重なることも交差することも無い。
 ゆえにここは時の最果て、どこの時間とも交わらない最も果てにある場所なわけだ。
 まあ二周目? っていうのか? 
 それを経験しているあんたらならこのぐらい聞いたり、理解しているだろう?」
「いや、ぜんぜん」
 マールが答え、クロノも首を横に振る。
 なんとか理解しようとしているルッカ。
「ツマリハ、ワタシタチノ過ゴシタ『前の周』の時ノ最果テと、コノ二周目ノ時ノ最果テは全く同ジモノデアル、というのデスカ?」
「まあ、可能性の問題だ。お前らの『前の周』の時の最果てではここは無かったというのだから、俺がここに落とされる前で、下のジジイがここを作る必要がなかった時なのだろうな。
 その一方で、もしかすると『前の周』とは違う時間平面の時の最果ての可能性もあるということだ」
「?」「?」
「でも、もし『前の周』の時の最果てと二周目の時の最果てが同じだとすると、いろいろな矛盾が起きる気がするのだけど」
「そう、そして、ここからが本題だ。
 時間が変化することにより生じる矛盾、それを解決させるのがこの”星砂”だ」
 星砂の男は一握りの砂、星砂を掴んだ。
 パラパラと砂を落としてく。
「この”星砂”は、星の力を利用した純粋なエネルギーだ」
「星の力? 星の力って、魔法のこと?」
「近い存在ではある、ただし魔法のような物理的現象として現われる超常現象の類ではなく、これは純粋なエネルギーの塊だ」
「これが全て星のエネルギー?」
 マールは両手一杯に砂をもつ。
 じっくり見るが、特に黄金に輝くわけでもなく、光を放つわけでもない。
 普通の砂より、ただ細かいようにも見える。
 ただ、ただ、細かい粒。
 そこからは魔力も、力も感じない。
「でもこれは一体」
「”星砂”は外から持ち込まれるエネルギーが、星の限界を超えない程度に取り出し、その余分なエネルギーを星が自らのエネルギーに変換し物質化させ、安定化させたもの。
 余分なエネルギーはその分だけ、星を痛まさせる。人間でいう、肥満体質になるってことだな。余分なエネルギーを安定な状態にするためにこの”星砂”という形を取ってバランスを保っているわけだ」
「外から持ち込まれるエネルギー?」
「そう、星は様々なエネルギーが外から持ち込まれているのだ。
 太陽の光をはじめ、重力、隕石といったものから、時間、空間、ありとあらゆるもののにエネルギーが存在している。
 この星は常にエネルギーに当てられ、消費している。
 そうやってバランスをとっていた」
「隕石って、ラヴォスもその外から持ち込まれたエネルギーだっていうの?」
「そう、ラヴォスもこの星にエネルギーを持ち込んだものの一つといえる」
「ラヴォスも……、?
 でも、ラヴォスが存在していたときはこの部屋は無かった」
 話の流れが掴みかけていたクロノがいった。
「……ということは、ラヴォスもこの星にエネルギーを持ち込んだのに、この部屋は『前の周』にはなかった。つまりは余分なエネルギーがそのとき発生していなかったってことか?」
「まあそうなるだろうな、生成と消費がバランスよくなっていたということなんだろう」
「それはラヴォスは、この星の生命の遺伝子を吸収し、この星のエネルギーを消費してバランスをとっていたっていうこと?」
「かもしれんな」
 とルッカの問いに、あえて仮定で答える星砂の男。
「オソラク、ラヴォスハそうやって星のバランスヲ崩サズニ、ワレワレニ分カラナイヨウニしていたのではないデショウカ?」
「でも、わたし達がラヴォスを倒したから、この余分なエネルギーが生まれたって事?」
「そうなるわね」
「じゃあ、わたし達が……」
「おいおい、あんたらあんまり悪い方向に考えるなよ。
 結局、ラヴォスは星を滅ぼしたんだろ? 滅ぼされたんじゃあ意味がない。 一体いくつの命を救ってきたの分からんだろう? そのエネルギーは、決して無駄なエネルギーではないはずだ。あんたらは十分よくやったよ。
 それに、ラヴォスのせいでこの”星砂”が生成されたのかは実際のところは分からない」
「それは本当なの?」
「ああ、確かにラヴォスが倒されることが確定した時間平面、つまりこの平面においては
この部屋ができるほどの余分なエネルギーが生じたのは事実だが、それが決してラヴォスのせいとは言い切れない。実際わかっていないしな、調べるにしてもどうにも」
「つまり、他の何かが余分なエネルギーを出していたってことか」
「かもな」
「何か……たしかに、ガッシュさんが言っていたエネルギーの嵐っていうも、エネルギーの放出と考えれば、大量に余分なエネルギーが発生するてことにも繋がってくるね」
「んん!! なんか近づいて気がするわね。今回の原因に……」
 一息ついたように星砂の男は立ち上がった。
「あんたらがこの余分なエネルギーの原因をなくしてもらえば、俺の仕事も楽になっていいがな」
「仕事って、あなたはここで何をしているの?」
「この余分なエネルギーを還元、外へ運んでいるのさ」
「外って?」
「この星の外、他のエネルギーの足りない星とか空間とかそんなものに向けて、宇宙空間に飛ばしている」
「この宇宙空間に、ってどういう風にこの星から飛ばせるの?」
「それは、教えられん。こっちにもいろいろあってな。話すわけにはいかないんだよな」
「なんで、ケチ」
「何とでも言え、こればっかりは話すとなかなかやり難くなる」
「う〜〜」
 興味ありげに見るルッカの視線を外し、星砂の男は続けた。
「このエネルギーはジュースだ。星という名のコップに入るジュース」
 星砂の男はどこからとも無く、取っ手の付いたコップと黄色いジュースの入ったボトルを手にしていた。
「コップの中には決められた量しか入らない、しかもその中にはコップの中に元々入っている水のある、この水はこの星が生み出すエネルギーだ」
 星砂の男はクロノたちにコップの中を見せた。その中には透明な液体が入っている。
「これをコップに注ぐ」
 ボトルに入ったジュースを注ぎ込んだ。
 それは一定のスピードで注がれていく。
 やがてコップの容量をこえて、ジュースはコップの外面を汚しながらこぼれていく。
「こぼれちゃっているけどいいの?」
「このこぼれた分が余分なエネルギーだ。さてどうする?」
 突然星砂の男が質問をしてきた。
「飲む」
「分かった、飲んでみよう」

  ジュルルルル

 そういって、コップを空中に停止させ、またどこからとも無く長いストローを出し、器用にボトルからジュースを流しながら(なぜかジュースは無尽蔵に出てくる)、長いストローでジュースを飲みはじめるが、ボトルの口の方が大きく、全く追いつかず、ジュースは流れ出る。
「それが消費ね」
「そうだ」
 ストローを口から外した星砂の男が言った。
「さて、このコップから流れ出るジュースを……」
 星砂の男は少し深い皿を取り出し、コップの真下の空間に停止させた。
「この皿でとめる」
「その皿がこの空間ね」
「それはちょっと違う」
「?」
「正確にはこの空間は……」
 星砂の男は、茶色の手袋をした手をその皿に向けた。
 そして、その空間に魔法の構成が現われる。

  ”アイス”

  カキィん

 氷の魔法は、皿にではなくその中に入っているジュースを凍らした。
 星砂の男は、その氷をボールに移し変え、アイスピックで割る(すでに星砂の男が何を取り出しても驚かなくなっている)。

   ガッッズガツガツガツ

「皿はこの星が余分なエネルギーを星砂にするための器、そしてこのボールがこの空間だ。
 ジジイもはじめは少量だったからほっといたが、次第に星砂の量が多くなっていくから、この部屋を作った。そして……」
 ボールからジュースの氷を一粒取り出して…

  ヒュン

 マールに向けてやんわり投げた。
 マールはそれをキャッチした
「食ってみろ」
 首を立てに振り、氷の粒のジュースを噛み砕いた。
「ひゅめたふて(冷たくて)、ほいひぃぃ(おいしい)」
 マールの笑顔に満足し、ルッカ、クロノ、ロボにも氷の粒を投げ渡す。
「この投げる仕事が俺の仕事」
「ツマリ、ワタシタチハ他ノ星トイウコトデスネ」
「といういこと、これが”星砂”のつくられる仕組み。これと似たようなものが、この星の中でも起こっている」
「ふひひなもほね(不思議なものね)」
 とマール。
「口ん中、整理してから喋れ」
 星砂の男に注意される。
「すごいシステムね」
「まあ、大自然の神秘ってところか。だが問題もある」
「ソウナノデスカ」
「ああ、コップはジュースがこぼれた時点でコップ自身を汚している。
 注がれたジュースともともと中に入っていた水、この二つが混ざり合いコップを汚す。やがてコップの外側、外壁にべたべたしたものが付いていく。
 このストローでも吸える量は違ってくるし、ジュースの量も水の量も変化する。
 あるときは大量に液体がコップをあふれ出し、またあるときは少量の液体がコップをあふれ出す。
 では、コップの外側が汚れていたら、君はどうする?」
「……洗う」
「洗う、確かに洗う。洗うためには水がいる。
 水はこの星が生み出したエネルギーだ。
 外からのエネルギーはすべてジュースだからな。
 まあなんだ、ジュースにせよコップが汚れてしまうのには変わらないからな」
「それって……」
 ルッカが何かを言おうとしたところで、クロノにさえぎられる。
「なら、外からのエネルギーを減らすしか」
「単純だな」
 即返して、クロノを少しむっとさせた。
「外からのエネルギーは、あまり悪ものと考えるのはよくない。なぜなら、星は刺激がないと慢性的に弱ってくるからな。外のエネルギーという刺激があってこその生物の進化がある。
 全てを否定するのは、それこそ自滅の道を歩まんとするものだ。その辺り気をつけろ。全てはバランスだ」
「ってことは、やっぱりエネルギーの嵐の原因は少しずつ探っていくしかないのか」
「ソレガ確実デスネ」
「楽な道は無いか」
「そうなるな。頑張れ若者よ」
(まあ、外のエネルギーをどうやって遮断するのかを考えるのが難しいと思うがな)
 などと心の中でつぶやき、星砂の男はクロノに麻袋を投げ渡した。
 クロノが中を広げるとそこには”星砂”がはいっていた。
「これは?」
 そういったマールの手首を掴み、その麻袋の中に突っ込ませた。
「えっ? 何」
「抜くなよ」
 星砂の男はタマゴを取り出す。
 そのタマゴは、以前見たクロノ・トリガー、時の卵とは少し違っていた模様であった。
 そして数を数え始めた。
「……4……3……2……1…0」
 麻袋が一瞬光る。
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【194】-23- (第八章 時の最果てE現代へ)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:33 -
  
 星砂の男はタマゴを取り出す。
 そのタマゴは、以前見たクロノ・トリガー、時の卵とは少し違っていた模様であった。
 そして数を数え始めた。
「……4……3……2……1…0」
 麻袋が一瞬光る。
「何をしたの??」
「マール!!」
「もう出してもいいぞ」
 いわれて麻袋の中から手を取り出す。
 出した手には何も無かった。
「一体、マールに何をした」
「ふん、お嬢さんには何もしていないさ。何かをしたというならその中に入っている”星砂”だ」
「?? 星砂に…」
「あんたらの時間のエンコード、いわゆる時間軸、場所、並行次元などいくつかの次元の座標、っつってもわかるか?」
「ええ、なんとか」「ハイ」
 メンバーのインテリ、ルッカとロボが肯く。
「それをこのデコード・エッグ、またの名をクロノ・リペア、時の修復によってこの”星砂”に刻み込んだ。
 これによってお前達の言う『前の周』の記憶を持たないものに、『前の周』の記憶を【思い出させる】ことができる」
「へっ」
「”星の砂”はこの星からはみ出たものだ、そしてこのときの最果て、この部屋に来るまでに、様々な時空間を通ってきた。
 ゆえに、様々な時空間の記憶が凝縮されているということだ。それにこのデコード・エッグで少し細工すれば、相手にあんたらがかつて過ごしてきたときの時間平面の記憶が、あんたらの経験した時間に合わせて掘り起こすことができる。
 いや、重ね合わせるといったほうがよいのか。話しを聞くと、今のあんたらは2つの記憶。『前の周』と『今の周』の記憶があるという。相手にもそれと同じ状態が生まれるということだ」
「じゃあ、この”星砂”を大陸中にばら撒けば」
「んなことしたら、大陸中大混乱でしょ」
「それもあるが、星のバランスが崩れる。
 もともと”星砂”は余分なエネルギーの塊、あまり使うな。
 それと…」
 再び星砂の男はクロノに小さなものを投げた。
 受け取るクロノが見ると、それは、
「砂時計?」
「それはオレ様が作った特別性の物だ。それをひっくり返して全て落ちていくところまで見せれば、さっきの”星砂”の効力はなくなる。
 もちろん”星砂”は回収できないが、流れ出た”星砂”はやがて再びここにたどり着くから気にしなくてもいいぞ。
 最終的にこの空間に戻ってくれば、星のバランスを崩さなくて済むからな」
「ありがとう」
「ふん、言われることのほどではない」
 そういいながら、黒いローブで隠れた男の口が少しにやけているようにみえる。
「どうやら、あんたらがしっかりしていないと、この星も危ういらしいからな」
「星砂さんは何か知っているの?」
「知らんよ。さっき、あんたらから聞いた話以外はな
 ほらさっさと行け、”星砂”が無くなったらまた来るがいい」
 再び礼を言って、クロノたちはこの星砂の部屋を去った。

 そして、星砂の男一人。
 砂の落ちる音だけの世界。
 星砂の男は作業に戻る。
「運命と因果か、皮肉なものだ」
 自らでた言葉を振り払い、再び”星砂”を紡ぎ始めた。


