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現代のコルゴー大陸、ボッシュの小屋
「ふむ、なんという折れ方じゃ。
一刀両断……というより、一刀粉砕という言葉があうじゃろう」
ボッシュは赤い髪の少年、クロノを思い起こしていた。
先ほど、いつものお得意先であるシェア・コンフォートの弟子という話だった。
シェアも噂になるくらいの実力をもつ剣士であるが、あのクロノも相当の力を持っていおる。小屋の前でエレメントが暴走し、モンスター化したとき見せた剣技はなかなか完成されたものであった。あの歳であそこまで昇華しているとは、不思議な少年であった。
彼の連れであるマールに関しても、千年祭で見たときも思ったのだが、いまどきの若者達をは顔つきが違った。
それにしても、この時代にこのように折れるような戦いがあるとは考えもつかない。
この国、この大陸……であるかは定かではないが、あの若者の剣をこれほどまでに破壊する力を持つ人物がいるとは。
銘は”あおぞら”と言ったか? 以前はシェアが持っていた刀であったと思うが、それを譲ったということなのだろう。
どれだけシェアがクロノという若者に期待しているか分かるというものだ。
かつて、神をも殺す剣の製作に携わり、全ての力を変換させ、己の力とする剣をつくり、己の国の暴走を止めようかしていたがそれも敵わなかった。
その後、戦いの刀匠としての役割を終えたと思っていたのだが。
ボッシュは折れた刀”あおぞら”を作業台に置いた。
守りの刀匠も悪くはないとこの時代に来て実感した。
ボッシュは願う、再び戦いが起こらないことを、と。
しかしボッシュは知らない。
彼らが再びラヴォスと戦うことを……
現代のコルゴー大陸、北の洞窟。
ゼナン大陸にもどるために北の洞窟の最奥にある海の道を通るべく、クロノ、マール、シェアは颯爽と最奥にたどり着いた。
この近海の主、ヘケランがいる開けた場所にたどり着いた。
ヘケラン。二本の角をもち、青い巨体である海獣である。その大きさは成体で2メートル近くに達する。水系の魔法、エレメントを使用することから魔族である可能性が高いが人間の間での明確な線引きは無いためよく分かっていない。生息域は中央大陸群のクテラ大陸周辺の海域で、稀に貿易船を襲うことがあるといわれているが、実際は生活領域に人間が立ち入っているということが最近の調査から分かっている。水辺などで多く見られるが、中には海流に乗って他の中央大陸群の海岸で見られる場合もある。このことからヘケランは海中を主に生息していると言われているが、そのあたりの確認はされていない。人語も話すことから魔物と区別されている。
そんなヘケラン。
「あれが主か? 今までに多くのヘケラン種を見たことがあるがオレほど大きな個体を見たことが無いな」
三人の目の前に現われたヘケランは、三メートルはゆうに越えていた。
「そうなんですか? いままでヘケランをそんなに近くで見たことがないから分かりませんけど」
「そんなに大きいものなのですか」
マールとクロノは、この個体以外は見たことが無く。ヘケランというのはこの大きさだというイメージがある。
「魔の村が近くにあるからなのか、それともあの個体が特別に大きいのかもしれないな」
そんなことを三人が話していると、ヘケランがゆっくりと動き振り返ってきた。
「お前らがココに入ってキタニンゲンカ。
ニンゲンとは、久しいナ。
久しいゾ、一年近く見ていなかったカラナ」
ヘケランは口を大きく開け、大きな牙を見せながらしゃべりかけてきた。
「その先を開けてもらいたいのだが」
シェアが一歩前に出る。
「ふむ、それに断ったら?」
「無理にでも開けてもらうだけだ」
「ニンゲンよ。ワレハ魔のモノ。ニンゲンのルールはシラン」
クロノが刀を構えた。
「……ワレに刃を向けるノカ、ニンゲンヨ。
ワレは人は喰ワヌ、ユエヒトヲ捕ラエルコトハナイ。
ガ、コノ先に進ミタイノナラ、刃をムケルノモ、シカタガない」
その巨体から動き始める。
”サンダー”
雷撃がヘケランを襲う。
しかしヘケランは悠々と避け、湿った地面に当たる。
がごがごがごがががが
ヘケランの突進が空気の波を作り出しながら襲い来る。
クロノは空気の波の幾分かを受け、壁に叩きつけられた。
「クロノっっっ」
すぐに標的を変え、その巨体からを無視した動きをする。
マールに狙いをつけたヘケランに、2つの間にシェアが出る。
ヘケランは手を掲げた。
”うぉ〜たぁ〜・しょっと”
水塊がヘケランの手元を離れる。
シェアはそれに動じることなく剣を振り下げた。
”かまいたち”
シェアの剣でつくられた真空の刃が水を断つ。
バシャン
水の塊がマールを過ぎたあたりで形を保てなくなり、破砕する。
シェアはその瞬間、黒鞘に包まれた剣を握り、抜き出す。
刀身が瞬時に光ったかと思うと、再び鞘にしまう。
「?? 何をシタ」
「何もないさ、ただ封じただけだ」
「??」
ヘケランを攻撃を再開した。
”うぉ〜たぁ〜・しょっと”
再び氷の塊がシェアを襲う。
同じようにシェアは剣を振り下ろそうとするが、剣の刃のない平らなところを水の塊に押し付け、水の塊をつくっている境界を崩す。
バシャァァアアン
もろに水を浴びるが、勢いの無くなった水からダメージを受けることはない。
同時に、自分の重心を変えつつ、場所を移動する。
その場を予想したように同じ水の塊が放たれていた。さらにその後にはいくつもの塊があった。この連続攻撃のためマールを巻き込まないようにシェアは場所を移したのだ。
自分に対するダメージを最小にしつつ、避け、斬り、突く。
水の塊は総崩れる。
「……ニンゲンカ、オマエ」
さすがに全て防がれるとは思ってなかったヘケランは思わず漏らした。
「世界が狭いぞヘケラン。そして私に水を浴びさせたことを後悔させてやる」
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