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重くはないのか少し不思議なメットをかぶりながらも必死に走るオレンジの服を着た少女――ルッカと背が低く、ぎょろっとした目のミドリの男、というよりカエル型の亜人――カエルは、最後のオルガントラップを解除して一気に扉へ入っていった。
モンスターの力は正直弱かったので二人はどんどん進むことができた。
「そういえばグランドリオンはどうしたの?」
最後の廊下を歩いるところで、カエルが帯刀しているものがなぜブレイブソードであるかを聞いた。
自分にはちゃんと、あの時最後に使っていたミラクルショットがはじめから持っていたのだ。
クロノもちゃんと刀を二本持っていた。おそらく、マールもワルキューレを持っているのだろう。それなのにカエルだけ持っていないのは不思議に思えた。
「いや分からない。
とりあえず、手元にあったブレイブレードを使っているだけなんだが、そもそもいきなり時間が戻ったていうことに驚いていていて、それどころじゃなかったんだ」
と、言いつつ内心はグランドリオンを持っていないことに動揺を覚えていた。
ルッカの言う『この周』に来て一番初めに確認したのはグランドリオンの存在の有無であった。
パレポリでリーネ様が消えたことを聞かなかったらそのままデナドロ山に向かっていたところなのだから。
「たしか、クロノもにじとかを持っていたし、わたしもこのミラクルショットがある」
カチャン、とミラクルショットを取り出す。
カエルから見てその銃の姿はあの最後の戦いから変わっていないように見えた。
「それは意思を持つもの。
歴史に大きく干渉するものだから持ち越せなかったんだ」
少年は突然現われた。
奇妙な少年。
意識はしていないが、そこに存在していたとはいえない。
その少年は、いつか見たかもしれない、そんな少年、そんな風にカエルは印象を持った。
「こいつが例の少年?」
聞くがルッカも少々驚いているようで肯くだけであった。
「お前は誰なんだ」
短答直入に聞くと
「それは君が探すことだよ、グレン君、いや今はカエル君だったか」
軽く返された。
カエルには嫌味のようにも聞こえた。
しかし、この姿でありながらも君の正体を知っているという脅しであるにも関わらず脅しらしく感じられなかった。
「名前もか」
「なまえ・・・」
少年は驚いたようだった、済ました顔をして何でも知っているという顔をしていたため、カエルはしてやったりと少し満足した。
「名前か・・・。
確かに僕は名乗っていなかった。
そうだね
東の大陸の言葉を借りるなら、フツヌシといったところかな? まあ、少年でもいいさ。
さあ、この先の扉を開けるとヤクラが待っている。
でも、ヤクラもその辺のモンスターと同じだと思ったら大違いだから、覚悟してね」
それだけ言い残すと、姿がぼんやりと消えていった。
「フツヌシ? ルッカは聞いたことがあるか?」
「いや、全く。
東の大陸の話なんて、なかなかゼナン大陸まで回ってこないもの。
唯一接点があるとしたら、チョラスぐらいじゃない」
「だよな、まあ深く考えるのは後回しだ。
早くリーネ様を助けに行こう」
二人は扉の中へ入っていった。
扉の先にはリーネ様がだけが居た。
カエルは駆け出した。
「リーネ様、無事ですか」
「ああ、カエル助けに来てくれたのですか」
「リーネ様、ヤクラの奴はどこです」
「ヤクラとは?」
「ヤクラはリーネ様を誘拐した奴です」
「ああ、あの大臣の姿をしたものなら朝出てから帰っては来ていません」
「帰ってきていない」
(しまった、早すぎたか)
端で会話を聞いていたルッカは心の中でつぶやいた。
(ちょっと急ぎすぎの)
「ではリーネ様、早く脱出を……」
そんな時、扉近くで声がした。
「そうはさせんぞ、カエルの野郎」
長く白いヒゲが生え、カエルと同じかそれ以下の身長で、いかにも立派な役職を持っているといわんばかりな格好――大臣が居た。
姿は大臣であるがもう正体がばれていると分かっているのか、その口調が大臣のものではなかった。
「ガルディア王国崩壊には、その娘が必要なのだ。
カエルの分際で邪魔するとは……。」
大臣の目はすでに人間と思えないほど吊り上がり、凶悪な輝きを見せる。
同時にモンスター特有の殺気を放つ。
「残念だがニセ大臣。
いや、ヤクラ。
これ以上、ガルディア王国を勝手にさせない」
そんなカエルを見てフン、と笑った。