「どうじゃった」
 部屋の中央にいた老人――ハッシュは、時の最果ての二階部分から帰ってきた彼らを迎えた。
「ええ、貴重なものが手に入ったわ」
 満足そうに、眼鏡をかけた勝気そうな少女――ルッカは言った。
「それにしても、あの男は一体何なの? 『前の周』にはいなかったわよ」
 あの男というのは、砂に包まれていた階段の上の部屋にいた星砂の男と名乗る人物のことである。
「あいつはしばらく前にここに流れ着いてな。いつになっても元の時代に戻る気が起きないようだから仕事を与えてここに住まわしているのじゃよ」
「彼はここから出れないといっていたが?」
 と、赤い髪と腰脇につけた刀が特徴的な少年――クロノが疑問調に言った。
「それはあやつでは『タイムゲート』を開くことが出来ないからじゃよ。
 まあ、正確にはゲートを安定できないだけなんじゃが」
「じゃあ、このゲートホルダー(改)を使えば彼を元の時代に……」
「ふぉっふぉっふぉ、それでもあいつは戻らんじゃろう。
 あやつの時代ゲートが閉じているということもあるが、戻ろうとする意志が見られん。それだとまたここへ戻ってきてしまうだろうからのう。
 元の時代で何があったか知らんが、星砂の作業をするのはわしにはちと辛い、あやつにはまだまだやってもらわんといまはまずい。
 まあ、頃合いをみて適当な時代に送り出すわい、気にせんでいい」
「ソウデスカというと、奥に部屋にいるヒトたちも同じナノデスカ」
「?」
 老人は誰のことを言っているのか分からず、少し黙ったのち、口にした。
「ああ、あいつらのことか。あれはちょっと事情が違うあいつらは便利屋みたいなものじゃ」
「はあ」
「まあ、あいつらのことはあまり気にするな。
 それよりその砂は大事に使いことじゃ、世界は微妙なバランスを保っているのだからのお」
「そうなんだ、注意してつかうわ、ありがとうハッシュさん」
 笑顔でハッシュ老人に言った少女――マール。
「じゃあそろそろ行くわね」
「この先、何が起こるかわからん。知っている物語だからといって油断せんことじゃ」
「わかっています、ありがとうハッシュ」
「それじゃあそろそろ行くね」
「ああ、気をつけるのじゃ」
「アリガトウゴザイマシタ」
 クロノは老人ハッシュに礼をすると、マールたちの後を追いかけた。

 三人と一体が消えた後、老人ハッシュは再び眠りに付こうかと思ったところ。梯子から、カランカラン、と音を立てて何かが落ちてくる。
 目を開け、老人ハッシュは見る。
 手のひらに乗る小さなものは、さっき星砂の男が持っていたデコード・エッグであった。
「全く乱暴に扱ってからに」
 これはもともと自分が作り、先ほど星砂の男に貸したものだ。
 無論、少しの衝撃では壊れんが、万が一ということもある。
 ほんの少し冷や冷やした。
 老人ハッシュは卵を手に取り、今からやるべきことを思い出した。
 迷子の少年を元の世界に送ることだった。
 老人ハッシュはスペッキオの部屋を開けた。
「おい、ヌゥマモンジャーはいるか?」
 そこにいたのは青い野カエルであった。
「んん? あいつら寝てるぞ」
 ヌゥマモンジャーの部屋とスペッキオの部屋は出入り口とは別に、ちょっとした通路で繋がっている。
「じゃあ、さっさと起こせ。少年を元の世界に戻すぞ」
「少年? 少年ってこのボーズか?」
 ひょっこりとスペッキオの後ろから少年が現われる。
「こいつすごいぞ。すごい魔法の才能を思っている。さっきのにーちゃんたちよりもだ」
「にーちゃんって、あの赤いツンツンした頭の? 確か、クロノ、マール、ルッカ、ロボだっけ?」
「ほら、記憶力もいい、将来、かなり化けるぞ」
「ほう、それはそれは楽しみじゃ。さてさて、元の時代に戻るぞ」
 老人ハッシュは少年に近づく。
「僕、英雄になれるかな?」
「英雄?」
「そう、昔魔王軍を倒したっていう英雄と同じ英雄に」
「ああ、慣れるとも。さあ、スペッキオよ。ヌゥマモンジャーを起こすのじゃ」
「おう」

 中央の部屋に、ハッシュ、スペッキオ、マモ、ヌウ、少年が集まる。
「さあヌゥマモンジャーよ、この子を無事送り届けるのじゃ」
「全く、魔物使いの荒いジジイダモ」
「そんなんだなぁ〜」
「つべこべ言うな」
 老人ハッシュはデコード・エッグを発動させる。
  ウウウィウィウィウィウィウィウィイイイイイン
 すると、少年を中心としてゲートが広がる。
 もともとデコード・エッグはもののエンコードを読み取り、その時代へ飛ぶためのゲートを開く道具である。
 もちろん、エンコードはそれぞれ別々であるから、開けるゲートも一種類のみであったため、クロノたちにはあまり意味がなさないものであった。
 して、老人ハッシュは少年に一言。
「もう会うことは無いだろうが、元気でな」
「おじいちゃんもね」
  グオォン
 ゲートともに少年とヌゥマモンジャー、そしてスペッキオは消える。
「さて」
 老人ハッシュは再びいつもと同じ定位置に戻った。
引用なし
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【195】-24- (第九章  魔の村の人々1邂逅)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:39 -
  
「知っている。僕じゃ君を倒せない」
「同時にオレもお前を倒せない。
 『相克』
 それがお前らがオレに与えた呪い」
「でも、それは……」
「それで再び時間を繰り返そうというのか? 彼らに再び悪夢を見せようというのだな」
「………」
「オレは、オレはのやり方で変えてみせる。この世界を、自分の運命を」
「………それは……」
「邪魔をしたければ、邪魔をするがいい。思う存分に、彼らを使ってな。
 お前……お前達がオレ達にやったことをオレは赦せない」
「………」
「黙っているんだったら消えろ!!」
「…………………………………………また来るよ」
 少年は消えた。
 いつものように、もう何回も見た光景。
 いつものようにあの少年の後ろを追ってしまう。
 自分は少年に止めて欲しかったのだろうか。
 それはもう何回も考えた。
 でも自分の中の復讐は終わっていない。
「もう、あの頃の自分には戻れないんだ。過ぎた時間は戻せない」


 現代 メディーナ村


  グオォン

 民家のタンスから三人が飛び出してきた。クロノ、ルッカ、マールである。
「おおお、お兄ちゃん。タンスから人間が出てきたよ」
「全く、人様の家に無断で入ってくるとは礼儀を知らない奴だな」
 この家の主らしい魔族二人の言葉を聞いてマールはつぶやいた。
「また言われちゃったね」
「しかたないさ」
「さあ、二人とも離れて」
 ルッカは再びゲートホルダーを取り出し、起動させた。
  ウウウィウィウィウィウィウィウィイイイイイン
「二人は先にボッシュの家に行ってて、魔族さんたち、ごめんねまた来るけど」
  グオォン
 タンスを開け、ルッカはロボを連れてくるために時空の壁を越えた。
「すごいね、最近の人間は消えたり現われたりできるんだ」
「人間もずいぶん忙(せわ)しなくなったものだな」
 感心している魔族の兄弟をよそにクロノとマールは外に出ようとする。
「ちょっと待つんだ」
「え、ええ?」
 二人は呼び止められ、思わず立ち止まる。
「ここがどこだか分かっているのか」
「メディーナ村だろ」
「そう、このメディーナ村は、魔族の村。
 400年前、人間との戦いに負けた魔族の子孫によってつくられた村だ。この村に住む魔族のほとんどは人間に対して憎しみを抱いている。
 気をつけな。
 西の山の洞窟の近くに、ちょっと変わった人間のおじいさんが住んでいるんだ。きっと兄ちゃん達の力になってくれるよ」
 クロノとマールは顔を見合わせた。
「教えてくれて、ありがとう!
 でも…… なぜ私達に親切にしてくれるの? 魔族は人間を憎んでいるのでしょう?」
 マールの言葉に魔族は、静かに答えた。
「人間と魔族が戦ったのは400年も昔の事だ。いつまでも過去に囚われていても仕方がない。
 まあ、私達のような考えを持った魔族はほとんどいないが……」
 その魔族の目には、今の魔族たちを哀れんでいるようでもあった。


 メディーナの村を出たクロノとマールは石の敷き詰められた街道を行く。
「前はただの草原に獣道っぽかったのに」
「……歴史が変わっているということなんだろうな。
 なにかメディーナの村との交易があるのかもしれない」
 その街道をしばらく歩いていくとボッシュの家が見えてきた。
「前より早くついたね」
「これもあの街道のおかげなんだろうな」
  キィィィィィイイ
 高い金属音が響く。
 二人は体を強張らせた。
「今のは……?」
 知っているわけではなかったが、マールを見る。
「早く行こうクロノ」
 二人は音の近く、ボッシュの小屋へ駆け出した。

 近づくと2つの何かの戦闘が行われていた。
 一つは巨大な目玉を持った緑色の巨人。大きさはボッシュの小屋ほどの大きさもある。
 緑の巨人が動くたびに、近くの木の葉が散る。さらには木の葉は地面に落ちる前に茶色に変色する。
 二人はさらに近づくいていくと、そこでは一人の人物が戦っていた。
 その姿が確認された後、クロノはすぐにカタナの柄を持つ。
「師匠!」
 先に一気に駆け抜けるクロノを援護するようにマールは瞬時に補助魔法の構成を行った。

  ”ヘイスト”

 クロノの体が濃い赤に包まれる。一気に加速する。
 そのタイミングを計ったように、師匠と呼ばれた人物は後ろへと下がる。

  ”流々舞”

 クロノの抜刀によって、巨人の片腕を切り落とす。
 巨人はバランスを失いかけるが、すぐに足を出し蹴り上げてきた。
 わざの直後でクロノは巨人の足にまともにぶつかる。
 クロノが師匠と呼んだ人物のさらに後方へととばされ、背を一回打ち付けられ、地面に転がり回転しながら止まった。
 クロノはすぐに体勢を立て直し、緑の巨人を見る。その姿はすでにもとのまま、斬り取られた片腕が生えていた。
「なっ!」
 片腕がいきなり生えた緑の巨人に、再びクロノはカタナを握る。
 そんなところで師匠と呼んだ人物がクロノに声をかけてきた。
「久しいなクロノ」
「お久しぶりです師匠。ですが、この状況は一体なんなのですか」
「油断していた」
 師匠が見せたのは右手にある折れた剣を見せた。
「まさか、観賞用の剣がこれほどまで脆いとは」
「あれを使ったんですか?」
 クロノの記憶の中に、ボッシュの小屋にてボッシュのいつも立っている場所にの後ろに飾ってあった剣を思い出した。
 観賞用であったために見栄えはよく、持ちやすいがどこか実戦で使ったら脆い感じが見えていたのだ。
「?」
「それよりなんでそんな折れた剣をいつまでも持っているんですか?」
 言われ師匠は自分の折れた剣を見る。
「これか? これにはこれの使い方があるんだ」
 師匠はマールを見て、
「マール、援護はいい。
 ボッシュとタァーー、亜人を守ってくれ」
 名前を呼ばれたマールは驚きながらも、すぐにボッシュの小屋をみてそこにいる二人、ボッシュと亜人の二人を見つけマールは二人に駆け寄り声をかけた。
 それを確認すると、再びのろのろと動く緑の巨人に向き直る師匠。
「師匠、これは一体?」
 この事態の説明を求めたがクロノは制止された。
「話も何も後にしろ、この『エレメント』を倒す。さっきのようにあいつを切り刻め」
「『エレメント』って」
「話は後だっていただろ?」
 やさしく言い返されクロノは剣を構え、師匠の前に出た。
 場所を代わりクロノが緑の巨人に対峙する。
 そのクロノに対して緑の巨人は大きな腕を振り下げた。
 クロノは飛び上がり、直撃を防ぐが、風と突然出現した葉っぱに弾き飛ばされてしまう。
 吹き飛ばされながらも体をひねり、地面に着地。攻撃対象を自分に向けさせるためにクロノはグリッドを開き、白のエレメントを発動させる。

  ●レーザー(白)

 高圧縮された光が一直線に放たれる。

  クアォォォォオォォォオオオオン

 光は緑の巨人におなかに穴を開けた。
 巨人の注意がこっちに向く。
 クロノは加速している体で素早く巨人の下にもぐりこみカタナで一閃した。
 しかし途中でクロノのカタナは止まる。
 緑の巨人から吹き出した葉っぱによって止められてしまう。
  ザザザザザ
 その葉っぱは巨人の体から放出される。クロノはたじろぐが、カタナを持ち直しわざを放つ。
  ”回転斬り”
  バササササササササ
 葉が割れるように斬られていく。
「もう大丈夫だ」
 その声と共にクロノの視界に影が映る。
 クロノはわざを止め、体についた葉っぱを払いながら巨人と距離をとるように後ろに下がる。
  ガガガ
 奇妙な鳴き声が響くと、巨人の巨大な目玉にさっきまで師匠が持っていた折れた剣が突き刺さっていた。
 口のない巨人がうななき、それでも巨人は倒れない。とくに目玉が弱点というわけではないらしかった。
 師匠はそれでもにやりと笑い、手元が強く光る。

  ●アイスランス(青)
  ●アイスランス(青)
  ●アイスランス(青)
  ●アイスランス(青)

