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ガルディアの森のゲートからバンゴドームに出た少年少女――クロノ、マール、ルッカの前の扉―バンゴドームだた一つの出入り口が開いた。
振り返る三人の目の前には長身の灰色のローブを着て、フードによってマスク代わりに顔を隠した体格から男らしい人物が、銃、のようなものを構えていた。
男の視線が三人を捉えるとすぐにそれをしまった。
「いや、すまん、まだロボット達がいると勘違いしてな」
頭の方に手をあげ敵意のないことを示すその男は明るい口調で話し出した。
「でもここはずいぶん前に重力変動が起こって廃棄されたはずなんだが、まあもともと倉庫だって話だけど」
そこでルッカが前にでて。
「そう、なんだか分からないけど私たち気づいたらここにいて」
後ろでおお、とルッカにギリギリ聞こえるぐらいの歓声を上げる二人。
「そうか、重力変動にね」
そういいながら男は鑑定するかのように三人を見る。
この時代のアンティークにも残されているかわからないカタナを二本下げた少年とここでは見かけない元気のよさがにじみ出ている少女と妙に探るような感じで話す少女、明らかに怪しいことこの上ない。
第一、格好がこの時代にそぐわない気がした。
それでもその男は話を進める。
「ふ〜ん。
重力変動に巻き込まれてきたのか、最近多いね。
となるとあんたらも他の大陸から来たってわけか」
「他の大陸?」
まだ少し気になる表現もあったが、あえてルッカはそこだけ聞き返した。
「なるほど、あんたらまだ外に出ていないな? ちょい外に出てみ?」
そういって三人は、その男に連れられるように外へ出た。
バンゴドームの外は三人にとって、『前の周』で見た光景とほとんど同じであった。
瓦礫の山と空中を舞う灰。
土はパサパサとして砂漠化手前。
あたり一面を灰のほかにスモッグのような煙が世界を包んでいる。
「これは……」
とすこしワザとらしくいってしまうルッカ。
「あんたらがどこの大陸から来たか分からないが、だいたい同じようなもので違う。
ここはあんたらがいた大陸とは違う。
つってもふつーは分からないよな、ここの人間の多くもそうだった、当然か」
「??」
三人はいまいちこの男の言うことがつかめなかった。
「まあ簡単に説明すると、過去の世界地図によればこの大陸を中央大陸あるいは中央大陸群と呼んでいた。
先にいっておくがなんでここが中央大陸って付けられているのかは知らないぞ。
それでここを中心に、南北東西に大陸が存在していたらしい。
そのあと名称が確定した後も大小さまざまな大陸が発見されていったけど、この大陸を中央大陸、北の大陸は少し呼び名が違ったらしいが、西の大陸、東の大陸、南の大陸という名前は固定されていた。
時代は流れ、これら大陸間の交流やなんやらで巨大組織を成立させていったわけだが……」
この辺りの知識はいくつかの移動手段を持った現代人の三人は知っていた。
「知ってるかどうか、あんたらの歳じゃわからないが、大崩壊が起こり、ロボット達が暴走を起こしたりなんかして大陸間交流とその手段は失われてしまったらしいんだ。
そううち人の記憶から他の大陸のことが消えていった。
なんせ大崩壊とロボットの暴走があったから、他の大陸との交流手段がなく、地形も変形していたからなしょうがないことだがな」
わかったか? といって三人の様子を見る。
まあ、あまり疑問符が浮かんでいないのである程度は理解したと思う。そう考えるとこの大陸の人間よりもずいぶん豊かな大陸にいたことが分かる。
「で、この大陸に来て調べたことなんだが。
この星はまだいくつかの大陸が残されている、あんたらの来た大陸や、俺の来た大陸色々だ。
あんたらはそこからポッとここに落ちてきてしまったわけなんだな」
「聞いてるとあなたはこの中央大陸の人間じゃないみたいだけど」
「ああ、東の大陸から跳んできた」
「とんで? どうやってとんでくるのよ。交流がなかったんじゃないの?」
「それが最近、内の大陸で空間移動装置っていう、長距離を瞬間的に移動できる装置を直すことができてな。
大陸間の交流を始めようって話だったんだ」
「だったんだって、どういうことなんか問題でもあるの?」
「それなんだが、あんたらはどうやってここに来た?」
逆に聞かれてルッカが戸惑うところにクロノが助け舟を出した。
「分からない、気づいたらここについていた」
「じゃあ、あんたらはどこから来たんだ? なんか主要な都市とかドーム名とかあるだろう、地域名でもいい」
「それはガルディア……むぐ……もご…もご」
ガルディアと言ったクロノをルッカとマールで抑える。
「(ちょっとなにいいだすのよ、バカじゃない、バカ、バカ、バカ)」
小声でクロノに言い放つ。
「ふごふご……もごご」
マールに口を押さえられてて反論もないクロノ。
「ええっとね」
クロノをマールに任せ、考え出す。
「(ああ、クロノ、あんまり喋らないで、あと手かまないで)」
といってもクロノはルッカによって一瞬に手首を紐で結ばれ動かせず、マールが手で口を止めているので息苦しいだけなのである。
そんな二人を置いてルッカは言った。
「ア、アシュティアドームよ」
((うわっ、自分の名前をドームにしちゃったよ))
ふたりはそんなルッカに驚き、さらに内心ドキドキであった。
「アシュティアドームか……」
ルッカは二人にもまさる冷や汗ものであった。
この時間だとても長く感じられた。
「近いな」
(((あるのかよ!! しかも近いのかよ!!!)))
