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革命家と名乗るリュト・サペルと別れたクロノ、ルッカ、マールはトランドームへ向かった。トランドームでは、『前の周』と同じく食糧不足で悩んでいた。
未来はわずかに違っていても抱える問題は変わっていないこと。それはやがて来る未来において食糧という問題は重要な位置を示すことを認識させられた。
一行は32号廃墟を抜けてアリスドームへ向かった。
「お前達は一体何者だ、どこから来た」
アリスドームの入り口で若者、といってもクロノたちよりも年齢は上でぐらいの男に聞かれた。クロノは「旅の者だ、トランドームから来た」と答えると、男は続いて言った。
「革命家とかいうものじゃないんだな」
「革命家?」
三人の頭の中にはバンゴドームで別れたリュト・サペルが思い浮かんだ。
クロノがその名を言おうとするとルッカが引っ張り黙らせた。
トランドームでもクロノたちは似たようなことを聞かれていた。そこではドームの人たちに聞くとリュト・サペルに対する良い印象を持っていなかったのだ。
「誰ですか、それは?」
マールが初めて聞いたかのように、聞き返すと若者がクロノとルッカの二人を奇妙に見ながらも答えた。
「名前は知らん、俺達にロボットを倒すのを手伝ってくれっていってきた奴だ。
俺達はロボットには手を出さないって決めたんだ。あんなのに勝てるはずがない
特にこのドームはロボットが沢山いる。
そんなとこでロボットを倒そうなんて思う奴はいないよ」
そうはき捨てた。
その言葉の端々から、余計な真似はするな、よそ者は関わるな、そんな気配が伝わってくる。
その空気に飲まれないように言葉を出す。
「私達は食料を探しにトランドームから来たの」
若者は三人を軽く見定める。
「食料を探しにか、ご苦労なこった」
そういって若者は後ろに下がっていった。
その背は、お前らに期待はしていない。
そんなことがありありと感じられた。
「ちょ、ちょっと」
ルッカが若者に手をかける。
パサ
若者は軽くその手を払いのけると言い放った。
「どこのドームも一緒さ、ここでも食糧不足は変わらんさ」
ルッカの目にはその男が少し諦めているように見え、若者は少し周囲を見て様子をうかがっているようだった。
ドームの中から一つの塊が動いた。
のそりのそり動くものは近くに来ると人間であることがかろうじて分かるものだ。
姿は老人、ドンであった。
かつて、『前の周』でこのアリスドームの人をある程度まとめていたこのドームの長老格の人物であり、マールの子孫でもある男だ。
「しゃべってもいいだろ」
しゃがれた声で若者にそう話した。
「いいのか?」
「ああ、ここに来た。
トランドームやバンゴドームから来たという。
それはこの者たちは32号廃墟を抜けてきたということではないか。
あそこのミュータントを倒すことができたのなら何とかなるかも知れん」
「しかし…」
しぶる若者。
「わしらも限界なんだ」
老人ドンは強く三人を見た。
「食料庫はそこの階段を下りたところにある。
そこにはガードロボがいてな我々ではどうにもならんのじゃ」
「大丈夫よ、わたしたち強いから」
胸を張ってマールは言った。
ドンはにこりとわらいもとの場所に帰っていった。
よろしく頼む、ということなのだろう。
クロノたちが階段を下りる所で若者に止められた。
「少し前に同じことを言ってドームの食料庫にいった奴がいるが帰ってこない。
あいつは自分だけ生き延びようなんて考える奴じゃない、それが帰ってこないということはロボットにやられたんだろ。
気をつけろ、死ぬなよ」
それだけ言ってまたドームの入り口の方へ歩いていった。
「よう! また会ったな」
階段を下りると再びあの軽い声が聞こえてきた。
「「「!!!」」」
見たことのある男が、操作パネルの前に立っていた。
「どうした? そんな驚いた顔をして」
「リュト・サペルっっ!! どうしてあなたがここに」
灰色のローブをした、正直顔があまり見えない男がそこにいた。
「ん〜そうだな。その前にリュト・サペルって言うのは呼びにくいだろ?
なんかかっこよく、アーベルシュタイツァーなんて…」
「よけい呼びにくくなっているよリュトさん」
「そう! そんな感じでいい」
革命家リュト・サペルはそれを聞くとすぐに操作パネルの方に向き直った。
「だから、何であなたがいるのよ」
「ん〜、やっぱり何か障害があるな」
「聞きなさいって」
ルッカが再び声をかけようと近づくと、いきなり振り返った。
ルッカは瞬間的に後ろに下がる。
リュト・サペルのローブから見える目はまっすぐな黒瞳をしていた。
(!!!)
するとリュト・サペルは、通路のない右側の扉を見た。
はっ!