 師匠は連続して青く見える氷を緑の巨人にぶつけ、凍らせていく。
 緑の巨人が半身凍ったところで、師匠は巨大な銃口を持つウェポンを手に持ち弾丸を放った。

  ズダン

  パアァァァァァァァァンンン

 近距離での弾丸は緑の巨人の氷の残骸を撒き散らした。
 あたりが冷たい空気と風につつまれていく。
 緑の巨人の半身は、その後薄くなり消えていった。
 師匠の手から光が消えた。
「師匠」
 クロノが師匠に走りよる。
「助かったよ。クロノ」
「今のは一体?」
 さっきの質問を再び行う。
「エレメントという物質がモンスター化した姿さ。
 見る限り魔族、魔物に似た姿をしているが全く別の不思議な生命体。
 最近になってこの中央大陸の東側で見られるようになった新種の生命体さ」
「エレメントのモンスター?」
 寄ってきたマールがつぶやいた。
「ああ、東の大陸じゃよく見られる生命体なんだが……」
「なんでそんな遠い所の生物がここまで来ているのか」
「さあ? この大陸でははじめて見たからな、原因はよく分かっていないんだ。
 ところで、なんでこの魔族の大陸にお前達が?」
「そ、それは……」
「? まあいい、話は後でゆっくり聞こうか」
 師匠に促されるようにボッシュの小屋に入っていった。
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【196】-25- (第九章  魔の村の人々2魔族と魔物)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:40 -
  
 時は少しさかのぼりA.D.600。
 ヤクラ戦後、一人中世に残ったカエルはデナドロ山に登っていた。
 グランドリオンを復活させるためにその刀身を求めていたために登っていたのだ。
 カエルは思いのほか順調に登っていた。魔物が多いデナドロ山でも威圧でなかなか出てこず、ほとんど襲ってこなかった。
「これは思ったより早く着きそうだな」
 一人つぶやき、カエルは思い出していた。
 かつてサイラスと共にこの山を登り、グランとリオンの試練をサイラスが受けたことを。


 青色の鋼のよろいを取り付け、その間から見られる鍛えられた筋肉。その重たい筋肉を感じさせない速さでグランに近づき、剣で叩きつけた。
 すでに目を回し倒れたリオン、そしてグラン。そう時間が経たないうちにグランドリオンを守る精霊が倒された。
「さすがだなサイラス」
 緑色の髪が特徴的な青年――グレンは、グランドリオンの精霊を倒した男――サイラスに激励を飛ばした。
「ああ、ひとまずはな」
 まだサイラスの表情は厳しい。
 グレンもその様子に気になり、ふとさっき倒れていた精霊が浮かび上がるのを見た。
「本当にすごいな。僕たちを本気にさせたのは久しぶりだよ」
「なっ!」
 驚きに声を上げるグレン。
「まだまだグランドリオンの試練は終わっていないようだな」
 サイラスは再び剣を構えた。
「君の名前は?」
 精霊の一人、リオンが声をかけてきた。
「サイラスだ」
「サイラスか、サイラス」
「ならサイラス。今度は僕たちも本気で行くからね」
「分かった」
「あはは、こんなにもあっさり負けたのは本当に久しぶりだからな」
「今回はどうなんだろうね、兄ちゃん」
 精霊はそれぞれの距離をとった。
「勇気のグランに――」
「――知恵のリオン!」
「「コンフュージョン」」
 二人の姿が重なり、光を放つ。
 その光量のため、目を閉じる。
 再び目を開けるとそこに現われたのは黄緑色の巨人。
 巨大な筋肉の団子といった形の体形に、力を象徴するような角をもつ巨人であった。


 思い起こしているうちのカエルは山頂にたどり着いていた。
 後は下っていき、風の洞窟へ行けばグランドリオンの元へたどり着けるはずだ。
 そして山頂にはいつもどおりマモが一人座っていた。
「よう」
 カエルは何気なく声をかけていた。
 マモは振り返りもせず一言。
「山はいいよね」
「ああ、確かに山はいいな」
「いいんだよねこれが」
「あんたはずっとここにいるのか?」
 なんとなくカエルは聞いてみた。
「そんなことないモ。
 マモは自由に旅をして、自由に山に登っていいるモ。
 マモ一族はそうやって生きてきたモ」
「同族には会うのか」
「年に一回会えばいいほうダモ」
「寂しくはないのか?」
「そんなことはないモ、昔はそうでもなかったけど、マモたちもう何百年も一人で旅をして、一人で一生を過ごしてきたモ。
 それはマモ一族でなくても、ほとんどの魔物はそうだモ。
 一緒に生きているのは、生きている場所が一緒だからだモ。
 いわゆる共生という奴だモ。
 だからマモのような旅の魔物はいつも一人が当たり前だモ。
 お前、おかしな事いうモ。
 そんなこと聞くなんてまるで人間みたいな事いうモ」
「人間みたいか・・・あはは」
「人間みたなにおいだけどちょっと違う。亜人どもとも微妙に臭いが違う。
 魔力を見ても魔物に近い奴なのに」
 マモは崖から起き上がり、カエルをじっと見た。
「それともお山の大将みたいに、魔物と魔族に人間の格好をさせている奴なのかモ」
「お山の大将?」
「この辺でお山の大将って言ったら奴しかいないモ。
 ヤクラの奴だモ。
 マモ一族には及ばないけど、少しの知恵と力があるからこの辺で威張り散らしていた馬鹿な奴も。
 あまつさえ人間に退治されるなんて大バカだモ。
 お前も誰かにつくときは、マモのような立派な奴につくモ。
 あんな馬鹿につくとろくな事がないモ」
(ふ〜〜ん、人間から見れば魔物も魔族もあまり変わらないように見えても、人間と同じ長い時間を過ごしてきたのだ。
 社会の形成がなされてもおかしくないか)
 少し魔物と魔族に興味が湧いたカエルはマモに次の質問をぶつけた。
「魔物と魔族は何が違うんだ?」
「・・・お前そんなことも知らないのか?
 全く最近の新種や若い魔物は一体何を学んでいるモ。
 あとで長寿会にしっかり言っておく必要があるモ」
「長寿会?」
「今のお前には関係ない話モ。
 そんなことより、マモが少し教授してやるからそこに座るモ」
 言われてカエルはその場に腰を下ろす。
 山頂近くといってもこのあたりは余り人も獣も通らないため、草のじゅうたんとなってカエルを包む。
「まずはお前が魔物だって言うことはわかっているモ?」
「あ、ああ」
 生返事をしたカエルを睨みつけるマモ。
「分からないって言う顔をしているモ」
「・・・・・・」
「まあいいも。
 これから説明するから、しかと聞くが言いモ。
 返事は!」
「はい」
 しぶしぶと声を上げるカエル。
「まず魔物だモ。
 魔物はすっとすっと昔から住んでいる種族のことだモ。
 人間や龍人よりももっともっと昔から、この星の自然のちから中で進化してきたものモ」
「龍人」
 聞きなれない言葉に思わずつぶやく。
「お前そんなことも知らないのか。
 龍人はここからもっともっと東、極東と呼ばれるところに住んでいる種族だモ。
 人間より少し前に出てきたヤツらが長い年月の中、自らは進化したとか言って龍人とか言っている世間知らずな奴モ。
 あいつらは、先祖が人間に助けられたからといって、大地のおきてに従い人間の住む世界には干渉しないと決めた奴だモ」
(なるほど、確かに前のときはマールが僅かな恐竜人を助けたのだったな。それが恐竜人の進化を呼び、龍人となったわけか)
「あんな偏屈な奴らはどうでもいいも、今は魔物の話だモ・
 魔物の中には、知能が高いマモのような種族もいれば知能が低い種族もいるモ。
 一般にこの人のはびこっている世界では、知能の低く人間を襲うものが魔物と呼ばれているモ」
「なるほど、でもそれはオレが魔物だっていう話にはならないぞ」
「そうだけど、これから話す、魔族の話がここに通じてくるわけなんだモ。
 魔族って言うのは、いわば人間の亜種だモ」
「!!」
「ふん、驚いているのかモ?」
「確かに共通点があるけど……」
 カエルの頭の中にはその事実はすんなり入っていかなかった。
「人間っていうのは、自然に感化されやすくひ弱な生き物だモ。
 天から魔法が降ってきたときに、その力に耐えられなかった人間が魔物化した人間が今では魔族と呼ばれているモ」
「人が魔物化……」
「姿や形が人に近いものが魔族といわれているけど、実際は違うモ。
 魔族は人間の機能の一部が以上発達したものモ。
 多くは魔法の力を得たりしている奴がいるけど、肉体的、体術などが強くなったものがいるモ。それが今の魔族の種族に関係しているモ」
「天から魔法が降ってきたというが……」
「マモたちはそれを魔素と読んでいるモ」
(魔素……、ラヴォスのことだな)
「遥か遥か昔、天より降った隕石が魔法の力を落とし、それを浴びた人間が魔族へ。
 魔物はさらに強力な生物へ、恐竜人は龍人へと進化していったものモ」
「他にも亜人というものがいるけど、あれはエレメントの影響で人間が魔族化したものモ。
 実際の人間とあんまり変わらないけど、少数だから稀にマモたちの世界に来ることがあるモ。
 まあ、亜人は世界に広まっていないからそんなに見ることは余りないモ」
(亜人か、確かにゼナンではあまり見ないな)
「勉強になったか?」
「ああ、色々と、ありがとう」
(ふむ、つまり自然に発生してきたものが人間、恐竜人、魔物。
 ラヴォスが降ってきたことにより、人間が魔族に、恐竜人が龍人になった。
 そして、エレメントによって、人間が亜人になった……のか?
 ? エレメントとは?)
「そうか、それは良かったモ。これをもっていくといいモ」
 マモはスコップをカエルに渡した。
「それはマモ一族の交友の証として渡すものモ。
 ありがたく受け取っておくモ」
 そのスコップはマモの手に合わせた小さいものであった。
「それを見せれば世界中のマモ一族がお前達に手を貸してくれるモ。
 それに地面を掘ることが出来る優れものだモ」
「? なぜ、このスコップを」
「マモはずっと一人で旅をしてきたモ。
 その中でなかなか他の魔物と話す機会が少ないモ。
 こんなに長くマモの話を交流場(コミュニティ)の場以外で聞いてくれたのは久しぶりだモ。
 ありがたく受けとるモ」
「有難く受け取っておくモ」
「堅苦しい奴モ。
 もっと気軽に生きて行くも」
「出来れば、そうなりたいものだが」
「本当に人間みたいな奴も、でもお前見たいな奴が人間だったら、この大陸はどんなに住みやすいことになるモ」
「はは」
 軽い笑い。
 この姿だからこそ、グランドリオンだけでなく手に入れられるものがあるか……。
「じゃあな」
 カエルは腰を上げ、立ち上がる。
「また来るモ」
 そしてしばしの休息は終わった。
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【197】-26- (第九章 魔の村の人々3魔女)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:45 -
  
 デナドロ山の風の洞窟近く。
 風が強く、まるでここに来るものを拒むようにも感じられる。
 その中で寄ってこなかったモンスターに打って変わって、ただ一匹。
 フリーランサーが襲いかかってきた。
 カエルはそれをやすやすと退け、グランドリオンのかけらのある風の洞窟の中に入っていった。
 わずかな光、それは神秘的な空間を作り出していた。固く湿った地面、太陽の光が最も集まる場所にそれはあった。
 それに近づくカエルの中に一つの疑問が浮かんだ。
 誰も止めてこないのである。
 いつもならグランとリオンが駆け寄って止めてくるはずなのに。
 カエルは周囲の気配を探った。
 ……。
 しかし、二人の気配は、ない。
「!」
 代わりにこの小さな洞窟全体に広がる奇妙な気配に気づいた。
 体が震えた。
 何者かがそこにあるという気配。
 別に戦う気も、探る気もない。
 ただあるだけの気配、その気配、カエルはどこかで感じたことがあった。
「私だ、醜きカエルよ」
 カエルは掴んでいたシャインブレードから手を離した。
「おっと、安心するのはまだ早いぞ。グレン・コンフォート」
「……何の様だ魔女」
 姿の見えない相手に向かいカエルに話しかける。
「少しな、借りを返さなくちゃいけないくてな」
「オレの呪いを解けなかった借りか?」
「私は解く情報を与えたはずだ。お前の対価ではそれしか出来ないよ」
「それなら何の様だ」
「試練だよ。私が考えた課題をこなすだけの話だ」
「? 納得できないが内容は」
「私と戦うことだよ」
「………」
 カエルは洞窟の入り口を見ると人影が見えた。
 カエルが魔女と呼んだ女――クレフォース・ムートン。
 かつてゼナン大陸に現われ、いくつもの奇跡を起こしたと言われている女性。魔王軍の出現と共にその姿を消し、魔王軍によって殺されたとさえ噂された。
 しかし実際、彼女は世界中を旅していたため、期間が経ちゼナンの地を去ったに過ぎなかったのだ。カエルはこの姿になって偶然彼女を見つけ出し、呪いを解く方法を聞いたが魔王を倒さなければならないと教えられる。
 その後聞いた対価としてたまに面倒なことを押し付けられることあった。そのことからカエルから魔女と呼ばれている。

  シュッ

 突然クレフォースからナイフが投げられ、カエルの足元に突き刺さる。
「……上手くよけたね」
「ふざけるなよ、一体誰がお前に俺を鍛えろっていうんだ」
「ふっ」
 不適に笑うクレフォース。
「依頼者のことは明かせないよ。
 それに私がそんなふざけたことを言うなんて一度もなかっただろ」
「……」
 カエルは苦い顔をした。
 何回もこき使われていたことを思い出し、たしかに彼女はふざけた事をいうことはなかった。
 いや、普通に考えたらふざけたことかもしれないが本人はまじめに言っているからたちが悪いのだ。
 彼女の気配が見える。
 こうなることは予想は付いていた。
(覚悟か)

