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【200】:-29- (第九章 魔の村の人々6師匠)
 Double Flags  - 10/9/20(月) 20:56 -
  
 時代は現代、ボッシュの小屋。
 ボッシュの小屋の前で、『エレメント』を倒したクロノとマール、そしてクロノが師匠と呼ぶ三人と、小屋の入り口に居た老人――ボッシュとウサギに近い黒い羽の生えた亜人の少女が小屋の中にいる。
 さすがに、小屋の中に五人は窮屈に感じられる。
 そこに一人頭を下げ続けている者がいる。
「すみません。ありがとうございました。ありがとうございましたぁ」
 擬ウサギの亜人に頭を下げられクロノとマールは、あまりの必死さにまごついていた。
 クロノは普段人に頭を下げられるということに、慣れていないしマールの場合はこれほど真摯に頭を下げられるという場面に遭遇したことは少ない。
 それより何より、二人にとって亜人というのは珍しい種族であり、千年祭でもチラッとしか見たことが無いため、少々好奇の目が入ってしまっているといこともある。
「それよりターニィ怪我は無いか?」
 師匠の一言に顔を上げるウサギの亜人の少女。
「あ、はいぃっ!」
「それは良かった」
「いえいえ、こちらこそご迷惑をおかけしまして」
 形がけでなく心からそういっているように聞こえ、クロノ、マールは好印象を持つような言葉であった。
「それよりあの『エレメント』の出自を調べておいてくれ」
 ターニィと呼ばれた擬ウサギの亜人の肩に手をかけやさしく言う。ほほが少し赤くなりながからもターニィはうなずく。
「よろしく頼むよ」
「わかりました、超特急でやってきますよぉ」
 ターニィは家の主人であるボッシュに挨拶もそこそこ、飛び出していった。
 大きな音を立てて扉を開け閉めする様子に、老人はいやな顔をするでもなく見ていた。おそらく彼女がこの部屋を出るときはいつもあのような感じなのだろう。
 その目は微笑ましいものを見るようでもあった。その目ががらりと変わり、何かを思い出すようにクロノたちを見る。
「お主たちは確か……千年祭におった」
「クロノです」「マールです」
「おお、確かあの時はそこのお嬢ちゃんがなにやら困っておったようだが無事、解決したのかね」
「ええ、だいたいは……」
 と、言葉を濁すマール。
 と言うのも、ボッシュとは千年祭でマールがこの千年祭初日に戻っていることについて何か知っているかの知れないと相談したのだが、相談されたボッシュには自分達のように『前の周』の記憶が無く途方にくれていたことがあった。あれだけ必死に説明したのがから顔を覚えられても不思議ではない、途中『前の周』と同じくペンダントについても聞かれたし、印象としてはばっちりだったかもしれない。
「何だ、クロノはボッシュさんを知り合いなのか?」
「ええ、ちょっと」
 やはり言葉を濁すクロノ。どうも、師匠を前にするとなんともいい難い気分になる。緊張が走ると言うのだろうか? マールはクロノの微妙な雰囲気を感じ取りあまりクロノを刺激しないようにと内心考えていた。
「ほう、シェアさんと知り合いなのかい?」
「まあな、このクロノには数年間生きる術を教えたことがある」
「い、生きる術……ですか」
 なんだか大きな言葉で表現された言葉に、意味が分からないマールであったがクロノにとっては相当ダメージを与えられたらしく動きがかくかくとなっている、ように見えた。
「まあ、ほんの少し剣術を指南しただけだよ、マールディア様」
 言葉の後半をボッシュには聞こえない程度の声で発し、一瞬でマールを石化させる。
 と、マールは記憶を引き出していた。
 実のところ、マールはシェアというクロノの師匠とは『前の周』で出会っているのである。
 中世の時代に南ゼナン大陸の中央に鎮座する巨大な砂漠をロボと中世にすむフィオナがよみがえられせた巨大な森。この周ではまだ砂漠であるがその中に建てられた神殿に行くとき、森で迷ったクロノたちとであったのが彼女である。
 なぜかそのとき師匠さんは弓術の訓練をしていたが、あの時危うくカエルが射抜かれそうになっていたのであった。
 その後にもガルディアでヤクラ親子の登場で苦戦を強いられた私たちの前に現われたこともあった。ガルディアの名家であるシェアの親族がヤクラによって不遇の死を受けたことにあるという出来事もあった。
 そのときに彼女にはマールの家柄はバレていはいるのだが……。
「なぜここにいるのかわかりませんが、おとなしく城へ帰ったほうがいいですよ」
 シェアはそうつぶやいた。
 その言葉から、シェアがわたし達と同じように『前の周』記憶があるという可能性が少なくなった。
 もし『前の周』のことを知っているのであれば、マールがガルディア王と喧嘩して家出していることやクロノたちと共に何の旅をしているのか知っているはずであったからである、とマールは考えた。
 シェアに対して苦笑いを返すしかない。
 それを乾いた笑いで返すシェア。
「そうそう、クロノ聞いたぞ? 何でも捕まっていたそうではないのか。よく無事だったな」
 振られたクロノはやっと硬直が解けたところであるタイミングで来た。
「ええ、執行猶予というやつですよ」
 言葉では平気を装っているが言葉尻がかすんでいる。