三人は心の中で突っ込みをいれつつ、この後どう撒くか頭をスロットのごとくフル回転させた。
そんな三人の様子を知ってか、知らずか男は続ける。
「確か中央大陸の監視者ドームの分館がそんな名前だったか? あのとき見かけたかな」
なぜかさらに窮地に陥る三人、ドツボの奥に入りかけたところ、マールがクロノの手を離した。
とたんにクロノは前に倒れるが無視。
「本当ですか? 実は私の母が何年か前にアシュティアドームに行くといったきり帰ってこなくって。
はじめアシュティアドームって言うのがどういうところなのか分からなくって。
二人に手伝ってもらって、他の大陸にあるって聞いたからどうにかして他の大陸にわたる方法を探してやってきたんです」
マールが一気に捲くし立てると、少し間が開いた。
内心マールは上手く辻褄合せができたかなと思った。
「ということは、君のお母さんはあの団体の人なのかな」
「あの団体?」
正直なに言われても相手が勝手に勘違いしてくれることを祈りながら
「……知らないのか。
アシュティアドームなら私も知っている。道案内もかねて同行しようか?」
「結構です」
ルッカはきっぱりと断った。するとその男はにやりとした。
「心配するな。共に人間。機械の恐怖にさらされてきた者同士。
機械共の勝手な考えで死んでいくものを見過ごせはしない」
そう強く言う男だが、ルッカにとってはあまりよくはない考えであった。
「あなた一体……」
その自信はどこから、と続けようとするが男によってさえぎられる。
「人は私のことを革命家と呼ぶ。
革命家リュト・サペル。
機械が支配しつつあるこの世界を機械から解放するために活動している」
「革命家?」「機械の支配?」
クロノとマールは疑問の声を上げた。
「ああ、彼らは人口の調整という理由から、自分達に不都合な人間、機械のことを研究していた者、オレのような思想の持ち主、力を持ったものを捕らえ殺している。
こんな事許されるはずはないと思った。
オレはこの機械の支配から人を解放するためにドームの人に声をかけている」
リュト・サペルの話でクロノとマールは不思議な感覚に包まれた。
それが何のか分からないが、それとは別にクロノたちはジェノサイドームでの光景を思い出していた。
「それはここに支配する機械が現れたってこと?」
「いいや」
リュト・サペルは否定した。
「ここの大陸の人々は機械に恐怖し、倒す力を持とうとはしない。
何人のも仲間が、知り合いが捕らえ、殺されてしまったのを知っているからな。
だから臆病になるのは分かる。
しかし、それでも戦わなくてはいけないとき時がある。
大崩壊から数百年。
それで疲弊した人間に手の裏を返したように暴走した機械。
恐怖によって支配する世界は我慢できない。
それに突然ここの大陸の機械が、ヒトと共存して、このボロボロになった世界を共に歩まんとしていた機械がなぜ我々ヒトに敵意を持ったのか知りたい。
勘違いしないで欲しい、オレの目的は機械の排除ではなく、機械からのヒトの解放だということを」
ルッカは少し考えた言った。
「残念だけど私達はあなたを支持することができないわ。
私達にはかけがえのないロボットの知り合いがいるの。
彼はとても大切な友達だから、あなたの意見には賛同できないわ」
それはルッカだけでなく、クロノもマールも同じであった。
「そうか、まだ正気を保った機械がいるとは、貴重な機械だ。
大切にするんだな」
リュト・サペルはそういってあっさりバンゴドームから去っていった。
クロノたちは感じていた。
このリュト・サペルという男は機械の排除ではないといっているが、実際は機械に対しての憎しみがあるのではないかと。
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