 クレフォースは実際何も考えていなかった。
 今のカエルの実力を知るということで、簡単に戦うという選択をしたまでだ。
 現在、カエルの手にあるのは銘は知らないが、相当な魔力を秘めている剣だという。
 油断は出来ない。まあ、はじめからするつもりはないが。
 両手甲にそれなりの硬度のある金属。両足には別の金属が仕込んであるコンバットブーツ。
 女性の体には十分に重いはずだが、もう何年の前からこの装備で世界を歩いてきたクレフォースにとっては慣れたものである。
 クレフォースの考えでは、とりあえず体術のみで相手をしなければならないと考えていた。
 実力の程では自分を倒せるまでいけるか、少し分からない。
 依頼者からは自由にしていいといわれていたが、それはそれで困ったものである。


 カエルの斬撃はすべて手甲によって軌道をずらされ、焦りを感じていた。
 世界中を旅して手に入れたと思われる体力。
 一向に疲れが見られない。
 ついには強い脚力を持って攻撃され始めている。
 何か靴に仕込んであるのか、一発一発が重い。
 剣の間合いを取ることも出来ない。
 カエルの足が崩れる。
 しかし、カエルは自分の体制が崩れるのを利用した。
 不意に下がった大勢でクレフォースの隙を作る。

(ジャンプ斬り)

 下から、カエル自身の持つ脚力で斬り上げる。
 その攻撃にクレフォースは反応が遅れてしまい、斬られる。
 体が上下に交差し、カエルはクレフォースを飛び越え着地。
 すぐに振り返る。
 クレフォースは斬られた腕を押さえた。
 深くはない、十分に避けられたものでもあった。
 だからといって、浅くはなかった。
「まあ、よくやったといったところか」
 クレフォースはニヤリと顔を向けた。
「避けられたはずだ、が」
 構えをとかず、クレフォースを見るカエル。
「確かに避けられたかもしれないな。
 でもそれでは試練にならないだろう?」
 と言いつつ、クレフォースの額から汗がひたりと流れる。
(限界だったのか?)
「では第二の試練だ」

 簡単なことである。
 クレフォースはそう思っていた。
 相手の実力とこれから与える力の弱点を知らせればいい話だ。
 実体験として。
 としたものの、どのような試練にするか悩んでいたのは事実。
 とりあえず戦ってみてから考えるか、というは、実際行動をしてから考えるという自分の旅の信念に近いものがあると今さら思う。
 ずいぶん行き当たりばったりではあるが、この性格なかなか直らないものであると考えながら、クレフォースは小さく口を動かした。

(呪文か)
 カエルは身構え、自分の魔力を掴む。

  ●ヒール

 クレフォースの傷が瞬時に消えた。
(魔法の構成も見られなかった? 魔力の流れは少し違ったようだが)
 クレフォースは何が起きているかわからないカエルを見て眼を細くした。
 カエルは身震えを感じ、足に力を入れ、剣を握る。
 クレフォースに向かい突進をし、一閃。
 しかし、その目の前に白い光が被さる。
 足が地面から離れる。
 カエルがそれに気づいたときには、冷たい風の衝撃が全身を打ち付ける。
 引きずられるような形で、数メイトル飛ばされる。
 カエルがその風の範囲から避け、体勢を立て直すと同じ風が向かってきた。
(魔法ではないが、魔力を感じる。詠唱がないから異国の兵器か)
 二発目の風も避けながら、冷静に分析する。
 そして、その兵器の特性を見極めようとしていた。
 クレフォースもカエルが、この力を待っていることに気づき、動きを止めた。
 カエルが次の手を考えようとしたとき、クレフォースはカエルに急接近してきた。
「くっ」
 バランスの悪い中、カエルはクレフォースが放つわざに防御にはいる。

  ●踵落とし

  ダンッ

 クレフォースの放った蹴りは地面を打ち付ける、弱い地面は簡単にえぐれた。
 危険と判断したカエルは持ち前の脚力でその攻撃そのものを避けていたのだ。
 カエルはすぐに剣を動かす。
「破!」
 魔力を練りこんだ剣により、周囲の圧力を巻き込んだ大きな流れを作り出す。
 クレフォースは手甲を前に出し、同時に発動。

  ●プロテクト・フォール

 クレフォースの発動した何かがカエルの魔力を霧散させる。
 それを見たカエルは、クレフォースが魔力を使った何かを行っていることに気づく。
 少し間をとりカエルは考えながら、クレフォースの様子を見る。
 体力の消耗も、疲労も見られない。
 顔に出ないだけかとさっきは思っていたが、どうも動きが鋭くなってきている気がする。
 そこにクレフォースから魔力の流れが見えた。

  ●ヒート

 力を持ったな何かが、湿った空間であるこの洞窟が一気に乾く。

  クアォォォォオォンン

 ファイガに近い熱風がカエルを襲う。

(もし防げなければ終わりだな)
 そうクレフォースは考えていた。
 依頼者から明示されたのは、『エレメント』の使い方。
 今や一般技術に取り込まれつつあつ、この『エレメント』と言う技術。
 それをカエルが実戦で使えるようになる程度というなんともあやふやな形で言われていた。
 それを言われてクレフォースが一番初めに浮かんだのは、『エレメント』の有効性はどこにあるかというものであることと、ついでに未知の力に対する対処法である。
 『エレメント』というのは、魔法に比べて詠唱時間が少なく、使用する魔力もそれほど多くないなどの利点がある。
 だが、与えられた力をただ使っているだけではその不利な点が見えにくくなる。
 本当の実戦それを知ってからでは遅すぎる。
 だから、カエルには実体験としてエレメントの利点と不利な点の二つを示そうとしていた。
(まあ、どうやって知らしめるかを考えたのはついさっきだが……)
 しかも、カエルの場合はグランドリオンとか言う聖剣を手に入れる前と時間制限があったため急いでここまで来たのだ。
 はじめこの風の洞窟に入った時も急いでいたため奇妙な空気を作り出してしまっていた。
 ここまでしなければならないと面倒だと思いつつ、受けた借りは返さなければならないのがこの世界である。
(だが、自分の身を滅ぼすほどの借りを作ったもの。
 それに対する世界のバランスがいま崩れようとしているの事実である。
 世界の理の、いや自分の種族の理をもつ自分としてはなんとも苦しいものだろうか)
 クレフォースは思考をやめ、次のエレメントを手に持つ。
「何を掴んだ?」
(カエルの声!)
 気配に向けて放つ。

  ●ウィンド

 ヒートの熱気残る中、それを巻き込んで風を作り出す。
(避けたか)
 手ごたえがなかった。
 その姿を見失い、全方位へのエレメントを発動させる。

  ●ヘルプラント

 『エレメント』の力に答え、そこから放たれる魔力が形作る。
 巨大な植物の口が洞窟全体の生物を呑み込もうとした。
 そこに、魔力を含んだ斬撃がそれ自体、巨大な植物を消した。

 エレメントで作り上げられた植物が消え、クレフォースは手をあげた。
「私の負けだカエル」
 突き立てられたのは、剣。
 幾つか打開の策は浮かんだが、クレフォースはそれを全部消し去った。
 それを見たカエルは、何を言うでもなく剣を鞘に収めた。
「この魔力で破壊できる、その力は何だ?」
「これが君に与える次の力だ。ステップアップおめでとう」
「次の力?」
「そうだ。私が本気で使えば君の魔力で防御できないのは今のカエルなら分かるだろう?」
 確かに。
 魔法が使えるようになり、魔力の流れが見えるようになったカエルから見れば、この魔女がどれほどの魔力を持っているのか感じられる。
 しかしどこか引っかかる。
「何を知っているんだ魔女よ」
「大抵のことは分かっている。
 なんせ、私たちの一族は知識を集めるために世界を旅しているのだからな」
 カエルはこれで、この世界の謎がすこし明らかになるかもしれないということが浮かんだが、この魔女にやられたいままでのことを考えると容易な話ではない。
 あるいは、さらに複雑な事態が待っていることを予感せざるえなかった。
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【198】-27- (第九章 魔の村の人々4魔女その二)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:53 -
  
  風の洞窟。
 グランドリオンの刃を手に入れたカエルはその場でクレフォースという魔女から『エレメント』についての講義を乾いた地面の上で聴いていた。
 クレフォース、茶色の長髪を束ね、カエルを上回る長身、鋭いブルーアイ整ったら体型に、バックパック。身軽な格好であるがこれが彼女がいたるところで奇跡を起こし、何十年も生きていると知っていなかったら、魅力的な女性であっただろう。
(まあ、性格にも難ありだが)
 そんな視線に気づいたのかクレフォースのするどい眼がカエルを睨みつける。
「なんだ」
 裏声で脅すように、まためんどくさそうに発する言葉はすこし念がこもっているようにも感じられる。
 カエルは特に何もないといい、クレフォースは講義を続けた。
 その言い草からは、知らなくても知っていてもどうせどうせそう代わらないだろうということが暗に言われている様でもあった。
 何でも元々クレフォースは、エレメントについて教えるためにカエルを探していたのだと言う。
 このグランドリオンのある風の洞窟で二人が出会ったのはほとんど偶然だと言う話だ。
 クレフォースは講義が終わると、グランドリオンの刃を投げ渡した。
 それを斬らないように上手く受け取るカエル。
 もう慣れたことなので、「何をするんだ!」ということもいうつもりはなかった。
「それで、一体何が起きているんだ。こんなものは前はなかったぞ?」
 カエルは宙に浮かんだグリッドとエレメントを見る。
 まだ数えるほどしかグリッドの穴は開いていない。
 幾つかはクレフォースが選別としてもらっているが、まだ何か物足りない形はしている。
「それが歴史の改変の結果だ、といっていた依頼者の少年は」
「いいのか依頼者は明かさないんじゃなかったのか?」
「依頼が終わったからいいんだよ」
「そうなのか?」
(それにしても、少年か)
 カエルはマノリア修道院で出合った少年のことを思い出していた。
 恐らく同一人物だろう。
(名を確かフツヌシだったか)
「それで私はそいつに依頼されてお前を探していた。
 そのなかでお前らが何をやったのかも知っている」
「すべてを?」
「まあ、人から聞いた伝聞だ。どこまでが本当か私には判断が難しいがな」
「じゃあ、今オレがここにいる理由は……」
「まあ、伝聞の中で私がお前にいえることはそんなにない」
「……なぜだ?」
「それは私が関わるべき問題ではないからだ。
 私は本当はこの時期に君たちの前に現われることはない、そういう歴史だったはずだ。
 お前と私の関わり合いは、もっと前の時間に始まり終わっているはずだった。
 それに私もこの時期にゼナン大陸に寄るつもりはなかった。
 何らかの作用、この場合は少年であるがそれによってこの歴史は複雑になっている。
 これ以上複雑になれば、解決できるものも解決できなくなる。
 全ての始まりはなんだったのか?
 そんなことを気にしていては、この先の解決方法が見つからないんだよ。
 今を生きるものからすればね。
 問題なのは、時間と次元。空間と平面。
 世界はある一定の率で進んでいる」
「?」
 あまり理解してそうにないカエルの顔を見てため息をついた。
「簡単に言うと、一度起きた世界はその率が流れる。
 お前のように時間を跳躍するものに干渉されない限りは常に一定に保とうとしている。
 そして、お前達のようなものがいれば歴史は意外にも簡単に変わる。
 変わった事で様々な影響が現われる。
 しかし、歴史はその影響を最小限にするため、僅かな変化を作り出し、大きな変化を起こらないようにしている。
 あるときは記憶をかえ、あるときは物質をかえ、あるときは現象を変えてな。
 簡単に言うと星はその辻褄合せを行っているに過ぎないのだ」
「? ……」
「まだわからないようだな」
 クレフォースは手元から同じ型の十本のナイフを取り出した。
「例えばここに十本の同じ種類のナイフを突き刺す。
 そこでお前は歴史を登っていき、このうちの五本をとりお前はここに戻っておく。
 するとここには十五本のナイフが存在するわけだ。
 そして、お前が持ってきたナイフをそのままにここのナイフの内の五本を違う型のナイフにする。
 するとどうなる?」
「???」
「答えは簡単、歴史はお前が今もっている型のナイフを持ち出したことになる。
 違う型はそのままこの地面に埋まっているんだ。
 そこでお前は考える。
 抜き出したときは、無造作に取り出していた五本が全て同じ型のナイフである確率は100だ。
 しかし、今ではすべて同じ型である確率は50だ。
 だが、お前が同じ型のナイフを取る確率は100になる。
 なぜだか分かるか?」
「??」
 さらに混乱を極めるカエルに追い討ちをかけるようにクレフォースは説明を続ける。
「その歴史の矛盾を、歴史が書き換えているからだよ。
 お前の記憶の中では確かに全部同じ型のナイフだったかもしれない。
 しかし、実際は半分は違う型のナイフだ。
 ここでの矛盾を解消するために歴史はほんのすこし変化を起こす。
 例えば、途中の時代でこの半分のナイフの価値が上がり、誰かが盗んでいってしまったとか、嵐が起こり違う型だけが埋まってしまったとか、同じ型のナイフが取りやすい位置にまるでそれを取らんとするように置かれていたりとか。
 最後に、君の記憶違いだと言う思い過ごしを頭の中で書き換えられるわけだ」
「記憶を書き換えるだと?」
「考えられないことではないだろう? 世界のバランスを取るためにはそれはほんの小さな変化だ。
 誰が気にするでもないような、でも重要な違いだ。
 ふふ。
 まだ混乱しているな。
 答えはゆっくり探せ、私のような長く生きた人間は少しうがった見方をしてしまうかなら。
 自分ひとりで抱え込むことでもないからな、仲間にでも相談してみるといい。
 きっとその答えがこの世界で起きていることだと理解して欲しい。
 まあ、あくまでも私の見解だがな。
 カエルよ」
「なんだ」
 まだ、混乱と理解しようと考える中でせめぎあっているカエル。
「私はここで去るが言っておくことが一つある。
 この後、王が倒れ橋が襲撃され、お前はバッヂをタータ少年に渡す必要がある」
「そんなことまで知っているのか」
「大体はな、言っておくことは時間のバランスを崩さないことだ」
 カエルが何かを言い返そうとするが、クレフォースはそのままグレンの風に乗り洞窟から去ってしまった。
「時間のバランスを崩すな、か」
「でも、マスターはちゃんとやっていると思うよ。
 責められることはもう償ったはずさ」
 聖剣グランドリオンの精霊であるグランは姿を現しカエルに声をかけてきた。
 先ほどまでカエルがクレフォースに講義をしている間黙って聞いていたためにその存在を端の方に避けていた。
 ふわりと少年の姿でグランとリオンが姿を見せる。
「そうか?」
(こういうのは悩んでいてもしょうがないのよ。前を見て進むしかないんだから)
「「ドリーンねえちゃんん」」
「姉さん?」
 聞こえてきた第三の声。
 しかしその姿は見えず、ただただ声だけが残る。
 そしてその声に覚えがあった。
「エンハーサに居たドリーンか」
(覚えててくれてありがとうね。
 やっとグランとリオンのマスターに共鳴できたよ)
「今度は姉ちゃんもついてくるの?」
(ええ、そのつもりよ。
 カエル君が私の媒体を持っている限りはね)
「媒体?」
 考えるが、ドリーンの媒体となるものはもっていない。
 グランとリオンと姉弟と言うことだから、あの赤い石と同じもので出来ているものだろうと予想できるが、今のカエルには思う付かない。
(あなたが持っている『金の石』よ)
 言われてカエルは金の石を取り出した。
 すると目の前にグランとリオンに近い姿が現われる。
「フリーランサーから得た金の石か……」
 確かにこのデナドロ山で唯一挑んできたフリーランサーが落としたものである。
「何気なく持っていたが」
 確か前の周でも金の石を得たんだっけ。