「ほお、それでなんだお前達はこの魔族の大陸にいるんだ?」
「それは……」
 言葉に詰まってしまう。
 というのも、ゼナン大陸とこの魔族の大陸であるコルゴー大陸とには連絡船が存在していないのだ。
「ちょっとチョラスに行ったついでにクロノに無理を行って寄ってもらったんですよ」
 すかさずマールが助けにはいる。
 それに事実、このコルゴー大陸とチョラスのあるクテラ大陸には連絡船が通ってる。
 チョラスのあるクテラ大陸はこの中央大陸群でもっとも商業の発達した大陸であり、多くの地域と貿易が行われている。というのもクテラ大陸周辺の海流の流れが他の場所よりゆるやかであることが大きな理由である。かつて、ゼナン大陸とコルゴー大陸との間にも連絡船をつなぐ計画があったのだが、両大陸の住民と海流がひどく強いため海流を上手く越えられるような船を建造することが難しく、安定した航海できずまたその必要性が無かったために、いつの間にか計画が頓挫されてしまったのだ。現在ではパレポリあたりでは、海流を越すことが出来る船も建造可能であるが、その必要性の無さから再びその計画が前に出ることがなくなっているのである。
「ふ〜ん、マールさんがね」
 ニヤニヤとしている師匠に居心地がさらに悪くなるクロノ。
「と、ところで師匠さんはなぜここに?」
「師匠さんと言うのはやめてくれよ。私は確かにクロノの師匠かもしれないが、君の師匠ではないんだ。
 気軽にシェアと呼んでくれればいいよ。
 で、ここに来た理由なんだが、出来の悪いお弟子様がなにやら捕まったらしいから。
 しかも裁判のお相手があの悪名高いガルディアの大臣と言う話ではないか、これは今回を逃したらもう二度と顔を崇められなくなるってことでやってきた訳だな」
 なんとなく、クロノを脅している雰囲気があるのは、無事であるクロノを喜んでいると同時になにやら言わんとしたいことがあるのであろう。
 今この場には他人であるわたしがいるからあまり言うことが出来ないのであろう。
 それが逆に師匠の印象を悪くしているように思える。
「というは建前で」
 ほっ、息をつくクロノ。
「実際は、さっきの『エレメント』だよ」
「『エレメント』?って」
 対先ほどまでスペッキオから出てきたあたらしい言葉がすぐに現代で聞くのは不思議に雰囲気がある、そんなことを考えながらおもわずつぶやいてしまったマール。
「そうか、確かに『エレメント』はゼナン大陸ではあまり聞かない言葉だな。
 まあ、簡単に言うとこの大自然のエネルギーが蓄積された物体といったところかな」
 そういってシェアは服の間からエレメントを取り出す。
「ゼナンでも、火を生み出したり夜の電灯などに応用されている」
「えっ、あれも全部エレメントなんですか!」
「まあ、全部とは言えないが大体はエレメントが使われているな」
 スペッキオから現代でも応用されているとは聞いていたが、まさかそんなところまで使われていることに驚くマール。
「その便利な便利なエレメントが最近、この中央大陸で暴走したりモンスター化したりして事件になっているんだ」
「? 聞いたことがないよ」
「聞いたことないのは、しょうがない事だよ」
 シェアはまるで世間話をするように口調を変えた。
「事件と言ってもチョラスといった中央の東の方の話だ。西に位置するガルディアまで届かない可能性があるし、ほんの二回ほどしか起こっていない。
 もともと『エレメント』が暴走、モンスター化するのは、東や西の大陸はよく起こっていたが中央大陸群の中では聞いたことが無い。
 その調査もかねてここにいるんだ」
「そんなんですか」
 と、一呼吸置いてマールが言葉を口にした。
「そんなこと話してもいいんですか? 話を聞くと大陸レベルでの話じゃないですか」
「まあね。でも、君たちなら何か知っているのかと思ってな」
「!」
 不注意にも二人は反応してしまう。
 『前の周』でも勘のいい人であったことを念頭に置くべくであったと感じた。
「まあ、あまり勘繰りを入れるのはよくないことだと思っているが、最近私の回りが物騒で、ほとほと困り果てていたところなんだよ」
「物騒なことですか?」
「まあ、最近損な役回りが悪くてな」
 シェアは遠く、別の空間を見ていた。
 こんなときに虚空を見られても困るのだが、この人は。
「それでこれからどうするんだ? ゼナンに戻るのか?」
「ええ、そのつもりです」
「なるほど、それでボッシュに会いに来たのか。道を尋ねるために」
「そうなんです」
「だそうだ、ボッシュ」
 それまで黙っていたこの小屋の主である老人――ボッシュに声をかけると、黒眼鏡をゆっくり動かした。
 いつみても温和な印象を受けるボッシュである。
 この人がまた現代になじんだ雰囲気とまだ何か別の雰囲気をまとう、長い人生を歩んできたものがもつ独特の雰囲気を出しているのは、彼が先にあったガッシュやハッシュと共に古代の三賢者と呼ばれ、古代より現代に飛ばされてきたことが少なくともうかがえる。
 そんなボッシュは歳を感じさせない軽い口調で話した。
「ふむ、客というわけではないのは残念だが、久々の人間じゃからのお。
 祭りでの縁もあることだし、すこし荒っぽいがゼナン大陸に向かう手っ取り早い方法を教えよう」
引用なし
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