力をこめて吐いた息をあげるとリュト・サペルは跳ね上がり、右側の扉の前に飛び移った。
「マジか」
クロノも思わず呟く。
「じゃあ、用事があるんで」
リュト・サペルはすぐに扉の先に進んでいった。
呆然としている中、ルッカがいち早く回復した。
「私、追うわ」
「は? 何言ってるんだ」
クロノに返事をせず、すぐに段差のある通路のない道に
「とああぁ」
タンッ タンッ タンッ
装置パネルを利用して上手く駆け上がる。
「三段跳び?」
「ちょっとルッカ、どうするのよ」
登りきったところでやはり少し段差があり、あまりこちらの方へ寄らず壁側にしがみついているような形のルッカへ聞いた。
「マールとクロノは先に食料庫に行って…」
「なに言ってるの!」
「私じゃ、登るので精一杯だからとっとと操作パネルを使えるようにして…」
「じゃあ、何で登るのよ!!」
「ちょっと気になることが……よろしく……、マール、新兵器を使うときなんだから」
ルッカは左の扉の中に消えていった。
マールはクロノに向き直った。
「どうしようクロノ」
「ルッカなら大丈夫さ、いまはガードロボを倒して進むことだけを考えよう。それにあっち側はそれほどの敵もいなかったし」
クロノはマールの手を引き左側の扉に入っていった。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
声をかける相手は聞こえているのないのかどんどん先に進んでいく。
襲いかかる昆虫型のミュータント(それとも昆虫?)を素手で倒している。
両手を合わせて握り、それを襲いかかるバグに当てるだけでバグは蒸発したように倒される。
(素手で甲虫を! 一体どうなっているの)
すぐに灰となる虫を呼吸を整えてみると焼き焦げたような痕が見える。
しかしバグはすぐに灰となってしまうためにあまり観察できない。
どうやって甲虫を倒しているのか考えているうちにリュト・サペルは先のドアに入ってしまう。
ルッカがドアを抜けるとリュト・サペルが立っていた。
「ここまで来たのか」
言葉の中に呆れが入っている中で、さらにはしょうがないという感じが出ていた。
「あんたが人の話を聞かずに……どんどん進むからでしょ」
途中、今おかれている状況に気づき声量を小さくする。
「これから先は危険なロボットがいるんだが……」
「大丈夫よ!!」
ルッカは再び声を大きくしてしまい一体のロボットが近づいてくる。
「気づかれたか、少しはなれていろ」
リュト・サペルは再び両手を合わせて、ちょうど、クロノが一本のカタナを持つような持ち方でロボットを斬り込む形で突進する。
「よけて」
そんなリュト・サペルに後ろから声がした。
左によけた瞬間、銃声が
ドォキョッン
弾丸は一気にロボットを貫き、心臓部をえぐるだけではなく二分の一ほど装甲を持っていった。
「なんと」
驚きの声を上げた。
「このルッカ様が作った特別製のミラクルショットの敵ではないわ」
「自分でつくったのか?」
「そうよ」
「……見たこともない材質だな、あれほどの威力が出るのは内部に何かあるのか」
リュト・サペルがミラクルショットに触れようとするが、ルッカはすぐに手を引っ込めた。
「それは企業秘密よ。
それよりあなたこそ素手でミュータントを倒すなんてどんな鍛え方してるのよ」
「素手で倒した? 何を言ってるんだ、そんなこと出来るわけないじゃないか」
「でもさっきこうやって」
先ほど見たリュト・サペルの動作をなぞるように繰り返す。
両手を合わせて握る。
「あ、あ〜あ、それかそれは見ていれば分かる」
リュト・サペルはそういうと次のフロアに入っていってしまった。
キュィィィィィィイン
けたたましい音と共にロボット達が向かってくる。
先に進んだリュト・サペルを小走りで向かっていき、ロボット達に対しての臨戦態勢を取る。すぐに手元のミラクルショットを構えるルッカをリュト・サペルは手で制した。
見てろ、ということなのだろう、狙いをつけるのは止めたがミラクルショットからは手を離さずリュト・サペルを見た。
リュト・サペルは同じように手を合わせて握り、近づくロボットに向かった。
その速さはクロノに劣るがそれでも早く、階段で見た高い身体能力がうかがえる。
巧みにロボットのタックルなどをかわし。
数体のロボット達はそれにほんろうされる。
そのうちの一体がリュト・サペルから少しはなれて止まった。
ロボットの目?のようなものが光る。圧縮レーザーである。
リュト・サペルはその一体に瞬時に近づき、そのロボットに対してレーザーが発射さえる前に手を振り下ろした。
グァァン
何か赤白い光が見えた。
ロボットは振り下ろされた握ッた両手により焼き焦げ、停止した。
(なに!! いまの)
ルッカはスコープを掛けさらに詳しく見る。
その後のリュト・サペルの動作は早かった。
仲間が倒れたことを認識したのか、他のロボットも動きが止まる。
これではリュト・サペルにやってくれといっているようなものである。
リュト・サペルのはなつ赤く白の混じった光によってほとんど瞬時に機能停止にロボット達は追い込まれる。
まるで踊りのステップを踏むかのように動いたと思うと、あっという間にこの状況。
「すごい」
その鮮やかさに思わずこぼれた。
かなり弱いロボットだが、これほど鮮やかに破壊するとは、リュトには十分な余裕が残っているというこのなのだろう。
「これが俺の武器だ」
差し出したのは黒い手のひらに収まる球体。
「強力なエネルギーを凝縮させた兵器」
「まあ、兵器っていうと結構、恐ろしいものだが、凝縮と電磁場の方向性を調整することができる、エネルギーブレイド。
昔の武器の名にちなんで、ファイアシャベリンと俺は呼んでいる。
東の技工士が作ったのもだ」
技工士という言葉をルッカは聞いたことがないが、おそらく現代でいうボッシュのような鍛冶屋のことだろうと想像した。
「なんで一瞬しかブレイドを出さないの? 節約?」
「節約のためってこともあるが、これは凝縮させて高熱をもったレーザーを放出するだけの武器だ。
ロボットの中には光学システムの他に、熱源センサーを持っているロボットもいる。
それらをごまかすために一瞬しか出さないのさ。
ほらさっき、一体をこれで倒したら他のロボットの行動パターンが変化したように見えただろ? それは全部この熱源に反応したからさ」
確かにルッカのスコープにも強力な熱源が見られたからその正体が分かったのだ。
「わかったかい?」
それでもあまりルッカは納得していなかった。
「まあ、十分この場所のロボとに対応できるから、もうついてくるな、とは言わないさ。
先に行くぞ」
リュト・サペルは再び歩みをはやめた。
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