 カエルはかつて、前の世界でサイラスの墓に行った後、しっかりと自分のケジメをつけるために新生グランドリオンと共に、デナドロ山を訪れた。
 そのときにもフリーランサーが襲ってきて、そこで受け取ったのだ。

(それでこれからどうするのカエル君?)
 ドリーンにいわれてしばし考えたカエル。
「タータにこのバッヂを渡すところからはじめようと思う」
(そう、じゃあグラン)
「何? ドリーン姉ちゃん」
(カエル君を山の麓まで風で送って)
「分かった」
 二つ返事でグランは風を起こし、その風はカエルを包み山の上に上昇し、ふんわりと麓まで降り立った。
 その間ほんの数秒。
 グランが調整しているためか、それほど気持ち悪くはならない。
 しかし、景色がいいとはいえ急激に高所から降り立つのはあまり体には良くはない。
 視覚的問題だ。
 いつもの通りカエルは降り立ったその場でうずくまり、自分の感覚を元に戻す。


 同刻 中世ガルディア城。
 さらに言うなら客人向けの寝室である。
 今は魔王軍と戦争中であるため、このガルディアに旅の客人が訪れることは少なく幾つかの部屋が使われずに残っている。
 その一室にはベッドが二つ、その一つのベッドには少女が静かな寝息を立ている。
 少女は半分以上が毛布に包まれているためによく分からないが、このガルディア王国ではめずらしい黒髪の少女であった。その黒髪は単髪で、簡単に結んでいた。寝ているためかまだ幼さの残る顔つき、まだ十代半ばといったところか。そんな顔の中はそれなりの歴史があるらしく、薄くだが傷跡が見られる。
 もうひとつのベッドで寝ていた主はすでに起き上がり、今寝ている少女を起こそうとしていた。これも黒髪の少女ではあるが、寝ている少女がすこし成長した感が見られる顔つき。すこしきつい印象をもたれるであろう細い顔に黒瞳。まだ寝起きらしく、髪の毛はぼさぼさであるが、長髪が上手く落ちている。その髪を直さずに少女はベッド揺すっていた。
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【199】-28- (第九章 魔の村の人々5異国の来訪者)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:54 -
  
 中世ガルディア城 客人向けの一室
 黒髪の少女は、少女はベッド揺すっていた。
「お……起きなさい」
 ベッドに寝ている別の少女は、くぅくぅと寝息を立てている。
「もう少し寝かしてあげたほうがよろしいのでは?」
 この部屋の清掃などを行う女性が言ってくるが少女はそれを断る。
「いいえ、これほど立派な部屋。
 それはこの国でよほど主要な地であることが考えられます。
 これ以上長居することは出来ません」
 そういった少女。
 ほんのすこし前にこの隣のベットで目が覚め、そのとき清掃していた彼女から自分たちが誰かに助けられ、眠っていたことを知ったばかりである。
 女性から見れは多少は混乱しているだろうと考えてしまう。
「私たちは気にしませんよ」
 やんわりとやさしくいう。
「ですが、聞けばここ数日とはいえこの場所を占領した挙句、海岸を打ち上げられたところを助けられるという、感謝しきれない恩人に挨拶をしなければいけません」
 ゆっくりと、丁寧な言葉遣いで話す少女。
 長髪の少女は、一般の同年代よりはしっかりしていることがうかがえた。
「そんなに急がなくても大丈夫ですよ。
 ガルディア国王様やリーネ様はとてもお優しいですから」
「? 今なんと?」
「え? 今急がなくても言いと」
「いえ、その後です」
「? ガルディア国王様とリーネ様ですか?」
「!! 王様と言うことはここはガルディア城内ですか!?」
「ええ、まあ」
 突然声を高くされ、言葉にどもる女性。
 少女はすこし固まり、状況を把握するために頭を回転させた。
「……」
「あ、あの」
 女性が突然固まった少女を気に声をかけるが反応はない。
 それでも心配でずっと見ていたら、突然動いた。
「ならなおさら!
 早く起きなさいスティア!!」
 思わず怒鳴ってしまった。それでもスティアと呼ばれた少女は起きない。
  コンコンコン
 早い音で三回ノックされると、軽い木の扉が開いた。
「どうしたんだ!?」
 一人の兵士が入ってきたのだ。
 おそらく
 少女の声が大きかったために、良くは聞こえなかったが何事かと入ってきたのだろう。
「いえ、ちょっと……」
 女性が言おうとするが、少女たちが薄着なのに気づいて兵士の身体の向きをムリヤリ変えた。
「ここは私に任せて持ち場に戻りなさい」
「だが……」
「言い訳無用ですよ、新人兵士さん」
 新人兵士。
 戦争が激化する中で、ガルディア王国は苦肉の策として徴兵を行っていた。
 力のある青年、あるいは働き盛りの青年、少年たちは、有志ではあるがガルディアの兵士として国の前線で戦うことが、義務ではないが公然となされ始めてきた。
 そのため、ガルディア城内では、騎士団の兵士より現在は町などの有志の兵士、新人兵士が多くなっていた。
 彼らに、訓練をつませると同時に城内の見回りを行わせていた。
 もちろん、ヤクラの件があってから魔物や魔族が人間の姿をしていると言うことも考えられるので、素性が分からないものは前線へ行かされたりしている。
 また、王族に関しては騎士団が直属に守っているのが現状である、そのため王様はともかくリーネ様を見たことがない兵士も多々いるのも確かである。
 そのような背景もあり、城内では特にイベントらしいイベントもおきず、刺激や変化に敏感な新人兵士たちは、ちょっとした変化(今回の場合は大声)でも、ノックの後、確認せずに突然部屋に入り込むことがしばしばあった。
 城内ではそれほど大きなことは起きないはずだが、初めて持ち場を任されたり、魔物たちの恐怖になれていない新人兵士はこのように空回りをしてしまうのである。それを昔から城内で働いている侍女たちからすれば、確かに刺激はあるが仕事の邪魔になったりと苦労をしているのであった。
 新人兵士を部屋の外に追い出すと、その騒ぎでベッドに居た少女がやっと起き出す。
「んんんうんん」
 半身を起こし、眼を擦り現状を把握。
 自分の身なりを半分眼が閉じた状態で行い、自分できゅっと頬をつねる。
 その行為を一通り行うと、首を振り辺りを見た。
「ルア姉さんおはようございます」
 おはようございます、といいつつ部屋の窓からはもう陽が高く昇りきりおり始めている。
「ふう、やっと起きたわね」
「はい。
 姉さん、ごめん。わたしの……」
「気にしないでいいわ。船が落ちのは、あなただけのせいじゃない。
 わたしの状況判断のミスとあの嵐が非常に大きかったこと。
 でも助かったんだからいいじゃない」
「……」
 ルアと呼ばれた少女は、女性に向き直った。
「あの、私たちの持ち物は……」
「ちゃんとあるわよ」
 女性はゆっくりとした歩きでベッドの端の方へ行き、タンスから彼女たちの持ち物を出した。
「とりあえず、拾えるものは拾ってきたわ。
 失礼と思ったけどこんなご時勢だから中身を拝見しちゃったけど……」
「そのへんは構いません。助けていただいただけでも十分ですから」
「この書状。ここの文字じゃないみたいだから読めなかったけど、すごいわね。海の水にあてられても消えないどころか、にじまないなんて」
「ええ、それはロウによって特殊に書かれた物ですから」
「ロウ?」
「はい」
「ところであなた達は、いったいどこから来たの?」
 ベッドに寝ていた少女が答える。
「わたし達はここから西に位置するエスト大陸からとある命のために来ました」
「エストから来たんですか。
 たしか戦争が始まってから、交易が止まってしまったのでとく内情はわからないのですが、なぜ今? 私たちの手を助けてくれるのですか」
 気体を込めて女性が言うが、あまりその感じはしない。
「わたし達は種族間の戦争には手を貸しません。
 それが私たちエストの民が長い間築きあげてきた歴史ですから、わたし達はある目的のためにここに来ました」
「そう、それであなた達の目的とは」
「それは……」
 ルアはいいよどむが、スティアが代わりに続けた。
「四精霊教会からの命で中央大陸に伝わる聖剣グランドリオンの封印あるいは破壊です」
 女性は目を丸くした。
「グランドリオンの、破壊?」
「はい、詳しくは述べられませんが、そのためにはるばる西の大陸からここに来ました。
 このことで相談したく、中央大陸の覇者ガルディア王国の王に会いたく……」
  ガシっ
 ルアは女性に肩をつかまれた。
「?」
「急ぐのですか? 急いだほうが?」
「え、ええ、早いほうが……」
「分かりました。特別に王に謁見することを許しましょう」
「?」「?」
「すぐに用意しますから、あなた達も身なりを整えておきなさい」
 女性の突然の物腰の変化にとまどうルア。
「あ、あの、そんなに早く会うことが出来るのでしょうか?」
 現在は戦乱の中である。
 戦時に重要な、それこそ西の大陸が全面協力してくれるという話ならば、これほど早くの謁見も可能であろうが、ことがことである。
 正直ルアは、数日はかかると考えていた。
 それがこれほどまでに早く、しかも直接王に意見を通さず決定してしまうこの女性。
 いったい何者?
「あなたはいったい……」
「申し遅れました。ガルディア王国の王妃リーネです。今後ともお見知りおきを……」
 女性、リーネは恭しく、綺麗に挨拶を述べると部屋から出て行った。
 その様子を見て、ルアはものすごい国であると感じた。

「ありがとうございました」
 謁見の間にて、ルアとスティアは深々と頭を下げた。
 再び顔を上げると、かわらずガルディア王とリーネ王妃がいた。
 リーネ王妃は、さっきまで来ていた服装とは違い、青白いドレスを着ていた。気品溢れる物腰でこちらをにこやかに見てる。ガルディア王はここ少しの間戦況が変化したこともあってか少しやつれ気味である。それでも一国の王をしての重責をもつ威圧感が出ていた。
「以前、ガルディアは異国の者に救われた経緯があるゆえ、異国のものに対しては礼を持って接しておるだけ」
「そうなのですか」
 ルアは手ごたえを感じていた。
 この国は現在戦争中である。
 最悪、間者と間違われる恐れもあった。
 そのため出立時にはそれらしきものはすべて置いていった。怪しいと言ったら先ほどみせた書状であろう。
 ルアは続けた。
「わたし達は西の大陸エスタットから来たのですが、私たちの同胞が建てたマノリア修道院。
 修道院が悪用されたという話を聞いたのですが」
 ガルディア王は責めるべきところを先に言われてしまい、しばし思考した。
 その思考が終わらないうちにルアは続ける。
「わたし達はそのマノリア修道院の取り壊しを提言します」
「……真か?」
「はい、本山の方からの達しでもあります。
 本来、聖の主体となるべき修道院が悪しき物に利用され、その地に住むものに迷惑をかけたのであるならば、わたし達四精霊教の教義に反します。
 取り壊していただきたい。
 もちろん、四精霊教からも補助はします」
「そうか。
 しかし、そなたらも分かっての通り現在戦争中でな、緊急避難の地としてあの場所は使われておる。
 早急にというのは無理な話だ。
「分かりました。
 ならば戦争後ということでお願いします」
「覚えておこう」
「それにわたし達もあまり、城の迷惑をかけるのはまずいかと思うので、そこで寝泊りさせてよろしいですか?」
「それほど迷惑と言うわけではないのですけど」
 とリーネ。
「わたし達はあまり一つのところに寝泊りしていると、兵の士気にも関わるかと思うます」
「そうか? まあ、許可をしておこう。
 自由に修道院は使って良いぞ」
「ありがとうございます。
 そしてもう一つおねがいが……」
「……グランドリオンのことだな」
「はい」
「ねにゆえグランドリオンを?」
「それは数ヶ月前のことです。
 わたし達が所属する四精霊教会と言うエスタット最大の教会で定例の神議があります。
 そこで行われた占術によって、グランドリオンがいずれ悪しき力により滅びをもたらすという結果がでたのです」
「せんじゅつ?」
「いわば占いのようなものです」
「しかし、聖剣と名のついたグランドリオンが悪しき力持つというのか。信じられん」
「わたし達はその原因を探るために、そして探った後の対処として危険とみなせば封印、あるいは破壊を行うためにきました」
「原因を探るか。二人には残念ながら帰ってもらうしかあるまい」
「! どういうことですか?
 それは協力してくれないと?」
「そうではない。
 現在グランドリオンの行方が分かっておらん。
 数年前にグランドリオンの使い手はたしかにこのガルディアにおった。
 しかしそれも消息不明、もっていたグランドリオンとともにだ。
 それゆえ、情報があまりないのだ」
「大丈夫です。
 そのあたりは調査済みです。
 わたし達はグランドリオンを探し出し、占術が正しいのかどうか確かめるためにここに来たのです。
 グランドリオンはこの中央大陸では聖剣とよばれるもの。
 そうは破壊という選択肢は取りません」
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【200】:-29- (第九章 魔の村の人々6師匠)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:56 -
  