「そんなにも騎士団から追放されたのが悔しいか、アマガエルよ」
「言ってろ」
カエルは剣を構え、踏み出した。
(馬鹿な、なぜこんなにも強く、早いのだ)
ヤクラは予想外のカエルの力に翻弄されつつあった。
騎士団にいたときはこれほどの力を持っていなかったはずだ。
一体いつこれほどまでに力が上昇しているのか。
一撃一撃、確実にヤクラを追い込んでいくカエル。
カエルが少し離れるとすぐにメットの女から援護射撃がくる。
ヤクラはあっという間に瀕死の状態となった。
すでに体は人型からモンスターにかわった。
ごつごつとした殻のような肉体に、牛のような顔とわずかに生えた角。顔は青色に、体は灰色と奇妙な体色である。
はじめリーネは、なぜ大臣とカエルが戦っているのか分かっていない様子であったが、このヤクラの姿を見たら、なぜ自分がここにいるのか理解していることだろう。
これでリーネの扱いが難しくなる。
「貴様らよくも」
絞り出した声も、すでに死ぬ間際の一言になりそうだ。
くそっ、くそっ、くそっ
こんな事があってたまるか、やっとはるか西のここまでやってきたというのに
またここでもか
くそ
カエルのやつめ
くそ
心の中で震わしても、相手との力の差は埋まらない。
絶望といままでの苦心がヤクラをまだ少し、まだ少しと生き延びさせていた。
それも時間の問題であろう。
そんなときに声が聞こえた。
ヤクラの中に響く何かを。
それは何かを言っている。
内容はあまり理解できない。
しかし、
このままでは自分は消える。
そう、
確実に消えるのだ。
しかし、だが、だがこの力は。
突然赤い砂が舞った。
「なによこれ」
ヤクラに止めをとしていたなか、ルッカとカエルは吹き荒れる風に動きを止めた。
「リーネ様」
しかし、リーネのところまで砂は飛んでいなかった。
砂はやがて一つのところに、一つの塊になっていく。
その中心にはヤクラがいる。
砂は球状になっていく、次第に完全な球をつくったと思うと砂が薄れ、中の姿が現われる。
それは、もとと何も変わっていないように思えるヤクラがいる。
ルッカはかまわずミラクルショットを構えた。
「とどめよ」
ドォキョォォン
ミラクルショット特有の音が室内に響く。
ルッカの放ったニードルが拡散して、ヤクラにダメージを与える。
ぐっ、うめき後ろに下がるヤクラ。
同時に、ヤクラに入ったニードルで傷ついたところから緑の何かが撒き散る。
見方が悪ければ血液にも見えただろうが、それは粉末状、というより砂だった。
「リーネ様、もう少し離れてください」
嫌な予感がし、少し近づき気味であったリーネにカエルは注意する。
そしてカエルは膝を付いた。
自分でも何の前振りもなく。
「カエル!!」
近づこうとするリーネをルッカは止めた。
「リーネ様はなれて」
リーネからすれば何を言っているんだ、と思ったがルッカの迫力に押され下がった。
すぐにルッカはバックからあるものを出す。
“火炎放射”
「カエル!!!!」
リーネがまた声を引き上げる。
火炎放射はそのまわりの砂を焼き払う。
「毒か」
何とか立ち上がるカエル。
「前はこんな攻撃、なかったのに」
「これがあの少年の言ってたことか」
カエルは先ほどの少年の声がよみがえる
「さあ、この先の扉を開けるとヤクラが待っている。
でも、ヤクラもその辺のモンスターと同じだと思ったら大違いだから、覚悟してね」
(なるほど、たしかに大違いだ)
“ファイア”
炎の魔法がヤクラを直撃する。
小規模の爆炎も生じ、煙が舞う。
“ニードル”
突如としてルッカの前に鋭いドリルが現われる。
とっさにルッカはミラクルショットを盾にする。
キュイン
ドリルはその方向を曲げた、が爆煙のなかヤクラがタックルをし、ルッカは叩き付けられる。
「ルッカ!!!」
声を上げるが返事はない。
そこへカエルに衝撃が走る。
●ウーハー
魔法とは感じの違う、緑の魔力のある風に吹き飛ばされる。
(この力は何なんだ)
吹き飛ばされ、壁にぶつかる。
心配顔のリーネ様が見える。
(魔法とはなにか感じが違う
それに攻撃を受けたあとにもその力がこの空間に漂っている気がする)
しかし今それを考えている暇はなかった。
「ヤクラ、貴様一体……」
一体何が起きたのだというのだ。
爆煙が収まってきたところにヤクラが何か紙のようなものを手にしている。
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