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【201】-30- (第九章 魔の村の人々7北の洞窟)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:58 -
  
 ボッシュに教えられたのは北にある山のふもとの鍾乳洞。
 先を歩くシェアの剣技は鮮やかであった。
 無駄なく歩き、立ち向かってきたモンスターを有無をいわずに斬り去っていく。
 モンスターの習性なのかあるいは、シェアから何かが出ているのかモンスターは皆シェアに向かっていく。
 モンスターの近づく速さに合わせて、その歩調を微妙にずらし間合いに入った瞬間に金属の閃光と共に斬る。
 わずか一撃で瞬時に仕留めている。
 超人的技能と能力。
 この高いレベルであるクロノの速さが嘘のようである。
 その剣技に魅入りれながら安全な道をクロノ、マールが歩きその先を歩くシェア。
 歩いていながらシェアを見るとふと違和感に気づき、クロノが声をかけた。
「師匠。その剣は?」
 クロノが指したのは、シェアの腰にある黒塗りの鞘に納められたもの。
 見た目、剣そのものであるが、シェアが先ほどから使っているのはボッシュからもらった細い長剣。脇差の剣を抜こうともしない。
「これか」
 シェアは脇差の剣を黒塗りの鞘ごと片手で取った。
 正直、剣というのは金属のかたまりである。ふつうなら早々簡単に持てるものでもないのだが、シェアは軽々と持ち上げた。平均の筋力とはまた何はずれたものをもっていることがこの様子からもうかがえるが、それを口に出したら殴られるのは目に見えているのでクロノは単純な疑問の方を先に口を出した。
「武器を待たない主義の師匠がもっているんですから」
 昔から、シェアは武器というものをもたない。
 それはシェアの流儀はそこにある物を最大限に使い、ありとあらゆるものを武器とすることにある。
 足元にある石をはじめ、森の中でモンスターの退治を行ったときは、借り物の剣であったり木の枝だったりした。物に執着しないと始め思っていたが、そうでもないらしい。なんでも、固定の武器を持つことでの何かを防いでいるのだとか。
 真偽はクロノが直接聞いても教えてくれないために不明である。
 そんな師匠が大事そうに抱えている(ように見えた)剣があれば気になるものである。
「これは東の大陸でもらったものだ。この剣があるために……。
 クロノやマールさんは知っているか? 神剣の存在を……」


 同刻同時代 ボッシュの小屋
「え! ええ〜〜〜!!!」
 小屋の中に大きな声が響き渡る。
 声を出したのは少女――ルッカである。
 親切な魔族の家でクロノたちを別れ、一つしかないゲートホルダーのためロボを呼びに行き、再び現代のメディーナ帰ってきたのである。
 メディーナに着いたルッカとロボはすぐさまボッシュの小屋に向かった。のだが、クロノたちはもぬけの殻。思わず扉を開けるとき大きな声を出してしまったルッカからすれば、その恥ずかしさを含みつつボッシュに詰め寄り、話を聞いた。
「どぉゆうことよ。説明しなさいよ」
 ぐりんぐりんとボッシュの肩をゆらす。
「や、やめてくれ〜」
 言葉に出し、ほんの少しだけルッカの手が緩んだ。
「シェアという剣士とともにゼナン大陸に向かったよ」
 と、ルッカの手が止まった。
「シェア……シェアってあの有名な剣士の」
「そう、シェア・こん……」「なんでシェア師匠がここにいるのよ」
 ボッシュの言葉をさえぎるようにルッカが言葉を出した。
 あまりの勢いで思わずボッシュの言葉も止まる。
「それは知らんよ」
「……んん」
 ボッシュの顔を見るが、それは正直に知らないという顔を見せていた。
 そこでルッカは少し考えるが、思考を変える。
「ん? 別にシェア師匠の理由は知らなくていいよね。
 ボッシュ、それで彼らは北にある洞窟に行ったの?」
「ああ、このコルゴー大陸からのゼナン大陸への連絡船は出ておらん。
 北の洞窟から海の道を通って抜ける方法をとったんじゃが」
 ボッシュは一呼吸を置いた。
「確か、ヘケランが住んでおる。あやつを通り抜けてゼナンに抜けるのは一苦労じゃろう。
 まあ、シェアがおるから心配は無いだろうがおぬしらも行くのか?」
 それは、少し考えたほうがいいということなのだろうが、ルッカはそれに反してすぐに返答した。
「ええ」
 すっとルッカを見る。
「ふむ、そうか。ならこれを持っていくが良い」
 ゆっくりを何かを考えるように目を動かし、戸棚の引き出しから何かを取り出した。
 それをルッカに手を出させゆっくりを握らせる。ルッカに渡されたのは『エレメント』である。
 幾つかの『エレメント』がルッカの手のひらで見えている。
「これは」
 受け取ったルッカは、なぜこのようなものをと問うように聞いた。
 経験の浅いルッカにはそれがどれほどの『エレメント』であるか判断は出来ないが、そもそも『エレメント』自体早々見られるものではないことぐらい分かっている。
「彼らに渡そうと思っていたものだよ。彼らには世話になったからな、餞別と思ってくれていい」
「??」
「亜人の少女から渡されたものといえば分かってもらえるじゃろう」
 おそらくはここでクロノたちがやった何かであろうことに関係しているのだろう、ルッカは考えるのをやめ、にこりとしたボッシュから素直に受け取った。
「ええ、ありがとうボッシュさっきは失礼したわ」

 車両モードに変形したロボと共に北の洞窟の中を進むルッカ。
「ルッカサン、シェアサンハタシカ、ルッカサンの銃の師匠デシタネ」
 ガタガタと揺れるロボの車体上にしがみ付きながらその質問に答えた。
「ええ、私の銃の師匠であると共にクロノの剣の師匠でもあるわ。 おそらく現在にて単独においては最強といえるし、黒髪の英雄と呼ばれるぐらいの人。
 数年前にトルースの町にやってきて気まぐれに私たちに武器の使い方を教えてくれたのよ」
「ズイブンスゴイ人ナノデスネ。イゼンニ、お会いしたトキハ、ソノヨウナ感じはシマセンデシタ」
「ええ、師匠がこの話を人前でするの嫌がるからね」
「ソウナノデスカ」

   クォォォォォォォォォンンン

 奇妙な鳴き声が洞窟中に響き渡る。
「鳴き声??」
 そこへ緊急を告げるロボの声がする。
「ルッカサン、気をつけてください。冷風が近づいてきます」
 ロボが言葉に出した瞬間、目に白い波がこっちに向かってくるのがうつった。
  ”ファイア”
 瞬時に使い慣れた簡単な構成を紡ぎ、魔力を発動させる。
 赤い炎が冷風の進行を曲げる。だがわずかに冷風の方が強く暖風となって押し返される。
「くっ」
 生ぬるい程度の風であったため無事ルッカとロボはその場に留まった。

   フィユユユユユユュュュ

 さらに洞窟内で音が響きあい、奇妙な音を作り出していた。
「ダイジョウブデスカ? ルッカサン」
「何なの今の?」

   ガシャン ガシャン カシャン

 ルッカが周りを見ると、洞窟内の氷柱が少し大きくなっており、幾つかが落下する。
「魔法?」
「いえ、少し魔法とは違う波動パターンデス。おそらくエレメントなのでしょう」
「自然環境に関係しているとスペッキオが言っていたけど、影響範囲が広すぎるわ」
「クロノサンたちは大丈夫でショウカ?」
「シェア師匠がいるから心配はないと思うけど、進むわよロボ」
「ワカシマシタ」
引用なし
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