 時代は現代、ボッシュの小屋。
 ボッシュの小屋の前で、『エレメント』を倒したクロノとマール、そしてクロノが師匠と呼ぶ三人と、小屋の入り口に居た老人――ボッシュとウサギに近い黒い羽の生えた亜人の少女が小屋の中にいる。
 さすがに、小屋の中に五人は窮屈に感じられる。
 そこに一人頭を下げ続けている者がいる。
「すみません。ありがとうございました。ありがとうございましたぁ」
 擬ウサギの亜人に頭を下げられクロノとマールは、あまりの必死さにまごついていた。
 クロノは普段人に頭を下げられるということに、慣れていないしマールの場合はこれほど真摯に頭を下げられるという場面に遭遇したことは少ない。
 それより何より、二人にとって亜人というのは珍しい種族であり、千年祭でもチラッとしか見たことが無いため、少々好奇の目が入ってしまっているといこともある。
「それよりターニィ怪我は無いか?」
 師匠の一言に顔を上げるウサギの亜人の少女。
「あ、はいぃっ!」
「それは良かった」
「いえいえ、こちらこそご迷惑をおかけしまして」
 形がけでなく心からそういっているように聞こえ、クロノ、マールは好印象を持つような言葉であった。
「それよりあの『エレメント』の出自を調べておいてくれ」
 ターニィと呼ばれた擬ウサギの亜人の肩に手をかけやさしく言う。ほほが少し赤くなりながからもターニィはうなずく。
「よろしく頼むよ」
「わかりました、超特急でやってきますよぉ」
 ターニィは家の主人であるボッシュに挨拶もそこそこ、飛び出していった。
 大きな音を立てて扉を開け閉めする様子に、老人はいやな顔をするでもなく見ていた。おそらく彼女がこの部屋を出るときはいつもあのような感じなのだろう。
 その目は微笑ましいものを見るようでもあった。その目ががらりと変わり、何かを思い出すようにクロノたちを見る。
「お主たちは確か……千年祭におった」
「クロノです」「マールです」
「おお、確かあの時はそこのお嬢ちゃんがなにやら困っておったようだが無事、解決したのかね」
「ええ、だいたいは……」
 と、言葉を濁すマール。
 と言うのも、ボッシュとは千年祭でマールがこの千年祭初日に戻っていることについて何か知っているかの知れないと相談したのだが、相談されたボッシュには自分達のように『前の周』の記憶が無く途方にくれていたことがあった。あれだけ必死に説明したのがから顔を覚えられても不思議ではない、途中『前の周』と同じくペンダントについても聞かれたし、印象としてはばっちりだったかもしれない。
「何だ、クロノはボッシュさんを知り合いなのか?」
「ええ、ちょっと」
 やはり言葉を濁すクロノ。どうも、師匠を前にするとなんともいい難い気分になる。緊張が走ると言うのだろうか? マールはクロノの微妙な雰囲気を感じ取りあまりクロノを刺激しないようにと内心考えていた。
「ほう、シェアさんと知り合いなのかい?」
「まあな、このクロノには数年間生きる術を教えたことがある」
「い、生きる術……ですか」
 なんだか大きな言葉で表現された言葉に、意味が分からないマールであったがクロノにとっては相当ダメージを与えられたらしく動きがかくかくとなっている、ように見えた。
「まあ、ほんの少し剣術を指南しただけだよ、マールディア様」
 言葉の後半をボッシュには聞こえない程度の声で発し、一瞬でマールを石化させる。
 と、マールは記憶を引き出していた。
 実のところ、マールはシェアというクロノの師匠とは『前の周』で出会っているのである。
 中世の時代に南ゼナン大陸の中央に鎮座する巨大な砂漠をロボと中世にすむフィオナがよみがえられせた巨大な森。この周ではまだ砂漠であるがその中に建てられた神殿に行くとき、森で迷ったクロノたちとであったのが彼女である。
 なぜかそのとき師匠さんは弓術の訓練をしていたが、あの時危うくカエルが射抜かれそうになっていたのであった。
 その後にもガルディアでヤクラ親子の登場で苦戦を強いられた私たちの前に現われたこともあった。ガルディアの名家であるシェアの親族がヤクラによって不遇の死を受けたことにあるという出来事もあった。
 そのときに彼女にはマールの家柄はバレていはいるのだが……。
「なぜここにいるのかわかりませんが、おとなしく城へ帰ったほうがいいですよ」
 シェアはそうつぶやいた。
 その言葉から、シェアがわたし達と同じように『前の周』記憶があるという可能性が少なくなった。
 もし『前の周』のことを知っているのであれば、マールがガルディア王と喧嘩して家出していることやクロノたちと共に何の旅をしているのか知っているはずであったからである、とマールは考えた。
 シェアに対して苦笑いを返すしかない。
 それを乾いた笑いで返すシェア。
「そうそう、クロノ聞いたぞ? 何でも捕まっていたそうではないのか。よく無事だったな」
 振られたクロノはやっと硬直が解けたところであるタイミングで来た。
「ええ、執行猶予というやつですよ」
 言葉では平気を装っているが言葉尻がかすんでいる。
「ほお、それでなんだお前達はこの魔族の大陸にいるんだ?」
「それは……」
 言葉に詰まってしまう。
 というのも、ゼナン大陸とこの魔族の大陸であるコルゴー大陸とには連絡船が存在していないのだ。
「ちょっとチョラスに行ったついでにクロノに無理を行って寄ってもらったんですよ」
 すかさずマールが助けにはいる。
 それに事実、このコルゴー大陸とチョラスのあるクテラ大陸には連絡船が通ってる。
 チョラスのあるクテラ大陸はこの中央大陸群でもっとも商業の発達した大陸であり、多くの地域と貿易が行われている。というのもクテラ大陸周辺の海流の流れが他の場所よりゆるやかであることが大きな理由である。かつて、ゼナン大陸とコルゴー大陸との間にも連絡船をつなぐ計画があったのだが、両大陸の住民と海流がひどく強いため海流を上手く越えられるような船を建造することが難しく、安定した航海できずまたその必要性が無かったために、いつの間にか計画が頓挫されてしまったのだ。現在ではパレポリあたりでは、海流を越すことが出来る船も建造可能であるが、その必要性の無さから再びその計画が前に出ることがなくなっているのである。
「ふ〜ん、マールさんがね」
 ニヤニヤとしている師匠に居心地がさらに悪くなるクロノ。
「と、ところで師匠さんはなぜここに?」
「師匠さんと言うのはやめてくれよ。私は確かにクロノの師匠かもしれないが、君の師匠ではないんだ。
 気軽にシェアと呼んでくれればいいよ。
 で、ここに来た理由なんだが、出来の悪いお弟子様がなにやら捕まったらしいから。
 しかも裁判のお相手があの悪名高いガルディアの大臣と言う話ではないか、これは今回を逃したらもう二度と顔を崇められなくなるってことでやってきた訳だな」
 なんとなく、クロノを脅している雰囲気があるのは、無事であるクロノを喜んでいると同時になにやら言わんとしたいことがあるのであろう。
 今この場には他人であるわたしがいるからあまり言うことが出来ないのであろう。
 それが逆に師匠の印象を悪くしているように思える。
「というは建前で」
 ほっ、息をつくクロノ。
「実際は、さっきの『エレメント』だよ」
「『エレメント』?って」
 対先ほどまでスペッキオから出てきたあたらしい言葉がすぐに現代で聞くのは不思議に雰囲気がある、そんなことを考えながらおもわずつぶやいてしまったマール。
「そうか、確かに『エレメント』はゼナン大陸ではあまり聞かない言葉だな。
 まあ、簡単に言うとこの大自然のエネルギーが蓄積された物体といったところかな」
 そういってシェアは服の間からエレメントを取り出す。
「ゼナンでも、火を生み出したり夜の電灯などに応用されている」
「えっ、あれも全部エレメントなんですか!」
「まあ、全部とは言えないが大体はエレメントが使われているな」
 スペッキオから現代でも応用されているとは聞いていたが、まさかそんなところまで使われていることに驚くマール。
「その便利な便利なエレメントが最近、この中央大陸で暴走したりモンスター化したりして事件になっているんだ」
「? 聞いたことがないよ」
「聞いたことないのは、しょうがない事だよ」
 シェアはまるで世間話をするように口調を変えた。
「事件と言ってもチョラスといった中央の東の方の話だ。西に位置するガルディアまで届かない可能性があるし、ほんの二回ほどしか起こっていない。
 もともと『エレメント』が暴走、モンスター化するのは、東や西の大陸はよく起こっていたが中央大陸群の中では聞いたことが無い。
 その調査もかねてここにいるんだ」
「そんなんですか」
 と、一呼吸置いてマールが言葉を口にした。
「そんなこと話してもいいんですか? 話を聞くと大陸レベルでの話じゃないですか」
「まあね。でも、君たちなら何か知っているのかと思ってな」
「!」
 不注意にも二人は反応してしまう。
 『前の周』でも勘のいい人であったことを念頭に置くべくであったと感じた。
「まあ、あまり勘繰りを入れるのはよくないことだと思っているが、最近私の回りが物騒で、ほとほと困り果てていたところなんだよ」
「物騒なことですか?」
「まあ、最近損な役回りが悪くてな」
 シェアは遠く、別の空間を見ていた。
 こんなときに虚空を見られても困るのだが、この人は。
「それでこれからどうするんだ? ゼナンに戻るのか?」
「ええ、そのつもりです」
「なるほど、それでボッシュに会いに来たのか。道を尋ねるために」
「そうなんです」
「だそうだ、ボッシュ」
 それまで黙っていたこの小屋の主である老人――ボッシュに声をかけると、黒眼鏡をゆっくり動かした。
 いつみても温和な印象を受けるボッシュである。
 この人がまた現代になじんだ雰囲気とまだ何か別の雰囲気をまとう、長い人生を歩んできたものがもつ独特の雰囲気を出しているのは、彼が先にあったガッシュやハッシュと共に古代の三賢者と呼ばれ、古代より現代に飛ばされてきたことが少なくともうかがえる。
 そんなボッシュは歳を感じさせない軽い口調で話した。
「ふむ、客というわけではないのは残念だが、久々の人間じゃからのお。
 祭りでの縁もあることだし、すこし荒っぽいがゼナン大陸に向かう手っ取り早い方法を教えよう」
引用なし
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【201】-30- (第九章 魔の村の人々7北の洞窟)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:58 -
  
 ボッシュに教えられたのは北にある山のふもとの鍾乳洞。
 先を歩くシェアの剣技は鮮やかであった。
 無駄なく歩き、立ち向かってきたモンスターを有無をいわずに斬り去っていく。
 モンスターの習性なのかあるいは、シェアから何かが出ているのかモンスターは皆シェアに向かっていく。
 モンスターの近づく速さに合わせて、その歩調を微妙にずらし間合いに入った瞬間に金属の閃光と共に斬る。
 わずか一撃で瞬時に仕留めている。
 超人的技能と能力。
 この高いレベルであるクロノの速さが嘘のようである。
 その剣技に魅入りれながら安全な道をクロノ、マールが歩きその先を歩くシェア。
 歩いていながらシェアを見るとふと違和感に気づき、クロノが声をかけた。
「師匠。その剣は?」
 クロノが指したのは、シェアの腰にある黒塗りの鞘に納められたもの。
 見た目、剣そのものであるが、シェアが先ほどから使っているのはボッシュからもらった細い長剣。脇差の剣を抜こうともしない。
「これか」
 シェアは脇差の剣を黒塗りの鞘ごと片手で取った。
 正直、剣というのは金属のかたまりである。ふつうなら早々簡単に持てるものでもないのだが、シェアは軽々と持ち上げた。平均の筋力とはまた何はずれたものをもっていることがこの様子からもうかがえるが、それを口に出したら殴られるのは目に見えているのでクロノは単純な疑問の方を先に口を出した。
「武器を待たない主義の師匠がもっているんですから」
 昔から、シェアは武器というものをもたない。
 それはシェアの流儀はそこにある物を最大限に使い、ありとあらゆるものを武器とすることにある。
 足元にある石をはじめ、森の中でモンスターの退治を行ったときは、借り物の剣であったり木の枝だったりした。物に執着しないと始め思っていたが、そうでもないらしい。なんでも、固定の武器を持つことでの何かを防いでいるのだとか。
 真偽はクロノが直接聞いても教えてくれないために不明である。
 そんな師匠が大事そうに抱えている(ように見えた)剣があれば気になるものである。
「これは東の大陸でもらったものだ。この剣があるために……。
 クロノやマールさんは知っているか? 神剣の存在を……」


