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部屋中が書類、木片などでぼろぼろになっていた。
狭い空間で二人、カタナを構える二人。ともに息を切らし、それでも相手の隙を突こうと目を走らせる。
「……」
二本のカタナを扱うクロノと中段の構えで向かえているジーノ。
(似ているな)
ジーノはクロノの太刀筋を見て、自分に近いものを感じた。それは自分の師である祖父や父、妹のだれかがクロノという少年が関わり合いを持っているということ。たしかこの少年はトルースに住んでいると考えると、関わりや繋がりがないとは全くいえない。
多くの相手をこのカタナで戦ってきたが、こうも自分の剣術とにていると、自分が弟子を取ってその稽古をつけているようだと感じられる。祖父をはじめ、父や妹などはこのようなものを感じていたのだろうか。早くしてガルディア軍の中に入りその役を負っていた自分ではあまり考えられないものである。マールにしても兄弟子としておきながら、祖父から習ったものはまったく別のもの、手合わせなどはなかった。
あとは確たる証拠があれば…、もしそうであるならば、このクロノという少年、自分の家系に伝わる剣術をここまで使いこなせるという才能、いや努力のなせる技、それに感心する。
そしてここまで自分なりに昇華させていることを。
(不思議な少年だ。確かめたいが、今は逃がさないことを優先にしなければ)
ガルディアの騎士長として任命されてから、私事を切り離して考えてきた。自分の欲のために進んではいけないと。
フッと気を入れる。
クロノ少年もそれに気づき身構える。
ジーノは自分から仕掛けていった。
中段からの横薙ぎ。
クロノはそれを受けるが、ジーノは突然右手をカタナの添える手からはずした。力の割合でクロノのカタナが、ジーノのカタナを押す。
ジーノはそのあいた手で肩に手を当てる。
ガクッ
骨がすれる音。
突然のバランスを崩したところに、その力を利用されてクロノの顔面は、地面に吸い寄せられる。だが、地面に打つ前にクロノは体を捻り、転がった。
直接ぶつかるよりもダメージを減らし、散らばる書類に巻かれながら立ち上がる。
手にはしっかりとカタナが握られていた。
「古武術?」
クロノにほとんど回避不可能な技をかけたのに対してのこの対応、それは東の大陸で使われる武術の一つに近かったためにそんな言葉が出る。そしてこの中央大陸群、特にこのゼナン大陸で普通見られるものではない。いよいよもって、このクロノ少年の正体が見え始める。
優先としておきながら、見極めてみたくなった。
(ここで揺すりをかけてみるか)
「お前の師は誰だ」
「!」
とたんにクロノが固まる。
ただそれも瞬間的なもので、すぐに隙のみせぬ構えを取る。
(かかったか)
いきなりストレートに聞く、こういったやり取りは苦手と見える。まあ、それも演技だということも考えられるが。
「黙っていても分かるぞ。
お前の師は私よりも強いからな」
バンダナにわずかな汗がにじみ出ている。
あせりなのか、それとも演技なのか。前者と判断したいものだ、あまり父親らの弟子とは戦いたくないというのが正直なところ半分、どんなものなのかもっと確かめたいと思うのが半分である。
ジーノは力を緩め、半歩進む。
たまらずクロノは動く。
”破”
吐く息で力を強める。
”裂”
その剣を迎え撃つ。
……
金属音はなく、互いにすれ違う形となり、互いに服の先を奪っただけだった。
これで確信が持てた。
ジーノの使う剣術は元々人間外の、競技としてでなく戦闘を主眼と置いたものであった。そのため致命傷にならないのは『打たない』ことになっている。知能の低い魔物、人間を襲う魔物は、単純である。彼らは人間に対して力で見ると絶対的有利とおもっている。そのため、自分の有利を、人間から傷を受けることはないと思っているために、その自分で作り出した壁を崩されると逃げるか、余計に暴れだすことが多い。それを考えると、知能を持った魔物、魔族は、相手のするのが幾分か楽であるが、多くは知能の低くて人を襲う魔物、魔族を相手にするため、敵に対して致命傷にならない技は『打たない』ようになる、いわば独特の癖である。
まあ、外へ教えるときは競技用に消化した剣術を教えているのだが、この少年は本来のものを学んでいるし、経験も多い。
「面白い」
思わずつぶやく。
そして付け加えるように言葉を出す。
「一刀、即断」
クロノは自分の顔が険しくなったのが感じられる。
『一刀、即断』というのは師匠がよく漏らしていた言葉だ。
ジーノはさらにつづける。
「マールディア様が気にかけるのも納得がいく……だから危険だ」
コンフォートは構えを取る。
その構えを見てクロノは体が強張る。
師匠がかつて漏らしていた、ガルディア軍騎士長ジーノの本気の構え、習えにそって『一刀、即断』を行うのだろう。
いまのクロノにそれを抑えることは、できるのか。
二本のカタナを握りなおす。
ジーノが動く。
タンッ
咄嗟にそれに相対する攻撃の型を取る。
キンッ
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