 同刻同時代 ボッシュの小屋
「え! ええ〜〜〜!!!」
 小屋の中に大きな声が響き渡る。
 声を出したのは少女――ルッカである。
 親切な魔族の家でクロノたちを別れ、一つしかないゲートホルダーのためロボを呼びに行き、再び現代のメディーナ帰ってきたのである。
 メディーナに着いたルッカとロボはすぐさまボッシュの小屋に向かった。のだが、クロノたちはもぬけの殻。思わず扉を開けるとき大きな声を出してしまったルッカからすれば、その恥ずかしさを含みつつボッシュに詰め寄り、話を聞いた。
「どぉゆうことよ。説明しなさいよ」
 ぐりんぐりんとボッシュの肩をゆらす。
「や、やめてくれ〜」
 言葉に出し、ほんの少しだけルッカの手が緩んだ。
「シェアという剣士とともにゼナン大陸に向かったよ」
 と、ルッカの手が止まった。
「シェア……シェアってあの有名な剣士の」
「そう、シェア・こん……」「なんでシェア師匠がここにいるのよ」
 ボッシュの言葉をさえぎるようにルッカが言葉を出した。
 あまりの勢いで思わずボッシュの言葉も止まる。
「それは知らんよ」
「……んん」
 ボッシュの顔を見るが、それは正直に知らないという顔を見せていた。
 そこでルッカは少し考えるが、思考を変える。
「ん? 別にシェア師匠の理由は知らなくていいよね。
 ボッシュ、それで彼らは北にある洞窟に行ったの?」
「ああ、このコルゴー大陸からのゼナン大陸への連絡船は出ておらん。
 北の洞窟から海の道を通って抜ける方法をとったんじゃが」
 ボッシュは一呼吸を置いた。
「確か、ヘケランが住んでおる。あやつを通り抜けてゼナンに抜けるのは一苦労じゃろう。
 まあ、シェアがおるから心配は無いだろうがおぬしらも行くのか?」
 それは、少し考えたほうがいいということなのだろうが、ルッカはそれに反してすぐに返答した。
「ええ」
 すっとルッカを見る。
「ふむ、そうか。ならこれを持っていくが良い」
 ゆっくりを何かを考えるように目を動かし、戸棚の引き出しから何かを取り出した。
 それをルッカに手を出させゆっくりを握らせる。ルッカに渡されたのは『エレメント』である。
 幾つかの『エレメント』がルッカの手のひらで見えている。
「これは」
 受け取ったルッカは、なぜこのようなものをと問うように聞いた。
 経験の浅いルッカにはそれがどれほどの『エレメント』であるか判断は出来ないが、そもそも『エレメント』自体早々見られるものではないことぐらい分かっている。
「彼らに渡そうと思っていたものだよ。彼らには世話になったからな、餞別と思ってくれていい」
「??」
「亜人の少女から渡されたものといえば分かってもらえるじゃろう」
 おそらくはここでクロノたちがやった何かであろうことに関係しているのだろう、ルッカは考えるのをやめ、にこりとしたボッシュから素直に受け取った。
「ええ、ありがとうボッシュさっきは失礼したわ」

 車両モードに変形したロボと共に北の洞窟の中を進むルッカ。
「ルッカサン、シェアサンハタシカ、ルッカサンの銃の師匠デシタネ」
 ガタガタと揺れるロボの車体上にしがみ付きながらその質問に答えた。
「ええ、私の銃の師匠であると共にクロノの剣の師匠でもあるわ。 おそらく現在にて単独においては最強といえるし、黒髪の英雄と呼ばれるぐらいの人。
 数年前にトルースの町にやってきて気まぐれに私たちに武器の使い方を教えてくれたのよ」
「ズイブンスゴイ人ナノデスネ。イゼンニ、お会いしたトキハ、ソノヨウナ感じはシマセンデシタ」
「ええ、師匠がこの話を人前でするの嫌がるからね」
「ソウナノデスカ」

   クォォォォォォォォォンンン

 奇妙な鳴き声が洞窟中に響き渡る。
「鳴き声??」
 そこへ緊急を告げるロボの声がする。
「ルッカサン、気をつけてください。冷風が近づいてきます」
 ロボが言葉に出した瞬間、目に白い波がこっちに向かってくるのがうつった。
  ”ファイア”
 瞬時に使い慣れた簡単な構成を紡ぎ、魔力を発動させる。
 赤い炎が冷風の進行を曲げる。だがわずかに冷風の方が強く暖風となって押し返される。
「くっ」
 生ぬるい程度の風であったため無事ルッカとロボはその場に留まった。

   フィユユユユユユュュュ

 さらに洞窟内で音が響きあい、奇妙な音を作り出していた。
「ダイジョウブデスカ? ルッカサン」
「何なの今の?」

   ガシャン ガシャン カシャン

 ルッカが周りを見ると、洞窟内の氷柱が少し大きくなっており、幾つかが落下する。
「魔法?」
「いえ、少し魔法とは違う波動パターンデス。おそらくエレメントなのでしょう」
「自然環境に関係しているとスペッキオが言っていたけど、影響範囲が広すぎるわ」
「クロノサンたちは大丈夫でショウカ?」
「シェア師匠がいるから心配はないと思うけど、進むわよロボ」
「ワカシマシタ」
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【202】-31- (第九章 魔の村の人々8近海の主)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 21:04 -
  
 現代のコルゴー大陸、ボッシュの小屋
「ふむ、なんという折れ方じゃ。
 一刀両断……というより、一刀粉砕という言葉があうじゃろう」
 ボッシュは赤い髪の少年、クロノを思い起こしていた。
 先ほど、いつものお得意先であるシェア・コンフォートの弟子という話だった。
 シェアも噂になるくらいの実力をもつ剣士であるが、あのクロノも相当の力を持っていおる。小屋の前でエレメントが暴走し、モンスター化したとき見せた剣技はなかなか完成されたものであった。あの歳であそこまで昇華しているとは、不思議な少年であった。
 彼の連れであるマールに関しても、千年祭で見たときも思ったのだが、いまどきの若者達をは顔つきが違った。
 それにしても、この時代にこのように折れるような戦いがあるとは考えもつかない。
 この国、この大陸……であるかは定かではないが、あの若者の剣をこれほどまでに破壊する力を持つ人物がいるとは。
 銘は”あおぞら”と言ったか? 以前はシェアが持っていた刀であったと思うが、それを譲ったということなのだろう。
 どれだけシェアがクロノという若者に期待しているか分かるというものだ。
 かつて、神をも殺す剣の製作に携わり、全ての力を変換させ、己の力とする剣をつくり、己の国の暴走を止めようかしていたがそれも敵わなかった。
 その後、戦いの刀匠としての役割を終えたと思っていたのだが。
 ボッシュは折れた刀”あおぞら”を作業台に置いた。
 守りの刀匠も悪くはないとこの時代に来て実感した。
 ボッシュは願う、再び戦いが起こらないことを、と。
 しかしボッシュは知らない。
 彼らが再びラヴォスと戦うことを……


 現代のコルゴー大陸、北の洞窟。
 ゼナン大陸にもどるために北の洞窟の最奥にある海の道を通るべく、クロノ、マール、シェアは颯爽と最奥にたどり着いた。
 この近海の主、ヘケランがいる開けた場所にたどり着いた。
 ヘケラン。二本の角をもち、青い巨体である海獣である。その大きさは成体で2メートル近くに達する。水系の魔法、エレメントを使用することから魔族である可能性が高いが人間の間での明確な線引きは無いためよく分かっていない。生息域は中央大陸群のクテラ大陸周辺の海域で、稀に貿易船を襲うことがあるといわれているが、実際は生活領域に人間が立ち入っているということが最近の調査から分かっている。水辺などで多く見られるが、中には海流に乗って他の中央大陸群の海岸で見られる場合もある。このことからヘケランは海中を主に生息していると言われているが、そのあたりの確認はされていない。人語も話すことから魔物と区別されている。
 そんなヘケラン。
「あれが主か? 今までに多くのヘケラン種を見たことがあるがオレほど大きな個体を見たことが無いな」
 三人の目の前に現われたヘケランは、三メートルはゆうに越えていた。
「そうなんですか? いままでヘケランをそんなに近くで見たことがないから分かりませんけど」
「そんなに大きいものなのですか」
 マールとクロノは、この個体以外は見たことが無く。ヘケランというのはこの大きさだというイメージがある。
「魔の村が近くにあるからなのか、それともあの個体が特別に大きいのかもしれないな」
 そんなことを三人が話していると、ヘケランがゆっくりと動き振り返ってきた。
「お前らがココに入ってキタニンゲンカ。
 ニンゲンとは、久しいナ。
 久しいゾ、一年近く見ていなかったカラナ」
 ヘケランは口を大きく開け、大きな牙を見せながらしゃべりかけてきた。
「その先を開けてもらいたいのだが」
 シェアが一歩前に出る。
「ふむ、それに断ったら?」
「無理にでも開けてもらうだけだ」
「ニンゲンよ。ワレハ魔のモノ。ニンゲンのルールはシラン」
 クロノが刀を構えた。
「……ワレに刃を向けるノカ、ニンゲンヨ。
 ワレは人は喰ワヌ、ユエヒトヲ捕ラエルコトハナイ。
 ガ、コノ先に進ミタイノナラ、刃をムケルノモ、シカタガない」
 その巨体から動き始める。


  ”サンダー”

 雷撃がヘケランを襲う。
 しかしヘケランは悠々と避け、湿った地面に当たる。
   がごがごがごがががが
 ヘケランの突進が空気の波を作り出しながら襲い来る。
 クロノは空気の波の幾分かを受け、壁に叩きつけられた。
「クロノっっっ」
 すぐに標的を変え、その巨体からを無視した動きをする。
 マールに狙いをつけたヘケランに、2つの間にシェアが出る。
 ヘケランは手を掲げた。

  ”うぉ〜たぁ〜・しょっと”

 水塊がヘケランの手元を離れる。
 シェアはそれに動じることなく剣を振り下げた。

  ”かまいたち”

 シェアの剣でつくられた真空の刃が水を断つ。

   バシャン

 水の塊がマールを過ぎたあたりで形を保てなくなり、破砕する。
 シェアはその瞬間、黒鞘に包まれた剣を握り、抜き出す。
 刀身が瞬時に光ったかと思うと、再び鞘にしまう。
「?? 何をシタ」
「何もないさ、ただ封じただけだ」
「??」
 ヘケランを攻撃を再開した。

  ”うぉ〜たぁ〜・しょっと”

 再び氷の塊がシェアを襲う。
 同じようにシェアは剣を振り下ろそうとするが、剣の刃のない平らなところを水の塊に押し付け、水の塊をつくっている境界を崩す。

   バシャァァアアン

 もろに水を浴びるが、勢いの無くなった水からダメージを受けることはない。
 同時に、自分の重心を変えつつ、場所を移動する。
 その場を予想したように同じ水の塊が放たれていた。さらにその後にはいくつもの塊があった。この連続攻撃のためマールを巻き込まないようにシェアは場所を移したのだ。
 自分に対するダメージを最小にしつつ、避け、斬り、突く。
 水の塊は総崩れる。
「……ニンゲンカ、オマエ」
 さすがに全て防がれるとは思ってなかったヘケランは思わず漏らした。
「世界が狭いぞヘケラン。そして私に水を浴びさせたことを後悔させてやる」
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【203】-31- (第九章 魔の村の人々9近海の主その...
 Double Flags  - 10/9/20(月) 21:05 -
  
「世界が狭いぞヘケラン。そして私に水を浴びさせたことを後悔させてやる」
 水に濡れたシェアは妙に色っぽかった。それはさておき、シェアの動きは守られているマールから見ても尋常では無かった。
(これがクロノの師匠……何回見てもすごい)
 ヘケランは動き出す。
 ヘケランは腕を大きく振りかぶった。手の先のツメが光る。
 瞬間的にヘケランの殺気が膨れる。
 シェアは剣でツメをさばいて、近接距離から離れようとする。

  ●うぉ〜た〜・ぼぉ〜る(青)

 眼前に体を覆うほどの水の出現。
(エレメントか!!)
 水がシェアを包む。
 とっさにヘケランは何かを手で落とした。
 みるとそれは矢。
 水に包まれるシェアはその様子を見た。
(弓矢? マールか)
 マールは離れたところから、弓を構えている。
 弓を中心に、魔法の構成が描かれる。

  ”アイスショット”

 無数の氷の矢がヘケランに向けられる。
 すでに避けるのは無理と判断したヘケランはエレメントを握る。

  ●う〜はぁ〜(緑)

 よほど強いグリッドレベルだったのか、氷の矢が風により吹き飛ばされる。
 同時にヘケランのエレメントから解放されたシェアは銃を構える。

   ダッダン

 2発の銃弾が近距離でヘケランの手を貫通する。

   クァッァァァッァァァァァァァァアアアアアア

 ヘケランは叫び、グリッドを開く。

  ●うぉ〜た〜・ぼぉ〜る(青)

 グリッドレベルの高いエレメントを使い、銃を構えたままのシェアを一瞬で包む。
 血の流れる腕を押さえると、別の気配を感じその場を離れる。
  ”王の頂(クラウン)”
 真空の刃を無数に放つクロノの一撃が飛ぶ。
 なぜかヘケランを透過する。
 ヘケランにダメージを与えられなかった代わりに、シェアを包んでいたエレメントを切り裂く。
 水の檻から解放されて、濡れた服を軽く払いシェアは銃を収め、細長い剣を抜く。

   カンッ

 音の鳴るほうを見ると、マールの弓矢をツメで払っていた。
 敵を見失わず、マールはヘケランを攻撃していた。
「残像ではないか、屈折か幻か」
 さっきのクロノの攻撃が素通りしたヘケラン。
 これは特殊能力と考えてよいだろう、すでにこのように不思議な力が追加されている敵と戦っているのでそれほど動揺もないが、これを打ち破る手を考えなければならない。
 ヘケランは肉ダンゴが転がっている様に突進する。

   ダダダダダダ

 地響きが周囲のものの足場を乱す。
 マールの矢を弾き勢いを増すヘケラン。
 シェア、クロノの脇を通り生み出した空圧で、二人の身動きをとめる。
 その時、クロノの目にヘケランの魔法の構成が見え、あの突進が魔法を隠すものだと気づくが空圧のため動けない。それはシェアも同じ。すぐに対応するために構える。
 ヘケランの魔力が動く。

  ”弾丸・うぉ〜たぁ〜が”

 水の魔法がクロノ、シェアに向けて高速で放たれる。
 クロノは刀でその一部を切り裂き、天の魔力で水の界面から強力な電気分解を起こしてその場をしのぎ、シェアはさっきと同じように空圧で魔法を切り裂いていた。
 連続で放たれる魔法の効果が切れると、クロノはすぐに動き出しヘケランを狙うがその斬撃は素通りしてしまう。

   キキキ

 少しはなれたところで金属のきしむ音。
 シェアがもう一体のヘケランの相手をしていた。
 どうも幻が、感覚を鈍らせる。
 ほんの少し前まで動いていたものが、瞬時に動かない映像と化す。
 全力で振るっているため、その反動だけが腕の中に残るというものは厳しい。
 一方で、シェアはヘケランを押していく。
 そして、

   ザッバッ

 ヘケランの指を二本斬り飛ばした。
 ヘケランの声は無い。
 そこに畳み掛けるように剣を突き出すが、シェアの反応速度をほんの一瞬越えて、叩きつける。
 地面に叩きつけられて、さらに滑る。
 大きく離れたのを確認すると、ヘケランは周囲に魔法陣を描く。慣れ様でもあり一気に何重にも魔法陣を描くと、その配置からさらに巨大な魔法陣を構成させた。

  ●ふりぃ〜ず・ふぃ〜とぉ〜(固有・青)

 白い波が襲う。
 一面を強烈な冷気によって極寒の空間による氷の粒が舞う。
 シェアは思わず、グリッドを手にエレメントで防ぎ、クロノはマールを守りつつ、雷撃で威力を減じた。

 マールはクロノに抱きかかえられるように冷気から守られた。二人は密着していたが、マールはクロノの体温の低下を強く感じた。
「クロノ」
 細く言葉を出すが、クロノは軽く笑うだけであった。
 見ると顔は真っ青、血流が悪くなっている。
 シェアさんを見ると体に霜が張り付かない様にゆっくり動く。
 クロノたちが動きを止めているのを見逃すはずはなく、ヘケランは突進を開始した。
 シェアはグリッドを握り、エレメントを使用する。

  ●ハイマッスル(赤)

 シェアの体が赤く光る。
 シェアはヘケランの動きに素早く反応して、避け、交わるところで斬りつけるが、幻。
 実体なき偶像を斬りつけたところで、ヘケランが反対方向からツメを使いはたきつける。
「くっ!!」
 辛うじてかわすが、いま地面は軽く霜がひかれ、滑りやすい。
 シェアは威力は無いが、その地面の中を技能でカバーし再びヘケランに斬りつけるが、それも幻。
 さっきのエレメントで一気に幻の数が増えたように見える。
 それを受け、クロノ、シェア、マールは防戦に近い形をとる。
 クロノは魔法の構成、発動させる。

  ”サンダガ”

 雷の中、ヘケランの一体が青のエレメントを発動。
 落雷寸前に水の壁が出来上がる。
 水は電気を表面上で流し、内部まで透過させない。
 わずかに表面に付着した埃の部分でしか、電気が流れることはなく、ヘケランは無傷。
 クロノは次の攻撃の準備をしようとした瞬間、ヘケランの突進をまともに受ける。

  ”ファイガ”

 洞窟の中心で淡い炎が、その熱気を全体に広げる。
 内壁についていた霜は一瞬で蒸発。
 ヘケランの幻も消滅。
 驚くヘケランにある塊が体当たりを掛ける。

   ガシャアアアアアン

 まともにぶつかったヘケラン。
 その間にシェアが剣を突きつけた。
 それまでヘケランはシェアの動きを見ている。
 筋肉をわずかに動かしただけで、シェアが一瞬でヘケランに止めをさせる最近距離。
 ヘケランは負けを認めざる得なかった。
 最後に現われたイレギュラーな存在。
 ルッカとロボの出現で、この勝負は決した。
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【204】-32- (第九章 魔の村の人々10ルッカの家)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 21:07 -
  
 現代のコルゴー大陸、北の洞窟
 ゼナン大陸へもどる近道として海の道を通るためヘケランのいる北の洞窟に入ったクロノ、マール、シェア、そして途中から来たルッカ、ロボは、海の道を通るための道の前に塞がったヘケランと対峙しているところであった。
 途中から来たルッカ、ロボによりヘケランを追い詰めることになった。
 刃を向けているのはボッシュから(貸して)もらった細長い剣を突きつけた。
 しかし、その手は止まっている。
「止めを刺さないノカ」
 あと数ミリ動いただけでヘケランに刺さるような態勢であった。
「止めを刺して欲しいのか」
 冷徹にヘケランを見下げた。
「……」
 一同も思わず押し黙る。
「私たちはこの渦を通ればいいだけだからな」
 ヘケランに向けられていた圧迫感が同時に消えた。
 ヘケランは起き上がり、シェアを見下げた。
「カワッタニンゲンだ。
 400年前、魔王サマガラヴォス神を封印シタカイガアッタモノダ。
 ニンゲンもズイブン変わったモノダナ」
 その言葉にルッカが食いついた。
「『ラヴォス』を封印した? 召喚したんじゃなくて?」
「『召喚』ダト。バカをいうな。
 魔王さまハ命ヲかけてラヴォス神ヲ封印シタノダ。
 もうサッサと行けニンゲンドモ」
 ヘケランはそれだけ話すと、目を瞑りいびきを始めた。
「これ以上聞いても無駄のようね」
 四人と一体は逃げるように渦の中に入っていた。


 現代ゼナン大陸、ルッカの家
 シェアは湿った紙をタオルでぎゅっと絞り上げた。雑多なところが男っぽいのだが、協調性のあるバストとヒップは女性らしさをよく現している。黒シャツに黒ズボンと、髪の黒さもあいまって全身黒ずくめであるが、それが逆にきちっとしたシックな大人の女性であること見せている。
 失礼ではあるがまあ、正直こんなときでしかシェアを女性として認識しないであろう。
 海の道を通ったことで、塩まみれになった体をシャワーで流したのだ。
 さきに風呂に入っていたルッカは白いシャツとハーフパンツといったラフな格好をしながら、半田を片手に作業をしていた。その傍ではマールがなにやら難しそうな本の合間にあった簡単そうな本を見ていた。
「それでどうするんだ」
「当分はクロノ、マール、ロボは一緒にいてもらうわ」
「ルッカはどうするの?」
「私はまずこの『ゲートホルダー』の2号機を完成させてから、ガルディア城の森とでゲートを開いてから合流するつもりよ」
「よく分からんが、ルッカたちも色々大変なんだな」
 シェアはすっと近くにあるソファーに座った。
「シェアさんはどうするんですか?」
「私はここにもどってくるのが久しぶりだからな。まずは情報収集だよ」
「ということは、しばらくは北ゼナンにいるってことですか」
 粉末状の素をコップに2、3杯入れスプーンでかき混ぜた。

   カラン からん

 と音を立てながら、かき混ぜる。
「いや、南ゼナンの知り合いに会うのが先になる」
「パレポリに行くって事ですか」
「ん〜〜、まあね。半分以上は仕事のためだが……」
 その目は黒鞘に収められている剣に向けられている。
 手はカップを持ち、三分の一ほど飲み干す。
(甘いな)
 カチッと置き皿の上にカップを収め、ルッカを見る。
 手つきがらしく見え、ここに来ることが本当に久しぶりであることを感じていた。

(苦い)
 本を片手にマールがコーヒーに口をつけ、ゆっくりをカップを置いたところで玄関が開く。

   がちゃん

 扉から赤いツンツン頭の少年――クロノが入ってきた。
 マールはその姿を確認すると、本にしおりを挟み立ち上がった。
「ただいま、って言うのも変かな」
「ふふふ、確かにここはルッカの家だもんね」
 クロノは一人自分の家に戻っていた。
 裁判にて死刑宣告をされ、刑務所にいる中で一度も訪問を許されることが無かった母のジナを安心、無事であることを示すために帰ったのだ。ルッカが空中刑務所に侵入する前に、ジナに一言声をかけていたので『前の周』よりも大きな動揺が見られなかったが、喜んでいた。
 こうしてクロノも合流し、再び今後の予定をゆっくりと話し合った。

「すっかり洗い流してもらったんだな」
 調整作業も終了したロボが再び起動する。
 手足の駆動部分を重点的に動かし、動作の確認を行う。
「ハイ」
「ちょうどよい機会だから、軽量化とかオプションとか付けたからね。はじめは、動作の修正とかで時間がかかるかもしれないけど、ロボのためにもなるとおもうわ」
「全部機械で出来ているのか?」
「ええ、すべて私の手ではないけど」
 シェアはじっくりとロボの様子を拝見した。
「いやな、まだ他の大陸では完成なされていない全て機械でつくられたものを見るのは初めてだからな。さすがルッカといったところかな」
 照れくさく黙るルッカ。
「じゃあ、私は先に出るよ」
 シェアは黒鞘の剣を大事に持ち、ルッカの家を出て行った。
「さて、私たちも行くわよ」
 各々が手持ちの装備を確かめたところでクロノが言った。
「ルッカはここに残るんだろ」
「いいのよ。私も間に合ったら駆けつけるつもりだから」
「そうか、じゃあ行くからな」
「頑張って!」
 クロノたちは千年祭の行われている広場に向かった。
「こうやって歩いて『ゲート』に向かって歩くの考えたら、シルバードの存在の大きさを感じるね」
「タシカニ、移動して体力、エネルギーが消耗することを考えるト、移動キョリをタンシュクできるシルバードは大きいデスネ」
「でも、『前の週』多く歩いたから後々に体力面での心配が少なくッただろ」
「確かにね。はじめはあたしがいたからずっと休んでいたようなものだもんね」
「それはしょうがないだろ?」
「ソウデス。運動量がタリナイのは、アトデ付けていけばイイだけの話デス」
 ガシャン、ガシャンと強弱をつけて動くロボにマールが笑う。
「さて……」
 クロノたちはリーネの鐘をくぐり、ポットの前に立った。
 中央には小さい『ゲート』が見られる。
 そして、右側のポットが強く光っていた。
「コレハ……フタツの異常な重力場を観測していマス」
 右側のポッド、すなわちラヴォスに直接繋がっている『ゲート』が強くなっていたのだ。
「また、新たな分岐か」
「? ドウイウコトナノデスカ」
 マールは『ゲート』の影響が少ないところで、ロボに話した。
「前にここで少年、あの不思議な少年に出会ってね。
 新しい未来が出来るとき、新しい未来への分岐のときに、ラヴォスゲートが光るっていう話なの」
「つまり、この時間帯が未来の分岐点と言うこと。
 ここから先に進めば、その未来を選択すると言うことらしい。
 正直、ルッカから説明を受けたけどサッパリ分からなかった」
 マールも肯く。
「さて、どうする? このままラヴォスを倒しに行く?」
「はい」↓
<<<まだなし>>>

「いいえ」
「そうか、後悔しないな」
「するから、やっぱり行く」↓
<<<まだなし>>>

「ええ」
「じゃあ先に進むか」
 クロノたちはゲートホルダーで『ゲート』を安定化しそのなかへ入っていった。


 ルッカは一人、作業台にてゲートホルダーの2号機を製作していた。
 材料は……何とかなった。
 後は組み立てるだけ、といってもこの作業が一番神経を使うのだ。
 ふう、と一息。
 ルッカが立ち上がったところに、一冊の紙束が落ちた。
 なんとなく拾ったルッカは、その紙束に見覚えが無いことに気づく。
 タバンのだろうか、しかしそのなかで気になることがある。
 それは表紙が白紙だということ。
 ルッカは見やすいようにと最低限表紙をしっかりと書いて置く。
 しかし、これにはそれが無い。
 興味の中、紙束を一枚めくると驚愕の事が書かれていた。
 思わず、最後のページを開く。
 ルッカの予想通りだと、ここにあることが書かれているはずである。
「!!」
 その事実はやがて、ルッカを含めてたクロノたちに大きな運命の流転を引き起こす。
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【205】ご覧の皆様へ文字色について
 REDCOW  - 10/9/23(木) 14:18 -
  
 掲示板の更新で、表示色が伏せ字状態になってしまいました。
 カーソルで本分を選択すれば読めますが、読みにくい場合はコピーして他のエディタ等にセーブしてご覧下さい。
 
 現状だと管理側で編集…できるのか?………な状態なので、サイドAの方で別途ログを整備する事にします。とはいえ、すぐには無理なので、ご覧の皆様やDoubleFlagさんには申し訳有りませんが、上記の様な感じで対応頂けましたら幸いです。
引用なし
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